StudyMed医師国家試験

「34週の壁」を越える前に―出生前ステロイドが守る赤ちゃんの肺

第120回医師国家試験 E問題 第25問

国試問題にチャレンジ

第120回 E問題 第25問

早産のリスクのある胎児の肺成熟を期待し,母体にグルココルチコイドを投与するのは,妊娠何週までか。

  1. a.24
  2. b.27
  3. c.30
  4. d.33
  5. e.36

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、早産が迫っている妊婦さんに母体経由でステロイドを投与して、赤ちゃんの肺を成熟させる治療についての問題だ。出生前ステロイド投与、英語でantenatal corticosteroidsと呼ばれるもので、問われているのは「いつまで投与するか」という上限の週数。胎児の肺がいつ頃成熟するのかを思い出すのが着眼点だよ。
医学生医学生
肺の成熟というと、サーファクタントですよね。発生学の講義で、Ⅱ型肺胞上皮細胞が作ると習いました。
ドクタードクター
その通り。サーファクタントは肺胞の表面張力を下げて、息を吐いたときに肺胞がつぶれないようにする物質だ。これが足りないまま生まれると、肺胞が虚脱して新生児呼吸窮迫症候群、いわゆるRDSを起こす。在胎週数が短いほどRDSは起こりやすい。
医学生医学生
正期産の37週まで投与すればいいのかなと一瞬思いましたが、そこまでは必要ないんでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だね。実はおおむね妊娠34週を過ぎると、大部分の児が自力で十分なサーファクタントを作れるようになって、RDSの発症率は大きく下がる。だから日本のガイドラインでは、1週間以内に分娩となる可能性が高い妊娠34週未満の妊婦さんにステロイドを投与することが勧められているんだ。
医学生医学生
34週未満ということは、満週数で言うと33週6日まで。選択肢の中では33週が上限ですね。
ドクタードクター
正解。「34週未満」と「33週まで」が同じ意味だと結びつけられるかがポイントだ。24週、27週、30週はいずれも投与の対象期間に含まれるけれど、上限ではないから答えにはならない。特に20週台後半の児はRDSや脳室内出血のリスクが高く、ステロイドの恩恵が大きい時期でもあるよ。
医学生医学生
では36週はどうでしょう。後期早産でも呼吸が苦しくなる赤ちゃんはいると、NICUの実習で聞いた気がします。
ドクタードクター
鋭いね。34〜36週の後期早産に投与すると新生児の呼吸障害がやや減ったという海外の臨床試験もある。ただ、新生児低血糖が増えることや、長期的な神経発達への影響がまだはっきりしないことから、日本では原則として標準的な適応とはされていない。上乗せ効果が小さいのに、有害事象の懸念が残るというわけだ。
医学生医学生
下限のほうは何週からなんですか。
ドクタードクター
従来は24週前後とされてきたけれど、超早産児の救命率が上がってきたことで、22週台からの投与も検討されるようになっている。ここは施設や状況によって判断が分かれる部分だね。
医学生医学生
使う薬は何でもいいんですか。プレドニゾロンなら病棟でよく見かけますが。
ドクタードクター
そこは大事な落とし穴。胎盤には母体のステロイドを不活化する酵素があって、プレドニゾロンやヒドロコルチゾンは胎盤で代謝されやすく、胎児に十分届かない。だから胎盤を通過しやすく不活化されにくいベタメタゾンを使う。ベタメタゾン12 mgを24時間あけて2回、母体に筋注するのが標準的なやり方だ。海外ではデキサメタゾンも使われているよ。
医学生医学生
妊娠中の喘息発作でプレドニゾロンを使うのは、逆に胎児に移行しにくいからという話とつながりますね。
ドクタードクター
よく結びつけたね。目的によって「胎児に届けたいのか、届けたくないのか」で薬を選ぶわけだ。次にタイミング。効果は最終投与から24時間ほどで出始め、投与開始から約1週間で減弱するとされている。だから「1週間以内に生まれそう」という見極めが重要なんだ。
医学生医学生
早めに打ちすぎると、実際に生まれる頃には効果が切れてしまうこともあるんですね。何回も繰り返せばいいわけでもないんですか。
ドクタードクター
反復投与は出生体重の減少や神経発達への悪影響が懸念されていて、ルーチンには行わない。期待される効果はRDSだけでなく、脳室内出血や壊死性腸炎の減少、新生児死亡率の低下にまで及ぶ。一方、母体側では一過性の高血糖や白血球増多が起こるから、糖尿病合併妊娠では血糖管理に注意が要る。白血球が増えても、ステロイドの影響か感染かを見極める必要があるね。臨床的絨毛膜羊膜炎のように感染徴候が明らかな場合は、娩出を優先するなど個別の判断になる。
医学生医学生
それでも生まれた後にRDSになってしまったら、どうするんでしょう。
ドクタードクター
そのときは人工肺サーファクタントを気管内に投与する。出生前は母体へのステロイドで肺の成熟を促し、出生後はサーファクタントを直接補う、という二段構えで赤ちゃんの肺を守るんだ。

まとめ

出生前ステロイド投与は、1週間以内の分娩が予測される妊娠34週未満、すなわち33週までの早産を対象に、胎児の肺成熟を促す目的で行われます。34週を過ぎると多くの児が自らサーファクタントを十分産生できるため上乗せ効果は小さく、新生児低血糖などの懸念もあって、日本では後期早産への投与は原則として適応外とされています。薬剤は胎盤で不活化されにくいベタメタゾン12 mgを24時間ごとに2回筋注し、効果は約1週間で減弱するため投与のタイミングが重要です。RDSのほか脳室内出血や壊死性腸炎、新生児死亡の減少が期待される一方、反復投与はルーチンには行いません。胎児肺の発達、薬剤の胎盤移行性、効果の時間経過を一つの流れとして理解することが、周産期医療の実践につながります。

解答・解説

正解はdです

問われていること

早産が差し迫った妊婦に対して、胎児の肺を成熟させる目的で母体へ副腎皮質ステロイド(グルココルチコイド)を投与する治療は、出生前ステロイド投与(antenatal corticosteroids:ACS)とよばれる。本問は、この治療の対象となる妊娠週数の上限を問うている。

ACSの適応の要点

日本の産婦人科診療ガイドラインでは、妊娠34週未満で、1週間以内に分娩となる可能性が高いと判断される妊婦に対してACSを行うことが勧められている。すなわち「34週0日より前」が対象であり、満週数で表せば「妊娠33週(33週6日)まで」となる。

なぜ34週が区切りなのか

胎児の肺では、妊娠後期にⅡ型肺胞上皮細胞から肺サーファクタント(肺胞の表面張力を下げ、肺胞がつぶれるのを防ぐ物質)が十分に産生されるようになる。おおむね妊娠34週を過ぎると、自力で十分なサーファクタントを産生できる児が大部分となり、呼吸窮迫症候群(RDS)の発症率は大きく低下する。そのため34週以降はACSによる上乗せ効果が小さく、一方で新生児低血糖などの有害事象の懸念が残るため、わが国では原則として投与の対象外とされる。 以上より、選択肢の中で「34週未満」に対応する最も遅い週数である33週が正解となる。

選択肢考察

  1. ×a.  24

    妊娠24週はACSの対象期間に含まれる週数であり、この時期に早産が切迫していれば投与が考慮される。しかし本問は投与の「上限」を問うており、上限は34週未満(33週まで)であるため誤りである。なお、ACSの開始週数の下限は従来24週前後とされてきたが、近年は超早産児の救命率向上に伴い、22週台からの投与も検討されるようになっている。

  2. ×b.  27

    妊娠27週も投与の対象期間内であり、この時期の早産児は特にRDSや脳室内出血のリスクが高いため、ACSの恩恵が大きい。ただし投与の上限ではないので誤りである。

  3. ×c.  30

    妊娠30週も34週未満であり、ACSの適応となる。上限はさらに後の33週までであるため、本問の答えとしては誤りである。

  4. ○d.  33

    ACSの対象は「1週間以内の分娩が予測される妊娠34週未満の妊婦」である。34週未満とは33週6日までを意味するため、選択肢の中で投与期間の上限に該当するのは33週である。34週以降は胎児が自前の肺サーファクタントを十分に産生できるようになることが多く、ACSの有益性が乏しくなる。

  5. ×e.  36

    妊娠34〜36週の後期早産(late preterm)では、胎児の肺はおおむね成熟しており、わが国のガイドラインではACSは原則として推奨されていない。海外では後期早産へのステロイド投与で新生児の呼吸障害がやや減少したとする臨床試験もあるが、新生児低血糖の増加や長期的な神経発達への影響が未解明であることから、日本では標準的な適応とはされていない。したがって誤りである。

出生前ステロイド投与(ACS)の実際

・薬剤:胎盤を通過しやすく、胎盤の酵素で不活化されにくいベタメタゾンが用いられる(海外ではデキサメタゾンも使われる)。プレドニゾロンやヒドロコルチゾンは胎盤で代謝されやすいため、この目的には適さない。 ・用法:ベタメタゾン12 mgを24時間間隔で2回、母体に筋肉内注射する。 ・効果発現と持続:最終投与後24時間ころから効果が現れ、投与開始から約1週間で効果が減弱するとされる。このため「1週間以内に分娩となりそうなとき」に投与するタイミングが重要である。

期待される効果

・新生児呼吸窮迫症候群(RDS)の減少 ・脳室内出血(頭蓋内出血)の減少 ・壊死性腸炎の減少 ・新生児死亡率の低下

注意点

・反復投与(複数コース)は、出生体重の減少や神経発達への悪影響の懸念があり、ルーチンには行わない。 ・母体への影響として、一過性の高血糖(糖尿病合併妊婦では血糖管理に注意)や白血球増多がみられる。 ・感染徴候が明らかな場合(臨床的絨毛膜羊膜炎など)は、娩出を優先するなど個別の判断を要する。

新生児呼吸窮迫症候群(RDS)との関係

RDSは肺サーファクタントの不足により肺胞が虚脱し、呼吸障害をきたす疾患で、在胎週数が短いほど発症しやすい。ステロイドはⅡ型肺胞上皮細胞の分化を促し、サーファクタントの産生を増やすことで、肺の成熟を早める。出生後にRDSを発症した場合には、人工肺サーファクタントの気管内投与が行われる。

POINT

・出生前ステロイド投与の対象:1週間以内の分娩が予測される妊娠34週未満(=33週まで)の早産 ・薬剤はベタメタゾン12 mgを24時間ごとに2回筋注 ・効果は投与後約1週間で減弱するため、投与のタイミングが重要 ・主な効果:RDS、脳室内出血、壊死性腸炎、新生児死亡の減少 ・34週以降は胎児の肺が概ね成熟しており、わが国では原則適応外

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。