StudyMed医師国家試験

産業医は「選ぶ人」ではなく「守る人」―法令が定める職務の範囲

第110回医師国家試験 E問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第110回 E問題 第14問

産業医の職務として法令に規定されていないのはどれか。

  1. a.衛生教育
  2. b.作業の管理
  3. c.労働者の健康管理
  4. d.作業環境の維持管理
  5. e.採用を判断するための健康診断

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、産業医の職務として法令に定められていないものを選ぶ問題だ。カギは「産業医は誰の健康を守るために置かれているのか」という視点。ここを押さえれば迷わないよ。
医学生医学生
産業医は労働安全衛生法で決められているんですよね。公衆衛生の講義で、常時50人以上の事業場で選任義務があると習いました。
ドクタードクター
その通り。そして具体的な職務は、労働安全衛生規則の第14条第1項に列挙されている。全部を丸暗記するより、まず「労働衛生の3管理」で整理するとわかりやすい。3管理とは何だったかな。
医学生医学生
作業環境管理、作業管理、健康管理の3つです。
ドクタードクター
正解。作業環境管理は、職場の有害物質の濃度や騒音、温熱条件、照明などを測って評価し、局所排気装置の設置などで環境を良くすること。作業管理は、作業時間や姿勢、作業方法、保護具の使い方を適正にして、作業そのものの負担や有害因子への曝露を減らすこと。健康管理は、健康診断とその事後措置などで労働者の健康状態を把握し対応することだ。
医学生医学生
選択肢の作業環境の維持管理、作業の管理、労働者の健康管理は、ちょうどその3管理にあたりますね。どれも法令に書かれている職務ということですか。
ドクタードクター
そう、いずれも規則に明記された産業医の職務だ。衛生教育はどうだろう。
医学生医学生
教育は医師の仕事というより、会社の安全担当の仕事のような気もしますが…。
ドクタードクター
そう思いがちだけど、「衛生教育に関すること」も規則に明記されている。有害物質の取扱い方や保護具の正しい使い方、健康障害の予防などを労働者に教えるのは産業医の大切な役割なんだ。3管理に労働衛生教育と、全体を推進する総括管理を加えて「5管理」と呼ぶこともあるよ。
医学生医学生
そうすると、残るのは採用を判断するための健康診断ですね。でも、会社に入るときって健康診断を受けますよね。あれは産業医の仕事ではないんですか。
ドクタードクター
いい疑問だ。ここが本問の核心。事業者には雇入時の健康診断が義務づけられているけれど、その目的は、採用が決まった労働者を適正に配置し、入職後の健康管理の基礎資料を得ることなんだ。応募者をふるい落とすための検査ではない。
医学生医学生
なるほど、「雇い入れるとき」の健診と「採るか採らないかを決める」健診は別物なんですね。
ドクタードクター
そういうこと。産業医の職務は、すでに雇用されている労働者の健康の保持・増進が目的だから、採否を判断するための健康診断は法令上の職務に含まれない。さらに、採用選考で職務に関係のない健康情報を集めることは、就職差別につながりうるとして行政からも適切でないとされているんだ。
医学生医学生
産業医は会社のためにふるい分けをする人ではなく、働く人を守る立場の医師、ということですね。
ドクタードクター
その理解で完璧だ。発展知識も整理しておこう。法定職務には、健康診断とその結果に基づく措置のほか、長時間労働者への面接指導、ストレスチェックと高ストレス者への面接指導、健康教育・健康相談、健康障害の原因調査と再発防止なども含まれる。
医学生医学生
ストレスチェックも産業医が関わるんですね。社会医学実習で企業を見学したとき、産業医の先生が面談をされていたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそれだね。選任の基準も確認しよう。常時1,000人以上の事業場、または一定の有害業務に常時500人以上が従事する事業場では、専属の産業医が必要になる。また産業医は原則として毎月1回、条件を満たせば2か月に1回、作業場を巡視し、健康障害のおそれがあれば直ちに必要な措置を講じる。
医学生医学生
産業医が会社に意見を言っても、聞いてもらえないことはないんでしょうか。
ドクタードクター
産業医には、労働者の健康確保のために必要と認めるとき、事業者に勧告する権限があって、事業者はそれを尊重しなければならないと定められている。だからこそ、中立的な立場で、労働者の健康を第一に考えることが求められるんだ。

まとめ

産業医は労働安全衛生法に基づき事業者が選任する医師で、その職務は労働安全衛生規則第14条第1項に列挙されています。中心となるのは作業環境管理・作業管理・健康管理の「労働衛生の3管理」で、これに衛生教育、健康診断や長時間労働者・高ストレス者への面接指導とその事後措置、健康障害の原因調査と再発防止などが加わります。これらはすべて雇用された労働者の健康の保持・増進が目的であり、応募者の採否を判断するための健康診断は法令上の職務ではありません。雇入時の健康診断も、採用決定後の適正配置と健康管理のために行うもので、選考目的での健康情報の収集は就職差別につながりうるとされています。常時50人以上で産業医の選任義務、1,000人以上(有害業務は500人以上)で専属産業医という基準とあわせ、「働く人を守る医師」という産業医の立ち位置を理解しておくことが大切です。

解答・解説

正解はeです

テーマ

産業医の職務の範囲を問う問題である。産業医は、労働安全衛生法に基づき事業者が選任する医師であり、労働者の健康を守る立場から専門的助言・指導を行う。その具体的な職務内容は労働安全衛生規則(安衛則)第14条第1項に列挙されている。

正解を導く考え方

産業医の職務は、いわゆる労働衛生の3管理(作業環境管理・作業管理・健康管理)に、労働衛生教育などを加えたものと整理できる。いずれも「すでに雇用されている労働者」の健康を保持・増進するための業務である。 これに対し「採用するかどうかを判断するための健康診断」は、雇用前の応募者を選別する目的で行うものであり、法令に定められた産業医の職務には含まれない。法令上の雇入時の健康診断も、採用が決まった労働者に対して、適正な配置や入職後の健康管理の基礎資料を得るために行うものであって、採否の判断に使うためのものではない。この区別が本問の要である。

選択肢考察

  1. ×a.  衛生教育

    安衛則第14条第1項に「衛生教育に関すること」が明記されており、産業医の法定職務である。有害物質の取扱いや保護具の使用方法、健康障害の予防などについて労働者に教育を行うことが該当する。

  2. ×b.  作業の管理

    「作業の管理に関すること」は産業医の法定職務である。作業管理とは、作業時間・作業姿勢・作業方法・保護具の使用などを適切にし、作業そのものが労働者の健康に与える負担や有害因子への曝露を減らす取り組みで、労働衛生の3管理の一つにあたる。

  3. ×c.  労働者の健康管理

    健康診断の実施とその結果に基づく就業上の措置、長時間労働者などへの面接指導、ストレスチェックとその後の面接指導、その他の労働者の健康管理は、いずれも産業医の法定職務である。健康管理は労働衛生の3管理の一つである。

  4. ×d.  作業環境の維持管理

    「作業環境の維持管理に関すること」は産業医の法定職務である。作業環境管理とは、職場の有害物質の濃度、騒音、温熱条件、照明などを測定・評価し、局所排気装置の設置などの工学的対策で環境を良好に保つことをいい、労働衛生の3管理の一つである。職場巡視を通じて環境を確認することも産業医の重要な役割である。

  5. ○e.  採用を判断するための健康診断

    応募者の採否を決めるための健康診断は、産業医の職務として法令には規定されていない。産業医の職務はあくまで雇用された労働者の健康の保持・増進を目的とする。安衛則で事業者に義務づけられている雇入時の健康診断は、雇い入れる労働者の適正配置や入職後の健康管理に役立てるためのもので、採否の判断を目的としたものではない。むしろ採用選考において職務に関係のない健康情報を収集することは、就職差別につながりうるとして行政から適切でないとされている。

産業医の職務(労働安全衛生規則第14条第1項の要旨)

1. 健康診断の実施と、その結果に基づく労働者の健康保持のための措置 2. 長時間労働者などに対する面接指導の実施と、その結果に基づく措置 3. ストレスチェック(心理的な負担の程度を把握するための検査)の実施、高ストレス者への面接指導の実施と、その結果に基づく措置 4. 作業環境の維持管理 5. 作業の管理 6. 上記のほか、労働者の健康管理 7. 健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置 8. 衛生教育 9. 労働者の健康障害の原因の調査と再発防止のための措置

産業医の選任

・常時50人以上の労働者を使用する事業場では、事業者は産業医を選任しなければならない。 ・常時1,000人以上の事業場、または一定の有害業務に常時500人以上が従事する事業場では、その事業場に専属の産業医を置く必要がある。 ・産業医は少なくとも毎月1回(事業者から所定の情報提供を受け、事業者の同意がある場合は2か月に1回)作業場を巡視し、健康障害のおそれがあれば直ちに必要な措置を講じる。 ・産業医は、労働者の健康確保のため必要と認めるときは事業者に勧告を行うことができ、事業者はこれを尊重しなければならない。

労働衛生の3管理

作業環境管理(職場環境の有害因子を除去・低減)、作業管理(作業方法・時間・姿勢・保護具の適正化)、健康管理(健康診断や事後措置による労働者の健康状態の把握と対応)。これに労働衛生教育と、全体を推進する総括管理を加えて「5管理」とも呼ぶ。

雇入時の健康診断

事業者は、常時使用する労働者を雇い入れる際に、既往歴・業務歴の調査、自覚症状・他覚症状の有無の検査、身長・体重・腹囲・視力・聴力、胸部X線、血圧、貧血検査、肝機能、血中脂質、血糖、尿検査、心電図などからなる健康診断を行わなければならない。目的は適正配置と入職後の健康管理である。

POINT

・産業医の職務は安衛則第14条に列挙:健康診断・面接指導・ストレスチェックとその事後措置、作業環境の維持管理、作業の管理、健康管理、健康教育・健康相談、衛生教育、健康障害の原因調査と再発防止。 ・労働衛生の3管理=作業環境管理・作業管理・健康管理。 ・採否を判断するための健康診断は産業医の職務ではない。雇入時健診は採用決定後の適正配置・健康管理のために行う。 ・常時50人以上で産業医選任義務、1,000人以上(有害業務は500人以上)で専属産業医。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。