言葉は遅れない、でも会話がかみ合わない―Asperger症候群を「自閉症との違い」で読み解く
第99回医師国家試験 E問題 第8問
国試問題にチャレンジ
Asperger症候群で誤っているのはどれか。
- a.男児に多い。
- b.言語発達は正常である。
- c.奇妙な動作がある。
- d.広汎性発達障害に分類される。
- e.対人関係の質的な障害がある。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
Asperger症候群は、旧分類では広汎性発達障害の一つで、対人的相互反応の質的障害と限定的・反復的な興味・行動を示しながら、言語発達や知的発達に明らかな遅れがないものと定義されていました。男児に多く、言葉の遅れはなくても字義どおりの理解や一方的な会話といった語用面の障害がみられます。ロッキングや手をひらひらさせるような目立つ常同運動は知的障害を伴う典型的な自閉症の特徴で、Asperger症候群ではこだわりが特定分野への強い興味や習慣への固執として現れやすく、運動の不器用さとも区別して理解する必要があります。DSM-5以降は自閉スペクトラム症に統合されており、支援は環境調整や構造化、ソーシャルスキルトレーニングが中心で、併存する不安・抑うつやADHDにも配慮します。自閉症との共通点と相違点を整理しておくことは、発達障害全体を理解し、学童期以降に気づかれる子どもを適切に支援する土台になります。
解答・解説
正解はcです
Asperger症候群(アスペルガー症候群)の特徴を問う問題である。出題当時の診断体系(ICD-10やDSM-IV-TR)では、Asperger症候群は広汎性発達障害(PDD)の下位分類の一つとされ、自閉症(自閉性障害)と比較してその特徴を整理するのが基本である。 自閉症の中核症状は、 1. 対人的相互反応の質的障害 2. コミュニケーション(言語)の質的障害・言語発達の遅れ 3. 限定された反復的・常同的な行動、興味、活動 の3つ(いわゆる三つ組)である。Asperger症候群は、このうち1と3を満たしながら、臨床的に明らかな言語発達の遅れや知的発達の遅れを伴わないものと定義されていた。 この定義を押さえると、「男児に多い」「言語発達は(明らかな遅れがないという意味で)正常」「広汎性発達障害に分類される」「対人関係の質的障害がある」はいずれもAsperger症候群の記述として妥当である。一方、体を前後に揺する、手をひらひらさせるといった目立つ常同運動(奇妙な動作)は、知的障害を伴う典型的な自閉症で目立つ所見であり、Asperger症候群の特徴としては挙げられない。したがって「奇妙な動作がある」が誤りとなる。 なお、2013年のDSM-5以降は広汎性発達障害の下位分類が廃止され、Asperger症候群は自閉スペクトラム症(ASD)に統合されている(ICD-11でも同様)。
選択肢考察
- ×a. 男児に多い。
正しい記述である。自閉スペクトラム症全体でおよそ男女比4:1と男児に多く、Asperger症候群でも同様に男児優位であり、報告によってはさらに高い男児の比率が示されている。女児は対人面の困難が目立ちにくく、診断が遅れたり見逃されたりしやすいことも男女差の一因と考えられている。
- ×b. 言語発達は正常である。
正しい記述である。Asperger症候群は、言語発達や認知(知的)発達に臨床的に明らかな遅れを伴わないことが診断の条件とされていた(ICD-10では、2歳までに単語、3歳までに意思伝達のための句を話すことが目安とされる)。この点が、言語発達の遅れを伴う自閉症との主な違いである。ただし、言葉の遅れはなくても、比喩や冗談が通じない、字義どおりに受け取る、一方的に話し続ける、抑揚が乏しく堅苦しい話し方をするなど、会話の使い方(語用論)の障害はしばしばみられる。
- ○c. 奇妙な動作がある。
誤った記述であり、本問の正解である。体を前後に揺する(ロッキング)、目の前で手をひらひらさせる、興奮するとぴょんぴょん跳びはねる、くるくる回るといった目立つ常同運動は、主に知的障害を伴う典型的な自閉症でみられる所見である。Asperger症候群では、限定的・反復的な特徴は主に特定の事柄への強いこだわりや狭く深い興味、手順や習慣への固執として現れ、このような奇妙な動作が前景に立つことは少ない。そのため、奇妙な動作はAsperger症候群の特徴とはされない。なお、Asperger症候群では運動の不器用さ(協調運動の拙劣さ)がしばしば指摘されるが、これは常同的な奇妙な動作とは別の所見である。
- ×d. 広汎性発達障害に分類される。
正しい記述である。ICD-10やDSM-IV-TRでは、広汎性発達障害(PDD)は社会性・コミュニケーションの障害と限定的・反復的行動を特徴とする発達障害の総称で、小児自閉症(自閉性障害)、Asperger症候群、Rett症候群、小児期崩壊性障害、特定不能の広汎性発達障害などを含んでいた。Asperger症候群はその下位分類の一つである。現在のDSM-5やICD-11では、これらの下位分類は廃止され(Rett症候群は遺伝子疾患として除外)、自閉スペクトラム症(ASD)という一つの連続体としてまとめられている。
- ×e. 対人関係の質的な障害がある。
正しい記述である。対人的相互反応の質的障害は、Asperger症候群を含む広汎性発達障害に共通する中核症状である。視線や表情、身振りなど非言語的な手がかりを使ったやりとりが苦手、相手の気持ちや場の雰囲気を読み取りにくい、年齢相応の友人関係を築きにくい、興味や喜びを他者と自然に共有しにくい、などの形で現れる。一方的に関わろうとする「積極奇異型」の対人関係を示すことも多い。
広汎性発達障害(旧分類)と自閉スペクトラム症(現分類)
旧分類(DSM-IV-TR、ICD-10)の広汎性発達障害には次が含まれていた。 ・自閉性障害(小児自閉症): 三つ組の障害がそろい、多くは3歳以前に発症。言語発達の遅れを伴う ・Asperger症候群: 対人的相互反応の障害と限定的・反復的行動はあるが、言語・知的発達の明らかな遅れがない ・Rett症候群: ほぼ女児に発症し、正常発達の後に退行、手をもむような常同運動を示す(X染色体上にあるメチル化CpG結合タンパク質2をコードする遺伝子の変異による) ・小児期崩壊性障害: 少なくとも2年間の正常発達後に獲得した能力を失う ・特定不能の広汎性発達障害 DSM-5(2013年)では、これらを自閉スペクトラム症(ASD)に一本化し、診断基準を A. 社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応の持続的な欠陥 B. 限定された反復的な行動、興味、活動(常同運動、同一性への固執、限局した興味、感覚の過敏・鈍麻など) の2領域に再編した。知的障害や言語障害の有無は、併存の有無として別に特定する。
Asperger症候群の特徴のまとめ
・言葉の遅れや知的障害はない(知能は平均以上のこともある) ・会話の語用面の問題(字義どおりの理解、一方的な会話、独特の言い回し) ・特定の分野への強いこだわりや膨大な知識 ・運動の不器用さ ・感覚過敏を伴うことがある ・学童期以降、集団生活の中で対人関係の困難として気づかれることが多い
対応
根本的な薬物療法はなく、特性の理解に基づく環境調整、ソーシャルスキルトレーニング、構造化された支援などが中心である。易刺激性や併存する不安・抑うつ、注意欠如・多動症(ADHD)などに対しては薬物療法を併用することがある。
POINT
・Asperger症候群 = 対人的相互反応の質的障害+限定的・反復的な興味・行動、ただし言語・知的発達の明らかな遅れはない ・旧分類では広汎性発達障害の一つ、DSM-5以降は自閉スペクトラム症に統合 ・男児に多い(ASD全体で約4:1) ・ロッキングや手のひらひらなど目立つ常同運動は、典型的な(知的障害を伴う)自閉症の特徴 ・言葉の遅れはなくても、語用面(会話の使い方)の障害はある
