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早すぎる診断は当てにならない―「胎盤は上がっていく」前置胎盤の落とし穴

第99回医師国家試験 E問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第99回 E問題 第1問

前置胎盤で誤っているのはどれか。

  1. a.多産婦に多い。
  2. b.癒着胎盤が多い。
  3. c.無痛性出血をみる。
  4. d.妊娠15週で診断できる。
  5. e.人工妊娠中絶術の既往は危険因子である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は前置胎盤について、誤っている記述を選ぶ問題だ。危険因子、合併症、症状、そして「いつ診断できるか」という4つの観点で知識を整理していこう。まず前置胎盤とはどんな状態か、説明できるかな。
医学生医学生
胎盤が子宮の低い位置に付着して、内子宮口を覆っている状態です。
ドクタードクター
その通り。胎盤が子宮下部に付着し、内子宮口の全部または一部を覆う。では、なぜ胎盤が下のほうに付いてしまうのか、危険因子から考えよう。
医学生医学生
産婦人科の講義で、帝王切開の既往がリスクだと習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。ポイントは「子宮内膜の傷や瘢痕」だ。帝王切開術、人工妊娠中絶術や流産後の子宮内容除去術といった子宮内操作、筋腫核出術などで内膜に瘢痕ができると、その部位には胎盤がうまく着床・発育できない。胎盤がより広い面積を求めて子宮下部へ広がると考えられているんだ。
医学生医学生
だから人工妊娠中絶術の既往も危険因子になるんですね。多産婦に多いのも、分娩を重ねるたびに内膜が傷むからでしょうか。
ドクタードクター
そう考えていい。分娩や産褥期の変化で内膜は損傷を受けやすく、胎盤の付着に適した場所が減っていく。ほかに高齢妊娠、多胎、喫煙、生殖補助医療による妊娠も危険因子だ。次は合併症。癒着胎盤が多いという記述はどうかな。
医学生医学生
子宮下部は筋層が薄いと聞いたので、正しい気がします。
ドクタードクター
正しい。子宮下部は筋層が薄く、脱落膜の形成も不十分なため、絨毛が筋層に直接入り込む癒着胎盤を合併しやすい。特に帝王切開瘢痕の上に胎盤が付着している場合は、帝王切開の回数が増えるほどリスクが大きく上がる。だから分娩前にカラードプラ超音波やMRIで評価して、大量出血に備えるんだ。
医学生医学生
症状は「痛くない出血」ですよね。臨床実習で、常位胎盤早期剥離との鑑別として何度も確認されました。
ドクタードクター
そこは定番の鑑別だね。妊娠中期以降、子宮下部の伸展や子宮収縮に胎盤がついていけず一部が剥がれて出血する。痛みを伴わず、少量の出血を繰り返すことが多く、警告出血と呼ばれる。一方、早剥は腹痛と板状硬の子宮、胎児機能不全やDICを起こしやすいのが特徴だ。
医学生医学生
ということは、残る「妊娠15週で診断できる」が誤りですか。でも超音波で胎盤の位置は15週でも見えますよね。
ドクタードクター
いい疑問だ。見えること自体はできるんだけど、確定診断はできない。妊娠初期から中期前半には、子宮下部がまだ形成されていないんだ。妊娠が進むと子宮峡部が伸びて子宮下部が作られ、胎盤の下縁は相対的に内子宮口から離れていく。これをplacental migration、胎盤の上昇と呼ぶ。
医学生医学生
胎盤自体が動くのではなく、下の部分が伸びるから離れて見える、ということですね。
ドクタードクター
その理解で正確だ。だから妊娠早期に低い位置にあった胎盤の多くは、後に前置胎盤ではなくなる。診断は子宮下部が形成される妊娠20週以降に行い、最終的には妊娠31週ごろまでに経腟超音波で判断するのが一般的だ。よって誤っているのは妊娠15週で診断できるという記述になる。
医学生医学生
診断の話で思い出したんですが、前置胎盤が疑われるときは内診をしてはいけないんでしたっけ。
ドクタードクター
その通り、内診は大出血を誘発するおそれがあるから禁忌だ。経腟超音波は慎重に行えば安全に評価できる。分類も確認しておこう。内子宮口を完全に覆う全前置、一部を覆う部分前置、下縁が内子宮口の縁にちょうど達する辺縁前置、そして覆ってはいないが下縁が内子宮口から2cm以内にある低置胎盤がある。
医学生医学生
分娩はやはり帝王切開になるんですか。
ドクタードクター
原則として帝王切開だ。全前置・部分前置では陣痛が来る前、妊娠37週前後に予定帝王切開を行うことが多い。自己血貯血や輸血の準備も欠かせない。注意したいのは、子宮下部は収縮力が弱いので胎盤を娩出した後も弛緩出血を起こしやすいこと。癒着胎盤を合併して止血できなければ、子宮摘出が必要になることもある。
医学生医学生
出産が終わってからも気が抜けないんですね。
ドクタードクター
そうなんだ。前置胎盤は「出血と闘う疾患」だと意識して、妊娠中から分娩後まで一貫して備えることが大切だよ。

まとめ

前置胎盤は胎盤が子宮下部に付着して内子宮口を覆う状態で、帝王切開術や人工妊娠中絶術など子宮内膜に瘢痕を残す既往、経産婦・多産婦、高齢、多胎、喫煙、生殖補助医療が危険因子です。子宮下部は筋層が薄く脱落膜形成が不良なため癒着胎盤を合併しやすく、症状は妊娠中期以降の無痛性出血(警告出血)で、腹痛と板状硬を伴う常位胎盤早期剥離との鑑別が重要です。妊娠早期は子宮下部が未形成で、その後の子宮下部の伸展によって胎盤下縁が内子宮口から離れていく(placental migration)ため、妊娠15週では確定診断できず、診断は妊娠20週以降、最終判断は31週ごろまでに経腟超音波で行います。内診は禁忌で、分娩は原則として予定帝王切開とし、弛緩出血や癒着胎盤による大量出血に備えます。「いつ診断するか」と「なぜ出血しやすいか」を構造から理解することが、産科救急に強くなる土台になります。

解答・解説

正解はdです

前置胎盤とは、胎盤が正常より低い位置、すなわち子宮下部に付着し、内子宮口の全部または一部を覆っている状態である。本問は「誤っているもの」を選ぶ問題であり、前置胎盤の危険因子、合併症、症状、診断時期についての理解が問われている。

押さえるべき要点

・危険因子: 子宮内膜に傷や瘢痕を残す既往(帝王切開術、人工妊娠中絶術や子宮内容除去術などの子宮内操作、子宮筋腫核出術)、経産婦・多産婦、高齢妊娠、多胎妊娠、喫煙、体外受精など生殖補助医療による妊娠など。内膜に傷のある部位には胎盤が着床・発育しにくく、胎盤がより広い面積を求めて子宮下部へ広がると考えられている。 ・合併症: 子宮下部は脱落膜の発育が悪く筋層も薄いため、絨毛が筋層へ入り込む癒着胎盤を合併しやすい。 ・症状: 妊娠中期以降に、痛みを伴わない性器出血(警告出血)をみる。 ・診断時期: 妊娠初期〜中期前半は子宮下部がまだ形成されておらず、その後子宮峡部が伸展して子宮下部が形成されるにつれて、胎盤の下縁は相対的に内子宮口から離れていく(placental migration、胎盤の上昇)。このため妊娠早期に低い位置にみえた胎盤の多くは、妊娠が進むと前置胎盤でなくなる。 したがって、妊娠15週の時点では前置胎盤の確定診断はできず、d が誤りである。

選択肢考察

  1. ×a.  多産婦に多い。

    正しい記述である。分娩を重ねるほど子宮内膜は分娩や産褥期の変化による損傷・瘢痕を受けやすく、胎盤の付着に適した部位が減るため、胎盤が子宮下部に付着しやすくなる。前置胎盤は初産婦より経産婦に多く、特に帝王切開術の既往がある経産婦でリスクが高い。

  2. ×b.  癒着胎盤が多い。

    正しい記述である。胎盤が付着する子宮下部は子宮体部に比べ筋層が薄く、脱落膜(妊娠時の子宮内膜)の形成も不十分なため、絨毛が子宮筋層へ直接侵入する癒着胎盤を合併しやすい。前置胎盤の癒着胎盤の合併頻度は通常の妊娠に比べて明らかに高く、とくに帝王切開瘢痕の上に胎盤が付着している場合には、帝王切開の回数が増えるほど著しく上昇する。このため帝王切開既往のある前置胎盤では、カラードプラ超音波やMRIで癒着胎盤の有無を分娩前に評価し、大量出血に備える必要がある。

  3. ×c.  無痛性出血をみる。

    正しい記述である。妊娠中期以降、子宮下部の伸展や子宮収縮に胎盤がついていけず、胎盤の一部が剥がれて出血する。このときの出血は痛みを伴わないのが特徴で、少量の出血を繰り返すことが多く、警告出血(alarm bleeding)とよばれる。腹痛や子宮の硬直を伴う常位胎盤早期剥離との鑑別点として重要である。

  4. ○d.  妊娠15週で診断できる。

    誤った記述であり、本問の正解である。妊娠初期から中期前半には子宮下部がまだ形成されていない。妊娠が進むにつれて子宮峡部が伸びて子宮下部が作られ、胎盤は相対的に子宮底側へ移動したようにみえる(placental migration)。そのため妊娠15週で胎盤が内子宮口を覆っていても、その多くは後に前置胎盤ではなくなる。前置胎盤の診断は子宮下部が形成される妊娠20週以降に行い、最終的な診断は妊娠中期後半から妊娠31週ごろまでに経腟超音波で行うのが一般的である。

  5. ×e.  人工妊娠中絶術の既往は危険因子である。

    正しい記述である。人工妊娠中絶術や流産後の子宮内容除去術などの子宮内操作は、子宮内膜に損傷や瘢痕を残す。瘢痕のある部位は胎盤の着床・発育に適さないため、胎盤が子宮下部へ付着しやすくなり、前置胎盤のリスクが上がる。同じ理由で癒着胎盤の危険因子にもなる。

前置胎盤の分類

胎盤の下縁と内子宮口の位置関係により分類する。 ・全前置胎盤: 胎盤が内子宮口を完全に覆う。 ・部分前置胎盤: 胎盤が内子宮口の一部を覆う。 ・辺縁前置胎盤: 胎盤の下縁が内子宮口の縁にちょうど達している。 ・低置胎盤: 胎盤が内子宮口を覆ってはいないが、その下縁が内子宮口から2cm以内にある。 現在は経腟超音波で内子宮口から胎盤辺縁までの距離を測り、内子宮口を覆う程度(胎盤辺縁が内子宮口を越える距離)で評価する方法が広く用いられている。

診断

経腟超音波が基本である。内診は大出血を誘発するおそれがあるため、前置胎盤が疑われる場合は行わない(禁忌)。癒着胎盤の評価にはカラードプラ超音波やMRIを用いる。

管理と分娩

・警告出血があれば入院管理とし、安静や子宮収縮抑制薬の投与を行う。 ・分娩様式は原則として帝王切開術で、全前置・部分前置胎盤では陣痛発来前の妊娠37週前後に予定帝王切開を行うことが多い。 ・出血に備えて自己血貯血や輸血の準備を行う。 ・子宮下部は収縮力が弱いため、胎盤娩出後にも弛緩出血をきたしやすい。癒着胎盤を合併し止血困難な場合は子宮摘出が必要になることがある。

常位胎盤早期剥離との比較

・前置胎盤: 無痛性、外出血が主、子宮は軟らかい、胎児機能不全は大出血まで少ない。 ・常位胎盤早期剥離: 腹痛を伴う、外出血は少ないこともある、子宮は板状に硬い、胎児機能不全やDIC(播種性血管内凝固)をきたしやすい。妊娠高血圧症候群が主な危険因子。

POINT

・前置胎盤の危険因子: 帝王切開術や人工妊娠中絶術など子宮内膜の瘢痕、経産婦・多産婦、高齢、多胎、喫煙、生殖補助医療。 ・症状は妊娠中期以降の無痛性出血(警告出血)である。 ・子宮下部は筋層が薄く脱落膜形成が不良なため、癒着胎盤を合併しやすい。特に帝王切開既往で注意する。 ・子宮下部の形成とplacental migrationのため、妊娠早期(妊娠15週など)には診断できない。診断は妊娠20週以降、最終診断は妊娠31週ごろまでに経腟超音波で行う。 ・内診は禁忌で、分娩は原則帝王切開である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。