痛みも熱もない黄疸―濃い尿と白い便から始める「まず超音波」の鉄則
第99回医師国家試験 C問題 第8問
国試問題にチャレンジ
56歳の男性。5日前に皮膚の黄染に気付き,徐々に増強したため来院した。尿の色が濃くなり,便の色は薄くなったが,腹痛と発熱とは認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。 まず行う検査はどれか。
- a.腹部エックス線単純撮影
- b.静脈性胆道造影
- c.腹部超音波検査
- d.上部消化管内視鏡検査
- e.肝生検
対話形式の解説
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ドクターまとめ
濃い尿(ビリルビン尿)と灰白色便がそろえば、抱合型ビリルビンが腸へ排泄されない閉塞性黄疸をまず疑います。腹痛や発熱を伴わず徐々に進む黄疸は、膵頭部癌・胆管癌・Vater乳頭部癌など悪性の胆道閉塞に典型的です。最初に行う検査は腹部超音波検査で、胆管拡張の有無により肝外閉塞か肝内胆汁うっ滞かを振り分け、拡張の範囲から閉塞部位を推定できます。黄疸があると静脈性胆道造影では胆道が描出されず、閉塞性黄疸での肝生検は胆汁性腹膜炎の危険から行いません。超音波の後はCT・MRCP・EUS・ERCPへと進む検査の流れを理解しておくことが、黄疸診療の基本になります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・56歳の男性で、5日前に気付いた皮膚の黄染(黄疸)が徐々に強くなっている。 ・尿の色が濃い:水に溶ける抱合型(直接)ビリルビンが血中で増え、尿中に出ていることを示す。 ・便の色が薄い:胆汁が腸管に流れ込まず、便を着色するステルコビリンができないことを示す(灰白色便)。 ・腹痛・発熱がない:無痛性の黄疸である。 ・腹部は平坦・軟で、肝・脾を触知しない:腹水や脾腫など、慢性肝疾患を思わせる所見はない。
診断へのプロセス
濃い尿と薄い便がそろっていることから、ビリルビンが肝臓で抱合された後、胆汁として腸へ流れ出る経路が妨げられている「閉塞性黄疸(肝外胆汁うっ滞)」がまず考えられる。溶血による黄疸では非抱合型(間接)ビリルビンが増えるため、ビリルビン尿は出ず、便の色も薄くならないので合わない。急性肝炎でも肝内胆汁うっ滞により同様の尿・便の変化が起こりうるが、全身倦怠感や発熱などの前駆症状の記載がない。また、脾腫もないことから、肝炎や肝硬変による黄疸の可能性は低い。 閉塞の原因のうち、総胆管結石は腹痛(胆石疝痛)や、胆管炎による発熱を伴うことが多い。一方、本症例のように痛みも熱もなく黄疸が徐々に進むのは、悪性腫瘍による胆道閉塞の典型的な経過である。膵頭部癌、胆管癌(遠位胆管癌)、Vater乳頭部癌などが鑑別の中心となる。
設問の考え方
閉塞性黄疸を疑ったとき最初にすべきことは、「胆管が拡張しているか(=肝外の機械的な閉塞があるか)」と「どの高さで閉塞しているか」を確かめることである。これを非侵襲的に、ベッドサイドで、すぐに評価できるのが腹部超音波検査であり、最初に行う画像検査となる。その後、CT、MRCP、EUS(超音波内視鏡)、ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)などで原因を詳しく調べ、必要に応じて胆道ドレナージを行う。
選択肢考察
- ×a. 腹部エックス線単純撮影
最初に行う検査として適切でない。単純エックス線写真では、胆管の拡張や膵頭部の腫瘤といった軟部組織の情報はほとんど得られない。写るのはカルシウムを多く含む胆石や膵石、ガス像、石灰化などに限られる。胆石の多くを占めるコレステロール結石はエックス線を通しやすく、単純写真では写らないことが多い。閉塞性黄疸の原因や閉塞部位を評価する目的には向かない。
- ×b. 静脈性胆道造影
適切でない。静脈性胆道造影(DIC:点滴静注胆道造影)は、静脈から入れた造影剤が肝細胞に取り込まれ、胆汁中に排泄されることを利用して胆道を写す検査である。黄疸があって胆汁の排泄が障害されていると、造影剤も胆道に出てこないため胆道は描出されない。一般に血清総ビリルビンが約3 mg/dLを超えると造影は困難とされる。さらに、ヨード造影剤による副作用の危険もあり、閉塞性黄疸の患者には行わない。現在ではMRCPやCTなどに置き換わり、ほとんど行われなくなった。
- ○c. 腹部超音波検査
最初に行うべき検査である。超音波検査は放射線被曝や造影剤の副作用がなく、簡便に何度でも繰り返せる。閉塞性黄疸では、閉塞部位より上流の胆管が拡張する(肝内胆管が門脈と並んで走る二重管のように見える所見や、総胆管径の拡大)。胆管拡張があれば肝外閉塞が裏付けられ、なければ肝内胆汁うっ滞(肝炎・薬剤性など)を考える、という振り分けができる。さらに、どこまで胆管が拡張しているかで閉塞部位を推定できる。例えば、肝内胆管から総胆管・胆嚢まで拡張していれば、下部胆管から乳頭部、あるいは膵頭部での閉塞が示唆される。胆嚢腫大、総胆管結石、膵頭部腫瘤、肝転移なども同時に評価できる。
- ×d. 上部消化管内視鏡検査
最初に行う検査としては適切でない。上部消化管内視鏡は食道・胃・十二指腸の粘膜を観察する検査であり、胆管や膵臓の内部は観察できない。閉塞性黄疸の原因のうち、直接観察できるのは十二指腸に顔を出すVater乳頭部の腫瘍くらいに限られる(乳頭の観察には側視鏡が適する)。また、非侵襲的な画像検査に比べて患者の負担が大きい。超音波検査やCTで閉塞部位の見当をつけた後、ERCPやEUSの一環として内視鏡を用いるのが通常の順序である。
- ×e. 肝生検
適切でない。肝生検は、慢性肝炎の進行度評価、原因のわからない肝障害、自己免疫性肝疾患や原発性胆汁性胆管炎などの肝実質の病気の診断に用いる侵襲的な検査であり、最初に行う検査ではない。閉塞性黄疸では胆管内圧が高いため、穿刺によって胆汁が腹腔内に漏れ出す(胆汁性腹膜炎)危険があり、一般に禁忌とされる。まず画像検査で肝外閉塞を確認・除外することが先決である。
ビリルビン代謝と黄疸の分類
赤血球の破壊で生じたビリルビンは、非抱合型(間接)ビリルビンとしてアルブミンと結合して肝臓へ運ばれる。肝細胞でグルクロン酸抱合を受けて抱合型(直接)ビリルビンとなり、胆汁中へ排泄される。腸内で細菌によりウロビリノゲンに変わり、一部は再吸収されて尿中へ、残りはステルコビリンとして便を着色する。 ・肝前性(溶血など):間接ビリルビン優位。尿ビリルビン陰性、尿ウロビリノゲン増加、便の色は正常〜濃い。 ・肝細胞性(肝炎、肝硬変など):直接・間接ともに上昇。AST・ALTの上昇が目立つ。 ・胆汁うっ滞性(閉塞性):直接ビリルビン優位。尿ビリルビン陽性、尿ウロビリノゲン減少〜陰性、灰白色便。ALP・γ-GTPが上昇し、胆汁酸の蓄積によるかゆみを伴うこともある。
閉塞性黄疸の主な原因
・良性:総胆管結石(腹痛・発熱を伴いやすい)、良性胆管狭窄、原発性硬化性胆管炎、IgG4関連硬化性胆管炎・自己免疫性膵炎など。 ・悪性:膵頭部癌、胆管癌、Vater乳頭部癌、胆嚢癌の胆管への浸潤、肝門部へのリンパ節転移など。無痛性で進行性の黄疸は悪性を強く疑う。拡張した胆嚢を無痛性に触れる所見はCourvoisier徴候とよばれ、膵頭部癌や下部胆管癌などで胆嚢より下流が閉塞したことを示唆する。
閉塞性黄疸の検査の流れ
1. 血液検査:総・直接ビリルビン、ALP、γ-GTP、AST・ALT、腫瘍マーカー(CA19-9、CEA)など。 2. 腹部超音波検査:胆管拡張の有無と閉塞部位の推定(スクリーニング)。 3. 造影CT、MRCP(磁気共鳴胆管膵管撮影):閉塞の原因、腫瘍の広がりや転移の評価。MRCPは造影剤なしで胆管・膵管を描出できる。 4. EUS(超音波内視鏡):小さな膵腫瘍や胆管結石の検出、組織の採取(EUS-FNA)。 5. ERCP:胆管造影に加え、細胞診・生検、ステント留置による減黄(胆道ドレナージ)など治療も兼ねる。経皮経肝的胆道ドレナージ(PTBD)が選ばれることもある。
静脈性胆道造影が使えない理由の整理
経静脈的に投与した造影剤を肝臓から胆汁中へ排泄させる検査は、肝臓の排泄能が保たれていることが前提である。黄疸の患者ではこの前提が崩れるため、胆道は写らない。
POINT
・濃い尿(ビリルビン尿)と灰白色便がそろえば、閉塞性黄疸をまず疑う。 ・無痛性で徐々に進む黄疸は、膵頭部癌、胆管癌、Vater乳頭部癌など悪性の胆道閉塞を考える。 ・最初に行う検査は腹部超音波検査。胆管拡張の有無で肝外閉塞か肝内胆汁うっ滞かを振り分け、閉塞部位を推定する。 ・黄疸(総ビリルビン約3 mg/dL以上)があると、静脈性胆道造影では胆道が描出されない。 ・閉塞性黄疸での肝生検は、胆汁性腹膜炎の危険があり行わない。
