エコーに散る小さな光の点―砂粒小体が教える甲状腺乳頭癌の見つけ方
第104回医師国家試験 I問題 第7問
国試問題にチャレンジ
甲状腺乳頭癌の診断に最も有用なのはどれか。
- a.CEA高値
- b.TSH低値
- c.サイログロブリン高値
- d.超音波検査で点状高エコー像
- e.頸部エックス線写真で粗大石灰化像
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
甲状腺乳頭癌は甲状腺悪性腫瘍の約9割を占める最多の組織型で、病理では砂粒小体、すりガラス状核、核溝、核内細胞質封入体が特徴です。砂粒小体に相当する微細石灰化は超音波で点状高エコー像として描出され、乳頭癌に比較的特異的なため診断に最も有用であり、確定診断は超音波ガイド下の穿刺吸引細胞診で行います。CEA高値は傍濾胞細胞由来の髄様癌を示唆し、TSH低値はホルモン過剰状態を反映するもので、乳頭癌は通常甲状腺機能正常です。サイログロブリンは良性疾患でも上昇するため存在診断には向かず、全摘術後の再発監視マーカーとして活用されます。「その所見が本当にその疾患に特異的か」を問う姿勢は、甲状腺結節の評価に限らず検査選択全般の基本となります。
解答・解説
正解はdです
甲状腺乳頭癌は甲状腺悪性腫瘍の約90%を占める最多の組織型で、30〜50歳代の女性に多く、進行が緩やかで予後が最も良い。本問は「乳頭癌らしさ」を示す所見を選ぶ問題である。 乳頭癌の診断の中心は、超音波検査と穿刺吸引細胞診である。 ・超音波検査:境界不明瞭で辺縁が不整な低エコー腫瘤、縦横比が大きい(縦長の)形状、内部の微細石灰化などがみられる。 ・病理・細胞診:砂粒小体(psammoma body;同心円状の層構造をもつ微小な石灰化)、すりガラス状の核、核溝(コーヒー豆のような核の切れ込み)、核内細胞質封入体が特徴である。 砂粒小体に相当する微細な石灰化は、超音波検査では点状の高エコー像として描出される。この所見は乳頭癌に比較的特異的であり、診断的価値が高い。 一方、腫瘍マーカーや甲状腺機能検査は乳頭癌の存在診断にはあまり役立たない。乳頭癌は通常、甲状腺機能に影響しないため機能は正常であり、血中マーカーも良性疾患との区別が難しい。選択肢を検討する際は、「その所見が乳頭癌に特異的か」「他の甲状腺腫瘍や甲状腺疾患でもみられないか」という視点で判断するとよい。
選択肢考察
- ×a. CEA高値
CEA(癌胎児性抗原)は大腸癌などで用いられる腫瘍マーカーであるが、甲状腺腫瘍の中では髄様癌で上昇する。髄様癌はカルシトニンを分泌する傍濾胞細胞(C細胞)由来の癌で、カルシトニンとCEAの高値が特徴である。濾胞上皮由来の乳頭癌ではCEAは通常上昇しない。
- ×b. TSH低値
TSH(甲状腺刺激ホルモン)の低値は、甲状腺ホルモンが過剰な状態(バセドウ病、無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎、機能性結節など)で、ネガティブフィードバックによりTSH分泌が抑制されることを示す。乳頭癌は甲状腺ホルモンを過剰に作ることはなく、通常は甲状腺機能正常であるため、TSH低値は乳頭癌の診断に結びつかない。
- ×c. サイログロブリン高値
サイログロブリンは甲状腺濾胞細胞が産生するタンパクで、乳頭癌で高値となることはあるが、濾胞癌や、濾胞腺腫・腺腫様甲状腺腫などの良性疾患、バセドウ病や甲状腺炎でも上昇するため、乳頭癌に特異的ではない。特に大きな良性結節でも高値となり得る。臨床的には、甲状腺全摘術後(および放射性ヨウ素による残存甲状腺の破壊後)に正常甲状腺組織がなくなった状態で、再発・転移を監視するマーカーとして有用である。なお抗サイログロブリン抗体が陽性だと測定値が不正確になる点にも注意する。
- ○d. 超音波検査で点状高エコー像
乳頭癌の組織内には砂粒小体と呼ばれる微細な石灰化がしばしば生じ、これが超音波検査で音響陰影を伴わない細かな点状の高エコー像(微細石灰化)として描出される。この所見は乳頭癌に特徴的で悪性を強く示唆するため、境界不整な低エコー腫瘤などの所見とあわせて診断に最も有用である。確定診断は、超音波ガイド下の穿刺吸引細胞診で核溝や核内細胞質封入体などを確認して行う。
- ×e. 頸部エックス線写真で粗大石灰化像
乳頭癌に特徴的なのは砂粒小体による「微細な」石灰化であり、単純エックス線写真で見えるような粗大な石灰化ではない。粗大石灰化は腺腫様甲状腺腫などの良性結節で長期経過に伴ってみられることが多く、髄様癌や未分化癌でも認められることがあるため、乳頭癌に特異的ではない。また甲状腺結節の評価には単純エックス線写真より超音波検査が優れている。
甲状腺悪性腫瘍の組織型と特徴
・乳頭癌(約90%):濾胞上皮由来。リンパ行性に頸部リンパ節へ転移しやすい。砂粒小体、すりガラス状核、核溝、核内細胞質封入体。予後は最も良好。放射線被曝(小児期)が危険因子。BRAF遺伝子変異が多い。 ・濾胞癌(約5%):濾胞上皮由来。血行性に肺・骨へ転移しやすい。細胞診では濾胞腺腫との区別が困難で、被膜浸潤・脈管浸潤の有無により組織学的に診断する。 ・髄様癌(1〜2%):傍濾胞細胞(C細胞)由来。カルシトニン・CEA高値。約1/4〜1/3が遺伝性で、多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2、RET遺伝子変異)に合併する。アミロイド沈着を伴う。 ・未分化癌(1〜2%):高齢者に多く、急速に増大し予後は極めて不良。乳頭癌などから未分化転化して生じることがある。 ・悪性リンパ腫:橋本病(慢性甲状腺炎)を背景に発生することが多い。
甲状腺結節の超音波で悪性を疑う所見
形状不整、境界不明瞭・粗雑、内部低エコー、縦横比が大きい、微細石灰化(点状高エコー)、境界部低エコー帯(ハロー)の不整・欠如など。
乳頭癌の治療
甲状腺切除(葉切除または全摘)と頸部リンパ節郭清が基本。高リスク例では全摘後に放射性ヨウ素内用療法とTSH抑制療法を行う。術後はサイログロブリンで再発を監視する。
POINT
・乳頭癌は甲状腺癌の約90%、予後良好、リンパ行性転移が多い。 ・超音波の微細石灰化(点状高エコー)=砂粒小体を反映し、乳頭癌に特徴的。 ・細胞診ではすりガラス状核、核溝、核内細胞質封入体。 ・CEA・カルシトニン高値は髄様癌。 ・サイログロブリンは乳頭癌に特異的ではなく、全摘術後の再発マーカーとして有用。
