StudyMed医師国家試験

腎の「大きさ」は時間を語る―超音波で見分ける急性腎不全と慢性腎不全

第99回医師国家試験 E問題 第43問

国試問題にチャレンジ

第99回 E問題 第43問

血清クレアチニン7.0mg/dLの患者で,急性腎不全と慢性腎不全との鑑別に有用なのはどれか。

  1. a.クレアチニンクリアランス
  2. b.パラアミノ馬尿酸〈PAH〉クリアランス
  3. c.レノグラフィ
  4. d.腹部超音波検査
  5. e.腹部造影CT

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高度に腎機能が低下している患者さんで、それが急に起きたのか、長年かけて進んだのかを見分ける検査を選ぶ問題だ。着眼点は、腎機能の「程度」を測る検査と、障害の「経過期間」を反映する検査を区別できるかどうか。そして、腎機能がかなり悪い患者さんに安全に行えるかどうかも大切な視点だよ。
医学生医学生
腎機能を調べるなら、まずクレアチニンクリアランスかなと思ったのですが、違うんでしょうか。
ドクタードクター
自然な発想だね。でも考えてみてほしい。クレアチニンクリアランスは糸球体濾過量の近似値で、腎機能がどれだけ落ちているかを示す。急性でも慢性でも同じように著しく低下するから、値を見ても区別がつかないんだ。
医学生医学生
確かに、血清クレアチニン7.0という時点で、糸球体濾過量が大きく落ちていることはもう分かっていますね。
ドクタードクター
その通り。改めて測っても鑑別のための新しい情報は得られにくい。ちなみに、クレアチニンは尿細管からも一部分泌されるので、腎機能が悪いほどクリアランスは真の糸球体濾過量を過大評価しやすい、というのも生理学で習った大事なポイントだよ。
医学生医学生
PAHクリアランスは生理学の講義で腎血漿流量の指標と習いました。これも同じ理屈ですか。
ドクタードクター
そうだね。パラアミノ馬尿酸は糸球体濾過と尿細管分泌で、腎を1回通過する間にほぼ完全に除去されるので、有効腎血漿流量を反映する。でも腎血漿流量も急性・慢性どちらでも低下するから鑑別にはならない。持続静注と正確な採尿が必要で煩雑なこともあり、今の臨床ではほとんど使われていない。
医学生医学生
レノグラフィは、放射性医薬品の取り込みと排泄を曲線で見る核医学検査でしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。分腎機能や尿路通過障害、腎血管性高血圧の評価に使う検査だ。ただ、急性でも慢性でも取り込みと排泄が落ちて、曲線は同じように平低化してしまう。だから、これも鑑別には向かない。では、何を見れば経過の長さが分かるだろう。
医学生医学生
時間の経過が形に残るもの……腎臓の大きさでしょうか。
ドクタードクター
まさにそれ。慢性腎不全では長期間にわたってネフロンが脱落し線維化が進むため、多くは両腎が萎縮し、皮質が薄くなり、実質のエコー輝度が上がる。一方、急性腎不全では形態は保たれていて、浮腫や炎症でむしろ腫大していることが多い。成人の正常な腎の長径はおよそ10〜12cmだから、それより明らかに小さければ慢性を示唆するんだ。
医学生医学生
それなら、造影CTでも大きさは分かりますよね。どうして超音波なんですか。
ドクタードクター
大事な質問だ。ヨード造影剤には腎毒性があって、すでに腎機能が高度に低下している人では造影剤腎症を起こし、さらに悪化させる危険が高い。腎の大きさを知るためだけに造影CTをする妥当性はないし、避けるべきだ。形を見たいなら、造影剤も被曝も不要でベッドサイドで繰り返しできる腹部超音波検査を選ぶ。CTを撮るとしても単純CTで十分だよ。
医学生医学生
腎臓内科の実習で、入院時にすぐ指導医の先生がエコーを当てていたのを思い出しました。水腎症がないかも見ていました。
ドクタードクター
そう、それも超音波の大きな利点だ。尿路閉塞による腎後性腎不全は、解除すれば回復が期待できるから見逃してはいけない。腎不全の初期評価として超音波は必須の検査なんだ。
医学生医学生
つまり、腎機能の程度を測る検査はどれも急性・慢性で同じように悪くなるので使えず、経過を形で反映し、しかも安全な腹部超音波検査が正解ということですね。
ドクタードクター
完璧なまとめだ。ただし例外も押さえておこう。糖尿病性腎症、アミロイドーシス、常染色体優性多発性囊胞腎などでは、慢性腎不全でも腎が萎縮せず、正常大から腫大を示すことがある。腎が大きいから急性だ、と短絡しないように。
医学生医学生
画像以外にも、慢性を疑う手がかりはありますか。
ドクタードクター
いくつかあるよ。最も確実なのは過去の検査値との比較で、以前からクレアチニンが高ければ慢性だ。ほかに、エリスロポエチン産生低下による腎性貧血、低カルシウム血症、高リン血症、PTH上昇といった骨ミネラル代謝異常も、長い経過を示唆する。また今は急性腎不全を急性腎障害、慢性腎不全を慢性腎臓病の枠組みで扱うことが多い。腎機能が悪い人では、MRIのガドリニウム造影剤も腎性全身性線維症のリスクがあるので原則避ける、という点も臨床では重要だよ。

まとめ

高度の腎機能低下を認めたとき、急性か慢性かの鑑別には、腎機能の「程度」ではなく障害の「経過期間」を反映する所見が必要です。クレアチニンクリアランス、PAHクリアランス、レノグラフィはいずれも急性・慢性ともに低下するため区別できませんが、腹部超音波検査で両腎の萎縮・皮質菲薄化・輝度上昇があれば慢性を、正常大〜腫大なら急性を示唆し、水腎症による腎後性腎不全の有無も同時に確認できます。腎機能が高度に低下した患者ではヨード造影剤による造影剤腎症のリスクが高いため、造影CTは避けるべきです。糖尿病性腎症、アミロイドーシス、多発性囊胞腎では慢性でも腎が萎縮しにくい例外があり、過去の検査値や腎性貧血、骨ミネラル代謝異常などと合わせて総合的に判断します。安全で繰り返し行える超音波を腎不全の初期評価に用いる考え方は、日常診療の基本として身につけておきたいポイントです。

解答・解説

正解はdです

問われていること

血清クレアチニン7.0 mg/dLという高度の腎機能低下がある患者について、それが急に起こったもの(急性腎不全、現在は急性腎障害:AKIと呼ぶ)なのか、長い年月をかけて進行したもの(慢性腎不全、慢性腎臓病:CKDの末期)なのかを見分ける検査を選ぶ問題である。

考え方

腎機能の「程度」を測る検査は、急性でも慢性でも同じように低値・異常を示すため、両者の区別には役立たない。区別に必要なのは「腎障害がどれだけの期間続いてきたか」を反映する情報である。 慢性腎不全では、長期間にわたりネフロンが脱落して線維化が進むため、多くの場合、腎臓は両側性に萎縮し、皮質が薄くなり、エコー輝度が上昇する。一方、急性腎不全では腎の形態は保たれ、むしろ浮腫や炎症のために腫大していることが多い。したがって、腎の大きさ・形を評価する画像検査が鑑別に役立つ。 さらに本症例は腎機能が高度に低下しているため、腎臓に負担をかけず、放射線被曝もなく、ベッドサイドで繰り返し施行できる検査が望ましい。この条件を満たすのが腹部超音波検査である。超音波では腎後性腎不全(尿路閉塞による水腎症)の有無も同時に確認でき、腎不全の初期評価として必須の検査である。 なお、画像以外にも、過去の検査値(以前から血清クレアチニンが高かったか)、腎性貧血、低カルシウム血症・高リン血症、副甲状腺ホルモン(PTH)上昇などの存在は慢性の経過を示唆する手がかりとなる。

選択肢考察

  1. ×a.  クレアチニンクリアランス

    クレアチニンクリアランス(Ccr)は、血清と24時間蓄尿中のクレアチニン濃度から求める値で、糸球体濾過量(GFR)の近似値として腎機能の程度を示す。急性・慢性いずれの腎不全でも著しく低下するため、この値だけでは両者を区別できない。また、血清クレアチニン7.0 mg/dLの時点でGFRが高度に低下していることはすでに明らかであり、あらためて測定しても鑑別のための新しい情報は得られにくい。なお、クレアチニンは尿細管からも一部分泌されるため、腎機能が低下するほどCcrは真のGFRを過大評価しやすい。

  2. ×b.  パラアミノ馬尿酸〈PAH〉クリアランス

    パラアミノ馬尿酸(PAH)は糸球体濾過と尿細管分泌によって、腎を1回通過する間にほぼ完全に血漿から除去される物質であり、そのクリアランスは有効腎血漿流量(ERPF)の指標となる。しかし、腎血漿流量は急性腎不全でも慢性腎不全でも低下するため、鑑別には役立たない。また測定にはPAHの持続静注と正確な採尿が必要で手技が煩雑であり、現在の臨床ではほとんど用いられない。

  3. ×c.  レノグラフィ

    レノグラフィ(レノグラム)は、腎に取り込まれて尿中へ排泄される放射性医薬品(99mTc-MAG3など)を静注し、腎への集積と排泄の経時的変化を曲線として記録する核医学検査である。左右の腎機能の分腎評価や、尿路通過障害、腎血管性高血圧の評価などに用いられる。しかし、急性・慢性のどちらの腎不全でも放射性医薬品の取り込みと排泄が低下し、曲線は同じように平低化するため、両者の鑑別には有用でない。

  4. ○d.  腹部超音波検査

    超音波検査では、腎の長径、皮質の厚さ、実質のエコー輝度を非侵襲的に評価できる。成人の正常な腎の長径はおよそ10〜12 cmであり、慢性腎不全では長期にわたる線維化とネフロン脱落を反映して両腎が萎縮し(長径の短縮)、皮質が菲薄化して実質のエコー輝度が上昇することが多い。これに対して急性腎不全では腎の大きさは正常か、浮腫により腫大していることが多い。このように腎サイズの違いが病気の経過期間を反映するため、鑑別に有用である。さらに造影剤も放射線も使わないため腎機能をさらに悪化させる心配がなく、水腎症(腎後性腎不全)の有無も同時に確認できる。ただし、糖尿病性腎症、アミロイドーシス、常染色体優性多発性囊胞腎などでは、慢性腎不全であっても腎が萎縮せず、正常大〜腫大を示すことがある点は例外として押さえておく。

  5. ×e.  腹部造影CT

    CTでも腎の大きさや形態は評価できるが、ヨード造影剤は腎毒性をもち、腎機能がすでに高度に低下している患者では造影剤腎症(造影剤投与後の急性腎障害)を起こして腎機能をさらに悪化させる危険が高い。血清クレアチニン7.0 mg/dLの患者に対して、腎の大きさを知る目的で造影CTを行う妥当性はなく、避けるべき検査である。腎の形態を見たいだけなら、まず造影剤も被曝も不要な超音波検査を選ぶべきであり、CTを行う場合でも単純CTで十分である。

急性腎不全と慢性腎不全の鑑別の手がかり

・経過:過去の検査値との比較が最も確実。数日〜数週での上昇ならAKI、数か月以上前から高値ならCKD。 ・腎の大きさ:AKIでは正常〜腫大、CKDでは両側萎縮・皮質菲薄化・輝度上昇が多い。 ・貧血:CKDではエリスロポエチン産生低下による腎性貧血(正球性正色素性)を伴いやすい。 ・骨ミネラル代謝:CKDでは低カルシウム血症、高リン血症、二次性副甲状腺機能亢進症(PTH上昇)を伴いやすい。 ・症状:AKIでは急な尿量減少や体液過剰、CKDでは長期にわたる夜間多尿やそう痒などがみられることがある。

CKDでも腎が萎縮しにくい疾患

糖尿病性腎症、アミロイドーシス、常染色体優性多発性囊胞腎(ADPKD:腎は腫大)、多発性骨髄腫による腎障害、HIV関連腎症など。

用語について

現在では「急性腎不全」は急性腎障害(acute kidney injury:AKI)、「慢性腎不全」は慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)の概念のもとで扱われることが多い。AKIはKDIGO基準などにより、血清クレアチニンの急速な上昇(48時間以内に0.3 mg/dL以上、または7日以内に基礎値の1.5倍以上)や尿量減少(0.5 mL/kg/時未満が6時間以上)で定義される。

腎機能障害時の造影剤使用

ヨード造影剤は腎機能低下例で造影剤腎症のリスクを高める。やむを得ず使用する場合は、必要最小量とし、生理食塩液などによる補液で予防を図る。なお、ガドリニウム造影剤(MRI)も高度腎機能低下例では腎性全身性線維症(NSF)のリスクがあるため原則避ける。

POINT

・急性か慢性かの鑑別には、腎機能の「程度」ではなく「経過期間」を反映する所見を用いる。 ・腹部超音波検査で両腎の萎縮・皮質菲薄化・輝度上昇があれば慢性腎不全を示唆し、腎の大きさが正常〜腫大なら急性腎不全を考える。 ・Ccr、PAHクリアランス、レノグラフィはいずれも急性・慢性ともに低下するため鑑別できない。 ・高度腎機能低下例ではヨード造影剤の使用を避ける。 ・糖尿病性腎症、アミロイドーシス、多発性囊胞腎では慢性でも腎が萎縮しにくい。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。