癌は直腸のすぐ隣にいる―解剖から導く前立腺針生検のルート
第100回医師国家試験 B問題 第46問
国試問題にチャレンジ
前立腺針生検の方法について正しいのはどれか。
- a.鼠径部からの経皮的生検
- b.恥骨上部からの経皮的生検
- c.経尿道的生検
- d.経直腸的生検
- e.開腹直視下生検
対話形式の解説
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ドクターまとめ
前立腺癌の確定診断は、超音波ガイド下の前立腺針生検で組織を採取し、病理学的に癌を証明することで行います。前立腺の後面は直腸に接し、癌の約70%は直腸側の辺縁域から発生するため、経直腸的超音波で描出しながら直腸側から穿刺する経直腸的生検が標準的な方法の一つです。尿道周囲の移行域は前立腺肥大症の好発部位で癌を見逃しやすいため経尿道的生検は用いず、恥骨上部・鼠径部からの穿刺や開腹生検も行いません。経直腸的生検では急性前立腺炎や敗血症などの感染症が重要な合併症で抗菌薬の予防投与が必要であり、感染の少ない経会陰的生検を選ぶ施設も増えています。前立腺の区域解剖と癌・肥大症の好発部位を結びつけて理解することが、診断法の選択や直腸診の意義の理解にもつながります。
解答・解説
正解はdです
前立腺癌の確定診断は、前立腺組織を採取して病理学的に癌を証明することで行う。PSA(前立腺特異抗原)高値や直腸診で硬結を触れる、MRIで癌を疑う病変があるといった所見は、いずれも生検の適応を決める材料にすぎない。 前立腺は骨盤の深部にあり、膀胱の直下で尿道を取り囲み、後面は直腸前壁と接している。このため、直腸の中に入れた超音波プローブ(経直腸的超音波、TRUS)で前立腺をすぐ近くから鮮明に描出でき、画像を見ながら生検針を狙った部位に正確に刺せる。さらに、前立腺癌の約70%は直腸側に位置する辺縁域(peripheral zone、いわゆる外腺)から発生するため、直腸側から穿刺すれば病変の多い部位に最短距離で届く。 こうした解剖学的な理由から、前立腺針生検は超音波ガイド下に経直腸的、または経会陰的(陰嚢と肛門の間の皮膚から穿刺する方法)に行うのが標準である。選択肢のなかで標準的な方法に当たるのは経直腸的生検である。
選択肢考察
- ×a. 鼠径部からの経皮的生検
鼠径部は前立腺から離れて外側上方にあり、途中には鼠径管・大腿動静脈・腸管などがある。ここから骨盤深部の前立腺へ針を進める経路はなく、行われない。
- ×b. 恥骨上部からの経皮的生検
前立腺は恥骨の裏側にあり、恥骨上部から刺すと恥骨・膀胱が邪魔になって前立腺に届かない。腹壁から当てる超音波でも膀胱越しに前立腺の大きさを測る程度の観察はできるが、生検針を正確に誘導できる画像は得られない。恥骨上部から穿刺するのは、尿閉に対する膀胱瘻の造設や膀胱穿刺であり、前立腺生検の経路ではない。
- ×c. 経尿道的生検
尿道周囲に広がる移行域(内腺)は前立腺肥大症の好発部位であり、癌の多くは尿道から離れた辺縁域に発生する。そのため、尿道側から組織をとっても癌を見逃しやすく、前立腺癌の診断法としては用いない。経尿道的な生検は、膀胱鏡で見ながら行う膀胱腫瘍の生検(上皮内癌を疑うときのランダム生検を含む)に用いられる。なお、前立腺肥大症に対する経尿道的前立腺切除術(TURP)の切除標本から偶然に癌が見つかることはあるが、これは診断を目的とした生検ではない。
- ○d. 経直腸的生検
直腸は前立腺の後面にすぐ接しているため、経直腸的超音波で前立腺を詳しく描出しながら、プローブに付けたガイドに沿って生検針を刺すことができる。癌の好発部位である辺縁域に最も近い経路でもある。通常は左右の辺縁域を中心に10〜12か所程度から系統的に組織を採取し(系統的生検)、MRIで疑わしい病変があればそこを狙って追加採取する。局所麻酔下に外来または短期入院で行える、前立腺癌の標準的な確定診断法である。
- ×e. 開腹直視下生検
前立腺は骨盤の奥にあり、開腹しても直接見るのは難しい。超音波ガイド下の針生検で低侵襲に十分な組織がとれるため、診断のためにわざわざ開腹して生検することはない。
前立腺の区域と疾患
前立腺は、主に辺縁域(peripheral zone)、移行域(transition zone)、中心域(central zone)に分けられる。前立腺癌の約70%は辺縁域から、約20%は移行域から発生する。一方、前立腺肥大症は尿道を取り囲む移行域から発生する。辺縁域は直腸側にあるため、直腸診で硬結として触れやすく、経直腸的なアプローチで組織をとりやすい。
前立腺生検の2つの経路
1. 経直腸的生検:直腸内に超音波プローブを入れ、直腸壁越しに穿刺する。手技が簡便で、局所麻酔で行える。直腸内の細菌が入り込むため、発熱を伴う感染症(急性前立腺炎、敗血症)が最大の合併症であり、抗菌薬の予防投与が必要である。 2. 経会陰的生検:会陰部の皮膚から穿刺し、経直腸的超音波で針の位置を確認する。腸管を通らないため感染が少なく、前立腺の腹側(前方)や尖部の病変にも届きやすい。脊椎麻酔や全身麻酔を用いることが多い。近年は感染の少なさから、経会陰的生検を選ぶ施設が増えている。
生検の主な合併症
血尿、血精液症(精液に血が混じる)、直腸出血、尿閉、感染症(前立腺炎・敗血症)など。
生検の適応と結果の評価
PSA高値(一般に4 ng/mLを超える場合)、直腸診での異常、画像検査(特にMRI)での異常が適応となる。採取した組織は、癌の悪性度を示すグリソンスコア(Gleason score)で評価し、治療方針の決定に用いる。
POINT
・前立腺癌の確定診断は超音波ガイド下の前立腺針生検で行う。 ・経路は経直腸的または経会陰的の2つ。 ・癌の好発部位は直腸側の辺縁域(外腺)であるため、経尿道的な生検は行わない。 ・経尿道的生検は膀胱腫瘍の診断法である。 ・経直腸的生検の重要な合併症は感染症(前立腺炎・敗血症)で、抗菌薬の予防投与を行う。
