フルートを吹くと右手足が動かない―過換気が暴く小児もやもや病
第99回医師国家試験 G問題 第43問
国試問題にチャレンジ
9歳の女児。右上下肢の脱力発作を主訴に来院した。半年前から2週に一度ほどの頻度で,フルートの練習中に右上下肢の脱力をきたし,それが30分ほどで軽快していた。生来健康であった。意識は清明。身長133cm,体重30kg。体温36.4℃。血圧120/74mmHg。皮膚色は正常。貧血と黄疸とはない。胸部でラ音を聴取しない。腹部は平坦で,肝・脾を触知しない。下肢に浮腫を認めない。神経系の診察で明らかな異常を認めない。頭部MRIで異常を認めたので入院の上,脳血管造影を施行した。頭部単純MRIのT2強調像(A)と左内頸動脈造影側面写真(B)とを示す。 考えられるのはどれか。

- a.もやもや病
- b.脳動静脈奇形
- c.多発性硬化症
- d.複雑部分発作
- e.Sturge-Weber症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクターまとめ
小児が笛や管楽器の演奏、啼泣、熱い食べ物を吹き冷ます動作など過換気を誘因として一過性の脱力発作をくり返す場合は、もやもや病を強く疑います。過換気によるPaCO2低下が脳血管を収縮させ、血流予備能の乏しい脳で虚血を起こすのが機序で、MRIでは症状が一過性でも梗塞巣を認めることがあります。脳血管造影で内頸動脈終末部の狭窄・閉塞と脳底部の異常血管網(もやもや血管)を確認すれば診断でき、ナイダスと早期静脈描出を示す脳動静脈奇形や、顔面ポートワイン母斑と脳回状石灰化を伴うSturge-Weber症候群とは区別されます。小児は虚血型、成人は出血型が多いこと、脳波のre-build-up現象、血行再建術(直接法・間接法)による治療もあわせて押さえておきましょう。誘因の聞き取りから病態生理を結びつける姿勢は、小児の神経症状を診るうえでの基本となります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
9歳女児。半年前から約2週に1回、フルートの練習中に右上下肢の脱力が起こり、30分ほどで自然に回復する発作を繰り返している。意識は清明で、診察時の神経学的異常はない。 ・症状は右上下肢の運動麻痺であり、左大脳半球の一過性の機能障害を示す。意識障害やけいれんは伴わない。 ・誘因がフルートの演奏である点が鍵になる。管楽器の演奏では深く速い呼吸をくり返すため過換気となり、血中の二酸化炭素分圧(PaCO2)が下がる。PaCO2の低下は脳血管を収縮させ、脳血流を減少させる。もともと脳の血流予備能が乏しい患者では、これによって一過性脳虚血発作(TIA)が誘発される。小児で、啼泣・吹奏楽器・熱い麺類をふーふー吹いて食べるといった過換気を誘因として脱力発作をくり返すのは、もやもや病の典型的な病歴である。
画像所見
・頭部MRIのT2強調像(A):画像の向きは向かって右が患者の左である。向かって右上、すなわち左前頭葉前外側部の皮質〜皮質下に、脳回に沿った限局性の高信号域がある。虚血による陳旧性の梗塞巣と考えられ、症状は一過性でも画像上はすでに脳梗塞が生じていることを示す。左大脳半球の病変である点も、右上下肢の脱力という症状と対応する。なお、画像中央で左右対称に白く見える構造は側脳室の前角・体部・後角であり、T2強調像では脳脊髄液が高信号に写るためである。脳室周囲の白質に病変があるわけではないので、脳室内の髄液と病変を取り違えないよう注意する。 ・左内頸動脈造影側面像(B):内頸動脈は終末部(頭蓋内の分岐部付近)で途絶・高度狭窄を示し、本来描出されるはずの中大脳動脈・前大脳動脈の太い本幹が見えない。代わりに脳底部に細かな異常血管網が煙草の煙のように集簇している。これがもやもや血管(側副血行路として拡張した穿通枝)である。
診断
過換気で誘発される小児の反復性TIA、脳梗塞巣、内頸動脈終末部の狭窄・閉塞と脳底部の異常血管網から、もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)と診断する。
選択肢考察
- ○a. もやもや病
もやもや病は内頸動脈終末部から前・中大脳動脈近位部にかけて進行性の狭窄・閉塞が起こり、代償として脳底部に異常血管網(もやもや血管)が発達する原因不明の疾患である。小児例では過換気を誘因とするTIAや脳梗塞で発症することが多く、本例の病歴、MRIでの左前頭葉の梗塞巣、脳血管造影での内頸動脈終末部の途絶ともやもや血管の所見がすべて合致する。
- ×b. 脳動静脈奇形
誤り。脳動静脈奇形(AVM)は毛細血管を介さずに動脈と静脈が直接つながる先天性の血管奇形で、異常血管の塊(ナイダス)を形成する。血管造影では、ナイダスに流入する拡張した栄養動脈と、動脈相の早い時期から造影される拡張した導出静脈(早期静脈描出)がみられる。本例の造影像は主幹動脈(内頸動脈終末部)の途絶とその周辺の細かな側副血管であり、AVMとは異なる。AVMは脳出血やけいれんで発症することが多く、過換気で誘発される反復性の脱力発作は典型的でない。
- ×c. 多発性硬化症
誤り。多発性硬化症(MS)は中枢神経の自己免疫性脱髄疾患で、病変が時間的・空間的に多発すること(時間的・空間的多発性)が特徴である。MRIでは側脳室周囲などの白質に多発する病巣がみられ、脳血管造影で主幹動脈の狭窄・閉塞や異常血管網を示すことはない。また、症状が数日以上持続する再発をくり返すのが典型で、過換気で誘発され30分で消える発作とは経過が合わない。
- ×d. 複雑部分発作
誤り。複雑部分発作(現在の国際分類では焦点意識減損発作)は、脳の一部から始まるてんかん発作のうち意識障害を伴うものであり、動作停止や口部自動症などを示す。診断には脳波でのてんかん性放電の確認が重要である。本例は意識清明のまま片側の脱力が生じており、発作後に麻痺が残るTodd麻痺の可能性を考えるとしても、脳血管造影で主幹動脈の閉塞ともやもや血管が確認されている以上、てんかんでは説明できない。
- ×e. Sturge-Weber症候群
誤り。Sturge-Weber症候群は神経皮膚症候群の一つで、顔面の三叉神経(特に第1枝)領域のポートワイン母斑(毛細血管奇形)、同側の脳軟膜血管腫、緑内障を特徴とする。CTでは脳回に沿った線路状(tram-track)の石灰化、造影MRIでは軟膜の造影増強がみられ、てんかん発作・片麻痺・知的障害をきたす。本例には顔面の血管腫などの皮膚所見がなく、画像所見も合わない。
もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)の概要
・両側(ときに片側)の内頸動脈終末部〜前・中大脳動脈近位部に進行性の狭窄・閉塞が生じ、脳底部に異常血管網が形成される。原因は不明だが、日本人を含む東アジアに多く、感受性遺伝子としてRNF213が知られる。家族内発症もある。 ・発症年齢は5〜10歳前後の小児と30〜40歳代の成人の二峰性を示し、女性にやや多い。
病型と症状
・小児:虚血型が主体。啼泣、吹奏楽器の演奏、熱い食べ物を吹き冷ます動作など過換気を誘因とするTIA(脱力発作、感覚障害、言語障害)や脳梗塞、頭痛、不随意運動、けいれんがみられる。 ・成人:虚血型に加え出血型が多い。脆弱なもやもや血管や、それに伴う微小動脈瘤の破綻による脳出血・脳室内出血をきたす。
検査
・脳血管造影が診断の基本であり、内頸動脈終末部の狭窄・閉塞と脳底部の異常血管網を確認する。MRI・MRAでも所見がそろえば診断可能とされている。 ・脳波:過換気負荷で徐波化(build-up)が起こり、過換気終了後いったん回復したのち再び徐波が出現する re-build-up 現象が特徴的である。検査時の過換気負荷は発作を誘発しうるため注意が必要である。 ・脳血流SPECTで脳血流量や血管反応性(予備能)を評価する。
治療
・虚血症状をくり返す例では血行再建術を行う。直接血行再建術(浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術:STA-MCA吻合)と、側頭筋や硬膜などを脳表に接着させて新たな血管の発達を促す間接血行再建術があり、併用されることも多い。小児では間接法の効果が得られやすい。 ・内科的には抗血小板薬などが用いられる。日常生活では過換気や脱水を避けるよう指導する。
POINT
・小児が過換気(笛・管楽器、啼泣、熱い麺を吹く)で脱力発作をくり返す→もやもや病を考える。 ・脳血管造影で内頸動脈終末部の狭窄・閉塞と脳底部の異常血管網(もやもや血管)。 ・小児は虚血型、成人は出血型が多い(二峰性の発症年齢)。 ・脳波では過換気後の re-build-up 現象が特徴。 ・治療は血行再建術(直接:STA-MCA吻合、間接法)。 ・AVMはナイダスと早期静脈描出、Sturge-Weberは顔面ポートワイン母斑と脳回状石灰化で区別する。
