StudyMed医師国家試験

男性の胸がふくらむとき―「エストロゲン/アンドロゲン比」で読み解く女性化乳房

第99回医師国家試験 D問題 第86問

国試問題にチャレンジ

第99回 D問題 第86問

女性化乳房をきたすのはどれか。2つ選べ。

  1. a.肝硬変
  2. b.心不全
  3. c.Addison病
  4. d.Bartter症候群
  5. e.Klinefelter症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、男性の乳房が腫大する女性化乳房の原因を選ぶ問題だ。疾患名を丸暗記するより、「乳腺を育てるホルモン」と「乳腺を抑えるホルモン」のバランスで考えると一気に整理できる。まず、乳腺の増殖を促すホルモンは何だと思う?
医学生医学生
エストロゲンですよね。逆に男性ホルモンのアンドロゲンは抑える方向に働く、と生理学の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。だから女性化乳房は、エストロゲン作用がアンドロゲン作用を相対的に上回った状態、つまりエストロゲン/アンドロゲン比の上昇で起こると理解すればいい。考え方は4方向ある。エストロゲンの産生が増える、エストロゲンの分解が減る、アンドロゲンの産生が減る、アンドロゲンの作用が邪魔される、の4つだ。
医学生医学生
その4つに当てはまる疾患を探せばいいわけですね。肝硬変は、分解が減るパターンでしょうか。
ドクタードクター
いいね。エストロゲンは主に肝臓で代謝・不活化されるから、肝硬変では分解が遅れて血中濃度が上がる。それだけじゃない。肝臓で性ホルモン結合グロブリン、SHBGが増えてテストステロンが結合型になり、活性をもつ遊離テストステロンが減る。さらに副腎由来のアンドロゲンが末梢でエストロゲンに変換される量も増える。いくつもの機序が重なってエストロゲン優位になるんだ。
医学生医学生
消化器内科の実習で、肝硬変の患者さんにくも状血管腫と手掌紅斑を見せてもらいました。あれも同じ高エストロゲン状態のせいですか。
ドクタードクター
そう、くも状血管腫、手掌紅斑、精巣萎縮、体毛の減少、そして女性化乳房は、すべて高エストロゲン状態という一本の線でつながる。肝硬変の身体診察ではセットで確認したい所見だね。もう1つの正解はどれだと思う?
医学生医学生
Klinefelter症候群です。でも、X染色体が多いからエストロゲンが増える、というイメージで覚えていたんですが、それで合っていますか。
ドクタードクター
惜しい、そこはよくある誤解だ。X染色体の数そのものが直接エストロゲンを作るわけではない。核型47,XXYでは精巣の精細管が硝子化して小さく硬い精巣となり、テストステロンの分泌が落ちる。これが原発性、つまり高ゴナドトロピン性の性腺機能低下症だ。テストステロンが低いとフィードバックでLHが上がり、LHはライディッヒ細胞でテストステロンからエストラジオールへの変換を促す。結果としてエストロゲン/テストステロン比が上がり、思春期以降に女性化乳房が出てくるんだ。
医学生医学生
アンドロゲン低下とエストロゲンの相対的増加の両方から攻めてくるんですね。高身長で手足が長い体型も特徴だったと思います。
ドクタードクター
よく覚えているね。下肢が長い類宦官体型、無精子症による男性不妊、体毛の減少が特徴で、乳癌のリスクも一般男性より高い。不妊外来で初めて見つかることも多い疾患だ。では残りの選択肢を見ていこう。心不全はどうかな。
医学生医学生
心不全の患者さんで胸がふくらんでいる人を見た気がするので、ちょっと迷いました。
ドクタードクター
鋭い観察だけど、それは病態ではなく薬の影響の可能性が高い。心不全そのものは性ホルモンのバランスを変えない。ただ、治療に使うスピロノラクトンはアンドロゲン受容体を阻害して女性化乳房を起こすし、ジギタリスにもエストロゲン様作用がある。スピロノラクトンで問題になれば、より選択性の高いエプレレノンへの変更が検討される。
医学生医学生
Addison病は副腎アンドロゲンが減るので、アンドロゲン低下のパターンに入りそうに思えます。
ドクタードクター
理屈としてはそう考えたくなるよね。でも男性のアンドロゲンの大部分は精巣由来のテストステロンだから、副腎アンドロゲンが減っても男性ではアンドロゲン作用は保たれ、女性化乳房は起こらない。女性では副腎アンドロゲンの比重が大きいので、腋毛や恥毛の脱落として現れる。Addison病で押さえるべきは、ACTH上昇による色素沈着や低ナトリウム血症、高カリウム血症の方だ。
医学生医学生
Bartter症候群はレニンとアルドステロンが高くなる病気ですよね。腎臓の講義で、ループ利尿薬を飲み続けているような状態と習いました。
ドクタードクター
その理解で十分だ。ヘンレループ太い上行脚のNa-K-2Cl共輸送体などの異常で、低カリウム血症、代謝性アルカローシス、血圧は正常から低め、という組み合わせになる。レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系は乱れるけれど、性ホルモンには影響しないから女性化乳房の原因にはならない。
医学生医学生
結局、性ホルモンのバランスを動かす疾患かどうか、で判断すればいいんですね。
ドクタードクター
そのとおり。最後に臨床での注意点をまとめよう。女性化乳房は新生児期、思春期、高齢期に生理的にも起こるし、思春期のものは多くが1〜2年で自然に消える。病的な原因としては、薬剤、肝硬変、甲状腺機能亢進症、慢性腎不全、性腺機能低下、そしてhCGやエストロゲンを産生する精巣腫瘍などがある。だから原因検索では、問診での薬歴の確認と精巣の触診が欠かせない。
医学生医学生
肥満で胸がふくらんでいるだけの場合とはどう区別するんですか。
ドクタードクター
乳輪の下にゴム様の円板状のしこりを触れれば乳腺組織の増殖、脂肪だけなら偽性女性化乳房だ。そしてもう1つ、片側性で硬く、乳頭から外れた位置にある腫瘤や、乳頭陥凹、血性分泌、腋窩リンパ節腫大を伴うときは男性乳癌を必ず鑑別すること。「男性の胸のしこりは良性」と決めつけないのが大切だよ。

まとめ

女性化乳房は男性の乳腺組織が良性に増殖する状態で、エストロゲン/アンドロゲン比の上昇によって生じます。肝硬変ではエストロゲンの分解低下やSHBG増加による遊離テストステロン低下が起こり、くも状血管腫や手掌紅斑、精巣萎縮とともに女性化乳房をきたします。Klinefelter症候群(47,XXY)では高ゴナドトロピン性性腺機能低下症によりテストステロンが低下し、LH上昇によってエストロゲンが相対的に増えるため女性化乳房がみられます。心不全、Addison病、Bartter症候群は病態自体が性ホルモンバランスを変えませんが、心不全治療薬のスピロノラクトンやジギタリスは原因となる点に注意が必要です。ホルモンバランスの4方向から原因を整理し、薬歴・精巣所見の確認や男性乳癌の鑑別まで意識することが、臨床での的確な評価につながります。

解答・解説

正解はa, eです

女性化乳房とは

女性化乳房(gynecomastia)は、男性の乳腺組織(乳管と間質)が良性に増殖し、乳房が腫大する状態である。乳輪下にゴム様〜硬い円板状のしこりとして触れ、片側性のことも両側性のこともある。脂肪沈着のみで乳腺の増殖を伴わない偽性女性化乳房(肥満による脂肪乳房)とは区別される。

発生機序の基本

乳腺組織はエストロゲンによって増殖が促され、アンドロゲンによって抑制される。したがって女性化乳房は、「エストロゲン作用が相対的にアンドロゲン作用を上回る」状態、すなわちエストロゲン/アンドロゲン比の上昇によって生じると理解すればよい。具体的には次の4つの方向から考える。 1. エストロゲンの産生増加(精巣・副腎腫瘍、hCG産生腫瘍、末梢でのアロマターゼによる変換亢進など) 2. エストロゲンの分解低下(肝硬変など) 3. アンドロゲンの産生低下(原発性・続発性性腺機能低下症。Klinefelter症候群など) 4. アンドロゲン作用の阻害(抗アンドロゲン薬、スピロノラクトン、アンドロゲン不応症など)

本問の考え方

各選択肢の疾患が性ホルモンのバランスに影響するかどうかを考える。肝硬変はエストロゲンの過剰(2と1)、Klinefelter症候群はアンドロゲンの低下とエストロゲンの相対的増加(3と1)により女性化乳房の代表的な原因となる。心不全、Addison病、Bartter症候群は病態そのものとしては性ホルモンバランスを大きく変えず、女性化乳房の原因とはならない(ただし心不全の治療薬には原因となるものがある)。

選択肢考察

  1. ○a.  肝硬変

    エストロゲンは主に肝臓で代謝・不活化されるため、肝硬変では肝機能低下によりエストロゲンの分解が遅れて血中濃度が高まる。加えて、肝での性ホルモン結合グロブリン(SHBG)の産生が増えてテストステロンが結合型となり、遊離(活性型)テストステロンが減少すること、副腎由来のアンドロゲン(アンドロステンジオン)が末梢組織のアロマターゼによってエストロゲンへ変換される量が増えること、慢性肝疾患やアルコールによる精巣機能低下も加わることなどが、エストロゲン優位の状態をつくる。この高エストロゲン状態は、女性化乳房のほか、くも状血管腫、手掌紅斑、精巣萎縮、体毛の減少などの肝硬変に特徴的な身体所見の原因でもある。なお、肝硬変の腹水治療で用いるスピロノラクトンも女性化乳房を助長する。正しい。

  2. ×b.  心不全

    心不全という病態そのものはエストロゲン/アンドロゲン比を変化させず、女性化乳房の直接の原因とはならない。ただし心不全の治療薬には女性化乳房を起こすものがあり、臨床上注意が必要である。代表はスピロノラクトン(アンドロゲン受容体の阻害やテストステロン合成の抑制による)で、女性化乳房が問題となる場合はより選択性の高いエプレレノンへの変更が検討される。ジギタリス(ジゴキシン)もエストロゲン様作用により女性化乳房をきたしうる。また、重い慢性疾患からの回復期に栄養状態が改善すると、性腺機能の回復過程で一過性に女性化乳房がみられることがある。いずれも心不全自体が原因ではないため、誤りである。

  3. ×c.  Addison病

    Addison病(原発性慢性副腎皮質機能低下症)は、自己免疫や結核などにより副腎皮質が破壊され、コルチゾールとアルドステロン、副腎アンドロゲン(DHEA、DHEA-Sなど)が低下する疾患である。コルチゾール低下のフィードバックでACTHとその前駆体に由来するメラニン細胞刺激作用が増し、皮膚・粘膜の色素沈着をきたす。副腎アンドロゲンが減少しても、男性ではアンドロゲンの大部分を精巣由来のテストステロンが担っているため、アンドロゲン作用は保たれ、女性化乳房は生じない(女性では腋毛・恥毛の脱落がみられる)。誤りである。

  4. ×d.  Bartter症候群

    Bartter症候群は、ヘンレループの太い上行脚におけるNa-K-2Cl共輸送体などの遺伝子異常により、ループ利尿薬を常に服用しているのと似た状態になる常染色体劣性遺伝の疾患である。食塩喪失による循環血液量の減少からレニン活性とアルドステロンが高値となり、低カリウム血症、代謝性アルカローシスを呈するが、血圧は正常〜低めである。高カルシウム尿症や多尿を伴うことも多い。レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系には異常が生じるが性ホルモンへの影響はなく、女性化乳房の原因とはならない。誤りである。

  5. ○e.  Klinefelter症候群

    Klinefelter症候群は、性染色体にX染色体が過剰にある男性(代表的な核型は47,XXY)で、男性の性腺機能低下症の原因として最も多い染色体異常である。精巣が小さく硬く(精細管の硝子化)、テストステロン分泌が低下する原発性性腺機能低下症(高ゴナドトロピン性性腺機能低下症)を示す。テストステロン低下のフィードバックによってLH・FSHが上昇し、LHはライディッヒ細胞でのアロマターゼ活性を刺激してテストステロンからエストラジオールへの変換を促進する。さらに脂肪組織などでも副腎アンドロゲンやテストステロンがエストロゲンに変換されるため、エストロゲン/テストステロン比が上昇し、思春期以降に女性化乳房をきたす。そのほか無精子症による男性不妊、高身長(とくに下肢が長い類宦官体型)、体毛の減少などが特徴であり、乳癌の発生リスクも一般男性より高い。正しい。

女性化乳房の主な原因

・生理的:新生児期(母体エストロゲンの影響)、思春期(一過性で多くは1〜2年で自然消退)、高齢期(テストステロン低下と脂肪組織でのアロマターゼ増加) ・薬剤性:スピロノラクトン、ジギタリス、シメチジン、ケトコナゾール、抗アンドロゲン薬(前立腺癌治療薬)、GnRHアゴニスト、エストロゲン製剤、5α還元酵素阻害薬、一部の抗精神病薬(高プロラクチン血症を介する)、アルコール、マリファナなど ・内分泌・代謝疾患:肝硬変、甲状腺機能亢進症(SHBG増加とアロマターゼ活性亢進)、慢性腎不全・透析、栄養障害からの回復期 ・性腺機能低下:Klinefelter症候群、精巣炎後の精巣萎縮、下垂体機能低下症 ・腫瘍:精巣腫瘍(ライディッヒ細胞腫、セルトリ細胞腫、hCG産生胚細胞腫瘍)、エストロゲン産生副腎腫瘍、hCG産生肺癌など ・特発性:原因が特定できないものも少なくない

Klinefelter症候群の要点

核型47,XXY(モザイクや48,XXXYなどもある)。小さく硬い精巣、無精子症、テストステロン低値、LH・FSH高値、女性化乳房、高身長・類宦官体型。X染色体の数が増えるほど知的障害の程度が強くなる傾向がある。バー小体(X染色質)が陽性となる。乳癌、縦隔胚細胞腫瘍、自己免疫疾患のリスクが上昇する。治療はテストステロン補充療法である。

鑑別の注意

男性の片側性で硬い、乳頭から外れた位置の腫瘤、乳頭陥凹・血性乳頭分泌・腋窩リンパ節腫大を伴う場合は、男性乳癌を鑑別しなければならない。

POINT

・女性化乳房はエストロゲン/アンドロゲン比の上昇で生じる。 ・肝硬変:エストロゲン分解低下+SHBG増加による遊離テストステロン低下 → 女性化乳房、くも状血管腫、手掌紅斑、精巣萎縮 ・Klinefelter症候群(47,XXY):高ゴナドトロピン性性腺機能低下症 → テストステロン低下、LH上昇によるエストロゲン相対的増加 → 女性化乳房 ・心不全そのものは原因でないが、治療薬のスピロノラクトン、ジギタリスは女性化乳房の原因となる。 ・Addison病、Bartter症候群は性ホルモンバランスに影響せず、女性化乳房の原因とはならない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。