StudyMed医師国家試験

治らない舌縁の潰瘍、次に触るべきは「あごの下」―舌癌のリンパ流を追いかける

第99回医師国家試験 C問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第99回 C問題 第10問

55歳の男性。3か月前に右舌縁に違和感とひりひりした感じとが出現し,次第に増強したため来院した。舌の写真を示す。 頸部の触診で最も注意すべき部位はどれか。

第99回 C問題 第10問の問題画像
  1. a.耳下腺部
  2. b.顎下部
  3. c.前頸部
  4. d.後頸部
  5. e.鎖骨上窩

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は口腔の病変を見て診断をつけ、そのうえで「頸部のどこを一番丁寧に触るか」を問う問題だ。カギは2つ。写真の病変が何を示しているかと、舌のリンパがどこへ流れるか。まずは舌の写真から、どんな病変を考えるかな。
医学生医学生
右の舌縁に白っぽい部分と赤い部分が混ざっていて、潰瘍もありそうです。口内炎にしては長引いている気がします。
ドクタードクター
いい着眼点だね。白色の角化と発赤が混在し、境界が不明瞭で盛り上がりと潰瘍を伴う不整な病変。しかも数か月かけて症状が強くなっている。アフタ性口内炎なら境界明瞭な小潰瘍で1〜2週で治るし、歯の鋭縁や義歯による褥瘡性潰瘍なら原因を取り除けば2週間ほどで改善する。
医学生医学生
2週間以上治らない口腔内の潰瘍は癌を疑って生検、と耳鼻科の講義で強調されていました。
ドクタードクター
その通り。中高年男性の舌縁は舌癌の好発部位で、組織型はほとんどが扁平上皮癌だ。背景に白板症のような前癌病変があることも多い。では舌癌を疑ったとき、原発巣の次に何を確かめる?
医学生医学生
転移の有無ですね。頸部リンパ節を触ります。でも頸部と言っても広いので、どこから触ればいいのか迷います。
ドクタードクター
そこで役立つのがリンパ流の知識だ。舌尖部はオトガイ下リンパ節へ、舌の前方3分の2の側縁は同側の顎下リンパ節へまず流れ、そこから顎角付近の上内深頸リンパ節へ向かう。舌根部は上内深頸リンパ節へ直接、しかも両側に流れやすい。
医学生医学生
今回は右の舌縁なので、右の顎下部が最初の関所ということですね。
ドクタードクター
そう、最も注意して触診すべきは下顎骨下縁の内側にあたる顎下部だ。あわせて顎角付近の上内深頸部も必ず確認する。実際の頸部郭清の統計では上内深頸部の転移が最多とする報告も多いから、顎下部だけ触って終わりにしないことが大切だよ。
医学生医学生
耳下腺部も顔に近いので、少し引っかかりました。
ドクタードクター
耳下腺部のリンパ節は、主に顔面上部や側頭部の皮膚、眼瞼、外耳などのリンパを受ける場所で、舌からの主経路ではない。耳下腺部に腫瘤があれば、まずは多形腺腫やワルチン腫瘍といった耳下腺腫瘍を考える部位だね。
医学生医学生
前頸部は甲状腺の周りなので、甲状腺癌の転移を探すところというイメージです。
ドクタードクター
よく整理できている。喉頭前や気管前・気管傍のリンパ節は甲状腺、喉頭、下咽頭などのリンパを受けるから、舌癌で最初に転移する場所ではない。後頸部、つまり胸鎖乳突筋の後ろの副神経沿いはどうかな。
医学生医学生
上咽頭癌が後頸部に転移しやすいと国試の過去問で見ました。
ドクタードクター
その通り。上咽頭癌は早い段階から後頸部のリンパ節腫脹で見つかることがある。鎖骨上窩は頸部リンパ流の最下流で、左鎖骨上窩なら胃癌などのウィルヒョウ転移が有名だ。頭頸部癌がそこに出るのは、上流のリンパ節を経て進行した段階と考えていい。
医学生医学生
原発巣ごとに「最初の関所」が違うので、リンパ節腫脹の場所から原発巣を逆算することもできそうですね。
ドクタードクター
まさにそれが頸部診察の醍醐味だ。整理用に頸部リンパ節のレベル分類も覚えておこう。レベルⅠがオトガイ下と顎下で口腔、レベルⅡからⅣが内深頸の上・中・下、レベルⅤが後頸三角、レベルⅥが前頸部。口腔癌ならⅠとⅡ、上咽頭癌ならⅤ、甲状腺癌ならⅥ、と結び付けるとよい。
医学生医学生
舌は正中で左右のリンパが交わると聞いたことがあります。対側も触るべきでしょうか。
ドクタードクター
大事な指摘だね。病変が正中に近い場合や舌根部の病変では、対側への転移も起こりうるから両側を確認する。リンパ節転移の有無はTNM分類のN因子として病期と予後を大きく左右し、頸部郭清術を行うかどうかの判断にも直結する。触診に加えて超音波、CT、MRIで評価し、必要ならPETで遠隔転移を探す。
医学生医学生
臨床実習の外来で口腔の視診だけで終わらせず、首まで触る習慣をつけたいと思います。
ドクタードクター
それが一番の学びだ。喫煙や飲酒、合わない義歯による慢性刺激といった危険因子を問診で拾い、治らない舌の潰瘍を見たら生検と頸部の触診をセットで行う。この流れを体に染み込ませておこう。

まとめ

中高年の舌縁に、数か月かけて増悪する疼痛と潰瘍を伴う境界不明瞭な病変があれば、舌癌(多くは扁平上皮癌)を疑い、2週間以上治らない口腔の潰瘍は生検で確認します。舌の前方3分の2の側縁のリンパはまず同側の顎下リンパ節へ流れ、続いて上内深頸リンパ節へ向かうため、頸部の触診では顎下部を中心に、顎角付近の上内深頸部もあわせて丁寧に確認します。耳下腺部は耳下腺腫瘍、前頸部は甲状腺癌、後頸部は上咽頭癌、左鎖骨上窩は胃癌などのウィルヒョウ転移と、部位ごとに連想すべき原発巣が異なります。リンパ節転移の有無は病期・予後・頸部郭清の適応を左右するため、口腔の視診と頸部の触診をセットで行う習慣は、頭頸部癌の早期発見と適切な治療方針決定の基礎になります。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・55歳男性、3か月前から右舌縁の違和感とひりひり感があり、次第に増強している(数か月単位で進行する病変) ・写真では右舌縁に、白色の角化病変と発赤が混在する表面不整な病変があり、潰瘍やびらんを伴っている。周囲との境界ははっきりせず、盛り上がりがある

診断へのプロセス

中高年男性の舌縁(舌の側面)に、数か月かけて増悪する疼痛・違和感を伴う、境界不明瞭で潰瘍を伴う不整な病変がある。舌縁は舌癌の好発部位で、組織型はほとんどが扁平上皮癌である。アフタ性口内炎(1〜2週で治る境界明瞭な小潰瘍)や、歯の鋭縁・義歯による褥瘡性潰瘍(原因を除くと2週間程度で改善する)とは経過が違う。2週間以上治らない口腔内の潰瘍・硬結は癌を疑って生検を行うのが原則である。白板症(前癌病変)が背景にあることも多い。

設問の考え方

舌癌を疑ったら、原発巣を評価するとともに、頸部リンパ節への転移がないかを触診で確かめる。リンパ節転移の有無は病期(TNM分類のN因子)と予後を大きく左右し、頸部郭清術を行うかどうかの判断にも関わる。舌の前方〜側縁のリンパは、まず顎下リンパ節(舌尖部はオトガイ下リンパ節)に入り、そこから上内深頸リンパ節(顎二腹筋リンパ節)へ流れる。したがって最も注意して触診すべきなのは、下顎骨の下縁の内側にあたる顎下部であり、あわせて顎角部付近の上内深頸部も確認する。

選択肢考察

  1. ×a.  耳下腺部

    耳下腺部のリンパ節(耳下腺内・耳下腺周囲リンパ節)は、主に顔面上部・側頭部の皮膚、眼瞼、外耳などのリンパを受ける。舌からのリンパ流の主な経路ではなく、舌癌の転移を最初に探す部位ではない。耳下腺部の腫瘤は耳下腺腫瘍(多形腺腫、ワルチン腫瘍など)を考える部位である。

  2. ○b.  顎下部

    舌の前方2/3(可動部舌)、特に舌縁のリンパは同側の顎下リンパ節へまず流れ、そこから上内深頸リンパ節に至る。舌尖部はオトガイ下リンパ節に流れる。このため舌癌の頸部リンパ節転移は顎下部(とオトガイ下部)およびそれに続く上内深頸部に最も多い。本例は右舌縁の癌が疑われるので、右顎下部を中心に丁寧に触診する。舌は正中を越えてリンパ流が交差するため、病変が正中に近い場合は対側も確認する。

  3. ×c.  前頸部

    前頸部(喉頭・気管・甲状腺の周囲にあたる中央区域)のリンパ節(喉頭前、気管前・気管傍リンパ節)は、主に甲状腺・喉頭・下咽頭・頸部食道のリンパを受ける。甲状腺癌や声門下癌の転移を考える部位で、舌癌で最初に転移する部位ではない。

  4. ×d.  後頸部

    後頸部(胸鎖乳突筋の後縁より後ろの後頸三角、副神経沿いのリンパ節)は、後頭部の頭皮や上咽頭(鼻咽腔)からのリンパを受ける。上咽頭癌では早い段階から後頸部に転移が出ることが多いが、舌癌の初期の転移部位ではない。

  5. ×e.  鎖骨上窩

    鎖骨上窩のリンパ節は頸部リンパ流の最下流で、胸部・腹部からのリンパが胸管などを経て静脈角に合流する部位に近い。左鎖骨上窩リンパ節への胃癌などの転移はウィルヒョウ転移と呼ばれる。頭頸部癌が鎖骨上窩に転移するのは、上流のリンパ節を経て進行した段階であり、最初に注意する部位ではない。

舌癌の概要

・口腔癌の中で最も多い(口腔癌の半数前後を占める)。組織型の大部分は扁平上皮癌である ・好発年齢は50〜70歳代で男性に多い。近年は若年者や女性の症例も増えている ・危険因子:喫煙、飲酒、歯の鋭縁や不適合な義歯による慢性的な刺激、口腔衛生の不良など ・前癌病変:白板症(こすっても取れない白色の角化病変)、紅板症(紅板症は癌化率が高い) ・好発部位:舌縁(舌の側面)が最も多い。舌背や舌尖にできることは少ない ・症状:接触痛、ひりひり感、治らない潰瘍、硬結。進行すると舌の運動障害や構音障害、嚥下障害が出る ・診断:視診・触診(硬結の範囲)、生検による病理診断、CT・MRI・超音波による深達度と頸部リンパ節の評価、PETによる遠隔転移の検索 ・治療:外科切除(舌部分切除〜亜全摘・全摘、必要に応じて再建)が中心。頸部リンパ節転移があれば頸部郭清術を行い、進行例では放射線療法・化学療法を組み合わせる

頸部リンパ節のレベル分類(概略)

・レベルⅠ:オトガイ下(ⅠA)・顎下(ⅠB)リンパ節 → 口腔(舌、口底、歯肉、口唇) ・レベルⅡ:上内深頸リンパ節(顎角付近、顎二腹筋リンパ節を含む) → 口腔、中咽頭、喉頭、上咽頭など ・レベルⅢ:中内深頸リンパ節 → 喉頭、下咽頭 ・レベルⅣ:下内深頸リンパ節(鎖骨上付近) → 下咽頭、喉頭、甲状腺、頸部食道 ・レベルⅤ:後頸三角(副神経沿い)リンパ節 → 上咽頭、後頭部の頭皮 ・レベルⅥ:前頸部(喉頭前、気管前・気管傍)リンパ節 → 甲状腺、喉頭、下咽頭

舌のリンパ流

・舌尖部 → オトガイ下リンパ節 ・舌の前方2/3の側縁 → 顎下リンパ節 → 上内深頸リンパ節 ・舌根部(後方1/3) → 上内深頸リンパ節(両側に流れやすい)

POINT

・中高年男性の舌縁に、数か月かけて増悪する疼痛と潰瘍を伴う不整な病変 → 舌癌(扁平上皮癌)を疑う ・舌癌の頸部リンパ節転移は顎下部(レベルⅠ)とそれに続く上内深頸部(レベルⅡ)に多い ・口腔癌の診察では、原発巣の評価とともに顎下部を中心に頸部リンパ節を必ず触診する ・後頸部への転移は上咽頭癌、前頸部は甲状腺癌、左鎖骨上窩は胃癌などの腹部の癌(ウィルヒョウ転移)を連想する

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。