「赤痢」の犯人はサルモネラじゃない―感染症と原因菌、似た名前に潜む落とし穴
第108回医師国家試験 I問題 第15問
国試問題にチャレンジ
感染症と原因菌の組合せで誤っているのはどれか。
- a.Waterhouse-Friderichsen症候群 ―― Neisseria meningitidis
- b.偽膜性腸炎 ―― Clostridium difficile
- c.細菌性赤痢 ―― Salmonella spp.〈サルモネラ属菌〉
- d.院内肺炎 ―― Pseudomonas aeruginosa
- e.食中毒 ―― Vibrio parahaemolyticus
対話形式の解説
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ドクターまとめ
細菌性赤痢の原因菌は赤痢菌(Shigella属)であり、サルモネラ属菌ではありません。赤痢菌は少数の菌量で感染して大腸粘膜に侵入し、発熱・しぶり腹・粘血便をきたす一方、サルモネラは鶏卵・食肉による食中毒や腸チフス・パラチフスの原因菌です。そのほか、髄膜炎菌によるWaterhouse-Friderichsen症候群、抗菌薬投与後のC. difficileによる偽膜性腸炎、耐性菌として重要な緑膿菌による院内肺炎、夏季の魚介類による腸炎ビブリオ食中毒は、いずれも正しい組合せです。細菌性赤痢とアメーバ赤痢の区別や、食中毒の原因菌と原因食品の対応もあわせて整理しておくと、問診から原因菌を推定する臨床的な思考に直結します。
解答・解説
正解はcです
本問は、代表的な感染症とその原因菌の対応を問う知識問題であり、「誤っている組合せ」を一つ選ぶ形式である。 解く際には、各疾患について「名前の由来になった菌」や「典型的な原因菌」を思い浮かべ、選択肢の菌と一致するかを確認すればよい。特に、疾患名に菌の名前が含まれるもの(赤痢と赤痢菌)は取り違えやすいポイントである。細菌性赤痢の原因は赤痢菌(Shigella属)であり、サルモネラ属菌(Salmonella属)ではない。両者はいずれも腸内細菌目に属するグラム陰性桿菌で、ともに腸管感染症を起こすため混同されやすいが、別の属の菌である。 そのほかの組合せ(髄膜炎菌とWaterhouse-Friderichsen症候群、ディフィシル菌と偽膜性腸炎、緑膿菌と院内肺炎、腸炎ビブリオと食中毒)は、いずれも教科書的な対応として正しい。
選択肢考察
- ×a. Waterhouse-Friderichsen症候群 ―― Neisseria meningitidis
正しい組合せ。Waterhouse-Friderichsen症候群は、電撃型の髄膜炎菌(Neisseria meningitidis、グラム陰性双球菌)感染症において、敗血症と播種性血管内凝固(DIC)に伴って両側の副腎に出血が起こり、急性副腎不全とショックに陥る病態である。急速に広がる紫斑(電撃性紫斑)を伴い、致死率が高い。肺炎球菌やインフルエンザ菌などの重症敗血症でも起こりうるが、代表的な原因菌は髄膜炎菌である。
- ×b. 偽膜性腸炎 ―― Clostridium difficile
正しい組合せ。偽膜性腸炎は、抗菌薬の投与によって腸内細菌叢が乱れ(菌交代現象)、嫌気性のグラム陽性芽胞形成桿菌であるClostridium difficile(現在の学名はClostridioides difficile)が増殖して毒素(トキシンA・トキシンB)を産生することで起こる大腸炎である。大腸粘膜表面に黄白色の偽膜(フィブリン・炎症細胞・壊死組織などからなる斑状の膜)が形成される。診断は便中のCDトキシン検査や遺伝子検査、内視鏡所見で行い、治療は原因抗菌薬の中止とバンコマイシンやフィダキソマイシンなどの経口投与が基本である。
- ○c. 細菌性赤痢 ―― Salmonella spp.〈サルモネラ属菌〉
誤った組合せであり、本問の正解である。細菌性赤痢の原因菌は赤痢菌(Shigella属)で、S. dysenteriae、S. flexneri、S. boydii、S. sonneiの4菌種がある。日本ではS. sonneiが多く、流行地域への渡航者の輸入例として見られることが多い。ごく少数の菌量(10〜100個程度)で感染が成立し、大腸粘膜に侵入して発熱、腹痛、しぶり腹(テネスムス)、粘血便をきたす。一方、サルモネラ属菌は、非チフス性サルモネラによる食中毒(鶏卵・鶏肉などが原因食品)や、チフス菌・パラチフスA菌による腸チフス・パラチフスの原因となる菌であり、細菌性赤痢の原因菌ではない。
- ×d. 院内肺炎 ―― Pseudomonas aeruginosa
正しい組合せ。院内肺炎(入院後48時間以上経過してから発症する肺炎)では、市中肺炎と比べてグラム陰性桿菌や耐性菌の関与が多い。緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa、ブドウ糖非発酵のグラム陰性桿菌)は、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、クレブシエラ属、エンテロバクター属、アシネトバクター属などとともに院内肺炎の代表的な原因菌である。特に人工呼吸器関連肺炎(VAP)や免疫不全患者で問題となり、多くの抗菌薬に自然耐性をもつため、抗緑膿菌活性をもつ薬剤(ピペラシリン・タゾバクタム、セフェピム、メロペネムなど)を選択する必要がある。
- ×e. 食中毒 ―― Vibrio parahaemolyticus
正しい組合せ。腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)は、海水程度の塩分濃度を好む好塩性のグラム陰性桿菌で、海水温の上がる夏季に魚介類(刺身、寿司など)を介して食中毒を起こす。潜伏期は半日前後と短く、激しい腹痛と水様下痢を呈する。かつては日本の細菌性食中毒の原因として最多クラスであったが、低温流通の徹底や規格基準の整備により近年は大きく減少している。
赤痢菌とサルモネラ属菌の比較
赤痢菌(Shigella属):ヒトとサルのみが宿主。少数の菌量で感染し、ヒトからヒトへの感染も起こしやすい。大腸粘膜に侵入して粘血便・しぶり腹をきたす。感染症法の3類感染症。 サルモネラ属菌(Salmonella属):非チフス性サルモネラは家畜・家禽・爬虫類などが保菌し、鶏卵・食肉を介して食中毒(発熱、腹痛、下痢)を起こす。チフス菌(S. Typhi)・パラチフスA菌(S. Paratyphi A)はヒトのみを宿主とし、腸チフス・パラチフス(3類感染症)の原因となる。
赤痢には細菌性とアメーバ性がある
赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)は原虫で、イチゴゼリー状の粘血便を特徴とするアメーバ赤痢を起こし、肝膿瘍を合併することがある(5類感染症)。細菌性赤痢とは原因微生物が異なる。
主な細菌性食中毒の原因菌と原因食品
腸炎ビブリオ:魚介類(夏季) カンピロバクター:鶏肉(生・加熱不十分) サルモネラ:鶏卵・食肉 腸管出血性大腸菌:牛肉・生野菜など(溶血性尿毒症症候群に注意) 黄色ブドウ球菌:おにぎりなど手作業で調理した食品(毒素型、潜伏期が短い) ウェルシュ菌:カレーなど大量調理後に室温放置した煮込み料理 ボツリヌス菌:いずし、真空パック食品、はちみつ(乳児ボツリヌス症) セレウス菌:チャーハン(嘔吐型)など
菌名の補足
Clostridium difficileは2016年にClostridioides difficileへ学名が変更されたが、略称のC. difficile(CD)はそのまま用いられている。
POINT
・細菌性赤痢の原因は赤痢菌(Shigella属)であり、サルモネラ属菌ではない。 ・Waterhouse-Friderichsen症候群:髄膜炎菌敗血症に伴う両側副腎出血と急性副腎不全。 ・偽膜性腸炎:抗菌薬投与後の菌交代現象でC. difficileが毒素を産生して起こる。 ・院内肺炎では緑膿菌、MRSAなどの耐性菌を考慮する。 ・腸炎ビブリオは夏季の魚介類による食中毒の原因菌。
