StudyMed医師国家試験

肝静脈は「区域の境界線」―CT1枚でS8を言い当てる区域解剖の読み方

第99回医師国家試験 H問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第99回 H問題 第15問

45歳の男性。健康診断の腹部超音波検査で肝腫瘍を指摘された。腹部造影CTを示す。 腫瘍の占拠部位はどれか。

第99回 H問題 第15問の問題画像
  1. a.S3
  2. b.S4
  3. c.S6
  4. d.S7
  5. e.S8

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、造影CTの横断像から肝腫瘍がどの亜区域にあるかを決める問題だ。腫瘍が何者かではなく、「どこにあるか」が問われている。カギになるのは、この断面に写っている肝静脈。肝静脈を目印に区域を割り振れるかどうかがポイントだよ。
医学生医学生
Couinaud分類はS1からS8まで番号を覚えただけで、CTで当てはめるのは正直苦手です。
ドクタードクター
多くの学生がそこでつまずくね。まず大前提として、肝の区域は門脈・肝動脈・胆管がまとまったグリソン鞘の支配域で決まる。そして肝静脈は、その区域と区域の「間」を走っている。だから肝静脈は区域の境界線として使えるんだ。
医学生医学生
門脈が区域の中心を走って、肝静脈が境目を走るということですね。解剖実習で肝臓を割ったとき、そういえば血管の走り方が互い違いでした。
ドクタードクター
いい記憶だね。具体的には、中肝静脈が右葉と左葉の境界、つまり胆囊窩と下大静脈を結ぶCantlie線に一致する。右肝静脈は右葉の前区域と後区域の境界。左肝静脈は左葉外側区域の中、S2とS3の境目付近を走る。
医学生医学生
左右の葉の境界って肝鎌状間膜じゃないんですか?
ドクタードクター
そこが典型的な落とし穴。肝鎌状間膜は外から見た解剖学的な左右葉の境界だけど、機能的な区域としては、肝鎌状間膜や門脈臍部はS4とS2・S3を分ける線なんだ。機能的な左右の境界は中肝静脈の面、と覚えておこう。
医学生医学生
なるほど。では今回の画像では、腫瘍は右肝静脈と中肝静脈の間にあるので、右葉の前区域ということになりますね。
ドクタードクター
その通り。前区域はS5とS8の2つに分かれる。次はこの断面の高さを考えよう。肝静脈が下大静脈に流れ込むところが見えている、ということは肝臓のどのあたりの断面かな。
医学生医学生
肝静脈は肝臓の上の方で下大静脈に合流するので、頭側の断面だと思います。だから前区域の頭側のS8でしょうか。
ドクタードクター
正解。門脈前区域枝の分岐部を目安に、頭側がS8、尾側がS5だ。肝静脈の合流部レベルで前区域にある腫瘍ならS8と判断できる。ほかの選択肢も位置で整理しておこう。S7はどうかな。
医学生医学生
S7は後区域の頭側なので、同じ高さでも右肝静脈より外側・背側にあるはずです。今回は右肝静脈より内側なので違いますね。
ドクタードクター
そう。S6は後区域の尾側だから、高さも左右の位置も合わない。S4は中肝静脈と肝鎌状間膜の間、つまり中肝静脈より左にある内側区域。S3は外側区域の尾側・腹側で、左肝静脈の近くだからまったく別の場所だ。
医学生医学生
番号は尾状葉のS1から時計回り、と習いましたが、CTだと左右が逆に見えるので混乱しそうです。
ドクタードクター
CTは患者の足側から見上げる向きで表示されるから、画面の左が患者の右になる。まず下大静脈と3本の肝静脈を探し、右肝静脈と中肝静脈の間なら前区域、右肝静脈の外側なら後区域、と順番に当てはめていけば迷わないよ。
医学生医学生
肝静脈で前後・左右を決めて、門脈の分岐の高さで上下を決める、という2段階ですね。
ドクタードクター
そのとおり。左葉では門脈臍部とその枝を目印にS2・S3・S4を分ける。ちなみに尾状葉のS1は下大静脈の腹側にあって、短肝静脈で直接下大静脈に還流する特殊な区域だ。
医学生医学生
今回の腫瘍そのものは何だったんでしょう。
ドクタードクター
辺縁が造影されて中心部が低吸収という所見なので、肝細胞癌、肝内胆管癌、転移性肝癌、肝血管腫などが鑑別に挙がるけれど、1枚の画像では決められない。動脈相・門脈相・平衡相の造影パターンを比べて初めて質的診断に近づける。
医学生医学生
消化器外科の実習で、術前カンファレンスで「S8の腫瘍なので前区域切除か亜区域切除か」と議論していたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそこが臨床的な意義だ。肝細胞癌などでは、腫瘍を支配する門脈の領域ごと切除する系統的肝切除が行われることが多い。占拠部位を正確に言えることは、術式や切除範囲の決定、さらに肝動脈化学塞栓療法で狙う血管の選択にも直結するんだ。

まとめ

肝のCouinaud分類では、グリソン鞘の支配域が区域を決め、肝静脈は区域の境界を走ります。中肝静脈(Cantlie線)が機能的な左右葉の境界、右肝静脈が前区域と後区域の境界であり、肝鎌状間膜・門脈臍部は左右葉ではなくS4と外側区域(S2・S3)の境界である点に注意が必要です。右肝静脈と中肝静脈に挟まれた前区域の腫瘍が、肝静脈と下大静脈の合流部付近の頭側断面にあればS8、門脈分岐より尾側ならS5と判定します。腫瘍の質的診断には多相の造影パターンの比較が必要ですが、占拠部位の同定は系統的肝切除や塞栓療法の計画に直結するため、CT上で区域解剖を読む力は臨床の基本となります。

解答・解説

正解はeです

問われていること

健康診断の超音波検査で見つかった肝腫瘍について、造影CTの横断像から腫瘍がCouinaud(クイノー)分類のどの亜区域にあるかを判定する問題である。腫瘍の性状診断ではなく、肝の区域解剖を画像上で読めるかが問われている。

画像の読み方

造影CTでは、肝静脈(右・中・左肝静脈)が下大静脈に流入する様子が描出されている。この高さは肝の頭側(肝門部より上)にあたる。肝静脈は区域と区域の「境界」を走るので、これを目印にして区域を決める。 ・中肝静脈:右葉と左葉の境界(Cantlie線:胆囊窩と下大静脈を結ぶ面) ・右肝静脈:右葉の前区域と後区域の境界 ・左肝静脈:左葉の外側区域内で、S2とS3の境界付近を走る 本例の腫瘍は、右肝静脈と中肝静脈の間に位置している。したがって腫瘍は右葉の前区域(S5またはS8)にある。

亜区域の決定

前区域は、門脈前区域枝の分岐部を目安に、頭側の上亜区域S8と尾側の下亜区域S5に分けられる。肝静脈が下大静脈に合流するレベルの頭側の断面で前区域に位置する腫瘍はS8と判定される。選択肢に含まれる前区域の亜区域はS8のみであり、正解はS8である。

腫瘍の性状について

造影CTでは腫瘍辺縁が造影され中心部が低吸収を示しているとされ、肝細胞癌、肝内胆管癌、転移性肝癌、肝血管腫などが鑑別に挙がる。質的診断には、単相の画像だけでなく、動脈相・門脈相・平衡相(遅延相)の造影パターンを比較する必要がある。

選択肢考察

  1. ×a.  S3

    S3は左葉外側区域の尾側(前下方)の亜区域である。外側区域は肝鎌状間膜・門脈臍部(臍静脈裂)より左側にあり、左肝静脈の近くに位置する。右肝静脈と中肝静脈の間にある本例の腫瘍とは位置が大きく異なる。

  2. ×b.  S4

    S4は左葉内側区域で、中肝静脈(Cantlie線)と門脈臍部・肝鎌状間膜の間に位置する。つまり中肝静脈より左側の領域である。本例の腫瘍は中肝静脈より右側、右肝静脈との間にあるため、S4ではない。

  3. ×c.  S6

    S6は右葉後区域の尾側の亜区域である。後区域は右肝静脈より外側・背側に位置する。本例の腫瘍は右肝静脈より内側(中肝静脈との間)にあり、しかも肝静脈レベルの頭側の断面にあるため、S6には当たらない。

  4. ×d.  S7

    S7は右葉後区域の頭側の亜区域で、肝静脈レベルの断面では右肝静脈より外側・背側に位置する。本例の腫瘍は右肝静脈の内側(前方)にあり前区域に属するので、S7ではない。

  5. ○e.  S8

    S8は右葉前区域の頭側の亜区域で、右肝静脈と中肝静脈に挟まれ、肝静脈が下大静脈に合流する高さの断面で描出される。本例の腫瘍はまさにこの位置にあり、S8と判定できる。なお前区域の尾側の亜区域であるS5は選択肢にない。

Couinaud分類(肝の8亜区域)

肝は門脈・肝動脈・胆管の分枝(グリソン鞘)の支配域によって区域に分けられ、肝静脈は区域の境界を走る。 ・S1:尾状葉(下大静脈の腹側、左右の門脈から支配を受け、短肝静脈で直接下大静脈に還流する) ・左葉  外側区域:S2(頭側・背側)、S3(尾側・腹側)  内側区域:S4 ・右葉  前区域:S5(尾側)、S8(頭側)  後区域:S6(尾側)、S7(頭側) 番号は、腹側から見て尾状葉から時計回りに振られている。

区域の境界となる構造

・中肝静脈(Cantlie線:胆囊窩と下大静脈を結ぶ面):右葉と左葉の境界。解剖学的な左右葉の境界である肝鎌状間膜とは異なる点に注意 ・右肝静脈:前区域と後区域の境界 ・肝鎌状間膜・門脈臍部(臍静脈裂):内側区域(S4)と外側区域(S2・S3)の境界 ・左肝静脈:S2とS3の間付近を走る ・門脈右枝の前後区域枝分岐部の高さ:頭側(S7・S8)と尾側(S5・S6)の目安

CTでの区域判定の手順

1. 肝静脈が下大静脈に合流する頭側の断面で、右・中・左肝静脈を同定し、前区域・後区域・内側区域・外側区域を区別する 2. 門脈の分岐部の高さを確認し、それより頭側か尾側かで上下の亜区域を決める 3. 左葉では門脈臍部とその分枝を目印にS2・S3・S4を区別する

臨床的意義

肝切除は区域・亜区域の単位で行われることが多い(系統的肝切除)。肝細胞癌などでは腫瘍の占拠部位と支配門脈の関係に基づいて切除範囲が決まるため、区域解剖の理解は術式選択に直結する。

POINT

・肝静脈は区域の境界を走る:中肝静脈=右葉/左葉(Cantlie線)、右肝静脈=前区域/後区域 ・右肝静脈と中肝静脈の間=前区域(S5・S8) ・肝静脈合流部付近の頭側断面の前区域=S8、尾側=S5 ・後区域は頭側S7・尾側S6、内側区域S4、外側区域S2・S3、尾状葉S1 ・肝鎌状間膜・門脈臍部はS4と外側区域の境界であり、左右葉の境界ではない

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。