StudyMed医師国家試験

その試験管、誰の血?―「1患者1トレー」と「先貼り」で防ぐ検体取り違え

第99回医師国家試験 C問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第99回 C問題 第12問

2人の患者に血球検査,血液凝固検査および血液生化学検査のための採血を行うことになった。試験管,名札(IDシール)およびトレーの準備の写真(①〜⑤)を示す。 適切なのはどれか。

第99回 C問題 第12問の問題画像
  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は医学知識というより医療安全の問題だ。2人分の採血を準備する場面で、写真ごとに違うのは2点だけ。患者ごとにトレーを分けているかどうかと、名札を試験管に貼るのが採血前か採血後か。この2つの軸で整理してみよう。
医学生医学生
採血後に貼るほうが、実際に採れた試験管だけに貼れるので無駄がないように思ってしまいました。
ドクタードクター
その発想はよく聞くけれど、そこに落とし穴がある。採血後に貼る方法だと、ラベルのない試験管に血液が入った状態が一時的に生まれる。2人分の試験管が並んでいたら、外見ではどれが誰の血液か区別できないよね。
医学生医学生
血液はどれも同じ赤色ですから、取り違えても見た目では気付けませんね。
ドクタードクター
そう。しかも取り違えた検体の結果は別の患者の値として報告され、数値だけからは誤りに気付きにくい。誤った輸血や投薬、診断につながる重大なミスなんだ。だから取り違えが起こりうる場面そのものを作らない準備が大事になる。
医学生医学生
名札を先に貼っておけば、採血の直前に患者さんの名前と試験管のラベルを照合できますね。
ドクタードクター
その通り。採血前に貼っておけば、照合してから採血でき、採血中も採血後も誰の検体かが常に明らかだ。では、両方の患者分とも名札を先に貼ってあるけれど、6本を1つのトレーにまとめている準備はどうかな。
医学生医学生
ラベルがあるなら区別はできるので、それで十分な気もしますが……。
ドクタードクター
かなり良い線だけれど、最善ではない。1つのトレーに2人分が並んでいると、採血時に隣の患者の試験管を手に取ったり、採血後に別の列へ戻してしまったりする混同が起こりうる。患者ごとにトレーを分ければ、物理的に分離されて混同しにくくなる。
医学生医学生
逆に、トレーは患者ごとに分けているけれど名札は採血後に貼る準備は、トレーの分離だけでは不十分ということですか。
ドクタードクター
そうだね。トレーが分かれていても、採血直前にラベルと患者を照合できないし、採血後に2人分の名札を手元で扱えば、別の患者の名札を貼ってしまう可能性が残る。1つのトレーで片方の患者分だけ先に貼る準備も、ラベルのない試験管が残るうえ、患者によって運用が違うこと自体が混乱のもとになる。
医学生医学生
1つのトレーにまとめて全部採血後に貼る準備は、どちらの対策も満たしていないので一番危ないですね。
ドクタードクター
その通り。結局、患者ごとに別のトレーを用意し、かつ各試験管に名札を採血前に貼ってある準備が、取り違え防止策を二重に講じた最も適切なものになる。
医学生医学生
OSCEの採血の手技でも、最初に患者さんにフルネームを名乗ってもらう確認を必ずやらされました。
ドクタードクター
それも大切なポイントだ。こちらから「〇〇さんですね」と呼びかけて返事をもらうだけでは、聞き間違いや思い込みで「はい」と答えてしまうことがある。患者自身にフルネーム、できれば生年月日も名乗ってもらい、リストバンドや依頼書と照合する。
医学生医学生
臨床実習で回った病院では、リストバンドのバーコードを端末で読んで採血管と照合していました。
ドクタードクター
まさに人の注意だけに頼らない仕組みだね。採血管準備装置が自動でラベルを貼って患者ごとにまとめる施設も多い。医療安全の基本は、人はミスをするという前提に立って、ミスが起こりにくい手順と、起こっても気付ける仕組みを重ねることなんだ。
医学生医学生
血算、凝固、生化学で試験管の種類が違うのも、何か注意点がありましたよね。
ドクタードクター
血算はEDTA入り、凝固はクエン酸ナトリウム入り、生化学は凝固促進剤や分離剤入りの血清用の管を使うのが一般的だ。抗凝固薬が他の管に持ち込まれると結果が狂う。たとえばEDTAが混入するとカリウムが高値、カルシウムが低値に出てしまうから、EDTA管は凝固用や血清用より後に採るなど、採血の順番にも決まりがある。研修医になると真っ先に任される手技だから、今のうちに安全な手順を体で覚えておこう。

まとめ

複数の患者から採血する際に最も警戒すべきミスは検体の取り違えであり、結果の数値だけからは気付きにくく、誤った輸血・投薬・診断につながりえます。これを防ぐ準備の基本は、患者ごとにトレーを分けて物理的に混同を防ぐことと、名札を採血前に試験管へ貼って採血直前に患者本人と照合することの2点で、両方を満たす準備が最も適切です。患者確認は医療者からの呼びかけではなく、患者自身にフルネームを名乗ってもらいリストバンド等と照合し、バーコード認証などの機械的な仕組みも併用します。あわせて採血管の種類と採血順序(EDTA管は後)にも注意が必要です。「人はミスをする」前提でミスが起こりにくい手順を重ねる考え方は、採血に限らずあらゆる医療行為の安全の土台になります。

解答・解説

正解はeです

問題の要点

2人の患者(Aさん・Bさん)から同時期に、血球検査(血算)、血液凝固検査、血液生化学検査の3種類の採血を行う場面で、採血前の準備として最も安全なものを選ぶ問題である。写真の中で比べるべき点は次の2つである。 1. 患者ごとにトレー(試験管立て)を分けているか 2. 名札(患者IDシール)を採血前に試験管へ貼っているか(あらかじめ貼る)、採血後に貼るか

考え方

採血業務で最も重大なミスの一つは、検体の取り違え(患者誤認・検体の入れ替わり)である。取り違えた検体の結果は別の患者の値として報告されるため、誤った輸血・投薬・診断につながり、しかも結果の数値だけからは気付きにくい。これを防ぐには、「取り違えが起こりうる場面そのものを作らない」準備が重要である。 ・名札を採血後に貼る方法では、ラベルのない試験管に血液が入った状態が一時的に生じる。その間に2人分の試験管が並んでいると、どれが誰の血液かを外見で区別できず、ラベルの貼り間違いが起こりうる。一方、採血前に名札を貼っておけば、採血直前に患者本人の氏名・IDと試験管のラベルを照合でき、採血後に誰の検体か分からなくなることがない。 ・2人分の試験管を1つのトレーに並べると、採血時に隣の患者の試験管を取ってしまう、検体を別の患者の列へ戻してしまうといった混同が起こりうる。患者ごとにトレーを分ければ、物理的に分けられるため混同が起きにくい。 したがって、「患者ごとに別のトレーを用意し」かつ「名札をあらかじめ試験管に貼ってある」準備が最も適切であり、写真⑤がこれに当たる。

選択肢考察

  1. ×a.  ①

    2人分・計6本の試験管を1つのトレーに並べ、名札は採血後に貼る準備である。トレーが共通で患者ごとに分けられていないうえ、採血後の試験管にはラベルがないため、どの試験管が誰の血液かを取り違える危険が最も大きい。2つの防止策のどちらも満たしていないため不適切である。

  2. ×b.  ②

    1つのトレーに2人分の試験管を並べ、一方の患者の試験管には名札を先に貼り、もう一方の患者の分は採血後に貼る準備である。片方だけ貼ってあれば区別できるように見えるが、ラベルのない試験管が残るため、採血後の貼り付け時に誤りが起こりうる。運用が患者によって異なること自体も混乱の原因になる。さらにトレーも共通であり不適切である。

  3. ×c.  ③

    名札を採血前に両方の患者分とも貼っている点は正しい。しかし2人分の試験管を1つのトレーにまとめているため、採血時に隣の患者の試験管を手に取る、採血後に誤った位置へ戻すといった混同が起こりうる。患者ごとにトレーを分けていない点で、最善の準備とはいえない。

  4. ×d.  ④

    患者ごとにトレーを分け、それぞれ3本ずつ試験管を用意している点は正しい。しかし名札を採血後に貼るため、採血直前に試験管のラベルと患者を照合できず、採血後にラベルを貼る段階で別の患者の名札を貼ってしまう可能性が残る。とくに2人分の名札を手元で扱う場面では誤りが起こりうるため、不適切である。

  5. ○e.  ⑤

    患者ごとに別々のトレーを用意し、各トレーに3種類の検査用試験管を並べ、それぞれの試験管にはAさん・Bさんの名札を採血前に貼ってある。採血直前に患者本人の氏名・IDとラベルを照合でき、採血中も採血後も検体がどちらの患者のものかが常に明らかである。トレーを分けることで物理的な混同も防げるため、取り違え防止策を二重に講じた最も適切な準備である。

採血時の検体取り違え防止の基本

・患者確認: 患者本人にフルネーム(可能なら生年月日も)を名乗ってもらい、リストバンドや依頼書と照合する。医療者側から「〇〇さんですね」と呼びかけて返事を得るだけでは、聞き間違いや思い込みによる返答で誤認が起こるため不十分である。 ・ラベルの照合: 試験管のラベル(氏名・ID・検査項目)と患者・依頼内容が一致しているかを採血前に確認する。ラベルは採血前に貼る、あるいは患者のそばで貼るのが原則であり、ラベルのない試験管を持ち歩かない。 ・1患者1トレー: 複数の患者の採血を行うときは、患者ごとにトレーや試験管立てを分け、1人の採血を終えてから次の患者に移る。 ・バーコード認証: 多くの施設では、患者のリストバンドのバーコードと採血管ラベルのバーコードを携帯端末で照合するシステムや、採血管準備装置(自動でラベルを貼って患者ごとにまとめる装置)が導入されており、人の注意だけに頼らない仕組みづくりが進んでいる。

採血管の種類について(参考)

血算にはEDTA(エチレンジアミン四酢酸)入り、凝固検査にはクエン酸ナトリウム入り、生化学検査には凝固促進剤や分離剤入り(血清用)の採血管が用いられる。採血管に入っている抗凝固薬が他の採血管へ持ち込まれると結果に影響する(例: EDTAが混入するとカリウムが高値、カルシウムが低値となる)ため、EDTA管は凝固用・血清用より後に採血するなど、採血する順番にも決まりがある。

医療安全の考え方

人はミスをするという前提に立ち、ミスが起こりにくい手順(名札の事前貼付、物品の分離など)と、起こっても気付ける仕組み(ダブルチェック、機械的照合)を重ねることが基本である。

POINT

・複数患者の採血では、患者ごとにトレー(試験管立て)を分ける。 ・名札(IDシール)は採血前に試験管へ貼り、採血直前に患者本人と照合する。採血後に貼る方法は取り違えの原因となる。 ・患者確認は患者自身にフルネームを名乗ってもらって行い、リストバンド等と照合する。 ・2つの対策(トレーの分離と名札の事前貼付)をともに満たす準備が正解となる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。