StudyMed医師国家試験

その抗体、別の病気のもの?―自己抗体は「標的」で覚えるとすっきり整理できる

第99回医師国家試験 D問題 第69問

国試問題にチャレンジ

第99回 D問題 第69問

疾患と自己抗体の組合せで正しいのはどれか。

  1. a.悪性貧血 ―― 抗赤血球抗体
  2. b.リウマチ熱 ―― 抗IgG抗体
  3. c.重症筋無力症 ―― 抗平滑筋抗体
  4. d.自己免疫性肝炎 ―― 抗ミトコンドリア抗体
  5. e.甲状腺機能亢進症 ―― 抗TSH受容体抗体

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、疾患と自己抗体の組合せを問う知識問題だ。よく見ると、5つの組合せの多くは「どこかで聞いた抗体」が別の疾患とすり替えられている。だから丸暗記ではなく、その抗体が何を標的にしていて、病態にどう関わるのかを考えながら一つずつ確かめていこう。
医学生医学生
免疫学の講義で自己抗体の一覧表をもらったんですが、数が多すぎて正直混乱しています。
ドクタードクター
みんなそうだよ。コツは「標的抗原」と「その抗原が壊されたり刺激されたりすると何が起こるか」をセットにすること。まず悪性貧血から。抗赤血球抗体という組合せはどうかな。
医学生医学生
貧血だから赤血球に対する抗体……と思いかけましたが、悪性貧血はビタミンB12欠乏による巨赤芽球性貧血でしたよね。
ドクタードクター
その通り。悪性貧血では胃の壁細胞が自己免疫的に壊されて萎縮性胃炎になり、ビタミンB12の吸収に必要な内因子が不足する。だから出てくるのは抗胃壁細胞抗体と抗内因子抗体だ。抗胃壁細胞抗体は陽性率が高いけれど特異度は低く、抗内因子抗体は陽性率はそれより低いものの特異度が高い、という対比も押さえておこう。抗赤血球抗体は自己免疫性溶血性貧血の抗体で、直接Coombs試験陽性がその証拠になる。
医学生医学生
なるほど、標的が赤血球なら溶血、標的が胃なら吸収障害、ということですね。次のリウマチ熱と抗IgG抗体は、名前が似ているので引っかかりそうです。
ドクタードクター
まさに名前のひっかけだね。IgGに対する自己抗体、つまりIgGのFc部分に結合する抗体はリウマトイド因子のことで、関節リウマチで高率に陽性になる。一方リウマチ熱はA群β溶血性レンサ球菌の咽頭炎の2〜3週後に、菌体成分と心臓や関節の組織との交差反応で起こる合併症なんだ。
医学生医学生
分子相同性ですね。じゃあリウマチ熱の診断に役立つのは自己抗体ではなく、ASOのような溶連菌感染の証拠ということですか。
ドクタードクター
そう、ASOやASKの上昇が先行感染を示す手がかりになる。リウマトイド因子は通常陰性だ。続いて重症筋無力症と抗平滑筋抗体はどうだろう。
医学生医学生
重症筋無力症は神経筋接合部の病気で、骨格筋の話ですよね。脳神経内科の実習で、夕方になると眼瞼下垂が強くなる患者さんを見ました。標的は平滑筋ではなくアセチルコリン受容体だと思います。
ドクタードクター
よく観察していたね。易疲労性と日内変動が特徴で、全身型の約8割で抗アセチルコリン受容体抗体が陽性になり、陰性例の一部では抗MuSK抗体が見つかる。抗平滑筋抗体は自己免疫性肝炎で出る抗体だ。ここで次の選択肢につながってくる。
医学生医学生
自己免疫性肝炎と抗ミトコンドリア抗体ですね。抗ミトコンドリア抗体は原発性胆汁性胆管炎のほうだった気がします。
ドクタードクター
正解。自己免疫性肝炎は中年女性に多く、IgG高値の高γグロブリン血症と抗核抗体・抗平滑筋抗体陽性が特徴で、まれな2型では抗LKM-1抗体が出る。抗ミトコンドリア抗体は原発性胆汁性胆管炎の約9割で陽性になる抗体だ。どちらも中年女性に多い自己免疫性肝疾患だから、抗体で区別できるようにしておくことが大事だね。
医学生医学生
ということは、正しい組合せは甲状腺機能亢進症と抗TSH受容体抗体ですね。Basedow病です。
ドクタードクター
その通り。甲状腺機能亢進症の最も多い原因であるBasedow病では、TSH受容体に結合する自己抗体が9割以上の患者で検出される。この抗体はTSHの代わりに受容体を刺激し続けるので、甲状腺ホルモンが過剰に作られ、甲状腺腫も生じる。ホルモン過剰のフィードバックで、TSH自体は低値になるのもポイントだ。
医学生医学生
抗体なのに受容体を「刺激」するというのが面白いですね。重症筋無力症の抗体は受容体の働きを邪魔するので、逆向きです。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。受容体に対する自己抗体には、刺激型と阻害型がある。刺激型の代表がBasedow病、阻害型が重症筋無力症や、抗インスリン受容体抗体によるB型インスリン抵抗症だ。こうした受容体機能を変える病態はII型アレルギーに含められ、V型と呼ばれることもある。CBTでもよく問われる切り口だよ。
医学生医学生
ついでに、甲状腺でも橋本病のほうは抗TPO抗体や抗サイログロブリン抗体でしたよね。
ドクタードクター
そう、同じ甲状腺でも標的が違えば病態も逆になる。ほかにも、SLEの抗dsDNA抗体・抗Sm抗体、Sjögren症候群の抗SS-A・SS-B抗体、強皮症の抗Scl-70抗体や抗セントロメア抗体、1型糖尿病の抗GAD抗体、尋常性天疱瘡の抗デスモグレイン3抗体などは頻出だ。臨床では自己抗体が陽性だけで診断を決めるのではなく、症状や他の検査と合わせて解釈することも忘れないでほしい。
医学生医学生
抗体の名前を覚えるより、何を狙っているかを考えれば、すり替えに気づけそうです。
ドクタードクター
それがこの問題の一番の学びだね。悪性貧血ならビタミンB12欠乏による舌炎や亜急性連合性脊髄変性症まで、標的から症状をたどっていけると知識が立体的になるよ。

まとめ

本問は疾患と自己抗体の組合せを問う問題で、正しいのは甲状腺機能亢進症(Basedow病)と抗TSH受容体抗体の組合せです。この抗体はTSH受容体を刺激して甲状腺ホルモンを過剰に産生させ、受容体を阻害して筋力低下を起こす重症筋無力症の抗アセチルコリン受容体抗体とは対照的です。悪性貧血は抗内因子抗体・抗胃壁細胞抗体、自己免疫性肝炎は抗核抗体・抗平滑筋抗体、原発性胆汁性胆管炎は抗ミトコンドリア抗体、IgGに対する自己抗体(リウマトイド因子)は関節リウマチで、リウマチ熱ではASO・ASKの上昇が手がかりになります。自己抗体は「標的抗原」と「その結果起こる病態」をセットで理解すると、似た名前のすり替えにも惑わされず、臨床での検査解釈にも役立ちます。

解答・解説

正解はeです

臓器特異的自己免疫疾患を中心に、疾患と対応する自己抗体の組合せを問う問題である。自己抗体は「何に対する抗体か(標的抗原)」と「それが病態にどう関わるか」をセットで覚えると混同しにくい。

本問の選択肢に関係する主な組合せ

・悪性貧血:抗内因子抗体、抗胃壁細胞抗体 ・自己免疫性溶血性貧血:抗赤血球抗体(直接 Coombs 試験陽性) ・重症筋無力症:抗アセチルコリン受容体抗体(一部は抗 MuSK 抗体) ・自己免疫性肝炎:抗核抗体、抗平滑筋抗体(2 型では抗 LKM-1 抗体) ・原発性胆汁性胆管炎:抗ミトコンドリア抗体 ・Basedow 病(Graves 病):抗 TSH 受容体抗体(TRAb) ・関節リウマチ:リウマトイド因子(IgG の Fc 部分に対する自己抗体)、抗 CCP 抗体 選択肢 a〜d は、いずれも別の疾患の自己抗体と入れ替えた組合せになっている。甲状腺機能亢進症の代表的な原因である Basedow 病では、TSH 受容体を刺激する自己抗体が甲状腺ホルモンの過剰産生を引き起こしており、e が正しい組合せである。

選択肢考察

  1. ×a.  悪性貧血 ―― 抗赤血球抗体

    誤り。悪性貧血は、胃の壁細胞が自己免疫的に破壊されて萎縮性胃炎(A 型胃炎)となり、ビタミン B12 の吸収に必要な内因子が不足して起こる巨赤芽球性貧血である。検出される自己抗体は抗胃壁細胞抗体と抗内因子抗体である。抗胃壁細胞抗体は患者の約 90% で陽性になるが特異度は低く、抗内因子抗体は陽性率はそれより低いものの本症への特異度が高い。抗赤血球抗体は自己免疫性溶血性貧血でみられる抗体である。

  2. ×b.  リウマチ熱 ―― 抗IgG抗体

    誤り。IgG に対する自己抗体とはリウマトイド因子のことで、関節リウマチで高率に陽性となる。リウマチ熱は A 群β溶血性レンサ球菌(溶連菌)による咽頭炎の 2〜3 週後に、菌体成分と心臓・関節などの組織との交差反応(分子相同性)によって起こる非化膿性の合併症であり、リウマトイド因子は通常陰性である。診断に役立つのは疾患特異的な自己抗体ではなく、先行する溶連菌感染を示す ASO(抗ストレプトリジン O 抗体)や ASK(抗ストレプトキナーゼ抗体)の上昇である。

  3. ×c.  重症筋無力症 ―― 抗平滑筋抗体

    誤り。重症筋無力症は、神経筋接合部の筋側にあるアセチルコリン受容体に対する自己抗体(抗アセチルコリン受容体抗体)により神経から筋への興奮伝達が障害され、易疲労性や日内変動のある筋力低下を示す疾患である。全身型の約 80〜85% で抗アセチルコリン受容体抗体が陽性となり、陰性例の一部では抗 MuSK(筋特異的受容体型チロシンキナーゼ)抗体が検出される。抗平滑筋抗体は自己免疫性肝炎でみられる抗体であり、標的も骨格筋の神経筋接合部ではない。

  4. ×d.  自己免疫性肝炎 ―― 抗ミトコンドリア抗体

    誤り。自己免疫性肝炎は中年女性に多い慢性肝炎で、高γグロブリン血症(特に IgG 高値)と、抗核抗体・抗平滑筋抗体の陽性が特徴である(まれな 2 型では抗 LKM-1 抗体)。抗ミトコンドリア抗体は原発性胆汁性胆管炎(PBC。かつての名称は原発性胆汁性肝硬変)の約 90% で陽性となる、同症に特徴的な抗体である。両者はいずれも中年女性に多い自己免疫性肝疾患なので、抗体で区別できるようにしておく。

  5. ○e.  甲状腺機能亢進症 ―― 抗TSH受容体抗体

    正しい。甲状腺機能亢進症の最も多い原因は Basedow 病であり、甲状腺濾胞細胞の TSH(甲状腺刺激ホルモン)受容体に結合する自己抗体(TRAb)が患者の 90% 以上で検出される。この抗体は TSH の代わりに受容体を持続的に刺激するため、甲状腺ホルモンが過剰に作られ、甲状腺腫も生じる。一方、ホルモン過剰のため下垂体からの TSH 分泌は抑制されて低値となる。抗体が受容体を「刺激」して機能を亢進させる点で、受容体を「阻害」する重症筋無力症と対比される。

自己抗体の働き方による分類(受容体に対する抗体)

・刺激型:Basedow 病の抗 TSH 受容体抗体(甲状腺刺激抗体、TSAb)。受容体を活性化して機能亢進をきたす。 ・阻害型:重症筋無力症の抗アセチルコリン受容体抗体、インスリン抵抗性を示す B 型インスリン抵抗症の抗インスリン受容体抗体など。受容体の働きを妨げて機能低下をきたす。 このように抗体が受容体の機能を変化させて起こる病態は、Coombs と Gell の分類では II 型アレルギー(しばしば V 型と呼ぶこともある)に位置づけられる。

その他の重要な疾患と自己抗体

・慢性甲状腺炎(橋本病):抗甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)抗体、抗サイログロブリン抗体 ・1 型糖尿病:抗 GAD 抗体、膵島細胞抗体、抗 IA-2 抗体、インスリン自己抗体 ・全身性エリテマトーデス:抗 dsDNA 抗体、抗 Sm 抗体 ・全身性強皮症:抗トポイソメラーゼ I(Scl-70)抗体、抗セントロメア抗体、抗 RNA ポリメラーゼ III 抗体 ・Sjögren 症候群:抗 SS-A 抗体、抗 SS-B 抗体 ・多発性筋炎・皮膚筋炎:抗 Jo-1 抗体などの抗 ARS 抗体、抗 MDA5 抗体 ・顕微鏡的多発血管炎:MPO-ANCA、多発血管炎性肉芽腫症:PR3-ANCA ・Lambert-Eaton 筋無力症候群:抗 P/Q 型電位依存性カルシウムチャネル抗体 ・尋常性天疱瘡:抗デスモグレイン 3 抗体、水疱性類天疱瘡:抗 BP180 抗体

悪性貧血の補足

内因子はビタミン B12 と結合して回腸末端での吸収を助ける糖蛋白で、胃の壁細胞から分泌される。悪性貧血ではビタミン B12 欠乏により巨赤芽球性貧血のほか、Hunter 舌炎や亜急性連合性脊髄変性症などの神経症状が起こりうる。

POINT

・Basedow 病:抗 TSH 受容体抗体(受容体を刺激して甲状腺ホルモン過剰)。 ・悪性貧血:抗内因子抗体(特異度が高い)・抗胃壁細胞抗体(陽性率が高い)。 ・重症筋無力症:抗アセチルコリン受容体抗体(受容体を阻害)。 ・自己免疫性肝炎:抗核抗体・抗平滑筋抗体。原発性胆汁性胆管炎:抗ミトコンドリア抗体。 ・抗赤血球抗体は自己免疫性溶血性貧血、IgG に対する自己抗体(リウマトイド因子)は関節リウマチ。リウマチ熱では ASO・ASK が上昇する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。