その抗体、別の病気のもの?―自己抗体は「標的」で覚えるとすっきり整理できる
第99回医師国家試験 D問題 第69問
国試問題にチャレンジ
疾患と自己抗体の組合せで正しいのはどれか。
- a.悪性貧血 ―― 抗赤血球抗体
- b.リウマチ熱 ―― 抗IgG抗体
- c.重症筋無力症 ―― 抗平滑筋抗体
- d.自己免疫性肝炎 ―― 抗ミトコンドリア抗体
- e.甲状腺機能亢進症 ―― 抗TSH受容体抗体
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
本問は疾患と自己抗体の組合せを問う問題で、正しいのは甲状腺機能亢進症(Basedow病)と抗TSH受容体抗体の組合せです。この抗体はTSH受容体を刺激して甲状腺ホルモンを過剰に産生させ、受容体を阻害して筋力低下を起こす重症筋無力症の抗アセチルコリン受容体抗体とは対照的です。悪性貧血は抗内因子抗体・抗胃壁細胞抗体、自己免疫性肝炎は抗核抗体・抗平滑筋抗体、原発性胆汁性胆管炎は抗ミトコンドリア抗体、IgGに対する自己抗体(リウマトイド因子)は関節リウマチで、リウマチ熱ではASO・ASKの上昇が手がかりになります。自己抗体は「標的抗原」と「その結果起こる病態」をセットで理解すると、似た名前のすり替えにも惑わされず、臨床での検査解釈にも役立ちます。
解答・解説
正解はeです
臓器特異的自己免疫疾患を中心に、疾患と対応する自己抗体の組合せを問う問題である。自己抗体は「何に対する抗体か(標的抗原)」と「それが病態にどう関わるか」をセットで覚えると混同しにくい。
本問の選択肢に関係する主な組合せ
・悪性貧血:抗内因子抗体、抗胃壁細胞抗体 ・自己免疫性溶血性貧血:抗赤血球抗体(直接 Coombs 試験陽性) ・重症筋無力症:抗アセチルコリン受容体抗体(一部は抗 MuSK 抗体) ・自己免疫性肝炎:抗核抗体、抗平滑筋抗体(2 型では抗 LKM-1 抗体) ・原発性胆汁性胆管炎:抗ミトコンドリア抗体 ・Basedow 病(Graves 病):抗 TSH 受容体抗体(TRAb) ・関節リウマチ:リウマトイド因子(IgG の Fc 部分に対する自己抗体)、抗 CCP 抗体 選択肢 a〜d は、いずれも別の疾患の自己抗体と入れ替えた組合せになっている。甲状腺機能亢進症の代表的な原因である Basedow 病では、TSH 受容体を刺激する自己抗体が甲状腺ホルモンの過剰産生を引き起こしており、e が正しい組合せである。
選択肢考察
- ×a. 悪性貧血 ―― 抗赤血球抗体
誤り。悪性貧血は、胃の壁細胞が自己免疫的に破壊されて萎縮性胃炎(A 型胃炎)となり、ビタミン B12 の吸収に必要な内因子が不足して起こる巨赤芽球性貧血である。検出される自己抗体は抗胃壁細胞抗体と抗内因子抗体である。抗胃壁細胞抗体は患者の約 90% で陽性になるが特異度は低く、抗内因子抗体は陽性率はそれより低いものの本症への特異度が高い。抗赤血球抗体は自己免疫性溶血性貧血でみられる抗体である。
- ×b. リウマチ熱 ―― 抗IgG抗体
誤り。IgG に対する自己抗体とはリウマトイド因子のことで、関節リウマチで高率に陽性となる。リウマチ熱は A 群β溶血性レンサ球菌(溶連菌)による咽頭炎の 2〜3 週後に、菌体成分と心臓・関節などの組織との交差反応(分子相同性)によって起こる非化膿性の合併症であり、リウマトイド因子は通常陰性である。診断に役立つのは疾患特異的な自己抗体ではなく、先行する溶連菌感染を示す ASO(抗ストレプトリジン O 抗体)や ASK(抗ストレプトキナーゼ抗体)の上昇である。
- ×c. 重症筋無力症 ―― 抗平滑筋抗体
誤り。重症筋無力症は、神経筋接合部の筋側にあるアセチルコリン受容体に対する自己抗体(抗アセチルコリン受容体抗体)により神経から筋への興奮伝達が障害され、易疲労性や日内変動のある筋力低下を示す疾患である。全身型の約 80〜85% で抗アセチルコリン受容体抗体が陽性となり、陰性例の一部では抗 MuSK(筋特異的受容体型チロシンキナーゼ)抗体が検出される。抗平滑筋抗体は自己免疫性肝炎でみられる抗体であり、標的も骨格筋の神経筋接合部ではない。
- ×d. 自己免疫性肝炎 ―― 抗ミトコンドリア抗体
誤り。自己免疫性肝炎は中年女性に多い慢性肝炎で、高γグロブリン血症(特に IgG 高値)と、抗核抗体・抗平滑筋抗体の陽性が特徴である(まれな 2 型では抗 LKM-1 抗体)。抗ミトコンドリア抗体は原発性胆汁性胆管炎(PBC。かつての名称は原発性胆汁性肝硬変)の約 90% で陽性となる、同症に特徴的な抗体である。両者はいずれも中年女性に多い自己免疫性肝疾患なので、抗体で区別できるようにしておく。
- ○e. 甲状腺機能亢進症 ―― 抗TSH受容体抗体
正しい。甲状腺機能亢進症の最も多い原因は Basedow 病であり、甲状腺濾胞細胞の TSH(甲状腺刺激ホルモン)受容体に結合する自己抗体(TRAb)が患者の 90% 以上で検出される。この抗体は TSH の代わりに受容体を持続的に刺激するため、甲状腺ホルモンが過剰に作られ、甲状腺腫も生じる。一方、ホルモン過剰のため下垂体からの TSH 分泌は抑制されて低値となる。抗体が受容体を「刺激」して機能を亢進させる点で、受容体を「阻害」する重症筋無力症と対比される。
自己抗体の働き方による分類(受容体に対する抗体)
・刺激型:Basedow 病の抗 TSH 受容体抗体(甲状腺刺激抗体、TSAb)。受容体を活性化して機能亢進をきたす。 ・阻害型:重症筋無力症の抗アセチルコリン受容体抗体、インスリン抵抗性を示す B 型インスリン抵抗症の抗インスリン受容体抗体など。受容体の働きを妨げて機能低下をきたす。 このように抗体が受容体の機能を変化させて起こる病態は、Coombs と Gell の分類では II 型アレルギー(しばしば V 型と呼ぶこともある)に位置づけられる。
その他の重要な疾患と自己抗体
・慢性甲状腺炎(橋本病):抗甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)抗体、抗サイログロブリン抗体 ・1 型糖尿病:抗 GAD 抗体、膵島細胞抗体、抗 IA-2 抗体、インスリン自己抗体 ・全身性エリテマトーデス:抗 dsDNA 抗体、抗 Sm 抗体 ・全身性強皮症:抗トポイソメラーゼ I(Scl-70)抗体、抗セントロメア抗体、抗 RNA ポリメラーゼ III 抗体 ・Sjögren 症候群:抗 SS-A 抗体、抗 SS-B 抗体 ・多発性筋炎・皮膚筋炎:抗 Jo-1 抗体などの抗 ARS 抗体、抗 MDA5 抗体 ・顕微鏡的多発血管炎:MPO-ANCA、多発血管炎性肉芽腫症:PR3-ANCA ・Lambert-Eaton 筋無力症候群:抗 P/Q 型電位依存性カルシウムチャネル抗体 ・尋常性天疱瘡:抗デスモグレイン 3 抗体、水疱性類天疱瘡:抗 BP180 抗体
悪性貧血の補足
内因子はビタミン B12 と結合して回腸末端での吸収を助ける糖蛋白で、胃の壁細胞から分泌される。悪性貧血ではビタミン B12 欠乏により巨赤芽球性貧血のほか、Hunter 舌炎や亜急性連合性脊髄変性症などの神経症状が起こりうる。
POINT
・Basedow 病:抗 TSH 受容体抗体(受容体を刺激して甲状腺ホルモン過剰)。 ・悪性貧血:抗内因子抗体(特異度が高い)・抗胃壁細胞抗体(陽性率が高い)。 ・重症筋無力症:抗アセチルコリン受容体抗体(受容体を阻害)。 ・自己免疫性肝炎:抗核抗体・抗平滑筋抗体。原発性胆汁性胆管炎:抗ミトコンドリア抗体。 ・抗赤血球抗体は自己免疫性溶血性貧血、IgG に対する自己抗体(リウマトイド因子)は関節リウマチ。リウマチ熱では ASO・ASK が上昇する。
