StudyMed医師国家試験

癌は直腸のすぐ隣にいる―解剖から導く前立腺針生検のルート

第100回医師国家試験 B問題 第46問

国試問題にチャレンジ

第100回 B問題 第46問

前立腺針生検の方法について正しいのはどれか。

  1. a.鼠径部からの経皮的生検
  2. b.恥骨上部からの経皮的生検
  3. c.経尿道的生検
  4. d.経直腸的生検
  5. e.開腹直視下生検

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は前立腺癌の確定診断に欠かせない、前立腺針生検の方法を問う問題だ。手技名を丸暗記するより、「前立腺が骨盤のどこにあって、癌がどこにできやすいか」という解剖から考えると自然に答えが出るよ。まず、前立腺癌はどうやって確定診断するんだったかな。
医学生医学生
PSAが高ければ前立腺癌、ではないんですよね。
ドクタードクター
そう。PSA高値、直腸診での硬結、MRIでの疑わしい病変は、どれも生検の適応を決める材料にすぎない。確定診断は組織を採って、病理で癌を証明することだ。では、前立腺の位置を思い出してみよう。
医学生医学生
解剖実習では、膀胱のすぐ下で尿道を取り囲んでいて、後ろは直腸に接していました。
ドクタードクター
その「後ろが直腸」というのが最大のポイントだ。直腸にプローブを入れる経直腸的超音波なら、前立腺をすぐ近くから鮮明に描出できる。その画像を見ながら、プローブに付けたガイドに沿って針を刺すから、狙った場所に正確に届くんだ。
医学生医学生
直腸診で前立腺を触れるのも、同じ理由ですね。OSCEの練習で直腸診モデルを触ったときに実感しました。
ドクタードクター
まさにそうだね。さらに癌の好発部位も関係する。前立腺癌の約70%は辺縁域、いわゆる外腺から発生して、ここは直腸側にある。だから直腸側から穿刺すれば、病変の多い部位に最短距離で届く。こうした理由で正解は経直腸的生検だ。
医学生医学生
では尿道から採る方法はどうでしょう。尿道は前立腺の真ん中を通っているので、中から採れば効率がよさそうに思えます。
ドクタードクター
そう考えたくなるよね。でも尿道を取り囲んでいるのは移行域、つまり内腺で、ここは前立腺肥大症の好発部位だ。癌の多くは尿道から離れた辺縁域にできるから、尿道側から採ると癌を見逃しやすい。経尿道的な生検が活躍するのは、膀胱鏡で見ながら行う膀胱腫瘍の生検のほうだね。
医学生医学生
肥大症は内腺、癌は外腺。病理の講義でセットで覚えた内容がここでつながりました。
ドクタードクター
いいね。ちなみに肥大症の経尿道的前立腺切除術の標本から偶然癌が見つかることはあるけれど、それは診断目的の生検ではない。次に、恥骨上部からの穿刺はどうだろう。
医学生医学生
泌尿器科の実習で、尿閉の患者さんに恥骨上から膀胱瘻を造るのを見ました。でも前立腺までは届かなさそうです。
ドクタードクター
その通り。前立腺は恥骨の裏にあって、上から刺すと恥骨や膀胱が邪魔になる。腹壁からの超音波で膀胱越しに大きさを測るくらいはできるけれど、生検針を正確に誘導できる画像は得られない。鼠径部からの経皮的穿刺も、途中に鼠径管や大腿動静脈、腸管があって、前立腺へ向かう経路にはならない。
医学生医学生
開腹して直接見ながら採る方法も、針生検で十分に採れるなら必要ないですね。
ドクタードクター
そう。前立腺は骨盤の奥にあって開腹しても直視しにくいし、侵襲が大きすぎる。超音波ガイド下の針生検なら局所麻酔で、外来や短期入院で行える。通常は左右の辺縁域を中心に10〜12か所程度を系統的に採取し、MRIで疑わしい病変があればそこを狙って追加するんだ。
医学生医学生
経直腸的生検で、特に気をつける合併症は何ですか。
ドクタードクター
最大の合併症は感染症だ。直腸の細菌を針が持ち込むので、急性前立腺炎や敗血症を起こすことがあり、抗菌薬の予防投与が必要になる。ほかに血尿、血精液症、直腸出血、尿閉もある。生検後に高熱が出たら、すぐ連絡するよう患者さんに説明しておくことが大切だよ。
医学生医学生
感染が心配なら、直腸を通らない方法はないんでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だね。もう一つの標準的な経路が経会陰的生検で、陰嚢と肛門の間の皮膚から刺し、経直腸的超音波で針の位置を確認する。腸管を通らないので感染が少なく、前立腺の前方や尖部の病変にも届きやすい。脊椎麻酔や全身麻酔を使うことが多いけれど、感染の少なさから採用する施設が増えている。採れた組織はグリソンスコアで悪性度を評価して、治療方針の決定に使うんだ。

まとめ

前立腺癌の確定診断は、超音波ガイド下の前立腺針生検で組織を採取し、病理学的に癌を証明することで行います。前立腺の後面は直腸に接し、癌の約70%は直腸側の辺縁域から発生するため、経直腸的超音波で描出しながら直腸側から穿刺する経直腸的生検が標準的な方法の一つです。尿道周囲の移行域は前立腺肥大症の好発部位で癌を見逃しやすいため経尿道的生検は用いず、恥骨上部・鼠径部からの穿刺や開腹生検も行いません。経直腸的生検では急性前立腺炎や敗血症などの感染症が重要な合併症で抗菌薬の予防投与が必要であり、感染の少ない経会陰的生検を選ぶ施設も増えています。前立腺の区域解剖と癌・肥大症の好発部位を結びつけて理解することが、診断法の選択や直腸診の意義の理解にもつながります。

解答・解説

正解はdです

前立腺癌の確定診断は、前立腺組織を採取して病理学的に癌を証明することで行う。PSA(前立腺特異抗原)高値や直腸診で硬結を触れる、MRIで癌を疑う病変があるといった所見は、いずれも生検の適応を決める材料にすぎない。 前立腺は骨盤の深部にあり、膀胱の直下で尿道を取り囲み、後面は直腸前壁と接している。このため、直腸の中に入れた超音波プローブ(経直腸的超音波、TRUS)で前立腺をすぐ近くから鮮明に描出でき、画像を見ながら生検針を狙った部位に正確に刺せる。さらに、前立腺癌の約70%は直腸側に位置する辺縁域(peripheral zone、いわゆる外腺)から発生するため、直腸側から穿刺すれば病変の多い部位に最短距離で届く。 こうした解剖学的な理由から、前立腺針生検は超音波ガイド下に経直腸的、または経会陰的(陰嚢と肛門の間の皮膚から穿刺する方法)に行うのが標準である。選択肢のなかで標準的な方法に当たるのは経直腸的生検である。

選択肢考察

  1. ×a.  鼠径部からの経皮的生検

    鼠径部は前立腺から離れて外側上方にあり、途中には鼠径管・大腿動静脈・腸管などがある。ここから骨盤深部の前立腺へ針を進める経路はなく、行われない。

  2. ×b.  恥骨上部からの経皮的生検

    前立腺は恥骨の裏側にあり、恥骨上部から刺すと恥骨・膀胱が邪魔になって前立腺に届かない。腹壁から当てる超音波でも膀胱越しに前立腺の大きさを測る程度の観察はできるが、生検針を正確に誘導できる画像は得られない。恥骨上部から穿刺するのは、尿閉に対する膀胱瘻の造設や膀胱穿刺であり、前立腺生検の経路ではない。

  3. ×c.  経尿道的生検

    尿道周囲に広がる移行域(内腺)は前立腺肥大症の好発部位であり、癌の多くは尿道から離れた辺縁域に発生する。そのため、尿道側から組織をとっても癌を見逃しやすく、前立腺癌の診断法としては用いない。経尿道的な生検は、膀胱鏡で見ながら行う膀胱腫瘍の生検(上皮内癌を疑うときのランダム生検を含む)に用いられる。なお、前立腺肥大症に対する経尿道的前立腺切除術(TURP)の切除標本から偶然に癌が見つかることはあるが、これは診断を目的とした生検ではない。

  4. ○d.  経直腸的生検

    直腸は前立腺の後面にすぐ接しているため、経直腸的超音波で前立腺を詳しく描出しながら、プローブに付けたガイドに沿って生検針を刺すことができる。癌の好発部位である辺縁域に最も近い経路でもある。通常は左右の辺縁域を中心に10〜12か所程度から系統的に組織を採取し(系統的生検)、MRIで疑わしい病変があればそこを狙って追加採取する。局所麻酔下に外来または短期入院で行える、前立腺癌の標準的な確定診断法である。

  5. ×e.  開腹直視下生検

    前立腺は骨盤の奥にあり、開腹しても直接見るのは難しい。超音波ガイド下の針生検で低侵襲に十分な組織がとれるため、診断のためにわざわざ開腹して生検することはない。

前立腺の区域と疾患

前立腺は、主に辺縁域(peripheral zone)、移行域(transition zone)、中心域(central zone)に分けられる。前立腺癌の約70%は辺縁域から、約20%は移行域から発生する。一方、前立腺肥大症は尿道を取り囲む移行域から発生する。辺縁域は直腸側にあるため、直腸診で硬結として触れやすく、経直腸的なアプローチで組織をとりやすい。

前立腺生検の2つの経路

1. 経直腸的生検:直腸内に超音波プローブを入れ、直腸壁越しに穿刺する。手技が簡便で、局所麻酔で行える。直腸内の細菌が入り込むため、発熱を伴う感染症(急性前立腺炎、敗血症)が最大の合併症であり、抗菌薬の予防投与が必要である。 2. 経会陰的生検:会陰部の皮膚から穿刺し、経直腸的超音波で針の位置を確認する。腸管を通らないため感染が少なく、前立腺の腹側(前方)や尖部の病変にも届きやすい。脊椎麻酔や全身麻酔を用いることが多い。近年は感染の少なさから、経会陰的生検を選ぶ施設が増えている。

生検の主な合併症

血尿、血精液症(精液に血が混じる)、直腸出血、尿閉、感染症(前立腺炎・敗血症)など。

生検の適応と結果の評価

PSA高値(一般に4 ng/mLを超える場合)、直腸診での異常、画像検査(特にMRI)での異常が適応となる。採取した組織は、癌の悪性度を示すグリソンスコア(Gleason score)で評価し、治療方針の決定に用いる。

POINT

・前立腺癌の確定診断は超音波ガイド下の前立腺針生検で行う。 ・経路は経直腸的または経会陰的の2つ。 ・癌の好発部位は直腸側の辺縁域(外腺)であるため、経尿道的な生検は行わない。 ・経尿道的生検は膀胱腫瘍の診断法である。 ・経直腸的生検の重要な合併症は感染症(前立腺炎・敗血症)で、抗菌薬の予防投与を行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。