「乾かせば治る」は過去の常識―仙骨部褥瘡と湿潤環境下療法
第99回医師国家試験 C問題 第7問
国試問題にチャレンジ
78歳の男性。2か月前に脳卒中で倒れ,寝たきり状態である。仙骨部に病変が生じている。仙骨部の写真を別に示す。 この病変部への対応で適切でないのはどれか。

- a.体位変換
- b.栄養補給
- c.病変部の乾燥
- d.病変部の感染防止
- e.体圧分散寝具の使用
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
寝たきり患者の仙骨部に生じた壊死組織を伴う潰瘍は褥瘡であり、骨突出部への持続的な圧迫による阻血性壊死です。対応は、体位変換と体圧分散寝具による除圧、栄養補給による全身管理、洗浄・デブリドマン・感染制御による局所管理の3本柱で考えます。創面を乾燥させると痂皮形成によって肉芽形成や上皮化が妨げられるため、創傷被覆材などで適度な湿潤環境を保つ湿潤環境下療法が現在の標準であり、「病変部の乾燥」は不適切な対応です。リスク評価にはブレーデンスケール、創の評価と経過観察にはDESIGN-Rが用いられ、局所治療は壊死組織の有無など創の時期に応じて選択します。湿潤環境の原則は熱傷や擦過傷を含む創傷管理全般に通じるため、臨床のあらゆる場面で役立つ知識です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
78歳の男性が脳卒中を発症して2か月、寝たきりの状態にある。自力で体の向きを変えられないため、仰臥位で体重が集中する仙骨部に長時間の圧迫がかかり続けている。そこに生じた皮膚病変であり、写真では中央に壊死組織があり、その周囲に肉芽組織がみられる皮膚潰瘍である。
診断
寝たきり、骨突出部(仙骨部)、壊死組織を伴う潰瘍という組み合わせから、褥瘡(圧迫による皮膚・皮下組織の阻血性壊死)と診断できる。仙骨部は仰臥位で最も褥瘡ができやすい部位であり、ほかに大転子部、踵部、坐骨結節部、後頭部なども好発部位である。
設問の考え方
本問は「適切でないもの」を選ぶ形式である。褥瘡の対応は、(1)原因である圧迫・ずれを取り除く(体位変換、体圧分散寝具)、(2)全身状態、とくに栄養状態を改善する、(3)創局所を適切に管理する(感染制御、壊死組織の除去、適度な湿潤環境の維持)の3本柱で考える。現在の創傷管理では、創面を乾かすのではなく、滲出液を適度に保った湿潤環境(moist wound healing)で治癒を促すことが原則である。したがって、創を乾燥させることが誤った対応となる。
選択肢考察
- ×a. 体位変換
適切な対応である。褥瘡は、骨突出部の皮膚・皮下組織が持続的に圧迫されて血流が途絶え、組織が阻血性壊死に陥ることで生じる。圧迫を一か所に集中させないよう、定期的に体の向きを変えることが予防と治療の基本である。従来はおおむね2時間ごとが目安とされ、高機能の体圧分散寝具を使っている場合は間隔を延ばす(4時間程度)ことも許容される。すでに褥瘡がある部位は、できるだけ荷重がかからない体位をとる。
- ×b. 栄養補給
適切な対応である。寝たきりの高齢者は低栄養(低アルブミン血症など)に陥りやすい。低栄養は皮下脂肪や筋肉を減らして骨突出を目立たせ、組織の抵抗力を落とすため、褥瘡の発生リスクを高める。さらに、肉芽や上皮の形成にはエネルギー、蛋白質、亜鉛・ビタミンCなどの微量栄養素が必要で、不足すると創傷治癒が遅れる。栄養評価に基づいて十分なエネルギーと蛋白質を補給することは、治療上欠かせない。
- ○c. 病変部の乾燥
適切でない対応であり、これが正解である。創面を乾燥させると痂皮や乾いた壊死組織(黒色壊死)ができ、肉芽組織の増生や表皮細胞の遊走(上皮化)が妨げられて治癒が遅れる。滲出液には細胞の増殖を促す成長因子などが含まれており、創面を適度に湿った状態に保つ湿潤環境下療法が現在の標準である。実際には、創を洗浄したうえで、ハイドロコロイドなどの創傷被覆材や外用薬を用いて適度な湿潤を保つ。なお、滲出液が多すぎると創周囲の皮膚がふやけて(浸軟)傷むため、吸収性の高いドレッシング材などで量を調整する。「乾かす」のではなく、「多すぎず少なすぎない湿潤状態に保つ」のが要点である。
- ×d. 病変部の感染防止
適切な対応である。壊死組織は細菌の温床となり、感染すると創傷治癒が止まるだけでなく、蜂窩織炎、骨髄炎、敗血症へ進展するおそれがある。生理食塩水や水道水などによる十分な洗浄を行い、壊死組織があれば外科的デブリドマン(壊死組織の除去)や、壊死組織を分解する外用薬を用いて除去する。感染の徴候(発赤・腫脹・熱感・疼痛、悪臭、膿性滲出液など)があれば抗菌作用のある外用薬を使い、全身症状を伴う場合は抗菌薬の全身投与も検討する。
- ×e. 体圧分散寝具の使用
適切な対応である。エアマットレスやウレタンフォームマットレスなどの体圧分散寝具は、体が沈み込んだり包み込まれたりすることで接触面積を広げ、骨突出部への圧力を分散・低減する。体位変換と組み合わせることで除圧効果が高まり、褥瘡の予防にも治療にも必須とされる。すでに褥瘡がある患者や、自力で体位を変えられない患者では、より高機能な寝具(圧切替型エアマットレスなど)が選ばれる。
褥瘡の発生機序
骨突出部の皮膚と皮下組織が骨と寝具の間に挟まれ、持続的な圧迫を受けると、毛細血管の血流が途絶えて組織が阻血に陥る。圧迫に加えて、ずれ(剪断力)、摩擦、湿潤(尿・便失禁や発汗による皮膚の浸軟)が発生を助長する。全身的な危険因子には、寝たきり・麻痺などの可動性低下、知覚障害、低栄養、るいそうによる骨突出、関節拘縮、浮腫などがある。
好発部位
仰臥位では仙骨部が最多で、踵部、後頭部、肩甲骨部なども生じやすい。側臥位では大転子部、腸骨稜部、外果部、座位では坐骨結節部に生じやすい。
深達度分類(NPUAP分類の概略)
ステージI:皮膚は保たれているが、押しても消えない発赤がある。 ステージII:真皮までの部分欠損(びらん・浅い潰瘍、水疱)。 ステージIII:皮下脂肪組織に達する全層欠損。 ステージIV:筋肉・腱・骨に達する全層欠損。 このほか、壊死組織に覆われて深さを判定できないものや、深部の組織損傷が疑われるものの分類もある。本症例のように壊死組織を伴う潰瘍は、少なくとも全層に及ぶ深い褥瘡と考えられる。
評価法
発生リスクの評価にはブレーデンスケール(知覚、湿潤、活動性、可動性、栄養、摩擦・ずれの6項目)が広く使われる。褥瘡そのものの重症度と経過の評価には、日本褥瘡学会のDESIGN-R(深さ、滲出液、大きさ、炎症/感染、肉芽組織、壊死組織、ポケットの各項目)が用いられる。
局所治療の流れ
壊死組織がある時期(黒色期・黄色期)は、感染の制御とデブリドマンを優先する。壊死組織が除去されて肉芽が増える時期(赤色期)、上皮化が進む時期(白色期)には、湿潤環境を保って肉芽形成と上皮化を促す。ポケットがある場合は切開などで処置を行う。保存的治療で改善しない深い褥瘡では、皮弁などによる外科的再建が検討される。
湿潤環境下療法(moist wound healing)
創を乾燥させると痂皮が形成され、表皮細胞は痂皮の下を潜るように移動しなければならず、上皮化が遅れる。適度な湿潤環境では、滲出液中の成長因子や白血球が働き、自己融解による壊死組織の除去、肉芽形成、上皮化がいずれも促進される。これは褥瘡に限らず、熱傷や擦過傷など創傷管理全般に共通する原則である。
POINT
・褥瘡は、持続的な圧迫による阻血性壊死である。寝たきりの患者の仙骨部に最も多い。 ・対応の3本柱は、除圧(体位変換、体圧分散寝具)、全身管理(栄養補給)、局所管理(洗浄、感染制御、デブリドマン)である。 ・創傷は乾燥させず、適度な湿潤環境に保つ(moist wound healing)。「乾燥させる」は誤り。 ・リスク評価にはブレーデンスケール、創の評価にはDESIGN-Rを用いる。
