試験管では決して育たない菌―抗酸菌の中で、らい菌だけが特別な理由
第104回医師国家試験 I問題 第8問
国試問題にチャレンジ
人工培地で発育しない菌はどれか。
- a.Mycobacterium tuberculosis
- b.Mycobacterium kansasii
- c.Mycobacterium avium
- d.Mycobacterium intracellulare
- e.Mycobacterium leprae
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
抗酸菌はミコール酸を多く含む細胞壁のため抗酸性を示し、結核菌群、非結核性抗酸菌、らい菌の3群に整理できます。結核菌やMAC、M. kansasiiなどの非結核性抗酸菌は発育が遅いものの、小川培地やMGITなどの人工培地で培養でき、培養は確定診断と薬剤感受性試験に欠かせません。一方、らい菌は偏性細胞内寄生性で人工培地での培養に成功しておらず、マウス足蹠やアルマジロで増殖させます。らい菌は低温を好むため皮膚や末梢神経を侵し、知覚低下を伴う皮疹や末梢神経肥厚が特徴です。「発育が遅い」と「培養できない」を区別し、梅毒トレポネーマなど培養困難な病原体とあわせて整理しておくことは、適切な検査選択の基礎になります。
解答・解説
正解はeです
選択肢はすべてマイコバクテリウム属(抗酸菌)である。抗酸菌は細胞壁に大量の脂質(ミコール酸)を含むため、一度チール・ネールゼン染色などで染まると酸アルコールでも脱色されにくい(抗酸性)という共通の性質をもつ。 ヒトに病原性をもつ抗酸菌は、次の3群に整理できる。 ・結核菌群(Mycobacterium tuberculosisなど) ・非結核性抗酸菌(NTM:nontuberculous mycobacteria):M. avium、M. intracellulare、M. kansasiiなど ・らい菌(Mycobacterium leprae) 結核菌と非結核性抗酸菌は、発育は遅いものの、小川培地(卵を主成分とする固形培地)やMGIT(液体培地を用いる迅速培養法)などの人工培地で培養できる。これに対し、らい菌はこれまで人工培地での培養に成功しておらず、試験管内で増やすことができない。この点がらい菌の最大の特徴であり、本問の正解となる。 らい菌は偏性細胞内寄生菌で、増殖に宿主細胞を必要とすると考えられている。研究ではマウスの足蹠(足の裏)やアルマジロに接種して増殖させる方法が用いられる。
選択肢考察
- ×a. Mycobacterium tuberculosis
結核菌は人工培地で発育する。増殖は非常に遅く(分裂に十数時間を要する)、小川培地では集落が見えるまでに通常3〜4週間、陰性と判定するには8週間の培養が必要である。液体培地のMGIT法を用いると、より短期間で検出できる。培養は結核の確定診断と薬剤感受性試験に不可欠であり、迅速診断にはPCRなどの核酸増幅法も併用される。
- ×b. Mycobacterium kansasii
M. kansasiiは非結核性抗酸菌の一つで、人工培地で発育する。発育速度による分類(Runyon分類)ではI群(光発色菌:光に当たると黄色の色素を産生する遅発育菌)に属する。日本では肺MAC症に次いで多い肺非結核性抗酸菌症の原因菌で、比較的若い男性の喫煙者などに多く、結核に類似した空洞性病変を作りやすい。リファンピシンを中心とした治療が有効である。
- ×c. Mycobacterium avium
M. aviumは非結核性抗酸菌であり、人工培地で発育する。M. intracellulareとあわせてMAC(Mycobacterium avium complex)と呼ばれ、日本の肺非結核性抗酸菌症の大部分を占める。Runyon分類ではIII群(非光発色菌)に属する。土壌や水など環境中に広く存在し、ヒトからヒトへはうつらないと考えられている。中高年女性の結節・気管支拡張型の肺病変や、進行したHIV感染症での播種性感染が知られる。
- ×d. Mycobacterium intracellulare
M. intracellulareもMACを構成する非結核性抗酸菌で、人工培地で発育する。M. aviumとは性状が似ており、臨床的にはまとめてMACとして扱われることが多い。治療はクラリスロマイシン(マクロライド系)、リファンピシン、エタンブトールの3剤併用が基本である。
- ○e. Mycobacterium leprae
らい菌(Hansen病の原因菌)は現在まで人工培地での培養に成功していない。偏性細胞内寄生性で、分裂に約2週間(12〜14日程度)と極めて長い時間を要し、30℃台前半の比較的低い温度を好む。そのため体温の低い皮膚や末梢神経に病変を作りやすい。菌を増やす手段としては、マウス足蹠への接種やアルマジロ(体温が低い動物)での増殖が用いられる。診断は皮膚スメア検査(抗酸菌染色)や皮膚生検の病理組織、PCRによる菌の遺伝子検出などで行う。
抗酸菌の分類
・結核菌群:M. tuberculosis、M. bovis(ウシ型結核菌、BCGはその弱毒株)など。ヒトからヒトへ空気感染する。 ・非結核性抗酸菌(NTM):環境中(土壌・水)に常在し、ヒトからヒトへの感染は基本的にないとされる。日本ではMAC(M. avium、M. intracellulare)が約8割以上を占め、次いでM. kansasiiが多い。近年はM. abscessus(迅速発育菌)も増えている。 ・らい菌:人工培地で培養不能。
Runyon分類(非結核性抗酸菌の古典的分類)
I群:光発色菌(M. kansasii、M. marinumなど) II群:暗発色菌(M. scrofulaceum、M. gordonaeなど) III群:非光発色菌(MACなど) IV群:迅速発育菌(1週間以内に集落を形成:M. abscessus、M. fortuitum、M. chelonaeなど)
Hansen病の要点
感染力は極めて弱く、発症には長期間の濃厚接触と個人の免疫状態が関与する。潜伏期間は数年〜数十年と長い。知覚低下を伴う皮疹と末梢神経の肥厚が特徴である。WHOの治療指針では、リファンピシン、ダプソン、クロファジミンによる多剤併用療法(MDT)が行われる。日本では新規患者は極めてまれである。
人工培地で培養できない主な病原体
らい菌のほか、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)は人工培地での安定した継代培養が困難である。リケッチアやクラミジアは偏性細胞内寄生性で、培養細胞や発育鶏卵などを用いる必要がある。
POINT
・らい菌(M. leprae)は人工培地で培養できない(マウス足蹠やアルマジロで増殖させる)。 ・結核菌・非結核性抗酸菌(MAC、M. kansasiiなど)は小川培地やMGITで培養可能だが発育は遅い。 ・らい菌は低温を好み、皮膚と末梢神経を侵す。 ・人工培地で培養困難な病原体として、らい菌と梅毒トレポネーマは併せて覚える。
