「血管が原因」から全部読み解く―脳血管性認知症の5つの特徴
第116回医師国家試験 A問題 第13問
国試問題にチャレンジ
脳血管性認知症について正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.50歳台では発症しない。
- b.運動障害を伴うことが多い。
- c.脳梗塞の初回発作では生じない。
- d.頭部MRI・MRA画像では異常を認めない。
- e.脳血流SPECTにおける血流分布異常は特定のパターンを示さない。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
脳血管性認知症は、脳梗塞・脳出血・小血管病などの脳血管障害によって生じる認知症であり、「原因が血管障害である」ことからその特徴の多くを導けます。病変部位に応じて片麻痺・構音障害・歩行障害などの運動障害を伴いやすく、画像で脳血管病変を確認できることが診断の前提となります。脳梗塞は若年でも起こり、CADASILなどの遺伝性疾患もあるため50歳台でも発症しうるほか、視床や海馬などの重要部位であれば初回の梗塞でも認知症を生じえます(戦略的単一病変による認知症)。脳血流SPECTでは病変ごとに低下部位が異なるため、Alzheimer型(後部帯状回・楔前部)、Lewy小体型(後頭葉)、前頭側頭型(前頭葉・側頭葉前部)のような特定のパターンを示しません。病態から特徴を理解し、治療の柱である危険因子管理による再発予防までつなげて押さえることが、認知症診療の基本となります。
解答・解説
正解はb, eです
脳血管性認知症(血管性認知症、vascular dementia:VaD)は、脳梗塞・脳出血・小血管病(細い血管の動脈硬化による多発性ラクナ梗塞や白質病変)などの脳血管障害によって生じる認知症である。Alzheimer型認知症に次いで多い認知症の一つであり、高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙・心房細動などの動脈硬化性危険因子と深く関係する。 理解の要点は「認知症の原因が脳血管障害である」という点にある。ここから次の特徴が導かれる。 ①脳血管障害を起こす年齢であれば発症しうるため、高齢者に限らない。 ②障害された部位に応じて、片麻痺、構音障害、嚥下障害、パーキンソニズム様の歩行障害などの局所神経症候を伴いやすい。 ③病変は画像で確認できる(確認できることが診断の要件でもある)。 ④病変の部位や大きさは症例ごとに異なるため、脳血流の低下部位も一定しない。 ⑤脳卒中の発作を契機に急に発症したり、発作のたびに段階的に悪化したりする経過をとりやすい。ただし、小血管病が主体の型では緩徐に進行することもある。 これらの性質を踏まえて各選択肢を検討すると、運動障害を伴いやすいこと(b)と、脳血流SPECTで特定のパターンを示さないこと(e)が正しい記述となる。
選択肢考察
- ×a. 50歳台では発症しない。
誤り。脳血管障害は50歳台以下でも起こりうるため、それに伴う血管性認知症も若年で発症しうる。また、遺伝性の脳小血管病では若年から脳梗塞や白質病変を繰り返して認知症に至ることが知られている。代表例として、NOTCH3遺伝子変異によるCADASIL(皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体顕性〈優性〉脳動脈症)、HTRA1遺伝子変異によるCARASIL(常染色体潜性〈劣性〉の同様の病態)、遺伝性脳アミロイド血管症、Fabry病などがある。65歳未満で発症する若年性認知症の原因としても、血管性認知症はAlzheimer病と並んで頻度が高い。
- ○b. 運動障害を伴うことが多い。
正しい。血管性認知症は脳血管障害を基盤とするため、病変部位に対応した局所神経症候を伴うことが多い。片麻痺、下部顔面筋の麻痺、Babinski徴候、感覚障害、半盲、構音障害などが代表的であり、代表的な診断基準であるNINDS-AIREN(米国国立神経疾患・脳卒中研究所と国際神経科学研究協会による基準)でも脳血管障害の根拠として挙げられている。特に皮質下の小血管病型では、小刻み歩行や歩行障害、仮性球麻痺(構音障害・嚥下障害)、尿失禁などが早期から目立ちやすい。この点は、初期には運動障害が目立たないAlzheimer型認知症との重要な鑑別点である。
- ×c. 脳梗塞の初回発作では生じない。
誤り。脳梗塞の回数が多いほど認知症のリスクは高まるが、1回の梗塞でも、認知機能に重要な部位が障害されれば認知症を生じる。これを戦略的単一病変による認知症(strategic single infarct dementia)と呼ぶ。責任部位としては、視床(特に前核・内側核)、海馬、優位半球の角回、前脳基底部、尾状核、内包膝部などが知られている。また大きな皮質梗塞が1回起こっただけでも認知症をきたしうる。
- ×d. 頭部MRI・MRA画像では異常を認めない。
誤り。血管性認知症は脳血管障害による認知症であるから、画像で脳血管病変を確認できることが診断の前提である。頭部MRIでは、多発する皮質梗塞、重要部位の単発梗塞、基底核や白質の多発性ラクナ梗塞、広範な脳室周囲白質病変(FLAIR像やT2強調像の高信号)、微小出血(T2*強調像やSWIの低信号)などがみられる。MRAでは主幹動脈の狭窄・閉塞が描出されることもある。NINDS-AIRENの診断基準でも、CT・MRIで関連する脳血管病変を認めることが必須項目とされている。
- ○e. 脳血流SPECTにおける血流分布異常は特定のパターンを示さない。
正しい。脳血流SPECT(単一光子放射断層撮影)では、梗塞巣やその周辺、さらに病変と線維連絡のある離れた部位(例:白質病変による前頭葉の血流低下)に血流低下がみられるが、病変の部位・大きさ・数は症例ごとに異なるため、低下部位は一定しない。まだら状・非対称性の分布をとることが多い。これに対して変性性認知症では特徴的なパターンがあり、Alzheimer型認知症では後部帯状回・楔前部・側頭頭頂葉、Lewy小体型認知症では後頭葉(後部帯状回の血流が保たれるcingulate island signを伴うことがある)、前頭側頭型認知症では前頭葉・側頭葉前部の血流低下が特徴とされる。
血管性認知症の主な病型
・多発梗塞性認知症:皮質を含む大小の梗塞が繰り返し起こり、段階的に悪化する。 ・戦略的単一病変による認知症:視床・海馬・角回など重要部位の単発病変による。 ・小血管病性認知症:多発性ラクナ梗塞(いわゆるラクナ状態)やBinswanger病(広範な白質病変)による。緩徐に進行し、遂行機能障害・思考緩慢・意欲低下・歩行障害・尿失禁などが目立つ。 ・低灌流性、脳出血性のものもある。
NINDS-AIRENによるprobable VaDの診断基準の概要
A.認知症:記憶障害に加え、見当識、注意、言語、視空間機能、遂行機能、運動統御、行為のうち2つ以上の障害があり、日常生活に支障をきたしている(脳卒中による身体障害のみで説明されるものは除く)。意識障害・せん妄・重度の失語などで検査ができない場合や、他の原因疾患がある場合は除外する。 B.脳血管障害:神経学的診察で局所神経症候(片麻痺、下部顔面神経麻痺、Babinski徴候、感覚障害、半盲、構音障害など)があり、かつ画像(CT・MRI)で関連する脳血管病変(多発性の大梗塞、重要部位の単発梗塞、基底核・白質の多発性小梗塞、広範な脳室周囲白質病変など)を認める。 C.AとBの関連:明らかな脳卒中後3か月以内に認知症が出現する、または認知機能が急激に低下する、あるいは動揺性・段階的に進行する。
Alzheimer型認知症との比較
・経過:VaDは急性発症・段階的悪化が多い/ADは緩徐進行 ・神経症候:VaDは局所神経症候を伴いやすい/ADは初期には乏しい ・認知機能:VaDは障害される領域と保たれる領域が混在する「まだら認知症」になりやすく、病識が比較的保たれることもある/ADは記憶障害から始まり全般的に低下する ・情動面:VaDでは感情失禁(わずかな刺激で泣いたり笑ったりする)や意欲低下がみられやすい ・両者の合併(混合型認知症)も少なくない
治療と予防
脳血管障害の再発予防が中心となる。高血圧・糖尿病・脂質異常症の管理、禁煙、抗血小板薬(心房細動による心原性塞栓では抗凝固薬)の使用などが行われる。
POINT
・血管性認知症は脳血管障害の存在が前提:画像で病変を確認できる ・局所神経症候(片麻痺、構音障害、歩行障害など)を伴いやすい ・初回の脳梗塞でも、視床・海馬・角回などの重要部位病変なら認知症を生じる(strategic single infarct dementia) ・若年でも発症しうる(CADASIL、CARASILなど遺伝性疾患も含む) ・脳血流SPECTの低下部位は病変により異なり、特定のパターンを示さない ・SPECTの特徴的パターン:AD=後部帯状回・楔前部・側頭頭頂葉、DLB=後頭葉、FTD=前頭葉・側頭葉前部
