LHは高く、FSHはそのまま―多嚢胞性卵巣症候群の「悪循環」を読み解く
第100回医師国家試験 B問題 第47問
国試問題にチャレンジ
多囊胞性卵巣症候群で誤っているのはどれか。
- a.血中LH/FSH比が低値を示す。
- b.インスリン抵抗性が認められる。
- c.プロゲステロン負荷試験で消退出血がみられる。
- d.ゴナドトロピン療法で多胎妊娠が起こりやすい。
- e.排卵周期の回復に腹腔鏡下卵巣多孔術が用いられる。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、GnRHパルスの亢進によるLH過剰分泌(FSHは正常)とインスリン抵抗性が卵巣のアンドロゲン産生を高め、卵胞成熟が止まって排卵障害に至る疾患です。そのためLH/FSH比は低値ではなく高値(1以上が目安)となり、ここが本問の誤りの記述です。排卵がなくても多数の卵胞からエストロゲンが分泌されるため、プロゲステロン負荷試験で消退出血がみられる第1度無月経が多く、ゴナドトロピン療法では多胎妊娠やOHSSが起こりやすいため低用量漸増法が用いられ、経口薬無効例には腹腔鏡下卵巣多孔術も選択肢となります。長期的には2型糖尿病などの代謝異常や、黄体ホルモン作用の欠如による子宮内膜増殖症・子宮体癌のリスクにも注意が必要です。LH過剰とインスリン抵抗性という病態の軸を押さえれば、診断基準から治療、長期管理まで一貫して理解できます。
解答・解説
正解はaです
多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome:PCOS)は、生殖年齢女性の数%〜10%前後にみられる頻度の高い内分泌疾患で、排卵障害(月経不順・無月経・不妊)、アンドロゲン(男性ホルモン)過剰、卵巣の多嚢胞性変化を特徴とする。 病態の中心には、次のような悪循環がある。 ・視床下部から出るGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)のパルス頻度が増え、下垂体からLH(黄体形成ホルモン)が過剰に分泌される。一方、FSH(卵胞刺激ホルモン)は正常範囲にとどまる。 ・LHは卵巣の莢膜細胞に働いてアンドロゲン産生を増やす。 ・インスリン抵抗性による高インスリン血症も莢膜細胞のアンドロゲン産生を促し、さらに肝臓での性ホルモン結合グロブリン(SHBG)産生を抑えて、作用をもつ遊離アンドロゲンを増やす。 ・卵巣内のアンドロゲン過剰は卵胞の成熟を妨げ、小さな卵胞が多数とどまったまま排卵に至らない。 この病態を理解していれば、各選択肢の正誤を判断できる。LHが高くFSHが正常であるため、LH/FSH比は「低値」ではなく「高値」になる。本問は誤っているものを選ぶ問題であり、この点を誤って記載した選択肢が答えになる。
選択肢考察
- ○a. 血中LH/FSH比が低値を示す。
誤った記述であり、本問の正解である。PCOSではLHの基礎分泌が高く、FSHは正常範囲であるため、LH/FSH比は高値(1以上)を示す。日本産科婦人科学会の診断基準(2007年)でも、「LH基礎値高値かつFSH正常」(LH/FSH比1以上が目安)がアンドロゲン高値と並ぶ内分泌学的所見として挙げられている。ただし、肥満を伴う症例ではLHの上昇が目立たないことがある。
- ×b. インスリン抵抗性が認められる。
正しい記述である。PCOSでは肥満の有無にかかわらずインスリン抵抗性を示す例が多く、特に肥満例で顕著である。高インスリン血症は卵巣のアンドロゲン産生を増やして病態を悪化させる。長期的には2型糖尿病、脂質異常症、メタボリックシンドロームのリスクが高く、インスリン抵抗性改善薬(メトホルミン)が排卵誘発の補助に用いられることがある。
- ×c. プロゲステロン負荷試験で消退出血がみられる。
正しい記述である。PCOSでは排卵は起こらないが、多数の卵胞からエストロゲンが一定量分泌されているため、子宮内膜はエストロゲンの作用を受けて増殖している。このためプロゲステロン(黄体ホルモン)を投与して中止すると消退出血が起こり、第1度無月経に分類されることが多い。
- ×d. ゴナドトロピン療法で多胎妊娠が起こりやすい。
正しい記述である。PCOSの卵巣には発育途中の小卵胞が多数あり、外からFSH製剤などのゴナドトロピンを投与すると、多くの卵胞が一斉に反応して成熟しやすい。その結果、複数の排卵による多胎妊娠や、卵巣腫大・腹水・血栓症を起こす卵巣過剰刺激症候群(OHSS)が起こりやすい。このため、少量から慎重に増やす低用量漸増法が用いられる。
- ×e. 排卵周期の回復に腹腔鏡下卵巣多孔術が用いられる。
正しい記述である。腹腔鏡下卵巣多孔術(laparoscopic ovarian drilling:LOD)は、腹腔鏡で卵巣表面に電気メスやレーザーで多数の小孔をあける手術である。アンドロゲンを産生する卵巣間質を減らすことで、血中アンドロゲンとLHが下がり、自然排卵が回復しやすくなる。クロミフェンなどの経口排卵誘発薬が無効な症例で、ゴナドトロピン療法と並ぶ選択肢となる。一度の手術で効果が一定期間続き、多胎やOHSSのリスクが低いのが利点である。
日本産科婦人科学会のPCOS診断基準(2007年)
以下の1〜3をすべて満たすものをPCOSとする。 1. 月経異常(無月経、稀発月経、無排卵周期症) 2. 多嚢胞卵巣(超音波で少なくとも一方の卵巣に2〜9 mmの小卵胞が多数存在する) 3. 血中男性ホルモン高値、またはLH基礎値高値かつFSH基礎値正常 なお、その後の改訂では、多嚢胞卵巣の代わりに血中AMH(抗ミュラー管ホルモン)高値を用いることも認められている。
症状
月経不順・無月経、不妊、多毛、ニキビ(痤瘡)、肥満など。欧米では多毛や肥満が目立つが、日本人では比較的少ない。
超音波所見
卵巣の辺縁に小卵胞が数珠状に並ぶ「ネックレスサイン」が特徴的である。卵巣間質は厚くなり、卵巣全体が腫大する。
治療
・挙児を希望しない場合:肥満があれば減量、周期的な黄体ホルモン療法やホルモン療法(カウフマン療法、低用量ピル)で月経を起こし、子宮内膜を保護する。 ・挙児を希望する場合:減量 → クロミフェンなどの経口排卵誘発薬(インスリン抵抗性があればメトホルミンを併用) → 無効ならゴナドトロピン療法(低用量漸増法)または腹腔鏡下卵巣多孔術 → 体外受精。
長期的な合併症
2型糖尿病、脂質異常症などの代謝異常のほか、排卵がなく黄体ホルモンの作用を受けない状態が続くため、子宮内膜増殖症や子宮体癌のリスクが高くなる。
POINT
・PCOSはLH高値・FSH正常で、LH/FSH比は高値(1以上)になる。 ・アンドロゲン過剰とインスリン抵抗性が病態の中心である。 ・エストロゲンは保たれるため、第1度無月経(プロゲステロン負荷試験で消退出血あり)が多い。 ・ゴナドトロピン療法は多胎妊娠と卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を起こしやすい。 ・経口薬が無効な場合の選択肢として腹腔鏡下卵巣多孔術がある。 ・長期的には糖尿病や子宮体癌のリスクに注意する。
