その血尿、どこから来た?―変形赤血球が教える「糸球体のSOS」
第110回医師国家試験 E問題 第13問
国試問題にチャレンジ
疾患と尿所見の組合せで正しいのはどれか。
- a.Alport症候群 ―― 尿潜血反応陰性
- b.微小変化群 ―― 尿潜血反応陽性
- c.糖尿病腎症 ―― 肉眼的血尿
- d.IgA腎症 ―― 尿中変形赤血球
- e.膀胱炎 ―― 赤血球円柱
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
尿所見の解釈では、「血尿主体か蛋白尿主体か」と「血尿が糸球体由来か下部尿路由来か」の2軸で整理することが重要です。糸球体由来の赤血球は基底膜や尿細管を通過する間に変形するため、IgA腎症などの糸球体腎炎では変形赤血球がみられ、尿細管内で形成される赤血球円柱を伴うこともあります。Alport症候群は持続的な血尿で始まる遺伝性腎炎で潜血は陽性、微小変化群や糖尿病腎症は蛋白尿主体で血尿に乏しく、膀胱炎は膿尿・細菌尿が主体で赤血球円柱は出現しません。潜血陽性でも沈渣に赤血球がなければミオグロビン尿やヘモグロビン尿を、中高年の無症候性肉眼的血尿では尿路上皮癌を考えます。尿沈渣を正しく読む力は、腎臓内科と泌尿器科のどちらで精査すべきかを見極める臨床判断の基礎になります。
解答・解説
正解はdです
問われていること
腎・尿路疾患ごとに、尿検査(試験紙による尿潜血反応、尿沈渣の鏡検)でどのような所見が出るかを問う問題である。
考え方の軸
尿所見を読むうえで大切なのは、次の2点を区別することである。 1. 血尿があるかないか:疾患ごとに「血尿が主体の疾患(腎炎型)」と「蛋白尿が主体で血尿に乏しい疾患(ネフローゼ型・代謝性)」がある。Alport症候群やIgA腎症は前者、微小変化群や糖尿病腎症は後者の代表である。 2. 血尿の由来が糸球体か、それより下流の尿路か:糸球体由来の赤血球は、障害された糸球体基底膜をくぐり抜け、浸透圧や pH が大きく変化する尿細管内を通過する間に形が崩れるため、大小不同やドーナツ状・こぶ状などの変形赤血球(dysmorphic RBC)となる。また尿細管内で赤血球が Tamm-Horsfall 蛋白(尿細管から分泌される糖蛋白で、円柱の基質となる)に取り込まれて固まると赤血球円柱ができる。円柱は尿細管内でしか形成されないので、赤血球円柱は腎実質(主に糸球体)からの出血を意味する。一方、腎盂・尿管・膀胱・尿道などからの出血では、赤血球は形のそろった均一な形態を示し、円柱は伴わない。 この2点に照らして各組合せを検討すると、糸球体腎炎であるIgA腎症と変形赤血球の組合せが正しいと分かる。
選択肢考察
- ×a. Alport症候群 ―― 尿潜血反応陰性
Alport症候群はIV型コラーゲン遺伝子(多くはX連鎖性のCOL4A5)の異常により糸球体基底膜が構造的に脆弱となる遺伝性腎炎である。幼小児期からの持続的な血尿が最も早期かつほぼ必発の所見であり、尿潜血反応は陽性となる。進行とともに蛋白尿が加わり、腎不全へと進行する。感音難聴や眼病変(円錐水晶体など)を合併する点も特徴である。
- ×b. 微小変化群 ―― 尿潜血反応陽性
微小変化群(微小変化型ネフローゼ症候群)は小児ネフローゼ症候群の大部分を占め、成人でも若年者に多い。急激に発症する高度の蛋白尿(選択性の高い蛋白尿)が特徴で、糸球体の炎症や基底膜の破綻を伴わないため血尿は通常みられず、尿潜血反応は原則陰性である(ごく一部で軽度の顕微鏡的血尿を伴うことはある)。血尿が目立つ場合は他の糸球体疾患を考える。
- ×c. 糖尿病腎症 ―― 肉眼的血尿
糖尿病腎症は微量アルブミン尿(早期腎症期、第2期)から始まり、持続性蛋白尿(顕性腎症期、第3期)、腎不全期へと進行する、蛋白尿が主体の疾患である。顕性腎症期以降に軽度の顕微鏡的血尿をみることはあるが、肉眼的血尿は通常みられない。糖尿病患者に肉眼的血尿や明らかな糸球体性血尿がある場合は、IgA腎症などの他の糸球体疾患の合併や、尿路結石・尿路上皮癌などの泌尿器疾患を疑って精査する。
- ○d. IgA腎症 ―― 尿中変形赤血球
IgA腎症は糸球体メサンギウム領域にIgAが沈着する慢性糸球体腎炎で、日本で最も頻度の高い原発性糸球体腎炎である。健診で偶然見つかる無症候性の顕微鏡的血尿(±蛋白尿)を契機に診断されることが多く、上気道感染の直後に肉眼的血尿を来すこともある。血尿は糸球体由来であるため、尿沈渣では大小不同や形の崩れた変形赤血球が観察され、赤血球円柱を伴うこともある。したがってこの組合せは正しい。
- ×e. 膀胱炎 ―― 赤血球円柱
円柱は尿細管の中で形成されるため、赤血球円柱は腎実質(主に糸球体)からの出血を示す所見であり、少数でも活動性の糸球体腎炎を疑う根拠となる。膀胱炎は下部尿路の感染症で、尿細管とは無関係なので赤血球円柱は出現しない。膀胱炎では白血球が多数みられる膿尿、細菌尿、ときに血膿尿(形の均一な赤血球を伴う)が典型である。
血尿の定義と検出
・顕微鏡的血尿:尿沈渣の鏡検で強拡大1視野あたり赤血球5個以上をいう。試験紙法の尿潜血反応では(1+)以上が目安となる。 ・尿潜血反応は非常に鋭敏な検査で、ヘモグロビンのペルオキシダーゼ様活性を利用する。そのためミオグロビン尿やヘモグロビン尿でも陽性となり、逆に沈渣に赤血球がみられないこともある(潜血陽性・沈渣赤血球陰性なら横紋筋融解症や溶血を考える)。またビタミンC(アスコルビン酸)の大量摂取では偽陰性となりうる。 ・肉眼的血尿:尿1Lに血液約1mLが混入すると肉眼で赤色と分かる程度になる。
糸球体性血尿と非糸球体性血尿
・糸球体性:変形赤血球(大小不同、ドーナツ状、コブ状など)、赤血球円柱、しばしば蛋白尿を伴う。代表はIgA腎症、溶連菌感染後急性糸球体腎炎、急速進行性糸球体腎炎、ループス腎炎、Alport症候群、菲薄基底膜病。 ・非糸球体性:形が均一な赤血球、円柱なし。代表は尿路結石、膀胱炎などの尿路感染症、腎癌・尿路上皮癌、前立腺疾患。特に中高年の無症候性肉眼的血尿では尿路上皮癌(膀胱癌など)を常に念頭に置く。
主な疾患の尿所見の整理
・血尿が前面に出る:IgA腎症、Alport症候群、急性糸球体腎炎、急速進行性糸球体腎炎。 ・蛋白尿が主体で血尿に乏しい:微小変化型ネフローゼ症候群、膜性腎症(血尿は軽度)、糖尿病腎症、アミロイドーシス。 ・膿尿・細菌尿:膀胱炎、腎盂腎炎(腎盂腎炎では白血球円柱がみられることがある)。
円柱の意味
円柱は尿細管腔でTamm-Horsfall蛋白が凝固してできるため、腎実質の情報を反映する。赤血球円柱は糸球体腎炎、白血球円柱は腎盂腎炎や間質性腎炎、脂肪円柱はネフローゼ症候群、ろう様円柱は高度の腎障害を示唆する。硝子円柱は健常者にも少数みられる。
POINT
・変形赤血球・赤血球円柱 → 糸球体由来の血尿(IgA腎症などの糸球体腎炎)。 ・均一な赤血球で円柱なし → 腎盂より下流の尿路からの出血(結石、膀胱炎、尿路上皮癌など)。 ・Alport症候群は持続的な血尿で始まる遺伝性腎炎(尿潜血陽性)。難聴・眼病変を合併。 ・微小変化群は高度蛋白尿が主体で、血尿は原則みられない。 ・糖尿病腎症は蛋白尿主体。肉眼的血尿があれば他疾患の合併を疑う。 ・膀胱炎では膿尿・細菌尿が主体で、赤血球円柱は出ない。
