6層・辺縁系・新生・免疫・小脳―中枢神経の「常識」を一つずつ点検する
第99回医師国家試験 D問題 第35問
国試問題にチャレンジ
正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.大脳皮質は7層構造からなる。
- b.扁桃体は脳幹に存在している。
- c.ニューロンは出生後には新生しない。
- d.ミクログリアは免疫系の細胞である。
- e.Purkinje細胞は小脳に分布している。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
大脳皮質の大部分を占める新皮質は6層構造で、海馬などの古い皮質はおおむね3層であり、7層の皮質は存在しません。扁桃体は側頭葉内側にある大脳辺縁系の構造で、情動や情動記憶に関わり、脳幹には含まれません。ほとんどのニューロンは分裂しませんが、成体でも脳室下帯や海馬歯状回で新生が起こるため、「生後は新生しない」という断定は誤りです。ミクログリアは卵黄嚢由来のマクロファージ系細胞で中枢神経の免疫を担い、Purkinje細胞は小脳皮質の唯一の出力を担う抑制性ニューロンです。こうした基本構造と細胞の性質を正確に押さえることが、神経疾患の症状や病態を理解する土台になります。
解答・解説
正解はd, eです
中枢神経系の基本的な構造と、それを構成する細胞についての知識を問う問題である。確認すべき点は次の4つである。 (1) 大脳皮質の層構造:新皮質は何層か。 (2) 扁桃体の位置と、どの機能系に属するか。 (3) 成体脳でもニューロンが新しく生まれるか(成体ニューロン新生)。 (4) グリア細胞(ミクログリア)と小脳皮質の神経細胞(Purkinje細胞)の性質。 大脳皮質の大部分を占める新皮質は6層構造である。扁桃体は大脳辺縁系の一部で、脳幹ではなく側頭葉の内側にある。かつては「ニューロンは生後に新しく生まれない」と考えられていたが、現在は海馬などで成体になっても新生が起こることがわかっている。これらを押さえれば、a・b・cが誤りとわかる。残るd(ミクログリアは中枢神経系の免疫を担う細胞)とe(Purkinje細胞は小脳皮質にある)が正しい記述である。
選択肢考察
- ×a. 大脳皮質は7層構造からなる。
誤り。大脳皮質の約9割を占める新皮質(等皮質)は6層構造である。表面側から順に、I層:分子層、II層:外顆粒層、III層:外錐体細胞層、IV層:内顆粒層、V層:内錐体細胞層、VI層:多形細胞層となる。各層の厚さは領域によって違う。たとえば一次運動野(中心前回)ではV層が厚く、Betz細胞という巨大錐体細胞を含む。一方、一次感覚野では、視床からの入力を受けるIV層がよく発達している。なお、海馬や嗅皮質などの古い皮質(不等皮質)はおおむね3層構造であり、7層構造の皮質はない。
- ×b. 扁桃体は脳幹に存在している。
誤り。扁桃体(amygdala)は側頭葉内側部の前方、海馬の前方で側脳室下角の先端近くにある神経核の集まり(灰白質)である。大脳辺縁系に属し、恐怖や不安などの情動の発現・評価と、情動に関係する記憶に深く関わる。発生学的には大脳(終脳)の一部で、脳幹(中脳・橋・延髄)には含まれない。両側の扁桃体を含む側頭葉内側部が損傷されると、Klüver-Bucy症候群(恐怖心の低下、何でも口に入れる行動、性行動の亢進など)が起こる。
- ×c. ニューロンは出生後には新生しない。
誤り。以前は「成熟したニューロンは分裂せず、生後に新しく作られることはない」と考えられていた。しかし現在では、成体の脳にも神経幹細胞が残っていることが知られている。神経幹細胞がある主な場所は、側脳室壁の脳室下帯(SVZ)と、海馬歯状回の顆粒細胞下層(SGZ)の2か所である。齧歯類では、脳室下帯でできた細胞が嗅球へ移動して介在ニューロンになり、歯状回でも顆粒細胞が新しく作られることがはっきり示されている。ヒトでも海馬歯状回で成体ニューロン新生を示す報告があり、学習や記憶との関係が研究されている。ただし、ヒトでの新生の規模には議論が残っている。いずれにしても、ほとんどのニューロンは分裂しない細胞であり、生後の新生はごく限られた部位で起こる。「出生後は一切新生しない」と言い切る記述は誤りである。
- ○d. ミクログリアは免疫系の細胞である。
ミクログリア(小膠細胞)は中枢神経系にあるグリア細胞の一つで、脳内の常在マクロファージとして働く免疫担当細胞である。アストロサイトやオリゴデンドロサイトは外胚葉(神経外胚葉)から生じる。これに対し、ミクログリアは胎生早期に卵黄嚢でつくられた前駆細胞が脳へ移り住んで生じる、中胚葉系・骨髄系(マクロファージ系)の細胞である。ふだんは細い突起を伸ばして周囲の環境を絶えず監視している。組織の損傷や感染が起こると活性化し、次のような働きをする。 ・食作用:死んだニューロン、変性した髄鞘、病原体を取り込んで処理する。 ・サイトカインの分泌:IL-1β、TNF-αなどを出して炎症反応を起こす。 ・抗原提示:MHCクラスII分子を発現し、T細胞に抗原を提示する。 また、発達期の余分なシナプスを取り除く働き(シナプス刈り込み)も担う。こうした性質から、免疫系の細胞とみなされる。
- ○e. Purkinje細胞は小脳に分布している。
Purkinje細胞は小脳皮質に特有の大型ニューロンである。小脳皮質は表面から分子層・Purkinje細胞層・顆粒層の3層からなり、Purkinje細胞は分子層と顆粒層の境界に一列に並ぶ。分子層に向けて、一平面上に扇のように広がる豊富な樹状突起を伸ばしている。入力は2種類ある。 ・平行線維:顆粒細胞の軸索。苔状線維からの情報を伝える。 ・登上線維:延髄の下オリーブ核から来る線維。 Purkinje細胞の軸索は、小脳皮質から出る唯一の出力である。GABA作動性の抑制性ニューロンで、小脳核や前庭神経核を抑制する。運動の協調や、運動の学習(長期抑圧による誤差修正)に中心的な役割を果たす。
大脳皮質の分類
・新皮質(等皮質):6層構造で、大脳皮質の大部分を占める。Brodmannは細胞構築(層構造の違い)をもとに皮質を52の領野に分けた。 ・古皮質・原皮質(不等皮質):嗅皮質や海馬など。おおむね3層構造である。
大脳辺縁系
帯状回、海馬傍回、海馬体、扁桃体、乳頭体などからなる。情動・記憶・自律機能・本能行動に関わる。Papezの回路は「海馬→脳弓→乳頭体→乳頭視床路→視床前核→帯状回→海馬傍回→海馬」とつながり、記憶に関係する。扁桃体は、主にこの回路とは別の情動系回路で中心的な役割を果たす。
中枢神経系のグリア細胞
・アストロサイト(星状膠細胞):血液脳関門の維持を助ける、細胞外のK⁺やグルタミン酸を取り除く、損傷部にグリア瘢痕をつくる。 ・オリゴデンドロサイト(稀突起膠細胞):中枢神経の髄鞘をつくる。末梢神経の髄鞘はSchwann細胞がつくる。 ・ミクログリア(小膠細胞):常在マクロファージとして免疫を担う。由来は中胚葉系(卵黄嚢の前駆細胞)。 ・上衣細胞:脳室や脊髄中心管の内面を覆う。
小脳皮質の神経回路
苔状線維→顆粒細胞→平行線維→Purkinje細胞、という経路と、登上線維(下オリーブ核から)→Purkinje細胞、という経路がある。Purkinje細胞は小脳核・前庭神経核へ抑制性(GABA)の出力を送る。小脳皮質の介在ニューロンには、籠細胞、星状細胞、Golgi細胞がある。
成体ニューロン新生
主な部位は、脳室下帯(ここから嗅球へ移動する)と海馬歯状回の顆粒細胞下層である。
POINT
・新皮質は6層構造である(海馬などの不等皮質は3層)。 ・扁桃体は側頭葉内側にある大脳辺縁系の構造で、情動に関わる。脳幹には含まれない。 ・成体でも海馬歯状回と脳室下帯(嗅球へ移動)でニューロンが新しく生まれる。 ・ミクログリアは中胚葉系(マクロファージ系)由来の、中枢神経の免疫担当細胞である。他のグリアは外胚葉由来である。 ・Purkinje細胞は小脳皮質の唯一の出力ニューロンで、GABA作動性(抑制性)である。
