StudyMed医師国家試験

「値」より「速さ」と「尿量」―急性腎障害を見逃さないためのKDIGO基準

第116回医師国家試験 A問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第116回 A問題 第15問

急性腎障害の診断に用いられる指標はどれか。2つ選べ。

  1. a.尿蛋白量
  2. b.腎の長径
  3. c.時間尿量
  4. d.尿潜血の程度
  5. e.血清クレアチニン値の上昇速度

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は急性腎障害、つまりAKIをどんな物差しで診断するかを問う問題だ。腎臓に関する検査はたくさんあるけれど、「診断基準に入っているもの」と「原因や経過を推測する手がかり」をきちんと分けて考えられるかがポイントになる。
医学生医学生
腎臓内科の講義で、AKIは昔「急性腎不全」と呼ばれていたと聞きました。名前が変わったのには理由があるんですか。
ドクタードクター
いい質問だね。以前は定義がばらばらだったうえに、軽い腎機能低下でも生命予後が悪くなることがわかってきた。そこで、早めに拾い上げるための統一基準としてAKIという概念が作られたんだ。今広く使われているのはKDIGOの基準で、日本のガイドラインもこれを採用している。
医学生医学生
KDIGOの中身は、たしかクレアチニンと尿量でしたよね。
ドクタードクター
その通り。血清クレアチニンが48時間以内に0.3 mg/dL以上上がる、または7日以内に基礎値の1.5倍以上になる、あるいは尿量が0.5 mL/kg/時未満の状態が6時間以上続く。このどれか一つを満たせばAKIと診断する。つまり診断に使うのは「クレアチニンの上昇速度」と「時間尿量」の2つだけなんだ。
医学生医学生
クレアチニンは「高いかどうか」ではなく「どれだけの期間でどれだけ上がったか」を見るんですね。
ドクタードクター
そこが一番大事なところ。クレアチニンは筋肉から一定量作られて、ほぼ糸球体濾過だけで出ていく。だから糸球体濾過量が急に落ちると、短期間で血中濃度が上がる。一方、慢性腎臓病の人はクレアチニンが高くても、長い時間をかけてゆっくり上がってきている。値の高さだけでは急性か慢性かは区別できないんだ。
医学生医学生
では時間尿量はどうして診断に使えるんでしょう。ICUの実習で看護師さんが毎時間尿量をチェックしていたのを覚えています。
ドクタードクター
脱水や出血で腎血流が減ると、クレアチニンが上がるより先に尿量の減少として現れることが多いんだ。だから尿道カテーテルを入れて1時間ごとに測るのは、AKIの早期発見にとても役立つ。ただし尿量が保たれたまま進む非乏尿性AKIもあるから、クレアチニンの推移と合わせて判断することを忘れずに。
医学生医学生
尿蛋白はどうですか。腎臓が悪いなら蛋白尿が出そうな気がして、少し迷いました。
ドクタードクター
その感覚は自然だけど、尿蛋白は主に糸球体の障害を反映する指標で、慢性腎臓病の重症度分類で使うものなんだ。一時点の尿蛋白量からは、腎機能低下が急に起きたのか、以前から続いているのかもわからない。だからAKIの診断基準には入っていない。
医学生医学生
尿潜血も同じ考え方ですか。
ドクタードクター
そう。潜血は糸球体腎炎や尿路結石、尿路腫瘍などの手がかりにはなるし、AKIの原因探しには役立つ。たとえば横紋筋融解症では潜血陽性なのに沈渣で赤血球が乏しいし、急速進行性糸球体腎炎では変形赤血球を伴う血尿がみられる。でも潜血の程度と腎機能が落ちる速さには一定の関係がないんだ。
医学生医学生
腎の長径はエコーで測るものですよね。萎縮していれば慢性、という話をCBTの勉強で覚えました。
ドクタードクター
よく覚えているね。両側の腎が萎縮していれば慢性腎臓病が示唆されるから、過去のデータがない人で急性か慢性かを推測する補助にはなる。でも大きさが保たれていることはAKIの診断根拠にはならない。それに糖尿病性腎症やアミロイドーシス、多発性嚢胞腎では慢性でも腎が萎縮しにくいから、そこも注意だよ。
医学生医学生
まとめると、診断は「クレアチニンの上がり方」と「尿量」の2本立てで、尿所見や腎のサイズは原因や経過を考えるための材料、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。発展として、KDIGOには重症度のステージ分類もある。クレアチニンが基礎値の1.5〜1.9倍ならステージ1、2.0〜2.9倍ならステージ2、3倍以上か4.0 mg/dL以上、または腎代替療法を始めたらステージ3。尿量でも評価して、重いほうのステージを採用するんだ。
医学生医学生
診断したあとは、腎前性・腎性・腎後性に分けて原因を探すんですよね。
ドクタードクター
そう。腎前性は脱水や心不全による腎血流低下で、尿中ナトリウム排泄率が1%未満と低いことが多い。腎性は急性尿細管壊死や急性間質性腎炎など、腎後性は前立腺肥大症などによる尿路閉塞で、エコーで水腎症を確認する。それと、クレアチニンは筋肉量の影響を受けるから、高齢者や痩せた人では腎機能が落ちていても値が低めに出る。値が「正常範囲」でも、普段の値からの変化を見る習慣をつけておこう。

まとめ

急性腎障害(AKI)は、KDIGO基準に基づき「血清クレアチニンの上昇速度」と「時間尿量」の2つの指標で診断します。具体的には、48時間以内に0.3 mg/dL以上または7日以内に基礎値の1.5倍以上のクレアチニン上昇、あるいは0.5 mL/kg/時未満の尿量が6時間以上続くことが基準です。尿蛋白や尿潜血、腎の大きさは原因検索や急性・慢性の推定に役立つものの、診断基準そのものには含まれません。クレアチニンは値の高さではなく変化の速さを見ること、尿量の減少はクレアチニン上昇より早く現れうることを押さえておくと、入院患者やICU患者でのAKIの早期発見につながります。

解答・解説

正解はc, eです

急性腎障害(acute kidney injury:AKI)は、数時間から数日の単位で腎機能が急に低下する病態である。かつては「急性腎不全」と呼ばれていたが、軽度の腎機能低下でも生命予後が悪化することが明らかになり、早期に拾い上げる目的で AKI という概念と統一された診断基準が作られた。現在広く用いられているのは KDIGO(Kidney Disease: Improving Global Outcomes)の基準であり、日本の AKI 診療ガイドラインもこれを採用している。

KDIGO による AKI の定義

次のいずれか一つを満たせば AKI と診断する。 1. 血清クレアチニン(Cr)が 48 時間以内に 0.3 mg/dL 以上上昇した 2. 血清 Cr が、7 日以内に判明しているか推定される基礎値から 1.5 倍以上に上昇した 3. 尿量が 0.5 mL/kg/時 未満の状態が 6 時間以上続いた つまり AKI の診断に使う指標は「血清 Cr がどれだけの期間でどれだけ上がったか(上昇の速さ)」と「体重あたりの時間尿量」の二つだけである。本問ではこの二つに該当する選択肢を選べばよい。尿蛋白や尿潜血、腎の大きさは、腎障害の原因を考えたり急性か慢性かを推測したりする手がかりにはなるが、AKI の診断基準そのものには含まれない。

選択肢考察

  1. ×a.  尿蛋白量

    尿蛋白量は AKI の診断基準に含まれない。尿蛋白は主に糸球体の障害(糸球体腎炎、ネフローゼ症候群、糖尿病性腎症など)を反映し、慢性腎臓病(CKD)の診断や重症度分類(A1〜A3 の蛋白尿区分)に使われる指標である。ある一時点の尿蛋白量からは、腎機能低下が急に起きたのか以前から続いているのかを見分けることもできない。なお、持続する多量の蛋白尿は腎機能低下の進行を早める因子である。

  2. ×b.  腎の長径

    腎の大きさは AKI の診断基準に含まれない。腎の長径(成人で通常 10〜12 cm 程度)は超音波検査や CT で測定され、両側の腎が萎縮していれば長期間にわたる腎障害、すなわち CKD の存在が示唆される。過去の Cr 値がわからない腎機能低下例で急性か慢性かを推測する補助にはなるが、腎のサイズが保たれていることは AKI の診断根拠にはならない。さらに、糖尿病性腎症、アミロイドーシス、多発性嚢胞腎などでは CKD でも腎が萎縮しにくい点にも注意が必要である。

  3. ○c.  時間尿量

    時間尿量は KDIGO の AKI 診断基準の一つである。尿量が 0.5 mL/kg/時 未満の状態が 6 時間以上続けば AKI と診断する。脱水や出血などで腎血流が減ったり尿細管が障害されたりすると、糸球体濾過量(GFR)が急激に下がり、血清 Cr が上昇するより早く尿量の減少として現れることが多い。そのため、集中治療室などで尿道カテーテルを留置し 1 時間ごとの尿量を測ることは、AKI の早期発見に役立つ。ただし、尿量が保たれる非乏尿性 AKI もあるため、Cr の推移と合わせて判断する。

  4. ×d.  尿潜血の程度

    尿潜血の程度は AKI の診断基準に含まれない。尿潜血は尿中の赤血球(またはヘモグロビン・ミオグロビン)を検出する検査で、糸球体腎炎や尿路結石・尿路腫瘍などの存在を示す手がかりとなる。AKI の原因を探るうえでは参考になる(例:横紋筋融解症では潜血陽性でも沈渣に赤血球が乏しい、急速進行性糸球体腎炎では変形赤血球を伴う血尿がみられる)が、潜血の程度と腎機能が低下する速さとの間には一定の関係がなく、AKI か CKD かの判断にも使えない。

  5. ○e.  血清クレアチニン値の上昇速度

    血清 Cr の上昇速度は AKI 診断の中心となる指標である。KDIGO の基準では、48 時間以内に 0.3 mg/dL 以上の上昇、または 7 日以内に基礎値の 1.5 倍以上への上昇があれば AKI と診断する。Cr は筋肉で一定量作られ、ほぼ糸球体濾過だけで排泄されるため、GFR が急に下がると血中濃度が短期間で上がる。逆に CKD では Cr が高くても長い期間をかけてゆっくり上昇している。このように、Cr の「値の高さ」ではなく「どれだけの期間でどれだけ上がったか」が急性の腎機能低下を示す点が重要である。

KDIGO による AKI の重症度分類(ステージ)

・ステージ1:血清 Cr が基礎値の 1.5〜1.9 倍、または 0.3 mg/dL 以上の上昇/尿量 0.5 mL/kg/時 未満が 6〜12 時間 ・ステージ2:血清 Cr が基礎値の 2.0〜2.9 倍/尿量 0.5 mL/kg/時 未満が 12 時間以上 ・ステージ3:血清 Cr が基礎値の 3.0 倍以上、または 4.0 mg/dL 以上への上昇、または腎代替療法の開始/尿量 0.3 mL/kg/時 未満が 24 時間以上、または無尿が 12 時間以上 Cr と尿量の両方で評価し、より重いほうのステージを採用する。

AKI の原因による分類

・腎前性:脱水、出血、心不全などによる腎血流の低下。尿中 Na 排泄率(FENa)は 1% 未満と低いことが多い。 ・腎性:急性尿細管壊死(虚血、造影剤、アミノグリコシドなどの薬剤、横紋筋融解症)、急性間質性腎炎、急速進行性糸球体腎炎など。 ・腎後性:前立腺肥大症、両側尿管閉塞などによる尿路閉塞。超音波検査で水腎症を確認する。

急性か慢性かの見分け方

過去の Cr 値があれば比較するのが最も確実である。過去のデータがない場合は、腎の大きさ(両側萎縮なら慢性を示唆)、腎性貧血や高リン血症・副甲状腺機能亢進症などの CKD に伴う合併症の有無が参考になる。腎の大きさが保たれていれば急性の経過が疑われ、原因への適切な対応で腎機能の回復が期待できる。

血清 Cr を指標とする際の注意

Cr は GFR が低下してから上昇するまでに時間差があり、早期の変化を捉えにくい。また筋肉量に影響を受け、高齢者や痩せた人では腎機能が低下していても値が低めに出る。こうした弱点を補うため、尿中 NGAL(好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン)や L-FABP(肝臓型脂肪酸結合蛋白)などの新しいバイオマーカーも研究・一部臨床で利用されているが、現行の診断基準には含まれていない。

POINT

・AKI の診断(KDIGO)は「血清 Cr の変化」と「尿量」の 2 指標で行う。 ・血清 Cr:48 時間以内に 0.3 mg/dL 以上の上昇、または 7 日以内に基礎値の 1.5 倍以上。 ・尿量:0.5 mL/kg/時 未満が 6 時間以上持続。 ・尿蛋白、尿潜血、腎の大きさは原因検索や急性・慢性の推定に使うが、AKI の診断基準ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。