StudyMed医師国家試験

針を刺しても引けない骨髄―dry tapが教える骨髄線維症の正体

第99回医師国家試験 D問題 第95問

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第99回 D問題 第95問

吸引で骨髄血を採取できない〈dry tap〉のはどれか。

  1. a.赤芽球癆
  2. b.骨髄線維症
  3. c.サラセミア
  4. d.再生不良性貧血
  5. e.免疫性血小板減少性紫斑病〈特発性血小板減少性紫斑病〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、骨髄穿刺で骨髄液が吸引できない「dry tap」を起こす疾患を選ぶ問題だ。ポイントは、なぜ骨髄液が引けなくなるのか、その仕組みを理解すること。そもそも骨髄穿刺がどんな検査か、イメージできるかな。
医学生医学生
血液内科の実習で見学しました。腸骨に太い針を刺して、注射器で陰圧をかけて骨髄液を吸い出していました。患者さんが吸引の瞬間に痛がっていたのが印象的です。
ドクタードクター
よく見ているね。普通はあの陰圧で骨髄液が引けてくる。それが手技の失敗でもないのにほとんど引けない状態をdry tapという。骨髄腔が何かで固く詰まっている、という意味なんだ。何が詰まると思う?
医学生医学生
細胞がぎっしり増えすぎている場合でしょうか。
ドクタードクター
それが1つ目、細胞の極端な密集、いわゆるpacked marrowだ。癌の骨髄転移や急性白血病などで、細胞間に液体成分がほとんどなくなる。もう1つが骨髄の線維化で、細網線維や膠原線維が骨髄腔を埋めて、細胞が線維の網に絡め取られて吸引されなくなる。この2つの機序を押さえておけば応用がきく。
医学生医学生
選択肢の中で線維化そのものが病気の中心なのは、骨髄線維症ですね。
ドクタードクター
正解。原発性骨髄線維症は骨髄増殖性腫瘍の1つで、JAK2 V617F、CALR、MPLといった遺伝子変異を背景に造血幹細胞がクローン性に増える。ここで面白いのは、線維を作っている線維芽細胞自体は腫瘍ではないという点だ。腫瘍性に増えた異型巨核球がPDGFやTGF-βを放出して、正常の線維芽細胞が反応性に増殖するんだ。
医学生医学生
腫瘍が周りを巻き込んで線維化させるんですね。骨髄で造血できなくなると、どこで血を作るんですか。
ドクタードクター
脾臓や肝臓での髄外造血だ。だから著明な脾腫が出る。末梢血では、涙のしずくの形をした涙滴赤血球や、赤芽球と幼若な顆粒球が同時に出てくる白赤芽球症がみられる。dry tap、巨脾、涙滴赤血球、白赤芽球症の4つはセットで覚えよう。では、ほかの選択肢がなぜ違うか見ていこう。再生不良性貧血はどう思う?
医学生医学生
骨髄がスカスカになる病気なので、引けるものがなくてdry tapになりそうな気がしました。
ドクタードクター
そこは引っかかりやすいところだね。再生不良性貧血の骨髄は脂肪髄に置き換わる。吸引した骨髄液の有核細胞が少なかったり、部位によっては量が少なかったりはするけれど、線維化はないから骨髄液自体は基本的に吸引できる。「細胞が少ない」と「吸引できない」は別物なんだ。
医学生医学生
なるほど、液体はあるけど中身の細胞が乏しい、ということですね。
ドクタードクター
その通り。ただし穿刺部位によって細胞密度がまちまちで判断を誤りやすいから、低形成の評価には骨髄生検の併用やMRIでの脂肪髄評価が勧められる。次に赤芽球癆はどうだろう。
医学生医学生
赤血球系だけがなくなる病気で、胸腺腫やパルボウイルスB19が原因になると病理の講義で習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。白血球系や巨核球系は保たれていて、線維化も細胞の密集もない。むしろ吸引した骨髄塗抹で赤芽球が著しく少ないことを確認するのが診断の要だから、骨髄液が引けることが前提の疾患だ。
医学生医学生
サラセミアは骨髄が過形成になるんですよね。過形成なら、さっきのpacked marrowみたいに詰まりませんか。
ドクタードクター
いい疑問だ。サラセミアは貧血を代償しようと赤芽球が増えて過形成になるけれど、白血病や癌転移のように隙間なく腫瘍細胞が埋め尽くすわけではなく、線維化もない。骨髄液は普通に吸引できる。重症型では骨髄腔が広がって頭蓋骨のhair-on-end像などが出るけれど、それも過形成の結果であってdry tapとは関係ないんだ。
医学生医学生
ITPは血小板が末梢で壊される病気なので、骨髄はむしろ元気ですよね。
ドクタードクター
そう。骨髄では巨核球が正常から増加していて、線維化もなく骨髄液は問題なく引ける。骨髄穿刺は、再生不良性貧血や骨髄異形成症候群、白血病など、ほかの血小板減少をきたす疾患を除外する目的で行われることがある。
医学生医学生
線維化か細胞の密集がない限り、骨髄液は引ける、と整理すればいいんですね。
ドクタードクター
完璧だ。最後に発展知識を。dry tapをきたす病態は骨髄線維症のほかに、胃癌・乳癌・前立腺癌などの骨髄転移、慢性骨髄性白血病の急性転化、線維化を伴いやすい急性巨核芽球性白血病、細網線維が増えるヘアリーセル白血病などがある。そしてdry tapだったら、そこで諦めず骨髄生検を行うことが大切だ。円柱状に組織を採って、鍍銀染色で細網線維を、HE染色で細胞密度や線維化を評価する。
医学生医学生
骨髄穿刺は細胞の形や比率を、骨髄生検は組織の構造を見る検査、という使い分けですね。
ドクタードクター
その理解で十分だ。ちなみに原発性骨髄線維症の根治療法は同種造血幹細胞移植で、脾腫や全身症状にはルキソリチニブなどのJAK阻害薬が使われる。中高年で巨脾と涙滴赤血球を見たら、まず骨髄線維症を思い浮かべてほしい。

まとめ

dry tapとは、骨髄穿刺で陰圧をかけても骨髄液がほとんど吸引できない状態で、骨髄の線維化か細胞の極端な密集によって起こります。原発性骨髄線維症は、異型巨核球が放出するサイトカインで骨髄が線維に置換されるためdry tapの代表疾患であり、髄外造血による巨脾、涙滴赤血球、白赤芽球症を伴います。再生不良性貧血は脂肪髄で細胞は乏しいものの骨髄液は吸引でき、赤芽球癆、サラセミア、ITPも線維化がなく塗抹所見が診断に用いられます。dry tapの際は骨髄生検で線維化や細胞密度を評価し、癌の骨髄転移や白血病なども鑑別に挙げます。骨髄穿刺と骨髄生検の役割の違いを理解しておくことは、血液疾患の診断を進めるうえでの基本となります。

解答・解説

正解はbです

dry tapとは

骨髄穿刺針を腸骨(または胸骨)に刺入し、注射器で陰圧をかけても骨髄液がほとんど引けない状態をdry tap(吸引不能)という。手技の失敗でなければ、骨髄腔が何らかの組織で置き換わって「固く詰まった」状態を意味する。

dry tapが起こる機序

骨髄液が吸引できなくなる主な理由は次の2つである。 1. 骨髄の線維化:細網線維や膠原線維が骨髄腔を埋め、細胞が線維の網目に絡め取られて吸引されない(骨髄線維症、他疾患に伴う二次性骨髄線維化など)。 2. 細胞の極端な密集(packed marrow):腫瘍細胞などがぎっしりと詰まり、細胞間に液体成分がほとんどない(癌の骨髄転移、急性白血病、慢性骨髄性白血病の急性転化、ヘアリーセル白血病など)。

本問の考え方

選択肢のうち、骨髄の線維化そのものが病態の中心にある疾患は骨髄線維症のみである。他の選択肢はいずれも骨髄穿刺で骨髄液が得られ、その塗抹標本の所見(赤芽球の減少、赤芽球過形成、低形成、巨核球の増加など)が診断に用いられる疾患である。 dry tapの場合は骨髄液による評価ができないため、骨髄生検(トレフィン生検)を行い、組織標本の鍍銀染色(細網線維の評価)やHE染色で線維化・細胞密度を評価する。

選択肢考察

  1. ×a.  赤芽球癆

    赤芽球癆(pure red cell aplasia:PRCA)は、赤血球系の前駆細胞だけが選択的に障害され、骨髄中の赤芽球が著減する疾患である。原因として胸腺腫、パルボウイルスB19感染、薬剤、大顆粒リンパ球性白血病などがある。白血球系・巨核球系は保たれ、骨髄に線維化や細胞の密集は起こらないため、骨髄液は通常どおり吸引できる。むしろ骨髄塗抹で「赤芽球が著しく少ない(おおむね5%未満)」ことを確認するのが診断の要であり、dry tapにはならない。

  2. ○b.  骨髄線維症

    原発性骨髄線維症は骨髄増殖性腫瘍の一つで、造血幹細胞のクローン性増殖(JAK2 V617F、CALR、MPL変異など)を背景とする。腫瘍性に増えた異型巨核球から血小板由来増殖因子(PDGF)やトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)などのサイトカインが放出され、非腫瘍性の線維芽細胞が反応性に増殖して骨髄が線維で置換される。そのため骨髄穿刺では骨髄液がほとんど引けず、dry tapとなるのが典型である。骨髄で造血できなくなる結果、脾臓・肝臓で髄外造血が起こり著明な脾腫を呈し、末梢血には涙滴赤血球や、赤芽球と幼若顆粒球が同時に出現する白赤芽球症(leukoerythroblastosis)がみられる。診断には骨髄生検での線維化の証明が必要である。

  3. ×c.  サラセミア

    サラセミアはグロビン鎖(α鎖またはβ鎖)の合成低下による遺伝性の小球性低色素性貧血で、無効造血と溶血を伴う。貧血を代償するため骨髄は赤芽球が増えた過形成の状態となるが、線維化は起こらず、骨髄液は吸引できる。重症型では骨髄腔の拡大による頭蓋骨・顔面骨の変形(hair-on-end像など)や髄外造血がみられるが、これは骨髄の過形成によるもので、dry tapの原因にはならない。

  4. ×d.  再生不良性貧血

    再生不良性貧血は造血幹細胞の減少により汎血球減少と骨髄低形成をきたす疾患で、骨髄は脂肪髄に置き換わる。脂肪髄では細胞成分が乏しく、吸引した骨髄液の有核細胞数が少なかったり、部位によっては吸引量が少なかったりすることはあるが、線維化はなく、骨髄液は基本的に吸引できる。穿刺部位によって細胞密度がまちまちで評価を誤りやすいため、低形成の判定には骨髄生検の併用や複数部位の穿刺、MRIでの脂肪髄評価が推奨される。骨髄線維症のように典型的にdry tapを呈する疾患ではない。

  5. ×e.  免疫性血小板減少性紫斑病〈特発性血小板減少性紫斑病〉

    免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)は、血小板膜糖蛋白に対する自己抗体により血小板が脾臓などで破壊され、血小板が減少する疾患である。骨髄では巨核球数が正常〜増加しており(血小板付着像の乏しい巨核球が目立つことがある)、線維化はなく骨髄液は問題なく吸引できる。骨髄穿刺は他の血小板減少疾患(再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、白血病など)の除外を目的に行われることがあり、dry tapにはならない。

dry tapをきたす主な病態

・骨髄線維症(原発性、および真性赤血球増加症・本態性血小板血症から移行した二次性) ・癌の骨髄転移(胃癌、乳癌、前立腺癌、肺癌など) ・慢性骨髄性白血病の急性転化、急性白血病(特に急性巨核芽球性白血病=AML M7は線維化を伴いやすい) ・ヘアリーセル白血病(細網線維の増加による) ・その他:骨髄異形成症候群の線維化を伴う型、悪性リンパ腫の骨髄浸潤、多発性骨髄腫の一部など

原発性骨髄線維症の特徴

・中高年に多い。症状は貧血、著明な脾腫による腹部膨満、発熱・体重減少・盗汗など。 ・末梢血:涙滴赤血球(tear drop cell)、白赤芽球症、LD上昇。 ・骨髄:dry tap、生検で細網線維・膠原線維の増生と骨硬化、異型巨核球の増加。 ・遺伝子変異:JAK2 V617F(約半数)、CALR(約1/4〜1/3)、MPL(数%)。 ・治療:根治療法は同種造血幹細胞移植。症状・脾腫に対してJAK阻害薬(ルキソリチニブなど)、貧血に対して輸血などを行う。

骨髄穿刺と骨髄生検の違い

骨髄穿刺は骨髄液を吸引して細胞の形態・比率・染色体・表面抗原などを調べる検査である。骨髄生検は骨髄組織を円柱状に採取し、細胞密度(過形成・低形成)、線維化、腫瘍の浸潤様式など組織構築を評価する。dry tapの場合や再生不良性貧血の細胞密度評価では生検が必須である。

POINT

・dry tap=骨髄液が吸引できない状態。原因は「骨髄の線維化」または「細胞の極端な密集」。 ・代表疾患:骨髄線維症、癌の骨髄転移、慢性骨髄性白血病の急性転化(ほかにヘアリーセル白血病、急性白血病)。 ・骨髄線維症:dry tap+巨脾(髄外造血)+涙滴赤血球+白赤芽球症。 ・dry tapのときは骨髄生検で評価する。 ・赤芽球癆、サラセミア、再生不良性貧血、ITPは骨髄液が吸引でき、塗抹所見が診断に用いられる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。