マラソン翌日の「血尿」、でも赤血球がいない―潜血と沈渣のズレが示す横紋筋融解症
第117回医師国家試験 B問題 第27問
国試問題にチャレンジ
35歳の男性。血尿を主訴に来院した。昨日初めてフルマラソンを完走し,その3時間後から尿の色が赤黒くなり持続している。下肢の筋肉痛があるが,その他の症状はない。既往歴に特記すべきことはない。身長170cm,体重68kg。脈拍72/分,整。血圧132/60mmHg。胸腹部に異常を認めない。両下肢全体に圧痛を認める。尿所見:蛋白(-),ケトン体(-),潜血3+,沈渣に赤血球,白血球,円柱を認めない。血液検査の結果はまだ報告されていない。 最も考えられる疾患はどれか。
- a.膀胱炎
- b.IgA腎症
- c.尿路結石
- d.横紋筋融解症
- e.多発性嚢胞腎
対話形式の解説
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ドクターまとめ
尿試験紙の潜血反応はヘムのペルオキシダーゼ様活性を利用するため、赤血球だけでなくヘモグロビンやミオグロビンにも陽性を示し、潜血強陽性なのに沈渣で赤血球がない場合はヘモグロビン尿かミオグロビン尿を考えます。激しい運動後の筋肉痛・圧痛と赤褐色尿がそろえば横紋筋融解症によるミオグロビン尿が最も考えられ、血清CKの著明上昇で確認します。膀胱炎、IgA腎症、尿路結石、多発性嚢胞腎などの真の血尿では沈渣に赤血球を認める点が鑑別の決め手です。横紋筋融解症では急性腎障害と高カリウム血症が重要な合併症であり、十分な輸液で尿量を保つことが治療の基本です。「血尿」の訴えを沈渣で確かめる習慣は、着色尿の鑑別全般に通じる基本的な臨床推論です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・35歳男性。既往歴に特記事項はない。 ・前日に初めてフルマラソンを完走し、その約3時間後から赤黒い(赤褐色〜コーラ色の)尿が続いている。慣れない長時間の激しい運動が発症の契機と考えられる。 ・下肢の筋肉痛があり、両下肢全体に圧痛を認める。骨格筋の広範な障害を示唆する。 ・バイタルサインはおおむね正常で、胸腹部に異常はない。側腹部痛や排尿時痛などの泌尿器症状もない。 ・尿検査:試験紙法の潜血は3+と強陽性だが、尿沈渣に赤血球を認めない。蛋白・白血球・円柱も陰性である。
診断へのプロセス
患者は「血尿」を訴えて来院しているが、まず本当に尿中に赤血球が出ている(真の血尿)のかを確認することが重要である。尿試験紙の潜血反応は、ヘムのペルオキシダーゼ様活性を利用した検査であり、赤血球だけでなく遊離ヘモグロビンやミオグロビンにも陽性となる。したがって「潜血強陽性なのに沈渣で赤血球がない」という乖離がある場合は、赤血球そのものではなく、ヘモグロビン尿(溶血による)かミオグロビン尿(筋崩壊による)を考える。 膀胱炎、IgA腎症、尿路結石、多発性嚢胞腎はいずれも尿路のどこかから出血して赤血球が尿中に混じる病態であり、沈渣で赤血球が確認されるはずである。よって沈渣所見からこれらはまとめて否定的となる。 残る鑑別はヘモグロビン尿とミオグロビン尿である。長距離走では足底への反復衝撃による血管内溶血(行軍ヘモグロビン尿症)がヘモグロビン尿の原因となりうるが、本例では下肢全体の筋肉痛・圧痛という筋障害を示す所見が明らかであり、激しい運動で骨格筋が壊れ、筋細胞内のミオグロビンが血中から尿中へ漏出した横紋筋融解症が最も考えられる。確定には血清CK(クレアチンキナーゼ)の著明な上昇を確認する。両者の区別には血清の色も参考になり、ミオグロビンは分子量が小さく速やかに腎から排泄されるため血清は着色しにくいのに対し、ヘモグロビンはハプトグロビンと結合して血中にとどまるため溶血では血清が赤みを帯びる。
選択肢考察
- ×a. 膀胱炎
膀胱炎では排尿時痛、頻尿、残尿感などの膀胱刺激症状がみられ、尿沈渣で白血球(膿尿)や細菌、しばしば赤血球を認める。本例は排尿症状がなく、沈渣に白血球も赤血球もないため考えにくい。また運動後の筋肉痛・下肢の圧痛も説明できない。
- ×b. IgA腎症
IgA腎症は上気道感染などを契機に肉眼的血尿を呈することがあるが、糸球体性の血尿であるため沈渣で赤血球(変形赤血球)や赤血球円柱を認め、蛋白尿を伴うことが多い。本例は沈渣で赤血球も円柱もなく、蛋白尿も陰性であり合致しない。
- ×c. 尿路結石
尿管結石では、疝痛と呼ばれる背部〜側腹部の激しい間欠的疼痛が下腹部・鼠径部へ放散し、尿沈渣で赤血球を認める。脱水は結石発作の誘因となりうるが、本例は側腹部痛がなく、沈渣に赤血球もないことから考えにくい。
- ○d. 横紋筋融解症
激しい運動による骨格筋の崩壊で、筋細胞内のミオグロビンやCKなどが血中に流出する病態である。ミオグロビンは分子量約17,000と小さく糸球体で濾過されて尿中に出るため、赤褐色尿を呈し、尿潜血は陽性だが沈渣に赤血球を認めない。本例のフルマラソン後の発症、下肢の筋肉痛・圧痛、潜血強陽性かつ沈渣赤血球陰性という所見はすべてこれで説明でき、最も考えられる。血清CKの著明な上昇で確認し、急性腎障害の予防のため十分な輸液を行う。
- ×e. 多発性嚢胞腎
常染色体顕性(優性)多発性嚢胞腎では、両側腎に多数の嚢胞ができて腎が腫大し、嚢胞出血による肉眼的血尿、腰背部痛、腹部膨満、高血圧などを呈しうる(無症状で経過する時期も長い)。出血による血尿であれば沈渣で赤血球を認めるはずであり、本例の所見とは合わない。
赤色〜褐色尿の鑑別
・真の血尿(沈渣で赤血球あり):糸球体性(IgA腎症など)、非糸球体性(膀胱炎、尿路結石、尿路上皮癌、腎細胞癌、多発性嚢胞腎など)。 ・ヘモグロビン尿(潜血陽性・沈渣赤血球なし):血管内溶血(発作性夜間ヘモグロビン尿症、不適合輸血、行軍ヘモグロビン尿症、G6PD欠損症など)。 ・ミオグロビン尿(潜血陽性・沈渣赤血球なし):横紋筋融解症。 ・潜血陰性の着色尿:ビリルビン尿、ポルフィリン尿(ポルフィリン症)、食物(ビーツなど)や薬剤(リファンピシンなど)による着色。
横紋筋融解症
・原因:過度の運動、外傷・圧挫(クラッシュ症候群)、長時間の不動・圧迫、熱中症、悪性症候群・悪性高熱症、アルコール多飲、薬剤(スタチン、フィブラート系薬など)、低カリウム血症などの電解質異常、感染症、てんかん重積など。 ・症状:筋肉痛、筋力低下、筋の腫脹・圧痛、赤褐色尿。無症状のこともある。 ・検査:血清CKの著明上昇(一般に基準上限の5倍以上、しばしば数千〜数万IU/L)、ミオグロビン上昇。筋細胞内成分の流出により高カリウム血症、高リン血症、高尿酸血症をきたし、初期には低カルシウム血症を伴いやすい。 ・合併症:急性腎障害(ミオグロビンによる尿細管閉塞・直接的な尿細管毒性・腎血管収縮が関与)、高カリウム血症による不整脈、コンパートメント症候群、播種性血管内凝固(DIC)。 ・治療:原因の除去と、尿量を十分に保つための大量輸液(生理食塩液など)が基本である。高カリウム血症や乏尿性の急性腎障害が進行する場合は血液浄化療法を考慮する。
POINT
・尿潜血陽性なのに尿沈渣で赤血球がない場合は、ヘモグロビン尿またはミオグロビン尿を考える。 ・激しい運動後の筋肉痛+赤褐色尿+潜血陽性・沈渣赤血球陰性→横紋筋融解症(ミオグロビン尿)。血清CK著明上昇で確認する。 ・最も重要な合併症は急性腎障害と高カリウム血症であり、十分な輸液で予防・治療する。 ・膀胱炎、IgA腎症、尿路結石、多発性嚢胞腎による血尿では沈渣で赤血球を認める。
