成人の耳閉感は「のど」を診よ―EBウイルスが潜む上咽頭癌の素顔
第119回医師国家試験 A問題 第18問
国試問題にチャレンジ
57歳の男性。1か月前からの両側耳閉感を主訴に来院した。右鼻腔ファイバースコープ像(A)と頭頸部造影CT(B)を下に示す。組織生検の結果は扁平上皮癌であった。 この疾患で正しいのはどれか。

- a.転移を伴うことは少ない。
- b.EBウイルスが原因となる。
- c.欧米では高頻度にみられる。
- d.急性中耳炎を併発しやすい。
- e.早期癌で見つかることが多い。
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
上咽頭の側壁には耳管咽頭口があり、ここに腫瘍ができると耳管が閉塞して滲出性中耳炎をきたすため、成人の原因不明の耳閉感や滲出性中耳炎では上咽頭癌の除外が欠かせません。上咽頭癌はEBウイルスとの関連が強く、遺伝的素因や塩蔵魚などの環境因子も加わって中国南部や東南アジアに多発し、欧米や日本では比較的まれです。silent areaに発生するため進行癌で見つかることが多く、頸部リンパ節転移の頻度が高いほか、頭蓋底浸潤による外転神経麻痺などの脳神経症状をきたすこともあります。治療は放射線感受性の高さと手術の難しさから放射線治療が中心で、進行例では化学放射線療法が行われます。耳の症状から上咽頭へと解剖をたどる思考は、頭頸部癌の早期発見につながる大切な臨床の視点です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・57歳の男性、1か月前から続く両側の耳閉感(耳が詰まった感じ)。 ・右鼻腔からのファイバースコープ像(A):鼻腔の奥、後鼻孔を越えた上咽頭に表面不整で出血を伴う腫瘤がみられる。 ・頭頸部造影CT(B):上咽頭に造影される境界不明瞭な腫瘤を認める。 ・生検:扁平上皮癌。
診断へのプロセス
成人が耳閉感を訴えた場合、耳垢栓塞、耳管狭窄症、滲出性中耳炎などが鑑別に挙がる。上咽頭の側壁には耳管の咽頭側の開口部(耳管咽頭口)があり、ここが腫瘍で塞がれると中耳の換気ができなくなって中耳腔が陰圧となり、滲出液がたまる(滲出性中耳炎)。小児の滲出性中耳炎はアデノイド増殖症などによることが多いが、成人、特に片側性や原因の明らかでない滲出性中耳炎・耳閉感をみたら、上咽頭癌を必ず除外しなければならない。本例ではファイバースコープとCTで上咽頭に腫瘍を認め、組織学的に扁平上皮癌が証明されたので、上咽頭癌と診断できる。腫瘍が大きく、左右両側の耳管咽頭口に影響して両側の症状を呈していると考えられる。
設問の考え方
上咽頭癌の疫学(地域差)、病因(EBウイルス)、進展形式(リンパ節転移・頭蓋底浸潤)、発見時の病期、合併症(滲出性中耳炎)という、他の頭頸部癌と異なる特徴を整理しておけば解ける。
選択肢考察
- ×a. 転移を伴うことは少ない。
上咽頭はリンパ流が豊富で、上咽頭癌は頭頸部癌の中でも特に頸部リンパ節転移を起こしやすい。咽頭後リンパ節(ルビエールリンパ節)から上内深頸リンパ節へと広がり、両側性の転移も少なくない。初診時に7〜8割程度でリンパ節転移を認めるとされ、頸部腫瘤(リンパ節腫大)を主訴に受診して原発巣が見つかることも多い。また、肺・骨・肝などへの遠隔転移も他の頭頸部癌に比べて起こしやすい。
- ○b. EBウイルスが原因となる。
上咽頭癌、とくに流行地域に多い非角化型癌は、Epstein-Barr(EB)ウイルスの感染と強く関連し、腫瘍細胞内にEBウイルスのゲノムや関連抗原(EBERなど)が検出される。患者血清ではEBウイルス抗体価(VCA-IgA抗体など)の上昇がみられ、血漿中のEBウイルスDNA量は診断補助や治療効果判定、再発のモニタリングに用いられる。EBウイルスに加え、遺伝的素因や塩蔵魚の摂取などの環境因子も発症に関わる。
- ×c. 欧米では高頻度にみられる。
上咽頭癌は地域差が非常に大きい癌で、中国南部(広東省など)、香港、台湾、東南アジア、北アフリカに多く、欧米や日本では比較的まれである。流行地域で多い背景には、EBウイルス感染に加えて遺伝的素因(HLA型など)や塩蔵魚などの食習慣が関与すると考えられている。
- ×d. 急性中耳炎を併発しやすい。
上咽頭癌が併発しやすいのは急性中耳炎ではなく滲出性中耳炎である。腫瘍が耳管咽頭口を圧迫・閉塞して耳管が機能しなくなると、中耳腔が陰圧となり滲出液が貯留する。発熱や強い耳痛を伴う細菌感染症である急性中耳炎とは病態が異なる。成人の滲出性中耳炎では上咽頭の観察が必須である。
- ×e. 早期癌で見つかることが多い。
上咽頭は鼻腔の奥、頭蓋底の直下に位置し、外から見えず初期には症状が乏しい(silent area)。そのため、頸部リンパ節腫大、耳閉感・難聴(滲出性中耳炎)、鼻閉・鼻出血、あるいは頭蓋底浸潤による脳神経症状(複視、顔面のしびれなど)が出てから見つかることが多く、診断時にはすでに進行癌であることが多い。
上咽頭癌の概要
・好発:40〜60歳代、男性に多い(男女比はおよそ2〜3:1)。 ・組織型:大部分が扁平上皮癌で、WHO分類では角化型扁平上皮癌、非角化型癌(分化型・未分化型)、類基底扁平上皮癌に分けられる。流行地域では非角化型が大半を占め、EBウイルスとの関連が強い。 ・危険因子:EBウイルス、遺伝的素因、塩蔵魚などの食習慣、喫煙など。
症状(部位から考える)
・耳症状:耳管咽頭口の閉塞による耳閉感、難聴、滲出性中耳炎。 ・鼻症状:鼻閉、鼻出血、血性鼻汁。 ・頸部症状:無痛性の頸部リンパ節腫大(初発症状として最も多いものの一つ)。 ・脳神経症状:頭蓋底や海綿静脈洞へ上方進展すると、外転神経(VI)麻痺による複視が代表的で、三叉神経(V)、動眼神経(III)、滑車神経(IV)なども障害されうる。咽頭後間隙・傍咽頭間隙への進展や咽頭後リンパ節転移では、舌咽(IX)・迷走(X)・副(XI)・舌下(XII)神経が障害されうる。
診断
内視鏡(ファイバースコープ)による観察と生検で確定する。進展範囲の評価にはMRI(頭蓋底浸潤の評価に優れる)、CT、遠隔転移の検索にPET-CTなどを用いる。EBウイルス関連の血清学的検査や血漿EBウイルスDNA測定が補助となる。
治療
上咽頭は頭蓋底に接し手術が困難であるうえ、放射線感受性が高いため、治療の中心は放射線治療である。早期例は放射線単独、進行例ではシスプラチンを中心とした化学療法を併用する化学放射線療法が標準となる。強度変調放射線治療(IMRT)により唾液腺など周囲正常組織の障害軽減が図られている。
POINT
・成人の(特に片側性の)滲出性中耳炎・耳閉感をみたら上咽頭癌を除外する。 ・上咽頭癌はEBウイルスと関連し、中国南部・東南アジアに多い。 ・頸部リンパ節転移を起こしやすく、silent areaのため進行癌で見つかることが多い。 ・頭蓋底浸潤により脳神経症状(外転神経麻痺による複視など)をきたしうる。 ・治療は放射線治療(進行例では化学放射線療法)が中心である。
