しゃがみ込む3歳児が教えるもの―Fallot四徴症と慢性低酸素のサイン「ばち指」
第99回医師国家試験 F問題 第28問
国試問題にチャレンジ
3歳の男児。呼吸困難を主訴に母親に連れられて来院した。歩行時にしゃがみ込むことがある。意識は清明。身長90cm,体重13kg。口唇にチアノーゼがある。第3肋間胸骨左縁に3/6度の収縮期雑音を聴取し,Ⅱ音は単一である。血液所見:赤血球550万,Hb 17.2g/dL,Ht 52%,白血球6,900。 この患児でみられるのはどれか。
- a.喘鳴
- b.嗄声
- c.胸水
- d.ばち指
- e.陥没呼吸
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
蹲踞、口唇チアノーゼ、胸骨左縁の収縮期雑音、単一II音、多血症がそろえばFallot四徴症を考えます。収縮期雑音は大きな心室中隔欠損ではなく右室流出路狭窄による駆出性雑音であり、蹲踞は体血管抵抗を上げて右左短絡を減らす代償姿勢です。慢性の低酸素血症が続くと多血症とともにばち指が出現し、これはチアノーゼ性心疾患や慢性呼吸器疾患の代表的な身体所見です。一方、Fallot四徴症は肺血流減少型の疾患であるため、肺うっ血や心不全による喘鳴、陥没呼吸、胸水は通常みられません。無酸素発作への対応や脳膿瘍などの合併症も含め、肺血流の増減という病態から所見を推論する考え方は、先天性心疾患全般の理解に役立ちます。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・3歳の男児、呼吸困難を主訴に来院。 ・歩行時にしゃがみ込む:蹲踞(そんきょ)姿勢。 ・口唇チアノーゼ:酸素化の低い血液が体循環に流れている(右左短絡)。 ・第3肋間胸骨左縁の3/6度収縮期雑音、Ⅱ音単一。 ・赤血球550万/μL、Hb 17.2 g/dL、Ht 52%:3歳児としては明らかに高く、多血症(二次性赤血球増加症)である。
診断に至る考え方
チアノーゼを示す先天性心疾患(チアノーゼ性心疾患)のうち、乳幼児期まで生存し、蹲踞を示すのはFallot四徴症の典型像である。Fallot四徴症は、①心室中隔欠損(VSD)、②肺動脈狭窄(右室流出路狭窄)、③大動脈騎乗、④右室肥大の4つからなる。 ・収縮期雑音:Fallot四徴症の雑音は、VSDそのものではなく右室流出路(肺動脈)狭窄を血液が通過することで生じる駆出性雑音である。VSDは大きく左右の心室圧がほぼ等しいため、VSDを通る血流による雑音はほとんど生じない。聴取部位が第3肋間胸骨左縁(右室流出路付近)であることとも合う。 ・Ⅱ音単一:肺動脈狭窄のため肺動脈弁の閉鎖音(Ⅱp)が小さく聞こえず、大動脈成分(Ⅱa)だけが聞こえるためである。 ・蹲踞:しゃがむと下肢の動脈が屈曲・圧迫されて体血管抵抗が上がり、VSDを通る右→左短絡が減って肺血流が増え、酸素化が改善する。患児が自然に覚える代償的な姿勢である。 ・多血症:慢性的な低酸素血症に対して腎臓からのエリスロポエチン産生が増え、赤血球が増加した結果である。 以上からFallot四徴症と診断できる。設問は「この患児でみられる所見」を問うており、慢性低酸素血症の結果として生じる身体所見を考えればよい。なお主訴の呼吸困難は、気道の狭窄や肺うっ血によるものではなく、低酸素血症を代償するための多呼吸・過呼吸(労作時の息切れ)と考えられる。
選択肢考察
- ×a. 喘鳴
喘鳴(ぜいめい、ヒューヒュー・ゼーゼーという呼吸音)は、気管支喘息や細気管支炎、異物、喉頭・気管の狭窄など気道が狭くなる病態で生じる。左右短絡の大きい心疾患では肺うっ血により喘鳴を伴うことがあるが、Fallot四徴症は肺血流が減少する疾患であり肺うっ血は起こらず、気道狭窄を来す要因もない。
- ×b. 嗄声
嗄声(させい、かすれ声)は声帯の病変や反回神経麻痺で生じる。心疾患では左房や肺動脈の著明な拡大による左反回神経の圧迫(Ortner症候群)が知られるが、Fallot四徴症の肺動脈はむしろ低形成であり、嗄声は通常みられない。なお、Blalock-Taussig短絡術などの手術操作で反回神経を損傷した場合には術後に嗄声を生じうるが、本例は未手術である。
- ×c. 胸水
胸水は心不全による静脈圧上昇(うっ血)、低アルブミン血症、胸膜の炎症や腫瘍などで生じる。Fallot四徴症では大きなVSDを通じて両心室の圧が等しくなり、右室の負荷は大動脈側へ逃げるため、未治療でもうっ血性心不全に陥ることはまれである。肺血流も減少しているため、胸水の貯留は通常みられない。
- ○d. ばち指
ばち指(太鼓ばち指)は指先が太鼓のばちのように膨らみ、爪が丸く弯曲して爪の付け根の角度が180度以上となる所見である。慢性の低酸素血症が続くことで生じ、チアノーゼ性心疾患や慢性呼吸器疾患の代表的所見である。機序として、右左短絡により肺で捕捉・分解されるはずの巨核球や血小板凝集塊が末梢に達し、血小板由来増殖因子(PDGF)や血管内皮増殖因子(VEGF)を放出して指先の組織増生を促すという説が有力である。本例は3歳でチアノーゼと多血症を伴うことから、慢性の低酸素状態が続いていると判断でき、ばち指がみられると考えられる。一般にチアノーゼが出現してから数か月〜1年程度で明らかになる。
- ×e. 陥没呼吸
陥没呼吸は、吸気時に胸骨上窩、肋間、季肋部などが凹む所見で、気道狭窄や肺のコンプライアンス低下(肺炎、肺水腫、呼吸窮迫症候群など)により吸気時の胸腔内陰圧が強くなることで生じる。乳児の左右短絡性心疾患で肺うっ血が高度なときにもみられるが、Fallot四徴症は肺血流減少型で肺の硬さも増さないため、通常みられない。本例の呼吸困難は低酸素血症に対する代償的な呼吸の増加であり、陥没呼吸を伴うものではない。
Fallot四徴症(TOF)の要点
・チアノーゼ性先天性心疾患の中で最も多い。 ・4つの構成要素:心室中隔欠損、肺動脈狭窄(右室流出路狭窄)、大動脈騎乗、右室肥大。 ・チアノーゼ:新生児期には目立たず、生後数か月以降に右室流出路狭窄の進行とともに明らかになることが多い。 ・聴診:胸骨左縁第3〜4肋間の駆出性収縮期雑音(肺動脈狭窄による)、単一Ⅱ音。狭窄が強くなるほど肺へ流れる血液が減り、雑音はむしろ小さくなる。 ・胸部X線:木靴型心(右室肥大による心尖部挙上と、肺動脈低形成による左第2弓の陥凹)、肺血管陰影の減少。右側大動脈弓を約25%に合併する。 ・心電図:右軸偏位、右室肥大。
無酸素発作(低酸素発作、spell)
啼泣、排便、哺乳、脱水などを契機に右室流出路の漏斗部が攣縮し、肺血流が急激に減少してチアノーゼが増強、多呼吸、意識消失、けいれんをきたす。発作中は雑音が減弱・消失する。対応は胸膝位(膝を胸につける姿勢で蹲踞と同じ機序)、酸素投与、鎮静(モルヒネ)、β遮断薬(プロプラノロール)、アシドーシス補正、昇圧薬(フェニレフリン)など。予防にはβ遮断薬を用いる。
慢性低酸素血症に伴う合併症
多血症(過粘稠による血栓症・脳梗塞)、ばち指、相対的鉄欠乏性貧血、脳膿瘍(右左短絡のため静脈血中の細菌が肺のフィルターを通らない)、感染性心内膜炎など。
治療
根治手術(VSD閉鎖と右室流出路形成)を乳児期に行うのが一般的である。肺動脈が細い例やチアノーゼが強い低月齢の例では、まず体肺動脈短絡術(Blalock-Taussig短絡術:鎖骨下動脈と肺動脈をつなぐ)で肺血流を増やし、その後に根治手術を行う。
POINT
・蹲踞+チアノーゼ+胸骨左縁の収縮期雑音+単一Ⅱ音 → Fallot四徴症。 ・TOFの収縮期雑音は肺動脈(右室流出路)狭窄による。VSDは大きいため雑音をつくらない。 ・慢性低酸素血症 → 多血症・ばち指。 ・TOFは肺血流減少型のため、肺うっ血・心不全による喘鳴、陥没呼吸、胸水は通常みられない。 ・無酸素発作には胸膝位、酸素、モルヒネ、β遮断薬。
