キーワードのすり替えを見抜け―半月体・ステロイド抵抗性から整理する腎疾患の「一言特徴」
第99回医師国家試験 E問題 第41問
国試問題にチャレンジ
組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.Alport症候群 ―― 関節炎合併
- b.急速進行性糸球体腎炎 ―― 半月体形成
- c.巣状分節性糸球体硬化症 ―― ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群
- d.紫斑病性腎炎 ―― 血小板減少
- e.溶血性尿毒症症候群 ―― 異型リンパ球増加
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
急速進行性糸球体腎炎は数週〜数か月で腎機能が急速に低下する症候群で、その病理学的な裏付けが糸球体の半月体形成です。巣状分節性糸球体硬化症は足細胞障害を本態とし、ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群の代表で、ステロイドが効きやすい微小変化型と対比して覚えます。Alport症候群はIV型コラーゲン異常による遺伝性腎炎で感音難聴・眼病変を伴い、紫斑病性腎炎(IgA血管炎)は血管炎による紫斑のため血小板数は正常、溶血性尿毒症症候群は破砕赤血球を伴う溶血性貧血・血小板減少・急性腎障害が特徴で、異型リンパ球はウイルス感染症の所見です。組合せ問題では別疾患の特徴がすり替えられていることが多いため、各キーワードが本来どの疾患に属するかを機序とともに整理しておくことが、試験だけでなく臨床での鑑別にも役立ちます。
解答・解説
正解はb, cです
問われていること
代表的な腎疾患と、その疾患を特徴づけるキーワード(病理像・合併症・検査所見・治療反応性)の組合せを問う問題である。それぞれの疾患について「どんな機序で起こり、何が特徴か」を一言で言えるようにしておけば解ける。
考え方
・急速進行性糸球体腎炎(RPGN)は、数週〜数か月で腎機能が急速に悪化する臨床症候群であり、その組織学的な裏付けが糸球体の半月体形成である。 ・巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)は、一次性ネフローゼ症候群のなかでステロイドが効きにくい代表疾患である。 ・一方、Alport症候群、紫斑病性腎炎、溶血性尿毒症症候群には、それぞれ別の疾患で見られるキーワードが組み合わされている。Alport症候群は「難聴・眼病変」、紫斑病性腎炎(IgA血管炎に伴う腎炎)は「血小板数正常の紫斑」、溶血性尿毒症症候群は「血小板減少と破砕赤血球」が正しい連想であり、関節炎・血小板減少・異型リンパ球増加はそれぞれ誤った組合せである。 このように、ひっかけの選択肢は「別の疾患の特徴」をすり替えたものが多いので、各キーワードが本来どの疾患に属するかを意識するとよい。
選択肢考察
- ×a. Alport症候群 ―― 関節炎合併
Alport症候群は糸球体基底膜の主成分であるIV型コラーゲン(α3・α4・α5鎖)の遺伝子異常による遺伝性腎炎である。約8割はα5鎖をコードするCOL4A5遺伝子の異常によるX連鎖型で、男性で重症化しやすい。血尿で始まり、蛋白尿を伴って進行し、若年で末期腎不全に至りうる。IV型コラーゲンは内耳や眼にも存在するため、腎外症状として感音難聴と眼病変(前円錐水晶体、網膜の斑点状病変など)を合併するのが特徴である。関節炎は本症の特徴ではない。関節症状を伴う腎疾患を連想するなら、IgA血管炎(関節痛)や全身性エリテマトーデス(関節炎)などが該当する。
- ○b. 急速進行性糸球体腎炎 ―― 半月体形成
急速進行性糸球体腎炎(rapidly progressive glomerulonephritis:RPGN)は、血尿・蛋白尿などの腎炎所見を伴い、数週〜数か月の経過で腎機能が急速に低下する症候群である。糸球体係蹄壁が強い炎症で破綻すると、ボウマン嚢腔内にフィブリンや炎症細胞が漏れ出し、壁側上皮細胞やマクロファージが増殖して、糸球体を三日月状に取り囲む「半月体」が形成される。多数の糸球体に半月体を認める半月体形成性糸球体腎炎がRPGNの典型的な病理像である。蛍光抗体法により、線状沈着の抗糸球体基底膜(GBM)抗体型、顆粒状沈着の免疫複合体型、沈着がほとんどないpauci-immune型(多くはANCA関連)に分類され、日本ではANCA関連(特にMPO-ANCA)が最も多い。
- ○c. 巣状分節性糸球体硬化症 ―― ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群
巣状分節性糸球体硬化症(focal segmental glomerulosclerosis:FSGS)は、一部の糸球体(巣状)の、その中の一部分(分節性)に硬化病変を認める疾患であり、足細胞(ポドサイト)の障害が本態と考えられている。高度の蛋白尿でネフローゼ症候群を呈し、ステロイド治療に反応しない(ステロイド抵抗性)例が多いのが特徴である。ステロイド抵抗性の場合はシクロスポリンなどの免疫抑制薬やLDLアフェレシスが検討され、治療抵抗例は末期腎不全へ進行しやすい。また腎移植後に再発しやすいことも知られる。ステロイドがよく効く微小変化型ネフローゼ症候群との対比で覚えるとよい(ただしFSGSでも一部はステロイドに反応する)。
- ×d. 紫斑病性腎炎 ―― 血小板減少
紫斑病性腎炎は、IgA血管炎(旧称:Henoch-Schönlein紫斑病、アレルギー性紫斑病)に伴う腎炎である。IgAを含む免疫複合体が小血管壁に沈着して血管炎を起こし、血管壁が障害されることで紫斑が生じる。つまり出血の原因は血管側にあり、血小板数や凝固検査は正常である。皮膚の触知可能な紫斑(下肢伸側に多い)、関節痛、腹痛(消化管出血を伴うことも)、腎炎が主な症状であり、腎組織ではIgA腎症と同様にメサンギウム領域へのIgA沈着を認める。血小板減少による紫斑を来す疾患としては、免疫性血小板減少症(ITP)や血栓性微小血管症などが挙げられる。
- ×e. 溶血性尿毒症症候群 ―― 異型リンパ球増加
溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome:HUS)は、微小血管症性溶血性貧血(破砕赤血球を伴う溶血性貧血)、血小板減少、急性腎障害を三主徴とする血栓性微小血管症(TMA)である。典型例は腸管出血性大腸菌(O157など)が産生する志賀毒素が血管内皮を障害して起こり、血便を伴う下痢の数日〜1週間後に発症することが多い。末梢血では破砕赤血球や血小板減少がみられ、LDH上昇・ハプトグロビン低下などの溶血所見を伴う。異型リンパ球の増加はEBウイルスによる伝染性単核球症やサイトメガロウイルス感染症など、主にウイルス感染症で認められる所見であり、HUSの特徴ではない。
ネフローゼ症候群を来す主な一次性糸球体疾患とステロイド反応性
・微小変化型ネフローゼ症候群:小児に最多、成人でも若年者に多い。急激に発症し、ステロイドによく反応するが再発しやすい。光学顕微鏡でほぼ正常、電子顕微鏡で足突起の消失。 ・巣状分節性糸球体硬化症:ステロイド抵抗性が多く、腎不全に進行しやすい。 ・膜性腎症:中高年に多い成人ネフローゼの代表。悪性腫瘍・薬剤・B型肝炎などによる二次性も多い。上皮下の免疫複合体沈着(スパイク形成)。 ・膜性増殖性糸球体腎炎:低補体血症を伴いやすい。
RPGNの蛍光抗体法による分類
・抗GBM抗体型:IgGの線状沈着。肺胞出血を伴えばGoodpasture症候群(抗GBM病)。 ・免疫複合体型:顆粒状沈着。ループス腎炎、IgA腎症、紫斑病性腎炎、溶連菌感染後糸球体腎炎など。 ・pauci-immune型:沈着に乏しい。顕微鏡的多発血管炎(MPO-ANCA)、多発血管炎性肉芽腫症(PR3-ANCA)など。
血栓性微小血管症(TMA)の整理
・典型的HUS:志賀毒素産生性大腸菌による。小児に多い。 ・非典型HUS(aHUS):補体制御因子の異常による。 ・血栓性血小板減少性紫斑病(TTP):ADAMTS13活性の著減による。精神神経症状や発熱を伴いやすい。 いずれも破砕赤血球・血小板減少・臓器障害を来す。
Alport症候群の特徴
遺伝形式はX連鎖型が大半で、常染色体劣性・優性型もある。血尿、進行性腎障害、感音難聴、眼病変(前円錐水晶体など)。電子顕微鏡で糸球体基底膜の菲薄化・肥厚・層状化(網目状)がみられる。
POINT
・RPGN=数週〜数か月での急速な腎機能低下、病理は半月体形成。 ・FSGS=ステロイド抵抗性ネフローゼの代表。対照的に微小変化型はステロイド反応性良好。 ・Alport症候群=IV型コラーゲン異常による遺伝性腎炎+感音難聴+眼病変(関節炎ではない)。 ・紫斑病性腎炎(IgA血管炎)=血管炎による紫斑で、血小板数は正常。 ・HUS=破砕赤血球を伴う溶血性貧血+血小板減少+急性腎障害。異型リンパ球は伝染性単核球症などウイルス感染の所見。
