化学療法12日目の高熱は待ったなし―発熱性好中球減少症に打つ二つの手
第99回医師国家試験 G問題 第56問
国試問題にチャレンジ
51歳の男性。非Hodgkinリンパ腫に対する外来化学療法を開始して12日後に,悪寒を伴う39.1℃ の発熱をきたしたため入院した。意識は清明。呼吸困難と咳とはない。脈拍116/分,整。血圧110/72mmHg。血液所見:赤血球415万,Hb 13.4g/dL,Ht 44%,白血球1,100(桿状核好中球1%,分葉核好中球24%,単球7%,リンパ球68%),血小板9.7万。血液生化学所見:総蛋白7.4g/dL,アルブミン4.6g/dL,AST 32U/L,ALT 28U/L,LD 285U/L(基準176~353),Na 139mEq/L,K 4.2mEq/L,Cl 101mEq/L。CRP 13.8mg/dL。入院後,直ちに血液培養のための採血を行った。 治療薬として適切なのはどれか。2つ選べ。
- a.抗菌薬
- b.抗真菌薬
- c.抗ウイルス薬
- d.ガンマグロブリン
- e.顆粒球コロニー刺激因子〈G-CSF〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
化学療法後7〜14日頃の好中球減少期(好中球500/μL未満)に発熱をきたした状態は発熱性好中球減少症であり、好中球数は白血球数に桿状核と分葉核好中球の割合をかけて求めます。局所所見が乏しく感染巣が不明なことが多い一方、緑膿菌などによる敗血症へ急速に進行しうるため、血液培養2セット採取後ただちに抗緑膿菌作用をもつ広域βラクタム薬を経験的に開始します。好中球が高度に減少し敗血症の徴候を伴うなど重症化リスクが高い例では、好中球回復を早めるためG-CSFの併用を考慮します。抗真菌薬は広域抗菌薬で4〜7日解熱しない場合に追加を検討し、抗ウイルス薬は細胞性免疫低下、ガンマグロブリンは液性免疫低下の際に考える薬で、初期治療には含めません。免疫不全の型と問題となる病原体を対応づけて理解することは、がん診療に限らずあらゆる免疫不全患者の感染症対応の基盤になります。
解答・解説
正解はa, eです
所見の整理
・非Hodgkinリンパ腫に対する化学療法開始から12日後(抗がん薬による骨髄抑制で好中球が最も減る時期=nadirは一般に投与後7〜14日頃) ・悪寒を伴う39.1℃の発熱、脈拍116/分の頻脈。血圧は保たれている。 ・呼吸困難・咳はなく、明らかな感染巣を示す局所症状の記載はない。 ・白血球1,100、好中球(桿状核1%+分葉核24%=25%)→ 好中球絶対数は1,100×0.25=275/μL ・リンパ球は68%(約750/μL)で、相対的に保たれている。 ・血小板9.7万と軽度低下。総蛋白・アルブミンは正常。 ・CRP 13.8mg/dLと強い炎症反応。
診断へのプロセス
化学療法後の好中球減少(好中球数500/μL未満)の時期に高熱をきたしており、発熱性好中球減少症(febrile neutropenia:FN)と判断できる。FNの原因の多くは細菌感染症で、好中球が少ないため炎症の局所所見(膿、浸潤影、膿尿など)が出にくく、感染巣がはっきりしないことが多い。しかし放置すると短時間で菌血症・敗血症性ショックへ進行しうるため、感染巣の同定を待たずに治療を始める必要がある。特に緑膿菌を含むグラム陰性桿菌は致死的となりやすい。悪寒戦慄と頻脈は菌血症を示唆する所見でもある。
設問の考え方
FNの初期対応は、血液培養(2セット以上)などの培養検体を採取したうえで、ただちに緑膿菌をカバーする広域抗菌薬(例:セフェピム、タゾバクタム・ピペラシリン、カルバペネム系など)を経験的に投与することである。本例ではすでに血液培養が採取されているので、速やかに抗菌薬を開始する。加えて、好中球数が275/μLと高度に減少し、高熱・頻脈・強い炎症反応を伴っていることから、好中球の回復を早める目的で顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の投与も適切と考えられる。抗真菌薬・抗ウイルス薬・ガンマグロブリンは、初期治療としての根拠に乏しい。
選択肢考察
- ○a. 抗菌薬
発熱性好中球減少症の治療の基本である。原因の大半は細菌感染で、重症化が速いため、血液培養採取後ただちに(目安として1時間以内に)緑膿菌をカバーする広域抗菌薬を経験的に開始する。代表的なのは抗緑膿菌作用をもつβラクタム薬(セフェピム、タゾバクタム・ピペラシリン、メロペネムなど)の単剤投与で、ショックやMRSA感染が疑われる場合などには抗MRSA薬などを追加する。培養結果が判明すれば、それに応じて薬剤を調整する。
- ×b. 抗真菌薬
発熱性好中球減少症の初期原因として最も多いのは細菌であり、抗真菌薬は初期治療には含めない。広域抗菌薬を投与しても4〜7日以上発熱が続き、好中球減少の遷延が見込まれる場合に、アスペルギルスやカンジダなどの深在性真菌症を考えて経験的に追加(あるいは画像・血清マーカーに基づき先制的に投与)するのが一般的である。発症当日の本例では第一選択ではない。
- ×c. 抗ウイルス薬
ヘルペスウイルス群(単純ヘルペス、水痘・帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルス)などのウイルス感染は、主に細胞性免疫(T細胞機能)が低下した状態で問題となる。本例のリンパ球は約750/μLと比較的保たれており、水疱や粘膜病変などウイルス感染を示唆する所見もない。明らかな適応がないまま経験的に投与する薬剤ではない。
- ×d. ガンマグロブリン
ガンマグロブリン製剤は、低ガンマグロブリン血症などの液性免疫(抗体産生)の障害があって重症感染症をきたした場合に補充目的で考慮される。本例で低下しているのは好中球であり、総蛋白7.4g/dLと血清蛋白も保たれ、液性免疫不全を示す所見はない。発熱性好中球減少症に対する有効性は確立されておらず、推奨されない。
- ○e. 顆粒球コロニー刺激因子〈G-CSF〉
G-CSFは骨髄の好中球系前駆細胞の増殖・分化を促し、好中球減少の期間を短縮させる。すでに発症した発熱性好中球減少症に全例で用いるわけではないが、好中球数が100〜500/μL未満の高度減少、重症感染症・敗血症の徴候、高齢、好中球減少の遷延が見込まれる場合などの重症化リスクが高い例では投与が考慮される。本例は好中球275/μLと高度に減少し、39℃台の発熱・悪寒・頻脈・CRP高値を伴うため、抗菌薬とあわせて投与する意義がある。
発熱性好中球減少症(FN)の定義(日本の診療ガイドライン)
・好中球数が500/μL未満、または1,000/μL未満で48時間以内に500/μL未満に減少すると予測される状態で、 ・腋窩温37.5℃以上(口腔内温38℃以上)の発熱を生じた場合
初期対応の流れ
1. 病歴・身体診察(口腔、肛門周囲、カテーテル刺入部なども確認) 2. 血液培養2セット以上(中心静脈カテーテルがあればカテーテルからも採取)、必要に応じて尿・喀痰培養、胸部エックス線写真 3. 重症化リスク評価(MASCCスコアなど)。低リスクで全身状態が良ければ経口抗菌薬(キノロン系+アモキシシリン・クラブラン酸など)による外来治療も選択肢となる。 4. 高リスクでは入院のうえ抗緑膿菌作用をもつ広域βラクタム薬を静注。 5. 3〜5日で再評価し、解熱しなければ抗菌薬の変更・追加、真菌感染の検索を行う。
G-CSFの使い方
・一次予防:FNの発症率が高いレジメン(おおむね20%以上)では、化学療法後に予防投与する。 ・二次予防:前コースでFNを起こした場合の次コース以降。 ・治療的投与:FN発症後の全例投与は推奨されないが、重症化リスクの高い例(高度・遷延する好中球減少、敗血症、肺炎、侵襲性真菌感染症、高齢など)では考慮する。
免疫不全の型と問題となる病原体
・好中球減少:細菌(緑膿菌などのグラム陰性桿菌、ブドウ球菌)、真菌(カンジダ、アスペルギルス) ・細胞性免疫低下:ウイルス(ヘルペス群)、ニューモシスチス、結核菌、クリプトコックスなど ・液性免疫低下・脾摘後:莢膜をもつ細菌(肺炎球菌、インフルエンザ菌など)
POINT
・化学療法後7〜14日の発熱+好中球<500/μL → 発熱性好中球減少症 ・血液培養2セット採取後、ただちに緑膿菌をカバーする広域抗菌薬を開始(感染巣の同定を待たない) ・重症化リスクの高い例ではG-CSFを併用して好中球回復を早める。 ・抗真菌薬は広域抗菌薬で4〜7日解熱しない場合に考慮する。 ・好中球数は白血球数×(桿状核+分葉核好中球の割合)で計算する。
