錐体路は「お腹側」を走る―内包から延髄まで、随意運動の通り道をたどる
第99回医師国家試験 D問題 第51問
国試問題にチャレンジ
錐体路が通るのはどれか。2つ選べ。
- a.内包前脚
- b.内包後脚
- c.大脳脚
- d.橋被蓋
- e.延髄外側
対話形式の解説
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ドクターまとめ
錐体路は大脳皮質運動野から起こり、放線冠、内包の膝(皮質延髄路)と後脚(皮質脊髄路)、中脳の大脳脚、橋底部、延髄の錐体を経て錐体交叉し、脊髄側索を下行する随意運動の経路です。脳幹では一貫して腹側(底部)を走り、背側の被蓋や延髄外側は通らないため、内包前脚・橋被蓋・延髄外側は錐体路の通り道ではありません。この配置を反映して、脳幹腹側の病変ではWeber症候群やMillard-Gubler症候群、延髄内側症候群のような同側脳神経麻痺と対側片麻痺の組み合わせ(交代性片麻痺)が生じ、延髄外側のWallenberg症候群では原則として片麻痺はみられません。内包後脚はラクナ梗塞や被殻・視床出血の好発部位でもあります。錐体路の走行を立体的に理解しておくことは、神経症候から病変部位を推定する局在診断の基礎になります。
解答・解説
正解はb, cです
錐体路とは、大脳皮質の運動野(主に中心前回)から起こり、脳幹の運動性脳神経核(皮質延髄路)や脊髄前角細胞(皮質脊髄路)に至る随意運動の下行路である。延髄の腹側で「錐体」とよばれる隆起を形成することからこの名がある。本問は、その走行経路上にある構造を選ぶ問題である。 錐体路の経路を上から順にたどると次のようになる。 1. 大脳皮質運動野 → 放線冠 2. 内包: 皮質延髄路(顔面・舌などの脳神経運動核へ向かう線維)は主に膝、皮質脊髄路は後脚を通る 3. 中脳: 大脳脚(中脳の腹側部)の中央部分 4. 橋: 橋底部(腹側部)を、橋核の間を縫うように分散して通る 5. 延髄: 腹側の錐体を通り、延髄下端で大部分(約80〜90%)が交叉する(錐体交叉) 6. 脊髄: 交叉した線維は側索(外側皮質脊髄路)、交叉しなかった線維は前索(前皮質脊髄路)を下行する ここで押さえるべきポイントは、脳幹では錐体路が一貫して「腹側(底部)」を走るという点である。脳幹の背側部分(被蓋)や延髄の外側部は、錐体路の通り道ではない。この原則に当てはめると、選択肢のうち錐体路が通るのは内包後脚と大脳脚である。
選択肢考察
- ×a. 内包前脚
内包前脚は、レンズ核と尾状核頭の間にある部分で、視床前核・内側核と前頭葉皮質を結ぶ線維(前視床脚)や、前頭葉から橋核へ向かう前頭橋路などが通る。運動の下行路である錐体路は前脚を通らない。
- ○b. 内包後脚
内包後脚はレンズ核と視床の間の部分で、皮質脊髄路がここを通る。古典的には後脚の前方2/3を通るとされたが、ヒトの画像研究などから、後脚の後半部(後方1/3付近)に集まって走るという理解が現在は一般的である。後脚は上行する感覚路(視床皮質路)も通るため、ここの小梗塞や出血では対側の片麻痺(純粋運動性片麻痺など)が起こりやすい。
- ○c. 大脳脚
大脳脚は中脳の腹側にある線維束で、その中央部を皮質脊髄路・皮質延髄路が通る(内側には前頭橋路、外側には頭頂・側頭・後頭橋路が並ぶ)。中脳腹側部の障害では、同側の動眼神経麻痺と対側の片麻痺を呈するWeber症候群が起こり、大脳脚を錐体路が通ることを示す代表例である。
- ×d. 橋被蓋
脳幹は背側の被蓋と腹側の底部(中脳では大脳脚)に分けられる。被蓋は発生学的に古い部分で、脳神経核、網様体、内側毛帯、内側縦束などが存在する。錐体路のような発生学的に新しい線維は腹側に付け加わる形で配置されており、橋では錐体路は被蓋ではなく橋底部を通る。
- ×e. 延髄外側
延髄では錐体路は腹内側の錐体を通る。延髄外側には脊髄視床路、三叉神経脊髄路核、疑核、前庭神経核の一部、下小脳脚、交感神経下行路などが存在する。そのため延髄外側の梗塞(Wallenberg症候群)では片麻痺は原則として生じず、錐体路が障害される延髄内側症候群(Dejerine症候群)と対照的である。
脳幹の血管障害と錐体路
脳幹では錐体路が腹側を通るため、腹側(傍正中)の病変では対側片麻痺と同側の脳神経麻痺が組み合わさる「交代性片麻痺」を呈する。 ・Weber症候群(中脳腹側): 同側動眼神経麻痺+対側片麻痺 ・Millard-Gubler症候群(橋腹側下部): 同側外転神経・顔面神経麻痺+対側片麻痺 ・延髄内側症候群(Dejerine症候群): 同側舌下神経麻痺+対側片麻痺+対側の深部感覚障害(内側毛帯の障害) 一方、延髄外側症候群(Wallenberg症候群)は椎骨動脈や後下小脳動脈(PICA)の閉塞で起こり、同側顔面と対側頸部以下の温痛覚障害(交代性感覚障害)、嚥下障害・嗄声、同側Horner症候群、同側小脳失調、めまい・眼振などを呈するが、錐体路は障害されないため片麻痺はみられない。
内包の構成
・前脚: 前視床脚、前頭橋路 ・膝: 皮質延髄路(皮質核路) ・後脚: 皮質脊髄路、視床皮質路(体性感覚)、さらに後方のレンズ核後部・レンズ核下部には視放線・聴放線 内包は穿通枝(レンズ核線条体動脈、前脈絡叢動脈など)で栄養され、ラクナ梗塞や被殻出血・視床出血の好発部位である。
POINT
・錐体路の経路: 運動野 → 放線冠 → 内包(膝・後脚)→ 大脳脚 → 橋底部 → 延髄錐体 → 錐体交叉 → 脊髄側索(一部前索)。 ・脳幹では錐体路は常に腹側(底部)を走り、被蓋や延髄外側は通らない。 ・内包前脚は錐体路が通らない。 ・Wallenberg症候群(延髄外側)で片麻痺が出ないのは錐体路が通らないため。
