爆発で焼けた顔―「今は大丈夫」に潜む窒息と失明のリスク
第99回医師国家試験 F問題 第32問
国試問題にチャレンジ
32歳の男性。工場の爆発事故で熱傷を受け,救急車で搬送された。口唇を含めた顔面と頸部とに熱傷病変を認める。意識は清明。身長168cm,体重62kg。体温36.5℃。呼吸数24/分。脈拍88/分,整。血圧126/70mmHg。バイタルサインは安定している。 まず調べる部位はどれか。2つ選べ。
- a.眼球
- b.上気道
- c.食道
- d.肝臓
- e.腎臓
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
爆発事故や閉鎖空間での受傷で顔面・口唇・頸部に熱傷がある場合は、気道熱傷を強く疑い、まず上気道を評価します。喉頭浮腫は受傷後数時間から24時間ほどかけて進行し、来院時にバイタルサインが安定していても急に窒息しうるため、所見があれば早めの気管挿管を検討します。また顔面熱傷では眼瞼浮腫で開瞼が困難になる前に、角膜・結膜の損傷を確認しておくことが重要です。気道熱傷や顔面の熱傷はArtzの基準で面積にかかわらず重症として扱われ、一酸化炭素中毒の合併にも注意が必要です。「時間とともに評価や処置が難しくなる部位を先に診る」という考え方は、熱傷に限らず救急初期診療の基本となります。
解答・解説
正解はa, bです
所見の整理
・32歳の男性、工場の爆発事故による熱傷。 ・熱傷は口唇を含む顔面と頸部に限局している。 ・意識清明、体温36.5℃、脈拍88/分、血圧126/70 mmHgと循環は安定している。呼吸数は24/分と成人の正常(12〜20/分程度)よりやや多い。
考え方
熱傷の初期診療では、まず生命にかかわる問題を ABCDE(A:気道、B:呼吸、C:循環、D:意識・神経、E:脱衣と体温管理)の順に確認する。本例は現時点でバイタルサインが安定しているが、「爆発事故」「顔面・口唇・頸部の熱傷」という情報から、高温のガスや煙を吸い込んだことによる気道熱傷を強く疑うべきである。気道熱傷では受傷後数時間から24時間ほどかけて喉頭・声門周囲の浮腫が進行し、来院時は落ち着いていても急激に上気道閉塞・窒息に至ることがある。呼吸数がやや増えていることも注意すべき徴候である。したがって、上気道(口腔・咽頭・喉頭)をまず評価する必要がある。 もう一つ、爆発では熱や火炎が顔面に直接及ぶため、角膜や結膜の熱傷を合併しやすい。顔面の熱傷では時間とともに眼瞼が強く腫れ、まぶたを開けて眼球を観察することが困難になる。眼の損傷は見逃すと角膜潰瘍・感染・視力障害につながるため、眼瞼浮腫が進む前の早い段階で眼球を診察しておく必要がある。 一方、熱傷の範囲は顔面と頸部に限られ(体表面積のおよそ1割程度)、腹部打撲などの記載もないため、内臓の緊急評価の優先度は低い。以上から、まず調べる部位は上気道と眼球である。
選択肢考察
- ○a. 眼球
爆発による顔面熱傷では、熱や火炎、飛散物が眼に直接及び、角膜・結膜の熱傷や異物を合併しやすい。顔面熱傷後は数時間のうちに眼瞼浮腫が強くなり、開瞼して眼球を観察することが困難になるため、浮腫が出る前の早期に視力、角膜・結膜の状態(フルオレセイン染色による角膜上皮障害の確認など)を評価しておく必要がある。損傷があれば洗浄、抗菌薬点眼などで感染を予防し、角膜潰瘍や視力障害を防ぐ。
- ○b. 上気道
爆発事故、閉鎖空間での受傷、顔面・口唇・頸部の熱傷、鼻毛の焼失、口腔内や咽頭のすす付着、嗄声、喘鳴、すすを含んだ痰などは気道熱傷を疑う所見である。気道熱傷では喉頭浮腫が時間とともに進行し、上気道閉塞で窒息する危険があるため、最優先で口腔・咽頭・喉頭を観察し、必要に応じて喉頭鏡や気管支ファイバースコープで声門周囲や気管内を評価する。浮腫が進行すると挿管自体が難しくなるため、気道熱傷が明らかな場合や所見が悪化しつつある場合は、早めに気管挿管による気道確保を行う。本例は呼吸数24/分とやや頻呼吸であり、この点でも上気道の評価を急ぐべきである。
- ×c. 食道
食道の損傷は、化学物質(強酸・強アルカリ)の誤飲や、熱い液体を大量に飲み込んだ場合に問題となる。本例は爆発による熱傷で、何かを嚥下したという情報はなく、食道に損傷が及んでいるとは考えにくい。また評価には内視鏡が必要で、緊急度の高い気道・眼の診察を優先すべきである。
- ×d. 肝臓
爆発では爆風や飛来物による腹部外傷(肝損傷など)を合併しうるが、本例には腹痛や腹部打撲の記載がなく、循環動態も安定しているため、腹腔内出血を疑う根拠はない。化学物質の吸収による肝障害を考える状況でもない。初期に優先して調べる部位ではない。
- ×e. 腎臓
広範囲熱傷では循環血液量減少による腎前性急性腎障害や、電撃傷・筋損傷によるミオグロビン尿で腎障害をきたすことがあり、尿量のモニタリングが重要になる。しかし本例の熱傷は顔面と頸部に限局しており、背部・側腹部の外傷を示す所見もなく、腎臓を最初に調べる理由はない。
気道熱傷
・原因:高温の気体・煙の吸入による熱損傷と、煙に含まれる有毒物質による化学的損傷。一酸化炭素中毒やシアン中毒を合併することもある。 ・疑う状況・所見:閉鎖空間での火災・爆発、顔面熱傷、鼻毛の焦げ、口腔・咽頭のすす、嗄声、喘鳴、すす混じりの痰、呼吸困難。 ・経過:上気道(声門より上)は熱で直接傷害されやすく、喉頭浮腫が受傷後数時間〜24時間程度で進行する。下気道は熱より化学的損傷が主体で、遅れて気管支炎・肺炎・ARDSをきたしうる。 ・診断:喉頭鏡・気管支ファイバースコープで粘膜の発赤、浮腫、すす付着を確認する。 ・治療:気道閉塞の危険が高ければ早期の気管挿管。一酸化炭素中毒が疑われれば高濃度酸素投与(重症例では高気圧酸素療法を検討)。
熱傷の重症度評価
・熱傷面積:成人では9の法則(頭頸部9%、上肢各9%、体幹前面18%、体幹後面18%、下肢各18%、陰部1%)、小児では5の法則、小範囲では手掌法(患者の手のひら約1%)で見積もる。 ・熱傷深度:Ⅰ度(表皮のみ、発赤)、浅達性Ⅱ度(水疱、強い痛み)、深達性Ⅱ度(水疱、知覚鈍麻)、Ⅲ度(皮膚全層、白色〜黒色の壊死、無痛)。 ・Artzの基準:気道熱傷、顔面・手・足・会陰部の熱傷、電撃傷、化学熱傷、骨折などの合併は、面積が小さくても重症として専門施設での治療の対象となる。
初期輸液
成人でⅡ度以上の熱傷面積が15%以上(小児では10%以上)では初期輸液が必要となる。Parkland(Baxter)法では乳酸リンゲル液 4 mL×体重(kg)×熱傷面積(%)を24時間で投与し、最初の8時間でその半量を投与する。尿量(成人0.5 mL/kg/時以上)を指標に調整する。
POINT
・爆発事故・顔面や口唇の熱傷 → 気道熱傷を疑い、まず上気道を評価する。喉頭浮腫は時間とともに進行し、急激な窒息の危険がある。 ・顔面熱傷では眼瞼浮腫で観察困難になる前に眼球(角膜・結膜)を診察する。 ・気道熱傷を疑う所見:鼻毛の焦げ、口腔内のすす、嗄声、喘鳴、すす混じりの痰。 ・気道熱傷や顔面熱傷は面積が小さくても重症熱傷として扱う(Artzの基準)。
