StudyMed医師国家試験

熱のない子の「りんごほっぺ」―顔と腕の皮疹が教えるヒトパルボウイルスB19

第99回医師国家試験 G問題 第54問

国試問題にチャレンジ

第99回 G問題 第54問

6歳の女児。皮疹を主訴に母親に連れられて来院した。2日前から顔面に,今朝からは四肢にも皮疹が出現した。経過中,発熱はない。皮疹に痛みと痒みとはない。体温37.0℃。口腔内と頸部とに異常を認めない。顔面の写真(A)と上肢の写真(B)とを別に示す。 病原体はどれか。

第99回 G問題 第54問の問題画像
  1. a.A群溶連菌
  2. b.風疹ウイルス
  3. c.エンテロ71ウイルス
  4. d.ヒトヘルペスウイルス6
  5. e.ヒトパルボウイルスB19

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、小児の発疹性疾患の病原体を当てる問題だ。小児の発疹は種類が多いけれど、鑑別の軸は3つ。発熱と発疹の時間関係、皮疹の性状と分布、そして口腔内やリンパ節などの随伴所見だ。この3つを意識しながら考えてみよう。
医学生医学生
熱がなくて元気なのに発疹が出ている、というのが少し意外でした。ウイルス性の発疹症って、だいたい熱が出るイメージがあります。
ドクタードクター
そこがこの問題の一番のヒントなんだ。写真を言葉にすると、顔面では両頬に境界のはっきりした鮮やかな紅斑があって、まるで平手打ちされたような見た目。上肢では伸側に、レースや網目のような模様の紅斑が広がっている。
医学生医学生
頬が真っ赤というと、小児科の講義で聞いた「りんご病」ですか。
ドクタードクター
その通り。伝染性紅斑、別名第五病だね。両頬の紅斑に始まり、1〜2日後に上腕や大腿の伸側にレース状の紅斑が出てくる。今回の経過そのものだ。
医学生医学生
でも、熱がないのはなぜなんでしょう。感染しているなら発熱しそうですが。
ドクタードクター
いい疑問だね。実は伝染性紅斑では、発疹が出る1週間ほど前に微熱や鼻水などの風邪のような時期がある。このときにウイルス血症が起きていて、感染力が一番強い。頬が赤くなるころには免疫反応がすでに成立していて、皮疹はむしろ免疫反応の結果なんだ。だから発疹の時期に熱がないのは本症に合致する。
医学生医学生
なるほど、発疹が出た時点でもう峠を越しているんですね。だから病原体はヒトパルボウイルスB19ということですか。
ドクタードクター
正解だ。では、ほかの候補がなぜ違うかも確認しておこう。まずA群溶連菌はどうかな。
医学生医学生
猩紅熱ですよね。頬が赤くなるという点では少し似ている気がします。
ドクタードクター
似て見えるところが落とし穴だね。猩紅熱は高熱と咽頭痛を伴い、苺舌や咽頭発赤といった口腔内所見がある。皮疹は頸部や体幹から始まる紙やすりのような細かい紅斑で、顔は頬が紅潮しても口の周りだけ白く抜ける口囲蒼白が特徴だ。発熱も口腔内所見もない今回とは合わない。
医学生医学生
風疹は、顔から体幹・四肢に広がるという順番だけ見ると近いですよね。
ドクタードクター
順番は似ているけれど、風疹は発熱、淡紅色の小丘疹、耳介後部や後頸部のリンパ節腫脹が三主徴だ。今回は発熱がなく頸部にも異常がない。皮疹も融合した頬の紅斑とレース状紅斑で、風疹の細かい丘疹とは性状が違う。
医学生医学生
エンテロウイルス71は手足口病ですね。臨床実習の小児科外来で、口の中のアフタを痛がって食べられない子を見ました。
ドクタードクター
よく覚えているね。手足口病は手掌・足底や膝・殿部の小水疱と口腔内の水疱・びらんが特徴で、エンテロウイルス71は髄膜炎や脳幹脳炎などの中枢神経合併症を起こしやすいことでも知られる。口腔内に異常がなく水疱もない今回とは違う。
医学生医学生
HHV-6は突発性発疹で、乳児が高熱のあと解熱と同時に発疹が出る病気でした。6歳だと年齢が合いませんね。
ドクタードクター
その通り。主に生後6か月〜2歳頃に、3〜4日の高熱の後、体幹中心に発疹が出る。年齢も、発熱の先行がない点も、顔から始まる点も合わない。
医学生医学生
熱の有無と時期、皮疹の場所と形、口や首の所見を組み合わせれば、ちゃんと絞り込めるんですね。
ドクタードクター
そう、それが小児発疹症の鑑別の基本だ。最後に臨床で大事な発展知識を押さえよう。パルボウイルスB19は赤血球系前駆細胞にP抗原を受容体として感染し、一時的に赤血球産生を止める。健康な子どもでは問題にならないけれど、遺伝性球状赤血球症などの慢性溶血性貧血がある人では無形成発作という急激な貧血を起こす。
医学生医学生
妊婦さんへの感染も問題になると産婦人科の講義で聞きました。
ドクタードクター
そうだね。経胎盤感染で胎児貧血や胎児水腫、流産・死産の原因になりうる。免疫不全者では持続感染で慢性の赤芽球癆を起こすこともあるし、成人では皮疹が目立たず手指などの関節痛が主症状になることもある。それから、発疹が出たときには感染力がほぼないので、全身状態がよければ登校を制限する必要は基本的にない。保護者からよく聞かれるポイントだよ。
医学生医学生
発疹が出る前に一番うつるから、妊婦さんの周りで流行しているときは特に注意が必要なんですね。
ドクタードクター
その理解で大丈夫。皮疹が出てから隔離しても遅い、という感染症の特徴を覚えておこう。

まとめ

発熱のない学童に、両頬の平手打ち様紅斑に続いて四肢伸側のレース状紅斑が出現すれば、伝染性紅斑(りんご病)を考え、病原体はヒトパルボウイルスB19です。発疹の約1週間前の感冒様症状の時期にウイルス血症があり最も感染力が強く、発疹出現時には感染力はほぼ消失しているため、発熱を伴わないことはむしろ典型的です。猩紅熱(A群溶連菌)は発熱・苺舌・口囲蒼白、風疹は発熱・耳介後部リンパ節腫脹、手足口病(エンテロウイルス71など)は手足と口腔の水疱、突発性発疹(HHV-6)は乳児の高熱後の発疹と、発熱の時期・皮疹の性状と分布・随伴所見で鑑別できます。B19は赤血球系前駆細胞に感染するため、溶血性貧血患者の無形成発作や妊婦感染による胎児水腫、成人の関節炎といった合併症が重要です。小児発疹症を3つの軸で整理する考え方は、外来診療や保護者への説明にも直結する基本となります。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・6歳の学童期の女児 ・皮疹は顔面から始まり、2日後に四肢へ出現 ・経過を通じて発熱がない(受診時37.0℃) ・皮疹に痛み・痒みがない ・口腔内(粘膜疹・咽頭所見)と頸部(リンパ節腫脹)に異常がない ・写真A:両頬部の境界明瞭な鮮紅色の紅斑(いわゆる平手打ち様紅斑、りんご病の由来) ・写真B:上肢伸側のレース状(網目状)紅斑

診断へのプロセス

小児の発疹性疾患は、①発熱と発疹の時間関係、②皮疹の性状と分布、③口腔内所見・リンパ節腫脹などの随伴所見で鑑別する。本例は、発熱を伴わない全身状態良好な学童で、両頬の鮮やかな紅斑に続いて四肢伸側にレース状紅斑が出現している。これは伝染性紅斑(第五病、りんご病)の典型的な経過である。 伝染性紅斑では、発疹が出る1週間ほど前に微熱や感冒様症状のみられる時期があり、ウイルス血症が生じてこの時期に最も感染力が強い。頬の紅斑が出現した時点ではすでに免疫反応が成立し、感染力はほとんど失われている。したがって皮疹出現時に発熱がないことはむしろ本症に合致する。

設問の考え方

問われているのは病原体である。伝染性紅斑の病原体はヒトパルボウイルスB19である。他の選択肢はいずれも小児の発疹性疾患の病原体であり、それぞれの疾患の特徴(発熱の有無、皮疹の分布、口腔内所見、リンパ節腫脹)と本例を照らし合わせて除外する。

選択肢考察

  1. ×a.  A群溶連菌

    A群β溶血性レンサ球菌は咽頭炎・扁桃炎や猩紅熱の原因となる。猩紅熱では発熱と咽頭痛を伴い、咽頭発赤、苺舌などの口腔内所見がみられる。皮疹は頸部・腋窩・体幹から始まる細かい紅色丘疹がびまん性に広がり(紙やすり様の手触り)、顔面は頬が紅潮するが口の周囲だけが蒼白に抜ける(口囲蒼白)。発熱も口腔内所見もなく、頬の紅斑と四肢のレース状紅斑を示す本例とは合わない。

  2. ×b.  風疹ウイルス

    風疹は発熱、淡紅色の小丘疹(顔面から体幹・四肢へ広がり、通常3日程度で消退)、リンパ節腫脹(耳介後部・後頸部・後頭部)を三主徴とする。軟口蓋の点状出血斑(Forchheimer斑)がみられることもある。本例は発熱がなく、頸部に異常を認めず、皮疹も頬の融合性紅斑とレース状紅斑であり、風疹の像とは異なる。

  3. ×c.  エンテロ71ウイルス

    エンテロウイルス71はコクサッキーウイルスA16などとともに手足口病の原因ウイルスである。手足口病では手掌・足底や膝・殿部に小水疱や丘疹が出現し、口腔粘膜にも水疱・びらん(アフタ)を生じる。エンテロウイルス71は無菌性髄膜炎や脳幹脳炎などの中枢神経合併症を起こしやすいことでも知られる。口腔内に異常がなく、水疱もない本例には合わない。

  4. ×d.  ヒトヘルペスウイルス6

    ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6、一部はHHV-7)は突発性発疹の原因ウイルスである。突発性発疹は主に生後6か月〜2歳頃の乳幼児にみられ、38〜40℃の高熱が3〜4日続いた後、解熱とともに体幹を中心に小さな紅斑・丘疹が出現する。6歳という年齢、発熱の先行がないこと、顔面の紅斑から始まる経過のいずれも合致しない。

  5. ○e.  ヒトパルボウイルスB19

    ヒトパルボウイルスB19は伝染性紅斑の原因ウイルスである。伝染性紅斑は幼児〜学童に多く、両頬の境界明瞭な紅斑に始まり、1〜2日後に上腕・大腿の伸側にレース状・網目状の紅斑が現れる。皮疹出現時には発熱がないか軽度で、全身状態は良好である。本例の年齢、経過、写真の皮疹の性状と分布はいずれもこれに一致する。

伝染性紅斑(ヒトパルボウイルスB19感染症)

・感染経路:飛沫・接触感染。潜伏期は約1〜2週間。 ・経過:感冒様症状・微熱の時期(ウイルス血症、感染力が最も強い)→ 約1週後に両頬の紅斑 → 四肢伸側のレース状紅斑。皮疹は1週間ほどで消えるが、日光・入浴・運動などの刺激で再燃することがある。 ・学校保健安全法:発疹出現時には感染力がほぼないため、全身状態が良ければ登校制限の必要はない(出席停止期間の定めのない疾患)。 ・ウイルスの特徴:赤血球系前駆細胞(P抗原が受容体)に感染して一時的に赤血球産生を止める。

重要な合併症

・遺伝性球状赤血球症などの慢性溶血性貧血の患者:無形成発作(aplastic crisis)による急激な貧血 ・妊婦:経胎盤感染により胎児貧血、胎児水腫、流産・死産 ・免疫不全者:持続感染による慢性の赤芽球癆 ・成人:皮疹が目立たず、手指などの関節痛・関節炎が主症状となることがある。

小児の主な発疹性疾患と病原体

・麻疹:麻疹ウイルス。カタル期→Koplik斑→二峰性発熱と発疹、色素沈着を残す。 ・風疹:風疹ウイルス。発熱、発疹、耳介後部・後頸部リンパ節腫脹。 ・突発性発疹:HHV-6/7。乳児の3〜4日の高熱、解熱後に発疹。 ・伝染性紅斑:ヒトパルボウイルスB19。頬の紅斑、四肢のレース状紅斑。 ・手足口病:コクサッキーウイルスA16、エンテロウイルス71など。 ・水痘:水痘・帯状疱疹ウイルス。紅斑・丘疹・水疱・痂皮が混在。 ・猩紅熱:A群β溶血性レンサ球菌。苺舌、口囲蒼白、びまん性紅斑。 ・川崎病:原因不明。

POINT

・両頬の平手打ち様紅斑+四肢伸側のレース状紅斑、発熱なし → 伝染性紅斑(ヒトパルボウイルスB19) ・発疹出現時には感染力はほぼ消失している。 ・合併症:溶血性貧血患者の無形成発作、妊婦感染による胎児水腫、成人の関節炎 ・HHV-6=突発性発疹、エンテロウイルス71・コクサッキーA16=手足口病、A群溶連菌=猩紅熱

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。