揺れる血圧、硬い動脈―高齢者高血圧の「らしさ」を読み解く
第100回医師国家試験 B問題 第27問
国試問題にチャレンジ
高齢者の高血圧症で正しいのはどれか。
- a.血圧の変動が大きい。
- b.拡張期高血圧症が多い。
- c.高血圧性臓器障害の頻度が低い。
- d.降圧薬療法で脳血管障害は減少しない。
- e.生活習慣の改善で降圧効果は期待できない。
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
高齢者の高血圧は、加齢による大動脈の硬化でWindkessel機能が失われ、収縮期血圧が上昇して拡張期血圧が低下するため、脈圧の大きい孤立性収縮期高血圧が多くなります。さらに圧受容器反射の感受性低下や自律神経機能の衰えにより血圧変動が大きく、起立性低血圧、食後低血圧、白衣高血圧、早朝高血圧などを示しやすいのが特徴です。罹病期間の長さと動脈硬化が重なるため臓器障害の頻度は高い一方、臨床試験では降圧治療による脳卒中の減少が示されており、食塩感受性が高い高齢者では減塩も有効です。治療は少量から緩徐に降圧し、転倒や脱水、ポリファーマシーに配慮しながら個別に判断します。病態生理から特徴を理解しておくと、高齢化が進む臨床現場で安全な血圧管理を行う土台になります。
解答・解説
正解はaです
高齢者の高血圧症が若年・中年者と比べてどのような特徴をもつかを問う問題である。 高齢者の高血圧を理解する鍵は「加齢による動脈硬化(動脈壁の弾性低下)」と「血圧調節機構の衰え」の2点である。 1. 動脈硬化による血圧パターンの変化 若い大動脈は弾性に富み、収縮期に拍出された血液の一部を壁の伸展で受け止め、拡張期にその弾性で押し出す(Windkessel機能)。加齢で大動脈が硬くなるとこの緩衝作用が失われ、収縮期血圧は上昇し、拡張期血圧はむしろ低下する。その結果、脈圧(収縮期血圧-拡張期血圧)が大きくなり、収縮期血圧のみが高い「収縮期高血圧」が高齢者に多くなる。 2. 血圧調節機構の低下による血圧変動 頸動脈洞・大動脈弓の圧受容器は血管壁の伸展を感知して血圧を調節するが、血管が硬くなるとその感受性(圧受容器反射)が低下する。加えて自律神経機能や循環血液量の調節能も衰えるため、体位変換・食事・排尿・精神的緊張などの刺激に対して血圧が大きく揺れやすい。起立性低血圧、食後低血圧、白衣高血圧、早朝高血圧(モーニングサージ)などはいずれもこの「変動の大きさ」の現れである。 3. 治療に関する事実 高齢者では長年の高血圧と加齢の影響が重なって脳・心・腎などの臓器障害を合併する頻度が高い。一方、高齢者を対象とした大規模臨床試験で、降圧薬治療により脳卒中などの心血管イベントが減少することが示されており、減塩をはじめとする生活習慣の修正も降圧に有効である。 以上から、高齢者の高血圧の特徴として正しいのは「血圧の変動が大きい」である。
選択肢考察
- ○a. 血圧の変動が大きい。
加齢による動脈硬化で圧受容器反射の感受性が低下し、自律神経による血圧調節機能も衰えるため、血圧を一定に保つ緩衝能力が低下する。さらに大動脈の弾性低下により、同じ拍出量の変化でも収縮期血圧が大きく変わりやすい。このため高齢者では日内・日間の血圧変動が大きく、起立性低血圧、食後低血圧、白衣高血圧、早朝高血圧などを示しやすい。診療では家庭血圧や24時間自由行動下血圧測定(ABPM)による評価と、起立時の血圧確認が重要となる。正しい記述である。
- ×b. 拡張期高血圧症が多い。
高齢者で多いのは拡張期高血圧ではなく収縮期高血圧(孤立性収縮期高血圧:収縮期血圧140mmHg以上かつ拡張期血圧90mmHg未満)である。大動脈が硬くなると収縮期血圧は上昇し、拡張期血圧はむしろ低下するため、脈圧が開大する。拡張期血圧の上昇は末梢血管抵抗の増大を反映し、比較的若い世代の高血圧で目立つ特徴である。誤りである。
- ×c. 高血圧性臓器障害の頻度が低い。
高齢者は高血圧の罹病期間が長く、加齢自体による動脈硬化も加わるため、脳血管障害(脳梗塞・脳出血)、無症候性脳梗塞や認知機能低下、左室肥大・心不全、腎機能低下(腎硬化症)などの臓器障害を合併する頻度はむしろ高い。脈圧の開大も心血管イベントの危険因子である。誤りである。
- ×d. 降圧薬療法で脳血管障害は減少しない。
高齢者を対象としたランダム化比較試験(孤立性収縮期高血圧を対象としたSHEPやSyst-Eur、80歳以上を対象としたHYVETなど)で、降圧薬治療により脳卒中をはじめとする心血管イベントや総死亡が減少することが示されている。高齢であることは降圧治療を控える理由にはならない。ただし、急激な降圧は臓器灌流を低下させ、ふらつき・転倒や脳虚血を招くおそれがあるため、少量から開始して緩徐に降圧するのが原則である。誤りである。
- ×e. 生活習慣の改善で降圧効果は期待できない。
高齢者でも生活習慣の修正は降圧に有効である。特に加齢とともに腎臓のナトリウム排泄能が低下して食塩感受性が高まるため、減塩(目標は食塩6g/日未満)の効果は若年者よりむしろ大きいとされる。このほか適正体重の維持、適度な有酸素運動、節酒、野菜・果物の摂取なども推奨される。ただし過度な減塩による食欲低下・脱水や、運動時の転倒などには配慮し、個々の状態に合わせて行う。誤りである。
高齢者高血圧の主な特徴
・収縮期高血圧が多く、脈圧が大きい(大動脈の硬化による)。 ・血圧変動が大きい:起立性低血圧、食後低血圧、白衣高血圧、早朝高血圧(モーニングサージ)、夜間高血圧(夜間に血圧が下がらないnon-dipper型)など。 ・圧受容器反射の感受性低下、自律神経機能低下。 ・食塩感受性の亢進(腎機能の低下)。 ・臓器障害や合併症(脳血管障害、心不全、慢性腎臓病、認知症など)が多い。 ・偽性高血圧:血管の高度石灰化でカフによる圧迫が困難となり、実際より高く測定されることがある。
治療上の注意
・降圧目標(日本高血圧学会ガイドライン2019):診察室血圧で75歳未満は130/80mmHg未満、75歳以上は140/90mmHg未満(併存疾患などにより130/80mmHg未満を目指せる場合もある)。 ・降圧薬は常用量の半量程度から開始し、数週間〜数か月かけて緩徐に降圧する。 ・第一選択はCa拮抗薬、ARB/ACE阻害薬、少量のサイアザイド系利尿薬。α遮断薬は起立性低血圧を来しやすいので注意する。 ・利尿薬による脱水・低ナトリウム血症、降圧過剰による転倒・骨折、多剤併用(ポリファーマシー)に注意する。 ・フレイルや要介護状態、エンドオブライフの患者では、個別に治療方針を判断する。
POINT
・高齢者高血圧の特徴:収縮期高血圧(脈圧開大)、血圧変動が大きい(起立性低血圧・食後低血圧・白衣高血圧・早朝高血圧)、臓器障害が多い。 ・背景は動脈硬化と圧受容器反射の感受性低下である。 ・高齢者でも降圧薬治療で脳卒中・心血管イベントは減少する。 ・減塩など生活習慣の修正は高齢者でも有効(食塩感受性が高いため減塩の効果は大きい)。 ・降圧は少量から緩徐に行う。
