「考えが筒抜けになる」は誰の症状か―自我障害で見分ける統合失調症と気分障害
第99回医師国家試験 E問題 第6問
国試問題にチャレンジ
気分障害よりも統合失調症を示唆するのはどれか。
- a.易刺激性
- b.考想伝播
- c.強迫症状
- d.罪業妄想
- e.明識困難
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
統合失調症と気分障害はどちらも妄想や興奮を呈しうるため、症状の質で見分けることが重要です。気分障害の妄想は気分と調和した内容をとり、うつ状態では罪業妄想・貧困妄想・心気妄想、躁状態では誇大妄想が典型です。一方、自分の考えが他者に伝わってしまうと体験する考想伝播は、考想吹入・考想奪取・作為体験と同じ自我障害に属するSchneiderの一級症状で、統合失調症を示唆します。易刺激性は気分障害などでみられる非特異的症状、強迫症状は不合理さの自覚を伴う強迫症の中核症状、明識困難は最も軽い意識混濁で身体因を示唆し、統合失調症では意識は清明です。「気分との調和」「自我の境界」「意識の清明さ」という視点を持つことは、精神症状の鑑別と身体疾患の見逃し防止の両方に役立ちます。
解答・解説
正解はbです
統合失調症と気分障害(うつ病・双極性障害)はいずれも妄想や興奮などを呈しうるため、両者を見分ける手がかりとなる症候を知っておく必要がある。 両者を区別する基本的な考え方は次のとおりである。 ・気分障害の精神病症状は、気分と調和した内容をとることが多い(気分に一致した精神病症状)。うつ状態では罪業妄想・貧困妄想・心気妄想(微小妄想)、躁状態では誇大妄想が典型である。 ・統合失調症では、気分とは無関係に、自我の境界が崩れて「自分の思考や行為が自分のものでない」「外部に筒抜けになる、外部から操られる」と体験する自我障害(させられ体験)が特徴的である。Schneiderの一級症状の多くはこの自我障害に関わる。 したがって、自分の考えが他者に伝わってしまうと体験する考想伝播は、自我障害の代表であり、気分障害よりも統合失調症を強く示唆する。一方、易刺激性は気分障害でしばしばみられ、罪業妄想はうつ病に典型的である。強迫症状は強迫症(強迫性障害)の中核症状であり、明識困難は意識障害の程度を表す用語であって、いずれも統合失調症を特に示唆するものではない。
選択肢考察
- ×a. 易刺激性
誤りである。易刺激性とは、些細な刺激にも過敏に反応して怒りっぽく、不機嫌になりやすい状態をいう。躁状態では高揚気分と並んで易怒的・易刺激的な気分が中核症状の一つとされ、うつ病でも焦燥感とともに苛立ちやすさがしばしばみられる(小児・青年期のうつ病では抑うつ気分の代わりに易怒的な気分として現れることもある)。このほか不安・緊張が高まった状態、パーソナリティ障害、認知症や器質性精神障害、物質使用などでも広くみられる非特異的な症状であり、むしろ気分障害に結びつきやすく、統合失調症を示唆するものではない。
- ○b. 考想伝播
正しい。考想伝播とは、自分の考えが声に出さなくても周囲の人々に伝わってしまう、知れ渡ってしまうと体験する症状である。自己と外界との境界が失われる自我障害の一つで、考想吹入(他者の考えが自分に入り込む)、考想奪取(考えが抜き取られる)、作為体験(させられ体験)などと同じ系列に属する。Schneiderの一級症状に含まれ、統合失調症に特徴的な症状である。気分障害の精神病症状は通常気分と調和した内容をとり、このような自我障害は目立たないため、考想伝播は気分障害よりも統合失調症を示唆する。
- ×c. 強迫症状
誤りである。強迫症状とは、自分でも不合理・無意味だとわかっているのに、ある考えやイメージが繰り返し浮かんで払いのけられない強迫観念(強迫思考)と、それによる不安を打ち消すために手洗いや確認などを繰り返す強迫行為からなる。本人が不合理さを自覚している(病識がある)点が妄想との違いである。強迫症(強迫性障害)の中核症状であり、統合失調症やうつ病の経過中に併存することもあるが、統合失調症に特異的な症状ではない。
- ×d. 罪業妄想
誤りである。罪業妄想は「自分は取り返しのつかない罪を犯した」「家族に迷惑をかけた罰を受けるべきだ」などと確信する妄想で、自己を過小に評価する微小妄想の一つである。貧困妄想(財産を失い破産すると確信する)、心気妄想(重い病気にかかっていると確信する)とともにうつ病の三大妄想と呼ばれ、抑うつ気分と調和した内容をもつ。したがって統合失調症ではなく、気分障害(特に精神病性の特徴を伴ううつ病)を示唆する。
- ×e. 明識困難
誤りである。明識困難は意識混濁のごく軽い段階を表す用語で、外界との接触は保たれているものの、ぼんやりして注意の集中や周囲の状況の明確な把握が困難な状態をいう。意識混濁は程度により明識困難、昏蒙、傾眠、嗜眠、昏睡の順に深くなると記述される。意識障害は脳器質性疾患、代謝性疾患、薬物中毒などの身体因による精神障害でみられるもので、統合失調症では原則として意識は清明である。統合失調症を示唆する所見ではない。
Schneiderの一級症状
ドイツの精神医学者Kurt Schneiderが、身体的基盤がなければ統合失調症の診断を強く示唆するとした症状群である。 ・考想化声(自分の考えが声になって聞こえる) ・対話形式の幻聴(複数の声が自分について言い合う) ・自分の行為を批評する幻聴 ・身体的被影響体験 ・考想奪取、考想吹入、その他の思考への干渉 ・考想伝播 ・妄想知覚(実際の知覚に、了解不能な特別な意味づけが突然結びつく) ・感情・衝動・意志の領域におけるさせられ体験(作為体験) 現在のDSM-5では一級症状に特別な診断的重みは与えられていないが、統合失調症の特徴的症状として理解しておく価値は高い。
気分障害でみられる妄想
・うつ状態: 罪業妄想、貧困妄想、心気妄想(三大妄想、いずれも微小妄想)。極端な例として、自分の身体や世界が存在しないと確信する否定妄想(Cotard症候群)がある。 ・躁状態: 誇大妄想(血統妄想、発明妄想、宗教妄想など) いずれも気分と調和する内容をとるのが原則である。
意識混濁の程度(軽い順)
明識困難 → 昏蒙 → 傾眠 → 嗜眠 → 昏睡
POINT
・考想伝播・考想吹入・考想奪取・作為体験などの自我障害 → 統合失調症(Schneiderの一級症状) ・罪業妄想・貧困妄想・心気妄想 → うつ病の三大妄想(微小妄想) ・易刺激性 → 躁状態などで目立つ非特異的症状 ・強迫症状 → 強迫症(不合理さの自覚がある点が妄想と異なる) ・明識困難 → 最も軽い意識混濁。統合失調症では意識は清明
