StudyMed医師国家試験

試験管では決して育たない菌―抗酸菌の中で、らい菌だけが特別な理由

第104回医師国家試験 I問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第104回 I問題 第8問

人工培地で発育しない菌はどれか。

  1. a.Mycobacterium tuberculosis
  2. b.Mycobacterium kansasii
  3. c.Mycobacterium avium
  4. d.Mycobacterium intracellulare
  5. e.Mycobacterium leprae

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、人工培地で育たない菌を選ぶ問題だ。選択肢はすべてマイコバクテリウム属、つまり抗酸菌の仲間。同じ属の中で「培養できるか、できないか」という性質の違いに注目してほしい。
医学生医学生
抗酸菌といえば、微生物学の実習でチール・ネールゼン染色をやりました。赤く染まった細い桿菌が印象に残っています。
ドクタードクター
そう、抗酸菌は細胞壁にミコール酸という脂質を大量に含むから、一度染まると酸アルコールでも脱色されにくい。これが「抗酸性」だ。ヒトに病原性をもつ抗酸菌は、結核菌群、非結核性抗酸菌、そしてらい菌の3群に整理すると分かりやすい。
医学生医学生
結核菌は培養に時間がかかると聞いたので、もしかして人工培地では育たないのでしょうか。
ドクタードクター
そこは引っかかりやすいポイントだね。結核菌は確かに増殖が遅くて、分裂に十数時間かかる。小川培地では集落が見えるまで通常3〜4週間、陰性と判定するには8週間の培養が必要だ。でも「遅い」だけで、ちゃんと人工培地で育つ。
医学生医学生
育つのが遅いことと、育たないことは別なんですね。
ドクタードクター
その区別が大切だ。小川培地は卵を主成分とする固形培地で、液体培地を使うMGIT法ならより短期間で検出できる。培養は確定診断と薬剤感受性試験に欠かせないから、臨床ではPCRなどの核酸増幅法と併用することが多い。
医学生医学生
呼吸器内科を回ったとき、喀痰の抗酸菌検査で塗抹、培養、PCRを同時に出していました。PCRで早く分かっても、培養は感受性を見るために必要だったんですね。
ドクタードクター
まさにそういうことだ。次は非結核性抗酸菌。M. aviumとM. intracellulareはまとめてMACと呼ばれ、日本の肺非結核性抗酸菌症の大部分を占める。土壌や水など環境中にいて、ヒトからヒトへはうつらないと考えられている。
医学生医学生
MACも人工培地で育つんですか。
ドクタードクター
育つよ。中高年女性の結節・気管支拡張型の肺病変が典型で、進行したHIV感染症では播種性感染を起こすこともある。治療はクラリスロマイシン、リファンピシン、エタンブトールの3剤併用が基本だ。M. kansasiiも人工培地で育つ非結核性抗酸菌で、日本ではMACに次いで多い。光に当たると黄色の色素をつくる光発色菌で、比較的若い男性の喫煙者に多く、結核に似た空洞性病変をつくりやすい。
医学生医学生
そうすると、残るらい菌だけが人工培地で育たないということですね。
ドクタードクター
正解。らい菌はHansen病の原因菌で、現在まで人工培地での培養に成功していない。偏性細胞内寄生菌で、増殖に宿主細胞が必要と考えられている。しかも分裂に約2週間かかるほど増殖が遅い。
医学生医学生
培養できないなら、研究ではどうやって菌を増やすんですか。
ドクタードクター
マウスの足の裏、つまり足蹠に接種したり、アルマジロで増殖させたりする。ここで面白いのが、らい菌は30℃台前半の比較的低い温度を好むことだ。アルマジロは体温が低い動物だから都合がいい。そしてヒトでも、体温の低い皮膚や末梢神経に病変をつくりやすい理由になっている。
医学生医学生
だからHansen病では知覚低下を伴う皮疹や末梢神経の肥厚が出るんですね。皮膚科の講義で、皮疹の部分を触っても感じないのが特徴だと習いました。
ドクタードクター
よく結びつけたね。診断は皮膚スメアの抗酸菌染色、皮膚生検の病理、PCRによる遺伝子検出などで行う。感染力は極めて弱く、発症には長期間の濃厚接触と個人の免疫状態が関わり、潜伏期間は数年から数十年と長い。治療はリファンピシン、ダプソン、クロファジミンの多剤併用療法だ。日本では新規患者は極めてまれだけれど、偏見の歴史も含めて正しく理解しておきたい疾患だよ。
医学生医学生
人工培地で培養が難しい病原体は、ほかにもありますか。
ドクタードクター
梅毒トレポネーマも人工培地での安定した継代培養が難しい病原体として、らい菌とセットで覚えておくといい。リケッチアやクラミジアは偏性細胞内寄生性で、培養細胞や発育鶏卵などが必要になる。培養できない病原体は、血清学的検査や遺伝子検査、病理などで診断することになるんだ。
医学生医学生
抗酸菌は全部培養が大変というイメージでしたが、「遅いけど育つ」結核菌・非結核性抗酸菌と、「そもそも育たない」らい菌に分けて整理します。

まとめ

抗酸菌はミコール酸を多く含む細胞壁のため抗酸性を示し、結核菌群、非結核性抗酸菌、らい菌の3群に整理できます。結核菌やMAC、M. kansasiiなどの非結核性抗酸菌は発育が遅いものの、小川培地やMGITなどの人工培地で培養でき、培養は確定診断と薬剤感受性試験に欠かせません。一方、らい菌は偏性細胞内寄生性で人工培地での培養に成功しておらず、マウス足蹠やアルマジロで増殖させます。らい菌は低温を好むため皮膚や末梢神経を侵し、知覚低下を伴う皮疹や末梢神経肥厚が特徴です。「発育が遅い」と「培養できない」を区別し、梅毒トレポネーマなど培養困難な病原体とあわせて整理しておくことは、適切な検査選択の基礎になります。

解答・解説

正解はeです

選択肢はすべてマイコバクテリウム属(抗酸菌)である。抗酸菌は細胞壁に大量の脂質(ミコール酸)を含むため、一度チール・ネールゼン染色などで染まると酸アルコールでも脱色されにくい(抗酸性)という共通の性質をもつ。 ヒトに病原性をもつ抗酸菌は、次の3群に整理できる。 ・結核菌群(Mycobacterium tuberculosisなど) ・非結核性抗酸菌(NTM:nontuberculous mycobacteria):M. avium、M. intracellulare、M. kansasiiなど ・らい菌(Mycobacterium leprae) 結核菌と非結核性抗酸菌は、発育は遅いものの、小川培地(卵を主成分とする固形培地)やMGIT(液体培地を用いる迅速培養法)などの人工培地で培養できる。これに対し、らい菌はこれまで人工培地での培養に成功しておらず、試験管内で増やすことができない。この点がらい菌の最大の特徴であり、本問の正解となる。 らい菌は偏性細胞内寄生菌で、増殖に宿主細胞を必要とすると考えられている。研究ではマウスの足蹠(足の裏)やアルマジロに接種して増殖させる方法が用いられる。

選択肢考察

  1. ×a.  Mycobacterium tuberculosis

    結核菌は人工培地で発育する。増殖は非常に遅く(分裂に十数時間を要する)、小川培地では集落が見えるまでに通常3〜4週間、陰性と判定するには8週間の培養が必要である。液体培地のMGIT法を用いると、より短期間で検出できる。培養は結核の確定診断と薬剤感受性試験に不可欠であり、迅速診断にはPCRなどの核酸増幅法も併用される。

  2. ×b.  Mycobacterium kansasii

    M. kansasiiは非結核性抗酸菌の一つで、人工培地で発育する。発育速度による分類(Runyon分類)ではI群(光発色菌:光に当たると黄色の色素を産生する遅発育菌)に属する。日本では肺MAC症に次いで多い肺非結核性抗酸菌症の原因菌で、比較的若い男性の喫煙者などに多く、結核に類似した空洞性病変を作りやすい。リファンピシンを中心とした治療が有効である。

  3. ×c.  Mycobacterium avium

    M. aviumは非結核性抗酸菌であり、人工培地で発育する。M. intracellulareとあわせてMAC(Mycobacterium avium complex)と呼ばれ、日本の肺非結核性抗酸菌症の大部分を占める。Runyon分類ではIII群(非光発色菌)に属する。土壌や水など環境中に広く存在し、ヒトからヒトへはうつらないと考えられている。中高年女性の結節・気管支拡張型の肺病変や、進行したHIV感染症での播種性感染が知られる。

  4. ×d.  Mycobacterium intracellulare

    M. intracellulareもMACを構成する非結核性抗酸菌で、人工培地で発育する。M. aviumとは性状が似ており、臨床的にはまとめてMACとして扱われることが多い。治療はクラリスロマイシン(マクロライド系)、リファンピシン、エタンブトールの3剤併用が基本である。

  5. ○e.  Mycobacterium leprae

    らい菌(Hansen病の原因菌)は現在まで人工培地での培養に成功していない。偏性細胞内寄生性で、分裂に約2週間(12〜14日程度)と極めて長い時間を要し、30℃台前半の比較的低い温度を好む。そのため体温の低い皮膚や末梢神経に病変を作りやすい。菌を増やす手段としては、マウス足蹠への接種やアルマジロ(体温が低い動物)での増殖が用いられる。診断は皮膚スメア検査(抗酸菌染色)や皮膚生検の病理組織、PCRによる菌の遺伝子検出などで行う。

抗酸菌の分類

・結核菌群:M. tuberculosis、M. bovis(ウシ型結核菌、BCGはその弱毒株)など。ヒトからヒトへ空気感染する。 ・非結核性抗酸菌(NTM):環境中(土壌・水)に常在し、ヒトからヒトへの感染は基本的にないとされる。日本ではMAC(M. avium、M. intracellulare)が約8割以上を占め、次いでM. kansasiiが多い。近年はM. abscessus(迅速発育菌)も増えている。 ・らい菌:人工培地で培養不能。

Runyon分類(非結核性抗酸菌の古典的分類)

I群:光発色菌(M. kansasii、M. marinumなど) II群:暗発色菌(M. scrofulaceum、M. gordonaeなど) III群:非光発色菌(MACなど) IV群:迅速発育菌(1週間以内に集落を形成:M. abscessus、M. fortuitum、M. chelonaeなど)

Hansen病の要点

感染力は極めて弱く、発症には長期間の濃厚接触と個人の免疫状態が関与する。潜伏期間は数年〜数十年と長い。知覚低下を伴う皮疹と末梢神経の肥厚が特徴である。WHOの治療指針では、リファンピシン、ダプソン、クロファジミンによる多剤併用療法(MDT)が行われる。日本では新規患者は極めてまれである。

人工培地で培養できない主な病原体

らい菌のほか、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)は人工培地での安定した継代培養が困難である。リケッチアやクラミジアは偏性細胞内寄生性で、培養細胞や発育鶏卵などを用いる必要がある。

POINT

・らい菌(M. leprae)は人工培地で培養できない(マウス足蹠やアルマジロで増殖させる)。 ・結核菌・非結核性抗酸菌(MAC、M. kansasiiなど)は小川培地やMGITで培養可能だが発育は遅い。 ・らい菌は低温を好み、皮膚と末梢神経を侵す。 ・人工培地で培養困難な病原体として、らい菌と梅毒トレポネーマは併せて覚える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。