StudyMed医師国家試験

「導入期」か「長期」か―時間軸で整理する血液透析の合併症

第99回医師国家試験 E問題 第44問

国試問題にチャレンジ

第99回 E問題 第44問

長期血液透析患者の合併症でないのはどれか。

  1. a.不均衡症候群
  2. b.動脈硬化症
  3. c.続発性副甲状腺機能亢進症
  4. d.腎性骨異栄養症
  5. e.透析アミロイドーシス

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は血液透析に関連する合併症を「いつ起こるか」という時間軸で整理できているかを問う問題だ。問われているのは「長期」透析患者の合併症ではないもの。透析を始めたばかりの頃に起こるものと、何年も続けるうちに蓄積していくものを分けて考えるのがポイントだよ。
医学生医学生
選択肢はどれも透析の講義で聞いた名前ばかりで、全部合併症に見えてしまいます。
ドクタードクター
そう感じるのは自然だね。どれも透析の合併症であることは確かなんだ。違いは時期にある。まず不均衡症候群がどんな病態か、説明できるかな。
医学生医学生
透析中に頭痛や吐き気が出るもの、というくらいしか覚えていません。
ドクタードクター
では機序から確認しよう。腎不全で尿素などの溶質が高度に蓄積した状態で透析をすると、血液中の溶質は速やかに除去される。ところが脳組織からの移動は血液脳関門があるため遅れる。すると脳のほうが相対的に浸透圧が高くなり、水が脳へ移動して脳浮腫が起こる。その結果、透析中から終了後数時間以内に頭痛、悪心・嘔吐、血圧上昇、重症なら意識障害やけいれんが出るんだ。
医学生医学生
ということは、溶質がたまりきった状態で初めて透析をするときに起こりやすい、ということですか。
ドクタードクター
その通り。主に透析導入期の急性合併症で、長く透析を続けて体内の溶質濃度が安定している患者では起こりにくい。だから今回の正解は不均衡症候群だ。予防としては、導入期に透析時間を短く、血流量も抑えた低効率の透析を頻回に行って、段階的に溶質を下げていく。必要に応じて浸透圧を保つためにグリセオールなどを使うこともある。
医学生医学生
臨床実習で腎臓内科を回ったとき、導入初回の透析が「短時間・低血流」で組まれていて不思議に思ったのですが、そういう理由だったんですね。
ドクタードクター
まさにそれが不均衡症候群対策だよ。では残りの長期合併症を見ていこう。まず動脈硬化症。透析患者の死因の上位は何だと思う?
医学生医学生
感染症かと思っていましたが、心不全や心筋梗塞のような心血管疾患でしょうか。
ドクタードクター
そう、心血管疾患は透析患者の主要な死因なんだ。糖尿病や高血圧といった危険因子に加えて、尿毒症物質、慢性炎症、そしてカルシウム・リン代謝異常による血管石灰化が関わる。特徴的なのは、内膜の粥状硬化に加えて中膜の石灰化、いわゆるメンケベルグ型の中膜石灰化が目立つこと。血管が硬くなって心臓の負担が増すんだ。
医学生医学生
そのカルシウム・リン代謝異常が、続発性副甲状腺機能亢進症につながるんですよね。
ドクタードクター
よくつながったね。腎不全では腎でのビタミンDの活性化が落ちて腸管からのカルシウム吸収が減り、リンの排泄も低下して高リン血症になる。リン利尿因子のFGF23も上昇する。これらが副甲状腺を持続的に刺激してPTHが上がり、長期化すると副甲状腺が過形成になる。これが続発性副甲状腺機能亢進症だ。治療は活性型ビタミンD製剤、シナカルセトなどのカルシウム受容体作動薬、リン吸着薬で、内科治療に抵抗する例では副甲状腺摘出術も行われる。
医学生医学生
腎性骨異栄養症は、その結果として骨に起こる病変という理解でいいですか。
ドクタードクター
大筋はその理解でいい。腎性骨異栄養症は慢性腎不全に伴う骨代謝異常の総称で、PTH過剰による高回転の線維性骨炎のほか、骨軟化症、骨代謝回転が極端に落ちた無形成骨症、それらの混合型などがある。現在は骨だけでなく検査値異常や血管石灰化まで含めて、CKD-MBDという全身疾患として捉えるのが一般的だ。
医学生医学生
透析アミロイドーシスは、β2ミクログロブリンが沈着するものでしたよね。CBTの勉強で手根管症候群とセットで覚えました。
ドクタードクター
いい覚え方だ。β2ミクログロブリンは本来腎で処理される蛋白だけど、腎不全では蓄積し、従来の透析膜では十分に除去できない。長期間高濃度が続くとアミロイドとして骨・関節・腱に沈着する。透析歴が長いほど、一般に10年を超えると頻度が増す。手根管症候群のほか、ばね指、破壊性脊椎関節症、骨囊胞なども起こすよ。ハイフラックス膜や血液濾過透析、吸着カラムで除去を強化することが予防・治療に使われる。
医学生医学生
こうして並べると、不均衡症候群だけが「急に下げすぎる」ことによる問題で、ほかは「長年たまっていく」ことによる問題なんですね。
ドクタードクター
見事な整理だね。最後に、選択肢以外の長期合併症も押さえておこう。エリスロポエチン産生低下による腎性貧血、後天性囊胞性腎疾患とそれを母地とする腎細胞癌、感染症、低栄養、皮膚そう痒症などがある。特に後天性囊胞性腎疾患からの腎癌は、透析歴が長い患者で定期的な画像チェックが勧められる大事なポイントだ。導入期の急性合併症としては、不均衡症候群のほかに透析中の血圧低下や筋けいれんも覚えておくといい。
医学生医学生
透析室で患者さんを診るときには、透析歴が何年かをまず確認して、起こりうる合併症を考えるようにします。
ドクタードクター
それが臨床で役立つ視点だよ。同じ透析患者でも、導入直後と20年目では注意すべきことがまったく違うからね。

まとめ

血液透析の合併症は、導入期・透析中に起こる急性のものと、長期透析で蓄積・進行する慢性のものに分けて整理するのが基本です。不均衡症候群は、高度に蓄積した溶質を急速に除去したときに血液と脳の間に浸透圧差が生じて脳浮腫を来す導入期の急性合併症であり、短時間・低効率の透析を頻回に行うことで予防します。一方、動脈硬化・血管石灰化、続発性副甲状腺機能亢進症と腎性骨異栄養症(CKD-MBD)、β2ミクログロブリンによる透析アミロイドーシスは、いずれも長期透析の代表的な合併症です。これに腎性貧血や後天性囊胞性腎疾患からの腎癌も加えて押さえておきましょう。透析歴という時間軸で合併症を考える習慣は、透析患者を診る際の見落とし防止に直結します。

解答・解説

正解はaです

問われていること

血液透析に関連する合併症を「いつ起こるか」という時間軸で整理できているかを問う問題である。「長期」透析患者の合併症でないもの、すなわち長期透析とは結びつかない合併症を選ぶ。

考え方

透析に関連する合併症は大きく二つに分けられる。 (1) 透析導入期・透析中に起こる急性の合併症:不均衡症候群、透析中の血圧低下、筋けいれんなど。 (2) 長期透析で蓄積・進行する慢性の合併症:心血管疾患(動脈硬化、血管石灰化、心不全)、慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常(CKD-MBD:続発性副甲状腺機能亢進症、腎性骨異栄養症、異所性石灰化)、透析アミロイドーシス、腎性貧血、後天性囊胞性腎疾患と腎癌、感染症、低栄養など。 不均衡症候群は、高度に蓄積した尿素などの溶質を初めての透析で急速に除去したときに生じる急性の合併症であり、主に透析導入期に問題となる。長期にわたり透析を続けている患者では、体内の溶質濃度が安定しているため起こりにくい。したがって、選択肢のうち長期透析の合併症に当たらないのは不均衡症候群である。

選択肢考察

  1. ○a.  不均衡症候群

    不均衡症候群は、透析によって血液中の尿素などの溶質が急速に除去される一方、脳組織内からの除去は遅れるために、血液と脳の間に浸透圧差が生じ、水が脳内へ移動して脳浮腫を来す病態である。透析中から透析終了後数時間以内に、頭痛、悪心・嘔吐、血圧上昇、意識障害、けいれんなどを呈する。高窒素血症が高度な状態で初めて透析を受ける導入期に起こりやすく、長期透析患者の合併症ではない。予防としては、導入期に透析時間を短く、血流量を少なくして効率を抑えた透析を頻回に行い、溶質を段階的に除去する。必要に応じて浸透圧を保つためにグリセオールなどを投与する。本問は「合併症でないもの」を問うため、これが正解となる。

  2. ×b.  動脈硬化症

    長期透析患者では動脈硬化が高頻度に進行し、心血管疾患(心筋梗塞、心不全、脳卒中、末梢動脈疾患)は透析患者の主要な死因となっている。原疾患である糖尿病や、高血圧、脂質異常症といった危険因子に加えて、尿毒症物質の蓄積、酸化ストレス・慢性炎症、そしてカルシウム・リン代謝異常による血管石灰化が関与する。透析患者の血管病変の特徴は、内膜の粥状硬化に加えて、中膜に石灰化が起こるメンケベルグ型の中膜石灰化が目立つことであり、血管が硬くなって心臓の負担が増す。したがって長期透析の代表的な合併症である。

  3. ×c.  続発性副甲状腺機能亢進症

    腎不全では、(1) 腎でのビタミンDの活性化(1α水酸化)が障害され活性型ビタミンDが不足し、腸管からのカルシウム吸収が減って低カルシウム血症となる、(2) リンの排泄が低下して高リン血症となる、(3) リン利尿因子FGF23が上昇する、などの変化が起こる。これらが副甲状腺を持続的に刺激してPTH(副甲状腺ホルモン)の分泌が亢進し、長期化すると副甲状腺が過形成となる。これが続発性(二次性)副甲状腺機能亢進症であり、長期透析患者の代表的な合併症である。高度になると骨吸収の亢進(線維性骨炎)や異所性石灰化を来し、活性型ビタミンD製剤、カルシウム受容体作動薬(シナカルセトなど)、リン吸着薬による治療や、内科治療抵抗例では副甲状腺摘出術が行われる。

  4. ×d.  腎性骨異栄養症

    腎性骨異栄養症は、慢性腎不全に伴って生じる骨の代謝異常を総称した名称であり、長期透析患者の合併症である。病型としては、続発性副甲状腺機能亢進症による高回転骨(線維性骨炎)、骨の石灰化が障害される骨軟化症、骨代謝回転が極端に低下した無形成骨症、これらが混在した混合型などがある。かつてはアルミニウム含有製剤(リン吸着薬)によるアルミニウム骨症も問題となった。骨痛、骨折、骨変形などを来す。現在では、骨病変だけでなく検査値異常や血管石灰化までを含めて、慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常(CKD-MBD)という全身疾患として捉えられている。

  5. ×e.  透析アミロイドーシス

    β2ミクログロブリン(分子量約1万2千の蛋白)は通常は腎で濾過・分解されるが、腎不全では排泄されずに血中に蓄積する。従来の透析膜では十分に除去できないため、長期透析に伴って高濃度状態が持続し、これを前駆蛋白とするアミロイドが骨・関節・腱などに沈着する。これが透析アミロイドーシスであり、透析歴が長くなるほど(一般に10年以上で)頻度が増す。代表的な症状は手根管症候群(正中神経の圧迫による母指〜環指橈側のしびれ、母指球筋の萎縮)であり、そのほかばね指、破壊性脊椎関節症、骨囊胞、肩関節痛などを来す。ハイフラックス膜や血液濾過透析(HDF)、β2ミクログロブリン吸着カラムによって除去を強化することが予防・治療に用いられる。

血液透析の主な合併症の時間軸による整理

・導入期・透析中(急性):不均衡症候群、透析中の血圧低下、筋けいれん、ダイアライザーに対するアレルギー反応、不整脈、シャントトラブル ・長期透析(慢性):  心血管系:動脈硬化、血管石灰化、心不全、左室肥大、虚血性心疾患(透析患者の死因の上位)  骨ミネラル代謝:続発性副甲状腺機能亢進症、腎性骨異栄養症、異所性石灰化(CKD-MBD)  透析アミロイドーシス:手根管症候群、破壊性脊椎関節症など  血液:腎性貧血(エリスロポエチン産生低下。赤血球造血刺激因子製剤やHIF-PH阻害薬で治療)  腎:後天性囊胞性腎疾患(ACDK)と、それを母地とする腎細胞癌  その他:感染症、低栄養、皮膚そう痒症など

不均衡症候群の機序(補足)

尿素は細胞膜を比較的通過しやすいが、血液脳関門を介した脳組織からの移動には時間がかかる。透析で血中の尿素濃度だけが急速に下がると、脳組織内の浸透圧が相対的に高くなり、水が脳へ移動して脳浮腫が生じる。脳内のpH変化(奇異性アシドーシス)の関与も考えられている。

CKD-MBDの考え方

腎機能低下 → リン排泄低下・活性型ビタミンD低下・FGF23上昇 → 低カルシウム血症・高リン血症 → PTH分泌亢進(続発性副甲状腺機能亢進症)→ 骨病変(腎性骨異栄養症)と血管石灰化。管理の目標として血清リン、カルシウム、PTHの値を適正範囲に保つことが重視される。

POINT

・不均衡症候群は透析導入期に起こる急性合併症(急速な溶質除去 → 血液と脳の浸透圧差 → 脳浮腫)で、長期透析の合併症ではない。 ・長期透析の合併症:動脈硬化・血管石灰化(心血管疾患が主要死因)、続発性副甲状腺機能亢進症、腎性骨異栄養症(CKD-MBD)、透析アミロイドーシス、腎性貧血、後天性囊胞性腎疾患と腎癌。 ・透析アミロイドーシスの前駆蛋白はβ2ミクログロブリンで、代表症状は手根管症候群。 ・不均衡症候群の予防は、導入期に短時間・低効率の透析を頻回に行うこと。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。