StudyMed医師国家試験

骨を溶かす「白い袋」―真珠腫性中耳炎の症状は“壊した場所”で読み解く

第99回医師国家試験 E問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第99回 E問題 第13問

真珠腫性中耳炎でみられないのはどれか。

  1. a.鼓膜穿孔
  2. b.耳漏
  3. c.めまい
  4. d.舌咽神経痛
  5. e.混合性難聴

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は真珠腫性中耳炎でみられない症状を選ぶ問題だ。ポイントは、真珠腫が周囲の骨を壊しながら広がる病変だということ。どの構造が壊されると、どんな症状が出るかを順に考えれば、仲間外れが見えてくるよ。
医学生医学生
真珠腫って名前から腫瘍だと思っていたんですが、違うんですよね。
ドクタードクター
そう、よくある誤解だね。真珠腫は腫瘍ではなく、中耳腔に角化重層扁平上皮が入り込み、垢のような角化物をため込みながら袋状に大きくなる病変だ。周囲の炎症で破骨細胞や蛋白分解酵素が活性化し、骨をじわじわ溶かしていく。そこが単なる慢性中耳炎との大きな違いなんだ。
医学生医学生
耳鼻科の臨床実習で内視鏡を見せてもらったとき、鼓膜の上のほうがへこんで白いものが詰まっていました。
ドクタードクター
それが典型的な弛緩部型の後天性真珠腫だ。耳管機能が悪く中耳が陰圧になると、鼓膜の上方の弛緩部が陥凹し、そこに角化物がたまって育っていく。だから鼓膜の陥凹や穿孔は当然みられる所見だよ。ちなみに先天性真珠腫は鼓膜が正常で、奥に白い塊が透けて見えるのが特徴だ。
医学生医学生
耳漏はどうでしょう。普通の中耳炎でも出ますよね。
ドクタードクター
出るけれど、真珠腫の耳漏には特徴がある。たまった角化物に緑膿菌や嫌気性菌が感染して、悪臭を伴い、治療してもなかなか止まらない。難治性で臭う耳漏を見たら真珠腫を疑え、というのが臨床の勘所だ。
医学生医学生
めまいは、内耳まで壊されたときに起こるんでしょうか。
ドクタードクター
その通り。中耳に面している外側半規管が侵食されて迷路瘻孔ができると、めまいが出る。外耳道に圧をかけると眼振が誘発される瘻孔症状が特徴で、手術前に確認しておく大事な検査なんだ。
医学生医学生
難聴は伝音難聴だけかと思っていましたが、混合性もあり得るんですね。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。耳小骨が壊されれば伝音難聴、さらに炎症や瘻孔で内耳が障害されれば感音難聴が加わって混合性難聴になる。逆に、真珠腫自体が耳小骨の隙間を埋めて音を伝え、聴力が意外に保たれていることもあるから、聴力だけで進行度は判断できない。
医学生医学生
そうなると、残る舌咽神経痛が正解ですね。でも、真珠腫で神経が障害されることもあると習った気がします。
ドクタードクター
神経障害は確かに起こるけれど、代表は顔面神経麻痺だ。顔面神経は中耳のすぐそばの骨の管を走っていて、その骨壁が薄いから破壊されやすい。一方、舌咽神経は延髄から出て頸静脈孔を抜ける神経で、中耳を主座とする真珠腫の通常の進展経路からは外れている。舌咽神経痛は嚥下などをきっかけに咽頭や舌根から耳の奥に走る発作痛で、多くは頭蓋内で血管が神経を圧迫して起こるとされる、まったく別の病態なんだ。
医学生医学生
神経解剖の講義で、中耳の近くを通るのは第VII脳神経と第VIII脳神経、と整理した覚えがあります。
ドクタードクター
その整理がまさに役立つ問題だね。耳の炎症と脳神経でもう一つ覚えておきたいのが、錐体尖炎によるGradenigo症候群。外転神経麻痺と三叉神経第1枝領域の痛みが出るもので、ここでも痛むのは三叉神経であって舌咽神経ではない。
医学生医学生
頭蓋内まで広がることもあるんですよね。
ドクタードクター
そう。中頭蓋窩や後頭蓋窩の骨板が壊されると、髄膜炎、硬膜外膿瘍、脳膿瘍、S状静脈洞血栓症といった命にかかわる合併症が起こり得る。だから骨破壊が進行性の真珠腫は手術、つまり鼓室形成術や必要に応じた乳突削開術が根本治療になる。術前には側頭骨CTで骨破壊の範囲を、MRI拡散強調像で真珠腫そのものを評価するんだ。
医学生医学生
手術で取れば終わり、というわけにはいかないんですか。
ドクタードクター
再発や遺残が多いのが真珠腫の厄介なところで、段階的に手術を行ったり、何年も経過を追ったりする必要がある。外来で耳漏を繰り返す患者さんがいたら、一度は鼓膜の上方までしっかり観察する習慣をつけておこう。

まとめ

真珠腫性中耳炎は、中耳に入り込んだ角化重層扁平上皮が角化物をため込みながら周囲の骨を破壊して進展する病変で、症状は「どこを壊したか」で整理すると理解しやすくなります。鼓膜弛緩部の陥凹・穿孔、悪臭を伴う難治性耳漏、耳小骨破壊による伝音難聴、迷路瘻孔によるめまいと内耳障害による混合性難聴、顔面神経管の破壊による顔面神経麻痺が代表的な所見です。一方、舌咽神経は頸静脈孔を通る神経で真珠腫の通常の進展範囲外にあり、舌咽神経痛は真珠腫の所見とはいえません。髄膜炎や脳膿瘍などの頭蓋内合併症を起こし得るため手術が原則で、再発・遺残に備えた長期の経過観察も欠かせません。側頭骨周囲の解剖と症状を結びつける考え方は、中耳疾患の合併症を理解する土台になります。

解答・解説

正解はdです

真珠腫性中耳炎の症状・所見と、その合併症の範囲を問う問題である。 真珠腫とは、中耳腔内に角化重層扁平上皮が入り込み、角化物(デブリ)を堆積しながら袋状に増大する病変である。腫瘍ではないが、周囲に炎症を伴い、蛋白分解酵素や破骨細胞の活性化によって周囲の骨を破壊しながら進展するのが最大の特徴である。 したがって症状は「真珠腫がどの構造を壊したか」で考えるとよい。 ・鼓膜:弛緩部(上鼓室側)の陥凹・穿孔 ・感染:悪臭を伴う難治性・反復性の耳漏 ・耳小骨:連鎖の破壊による伝音難聴 ・内耳(とくに外側半規管、蝸牛):迷路瘻孔によるめまい、感音難聴 → 伝音難聴と合わせて混合性難聴 ・顔面神経管:顔面神経麻痺 ・中頭蓋窩・後頭蓋窩の骨板、S状静脈洞:髄膜炎、脳膿瘍、硬膜外膿瘍、S状静脈洞血栓症などの頭蓋内合併症 中耳に隣接し、真珠腫の骨破壊によって障害されうる脳神経は主に顔面神経(第VII脳神経)と内耳神経(第VIII脳神経)の領域である。舌咽神経(第IX脳神経)は頸静脈孔を通って頭蓋外に出る神経であり、真珠腫の典型的な進展経路からは外れるため、舌咽神経痛は真珠腫性中耳炎でみられる所見とはいえない。

選択肢考察

  1. ×a.  鼓膜穿孔

    みられる。後天性真珠腫の多くは鼓膜弛緩部(上方のシュラプネル膜)の陥凹から生じる弛緩部型であり、弛緩部の陥凹・穿孔と、その奥に白色の角化物(デブリ)が観察される。緊張部の穿孔縁から上皮が侵入する緊張部型もある。なお先天性真珠腫では鼓膜は正常で、鼓膜の奥に白色塊が透見されるのが特徴である。

  2. ×b.  耳漏

    みられる。堆積した角化物に細菌(緑膿菌や嫌気性菌など)が感染し、悪臭を伴う耳漏を反復する。保存的治療に抵抗性の難治性耳漏は真珠腫を疑うきっかけとなる。

  3. ×c.  めまい

    みられる。真珠腫が骨迷路を侵食すると、とくに中耳に面した外側半規管に瘻孔(迷路瘻孔)が形成され、めまいが生じる。外耳道に陽圧・陰圧をかけると眼振が誘発される瘻孔症状(瘻孔検査陽性)が特徴的である。

  4. ○d.  舌咽神経痛

    みられない(正解)。舌咽神経痛は、嚥下や会話などを誘因として咽頭・扁桃・舌根部から耳の奥にかけて発作性の激痛が生じる疾患で、多くは頭蓋内での血管による神経の圧迫が原因とされる。舌咽神経は延髄から出て頸静脈孔を通る神経で、中耳腔を主座とする真珠腫の通常の進展範囲には含まれない。真珠腫で合併しやすい神経障害は、骨の薄い顔面神経管が破壊されて起こる顔面神経麻痺である。

  5. ×e.  混合性難聴

    みられる。耳小骨の破壊や鼓膜穿孔により伝音難聴が生じ、さらに内耳障害(迷路瘻孔、炎症の内耳波及)が加わると感音難聴も生じて混合性難聴となる。一方、真珠腫が耳小骨の間を埋めて音を伝えてしまう場合は聴力が比較的保たれることもあり、聴力像は正常から伝音・感音・混合性難聴まで進展度によって様々である。

真珠腫性中耳炎の分類

・先天性真珠腫:胎生期の上皮の遺残による。小児に多く、鼓膜は正常で、前上象限などの鼓膜の奥に白色塊が透見される。 ・後天性一次性真珠腫:耳管機能不全などによる中耳の陰圧で鼓膜が陥凹し、そこに角化物がたまって形成される。弛緩部型が最多で、ほかに緊張部型がある。 ・後天性二次性真珠腫:鼓膜穿孔の辺縁から外耳道の上皮が中耳腔内に侵入して生じる。

検査

耳鏡・内視鏡による鼓膜所見、純音聴力検査、瘻孔検査、側頭骨CT(骨破壊、耳小骨・半規管・顔面神経管の状態の評価)、MRI拡散強調像(真珠腫が高信号となり、術後の再発・遺残の評価に有用)を行う。

治療

骨破壊が進行性であるため、根本治療は手術(鼓室形成術、必要に応じて乳突削開術)である。再発・遺残が起こりやすく、段階的手術(二期的手術)や長期の経過観察が必要となる。

合併症の整理

頭蓋外合併症:迷路瘻孔、顔面神経麻痺、耳後部膿瘍、錐体尖炎など 頭蓋内合併症:髄膜炎、硬膜外膿瘍、脳膿瘍(側頭葉・小脳)、S状静脈洞血栓症など

参考:錐体尖炎

中耳炎の炎症が側頭骨錐体尖部に及ぶと、外転神経麻痺と三叉神経痛(第1枝領域の眼窩深部痛)を伴う Gradenigo 症候群を生じうる。耳の炎症と関連して痛みを生じるのはこの三叉神経であり、舌咽神経ではない。

POINT

・真珠腫性中耳炎は周囲の骨を破壊しながら進展する。 ・症状:弛緩部の陥凹・穿孔、悪臭を伴う耳漏、伝音〜混合性難聴、迷路瘻孔によるめまい(瘻孔症状)。 ・神経合併症は顔面神経麻痺が代表的。舌咽神経は障害されない。 ・頭蓋内合併症(髄膜炎・脳膿瘍・S状静脈洞血栓症)を起こしうるため手術が原則。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。