StudyMed医師国家試験

ウイルスと細菌が癌をつくる―「どの病原体がどの臓器に」を正しく結ぶ

第116回医師国家試験 A問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第116回 A問題 第14問

病原体と悪性腫瘍の組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.ヒトパピローマウイルス ―― 子宮体癌
  2. b.成人T細胞白血病ウイルス ―― 肺癌
  3. c.C型肝炎ウイルス ―― 肝細胞癌
  4. d.Helicobacter pylori ―― 胃癌
  5. e.EBウイルス ―― 膵癌

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、病原体と悪性腫瘍の組合せを問う問題だ。感染症は喫煙と並ぶ発癌の大きな要因で、世界の癌の十数%に病原体の持続感染が関わるとされている。単なる語呂合わせではなく、「どの臓器の、どの腫瘍か」まで正確に結びつけられるかがポイントになる。
医学生医学生
病原体による発癌って、ウイルスの遺伝子が細胞に入り込んで癌にするイメージです。
ドクタードクター
それも1つの仕組みだね。大きく分けると2つある。1つはウイルス由来の蛋白が細胞増殖の制御を直接乱すもの。もう1つは持続感染による慢性炎症で、組織の破壊と再生が長年繰り返されるうちに遺伝子変異が蓄積していくものだ。
医学生医学生
直接型の例はHPVですよね。微生物学の講義で、E6がp53、E7がRBを抑えると習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。ではそのHPVと子宮体癌の組合せはどうだろう。
医学生医学生
子宮の癌ではありますけど……HPVは子宮頸癌のほうですよね。体癌と頸癌を取り違えさせる引っかけだと思います。
ドクタードクター
その通り。子宮頸癌のほぼすべてに16型・18型などの高リスク型HPVの持続感染が関与していて、頸部の移行帯で前癌病変のCINを経て癌化する。一方、子宮体癌の主な危険因子は、黄体ホルモンで拮抗されないエストロゲンの長期作用だ。肥満、未産、エストロゲン単独の補充療法、Lynch症候群などが関わる。
医学生医学生
産婦人科の実習で、子宮頸がん検診の細胞診とHPV検査を見学しました。体癌は不正出血で見つかることが多いと教わりました。
ドクタードクター
いい経験だね。次は成人T細胞白血病ウイルスと肺癌。
医学生医学生
HTLV-1は名前の通り成人T細胞白血病・リンパ腫の原因ですよね。肺癌とは聞いたことがありません。
ドクタードクター
正しい判断だ。HTLV-1はレトロウイルスで、主にCD4陽性T細胞に感染する。母乳を介した母子感染が主な経路で、九州・沖縄に多い。感染者のうちATLを発症するのは生涯で約5%、潜伏期は数十年と長い。腫瘍以外にHTLV-1関連脊髄症も起こす。肺癌の主な原因はあくまで喫煙だ。
医学生医学生
C型肝炎ウイルスと肝細胞癌は、間違いなく正しい組合せですね。
ドクタードクター
そう、これが正解の1つ目。HCVはRNAウイルスで宿主の遺伝子には組み込まれず、慢性肝炎から線維化が進み、肝硬変になると年率数%で肝細胞癌が出てくる。さっきの分類でいうと慢性炎症型の代表だ。
医学生医学生
今は直接作用型抗ウイルス薬でほぼ治るので、治療後は安心なんでしょうか。
ドクタードクター
そこは臨床で大事な注意点だよ。ウイルスが排除されても、線維化が進んでいた人では発癌することがある。だから排除後も定期的な画像検査を続ける必要がある。ちなみにB型肝炎ウイルスはDNAウイルスで宿主ゲノムに組み込まれるから、肝硬変を経ずに発癌することもある。
医学生医学生
Helicobacter pyloriと胃癌も正しいですね。消化器内科の実習で、内視鏡で萎縮性胃炎を見たら除菌歴を確認するよう言われました。
ドクタードクター
これが正解の2つ目だ。H. pyloriはウレアーゼでアンモニアを作って胃酸を中和し、胃粘膜に住みつく。持続感染で慢性活動性胃炎から萎縮性胃炎、腸上皮化生へ進み、主に分化型の胃癌の発生母地になる。国際がん研究機関も確実な発癌因子に分類している。胃MALTリンパ腫や消化性潰瘍とも関連するね。
医学生医学生
最後のEBウイルスと膵癌は、聞いたことがない組合せです。EBVはBurkittリンパ腫ですよね。
ドクタードクター
そう。EBウイルスはヘルペスウイルスの仲間で、初感染では伝染性単核球症を起こし、その後は生涯潜伏する。関連腫瘍は上咽頭癌、Burkittリンパ腫、Hodgkinリンパ腫、移植後リンパ増殖性疾患、節外性NK/T細胞リンパ腫・鼻型、それに一部の胃癌だ。膵癌の危険因子は喫煙、糖尿病、慢性膵炎、IPMN、家族歴などで、EBVとの関連は知られていない。
医学生医学生
整理すると、HPVは頸癌、HTLV-1はATL、HCVは肝細胞癌、H. pyloriは胃癌、EBVは上咽頭癌やリンパ腫、という対応ですね。
ドクタードクター
その通り。発展としてHHV-8とKaposi肉腫、ビルハルツ住血吸虫と膀胱癌、肝吸虫と胆管癌も押さえておこう。そしてこの分野の面白いところは、原因が感染だから予防ができる点だ。HPVワクチン、B型肝炎ワクチン、HCVの抗ウイルス治療、H. pyloriの除菌、HTLV-1では妊婦健診での抗体検査と授乳方法の指導。どれも癌予防として実際に行われている。
医学生医学生
感染を断てば癌を減らせる、というのは公衆衛生の講義ともつながりますね。
ドクタードクター
そうだね。外来では、癌のリスク評価をするときに感染歴やワクチン歴を聞く習慣をつけておくといい。

まとめ

病原体による発癌には、HPVのE6・E7蛋白がp53・RBを抑えるような直接的な機序と、HCVやHelicobacter pyloriのように持続感染による慢性炎症を介する機序があります。HCVは慢性肝炎・肝硬変を経て肝細胞癌を、H. pyloriは萎縮性胃炎・腸上皮化生を経て胃癌を引き起こし、いずれも正しい組合せです。一方、HPVが関与するのは子宮体癌ではなく子宮頸癌、HTLV-1は成人T細胞白血病・リンパ腫、EBウイルスは上咽頭癌やBurkittリンパ腫・Hodgkinリンパ腫などであり、肺癌や膵癌の主な危険因子は喫煙です。HHV-8とKaposi肉腫、住血吸虫と膀胱癌、肝吸虫と胆管癌なども併せて覚えておくと整理しやすくなります。感染が原因の癌はワクチン、抗ウイルス治療、除菌、母子感染対策によって予防できるため、正確な対応関係の理解は臨床と公衆衛生の両面で重要です。

解答・解説

正解はc, dです

感染症は喫煙と並ぶ発癌の主要な環境要因であり、世界の癌の十数%は病原体の持続感染が関与すると推定されている。病原体が癌を引き起こす仕組みは大きく2つに分けられる。 ①直接的な発癌:ウイルスの遺伝子が宿主細胞に組み込まれたり、ウイルス由来の蛋白質が細胞増殖を制御する仕組みを乱したりする。例として、ヒトパピローマウイルス(HPV)のE6・E7蛋白は、それぞれ癌抑制蛋白であるp53とRBの働きを抑える。 ②慢性炎症を介した発癌:持続感染によって炎症と組織の破壊・再生が長期間繰り返され、その過程で遺伝子変異が蓄積する。C型肝炎ウイルス(HCV)による慢性肝炎・肝硬変からの肝細胞癌や、Helicobacter pyloriによる慢性萎縮性胃炎からの胃癌が代表である。 本問では、各病原体が「どの臓器の、どの腫瘍」と結びつくかを正確に覚えているかが問われている。HPV=子宮頸癌、HTLV-1=成人T細胞白血病・リンパ腫、HCV=肝細胞癌、H. pylori=胃癌、EBウイルス=上咽頭癌・Burkittリンパ腫などの組合せを押さえておけば、正しいのはcとdと判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  ヒトパピローマウイルス ―― 子宮体癌

    誤り。HPVが関与するのは子宮体癌ではなく子宮頸癌である。子宮頸癌のほぼすべてに高リスク型HPV(特に16型・18型)の持続感染が関与し、子宮頸部の扁平円柱上皮境界(移行帯)で前癌病変である子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)を経て癌化する。HPVはほかに中咽頭癌、肛門癌、陰茎癌、外陰癌、腟癌にも関与する。一方、子宮体癌(主に類内膜癌)は、エストロゲンが黄体ホルモンによる拮抗を受けずに長期間作用することが主な危険因子であり、肥満、未産、エストロゲン単独補充療法、多嚢胞性卵巣症候群、Lynch症候群などと関連する。

  2. ×b.  成人T細胞白血病ウイルス ―― 肺癌

    誤り。成人T細胞白血病ウイルス、すなわちヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)はレトロウイルスであり、主にCD4陽性T細胞に感染して成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)を引き起こす。感染者のうちATLを発症するのは生涯で約5%とされ、長い潜伏期間(数十年)を経て発症する。腫瘍以外にHTLV-1関連脊髄症(HAM)、HTLV-1ぶどう膜炎も起こす。主な感染経路は母乳による母子感染であり、日本では九州・沖縄に感染者が多い。肺癌との関連は知られておらず、肺癌の主な原因は喫煙であり、アスベスト曝露や受動喫煙、ラドンなども危険因子となる。

  3. ○c.  C型肝炎ウイルス ―― 肝細胞癌

    正しい。HCVは持続感染によって慢性肝炎を起こし、線維化が進んで肝硬変に至ると、肝細胞癌の発生率が年率数%程度にまで高まる。HCVはRNAウイルスで宿主の遺伝子には組み込まれず、主に慢性炎症と肝細胞の壊死・再生の繰り返しを通じて発癌に寄与する。日本の肝細胞癌は長くB型・C型肝炎ウイルスによるものが大半を占め、特にC型が最多であった。直接作用型抗ウイルス薬(DAA)によってウイルスの排除がほぼ可能になった現在も、排除後に発癌することがあるため、線維化が進んだ例では定期的な画像検査による経過観察が必要である。なお近年は、ウイルス以外の原因(アルコール性肝疾患や代謝機能障害関連脂肪性肝疾患〈MASLD〉など)による肝細胞癌の割合が増えている。

  4. ○d.  Helicobacter pylori ―― 胃癌

    正しい。H. pyloriはウレアーゼでアンモニアを産生して胃酸を中和し、胃粘膜に住みつくグラム陰性のらせん状桿菌(微好気性菌)である。持続感染によって慢性活動性胃炎から萎縮性胃炎・腸上皮化生へと進み、胃癌(特に分化型の腸型胃癌)の発生母地となる。CagAなどの病原因子をもつ菌株はより発癌リスクが高い。WHOの国際がん研究機関(IARC)はH. pyloriを確実な発癌因子(グループ1)に分類している。胃癌以外に、胃MALTリンパ腫、消化性潰瘍、特発性血小板減少性紫斑病などとも関連し、除菌治療は胃癌の発生を減らすことが示されている。

  5. ×e.  EBウイルス ―― 膵癌

    誤り。EB(Epstein-Barr)ウイルスはヘルペスウイルス科に属し、主にB細胞や上皮細胞に感染する。初感染では伝染性単核球症を起こし、その後は生涯にわたり潜伏感染する。関連する悪性腫瘍は、上咽頭癌(中国南部・東南アジアに多い)、Burkittリンパ腫(アフリカの風土病型)、Hodgkinリンパ腫、移植後リンパ増殖性疾患、節外性NK/T細胞リンパ腫・鼻型、胃癌の一部(EBV関連胃癌)などである。膵癌との関連は知られておらず、膵癌の主な危険因子は喫煙、糖尿病、慢性膵炎、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、家族歴などである。

主な病原体と関連する悪性腫瘍

・ヒトパピローマウイルス(HPV、特に16・18型):子宮頸癌、中咽頭癌、肛門癌、外陰癌、腟癌、陰茎癌 ・B型肝炎ウイルス(HBV):肝細胞癌(DNAウイルスで宿主ゲノムに組み込まれるため、肝硬変を経ずに発癌することもある) ・C型肝炎ウイルス(HCV):肝細胞癌、B細胞性非Hodgkinリンパ腫の一部 ・HTLV-1:成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL) ・EBウイルス(EBV):上咽頭癌、Burkittリンパ腫、Hodgkinリンパ腫、移植後リンパ増殖性疾患、節外性NK/T細胞リンパ腫・鼻型、胃癌の一部 ・ヒトヘルペスウイルス8型(HHV-8):Kaposi肉腫、原発性体腔液リンパ腫、多中心性Castleman病 ・Helicobacter pylori:胃癌、胃MALTリンパ腫 ・寄生虫:ビルハルツ住血吸虫(Schistosoma haematobium)=膀胱癌(扁平上皮癌)、肝吸虫(Clonorchis sinensis)・タイ肝吸虫=胆管癌

予防の観点

・HPVワクチン:子宮頸癌の予防。日本では定期接種の対象であり、積極的勧奨が再開されている。 ・B型肝炎ワクチン:定期接種化されており、肝細胞癌の予防にもつながる。 ・HCV:DAAによる治療でウイルス排除がほぼ可能となった。 ・H. pylori:除菌により胃癌リスクが低下する。 ・HTLV-1:妊婦健診での抗体検査と、陽性者での授乳方法の指導(人工栄養など)により母子感染を防ぐ。

感染以外の主な発癌要因

喫煙(肺癌、口腔・咽頭・喉頭癌、食道癌、胃癌、膵癌、膀胱癌など多くの癌)、飲酒(食道癌、肝癌など)、アスベスト(中皮腫、肺癌)、肥満(閉経後乳癌、子宮体癌など)がある。運動は大腸癌などのリスクを下げる。

POINT

・HPV=子宮頸癌(子宮体癌ではない) ・HTLV-1=成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL) ・HBV・HCV=肝細胞癌 ・Helicobacter pylori=胃癌、胃MALTリンパ腫 ・EBV=上咽頭癌、Burkittリンパ腫、Hodgkinリンパ腫など ・HHV-8=Kaposi肉腫 ・子宮体癌はエストロゲン依存性、膵癌・肺癌は喫煙が主な危険因子

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。