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鼻の奥の「見えない扁桃」―アデノイド増殖症は位置関係で症状が決まる

第115回医師国家試験 C問題 第34問

国試問題にチャレンジ

第115回 C問題 第34問

アデノイド増殖症による症状として出現する可能性があるのはどれか。3つ選べ。

  1. a.嗄声
  2. b.難聴
  3. c.鼻閉
  4. d.いびき
  5. e.嚥下障害

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はアデノイド増殖症で出てくる症状を選ぶ問題だ。丸暗記しなくても、アデノイドが「どこにあって、周りに何があるか」がわかれば答えを導ける。まず、アデノイドがどこにあるか言えるかな。
医学生医学生
咽頭扁桃のことですよね。解剖の講義でワルダイエル咽頭輪の一部として習いましたが、口を開けて見える扁桃とは違うんでしょうか。
ドクタードクター
そう、口を開けて見えるのは口蓋扁桃で、中咽頭にある。アデノイドはもっと上、上咽頭(鼻咽腔)の後上壁にあるから、口からは直接見えないんだ。生理的に幼児期に大きくなって4〜6歳ころに最大になり、思春期にかけて縮小していく。この生理的な範囲を超えて大きくなり、症状を起こす状態がアデノイド増殖症だよ。
医学生医学生
だから症状が出るのは小さい子どもが中心なんですね。
ドクタードクター
その通り。では上咽頭の前方には何があるだろう。
医学生医学生
鼻腔とつながる後鼻孔ですね。そこがふさがれば鼻閉になると思います。
ドクタードクター
正解。後鼻孔が狭くなると鼻で息がしにくくなり、口呼吸が習慣になる。鼻汁の流れも滞るから、慢性鼻炎や副鼻腔炎を合併しやすい。声も鼻に抜けにくくなって、鼻がつまったような閉鼻声になるんだ。次に側方はどうかな。
医学生医学生
側方……耳管の開口部でしょうか。耳管咽頭口があったはずです。
ドクタードクター
よく覚えているね。肥大したアデノイドが耳管咽頭口を圧迫したり、細菌のすみかになって炎症を耳管に波及させたりすると、中耳の換気がうまくいかなくなる。中耳腔が陰圧になって滲出液がたまるのが滲出性中耳炎で、結果として伝音難聴が起こる。
医学生医学生
臨床実習の耳鼻科外来で、滲出性中耳炎の子のティンパノグラムがB型の平らな波形だったのを見ました。あれもアデノイドが原因のことがあるんですね。
ドクタードクター
そうなんだ。小児の滲出性中耳炎の重要な原因の一つで、難治例ではアデノイド切除術が考慮される。だから難聴は選ぶべき選択肢だ。それから上気道全体が狭くなる影響も考えよう。
医学生医学生
狭いところを空気が通ると、いびきになりますよね。
ドクタードクター
その通り。いびきは狭くなった上気道で周囲の軟部組織が振動して生じる音だ。アデノイドで上咽頭が狭くなるうえ、口呼吸で舌根が後ろに落ち込みやすい。口蓋扁桃肥大が合わさると、小児の閉塞性睡眠時無呼吸の主要な原因になる。というわけで、鼻閉・難聴・いびきの3つが正解だ。
医学生医学生
残りの嗄声は、声がこもるならありそうな気もしたんですが……。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。嗄声、つまり声がれは、喉頭にある声帯の振動が乱れて起こる。ポリープや結節、反回神経麻痺などが原因だ。アデノイドで起こるのは鼻への共鳴が減る閉鼻声で、声帯の問題である嗄声とは別物なんだ。
医学生医学生
嚥下障害も、喉が狭くなるなら起こりそうに思えました。
ドクタードクター
食べ物の通り道を考えるとわかりやすい。食塊が通るのは口腔、中咽頭、下咽頭、食道で、上咽頭は通り道ではない。嚥下のときは軟口蓋が持ち上がって上咽頭を閉じるんだけど、アデノイドが大きいとむしろその閉鎖を助ける方向に働く。だからアデノイド増殖症そのものでは嚥下障害は考えにくい。ただし、口蓋扁桃肥大が高度に合併すると、中咽頭が狭くなって飲み込みにくさを訴えることはあるよ。
医学生医学生
前は後鼻孔で鼻閉、横は耳管で難聴、全体の狭窄でいびき。声帯と食べ物の通り道は下にあるから影響しない、と位置で整理すればいいんですね。
ドクタードクター
完璧だ。発展知識も押さえておこう。長期間の口呼吸が続くと、口が半開きで上唇が短く、表情がぼんやりした「アデノイド顔貌」になり、歯列不正や高口蓋を伴うこともある。睡眠時無呼吸があると、日中の眠気や集中力低下、夜尿、成長障害につながることもあるんだ。
医学生医学生
診断はファイバーで見るんでしょうか。口から見えないなら、ほかの方法もありそうです。
ドクタードクター
鼻咽腔ファイバースコープでの直接観察が基本で、頭部側面X線撮影で上咽頭後壁の軟部陰影の厚みと気道の狭さを確認することもある。睡眠時無呼吸が疑われれば終夜睡眠ポリグラフ検査で重症度を評価する。軽症なら自然縮小を待って経過観察、高度ならアデノイド切除術だ。粘膜下口蓋裂など鼻咽腔閉鎖が弱い子では、切除後に開鼻声が目立つことがあるので術前の確認が大切だよ。
医学生医学生
大人で同じような症状があったらどう考えればいいですか。
ドクタードクター
大事な質問だね。成人ではアデノイドは縮小しているはずだから、上咽頭に腫瘤があって片側の滲出性中耳炎や難聴、鼻閉がみられたら、上咽頭癌を必ず鑑別しなければならない。「大人の片側の滲出性中耳炎は上咽頭を見る」と覚えておこう。

まとめ

アデノイド(咽頭扁桃)は上咽頭後上壁にあるリンパ組織で、幼児期に生理的に肥大し思春期にかけて縮小します。アデノイド増殖症の症状は周囲構造の圧迫で説明でき、後鼻孔閉塞による鼻閉・口呼吸・閉鼻声、耳管咽頭口の障害による滲出性中耳炎と伝音難聴、上気道狭窄によるいびきや閉塞性睡眠時無呼吸が代表的です。一方、喉頭の声帯に由来する嗄声や、口腔・中咽頭以下が関わる嚥下障害は通常きたしません。長期の口呼吸はアデノイド顔貌や睡眠障害に伴う成長・学習面の問題につながり、高度例ではアデノイド切除術が行われます。成人で片側の滲出性中耳炎をみたら上咽頭癌を鑑別するという臨床上の鉄則とあわせ、上咽頭の解剖から症状を組み立てる考え方を身につけておきましょう。

解答・解説

正解はb, c, dです

アデノイドの位置と特徴

アデノイド(咽頭扁桃)は上咽頭(鼻咽腔)の後上壁にあるリンパ組織で、口蓋扁桃・舌扁桃・耳管扁桃などとともにワルダイエル咽頭輪を構成する。生理的に幼児期に大きくなり、4〜6歳ころに最大となった後、思春期にかけて縮小していく。この生理的肥大の範囲を超えて大きくなり、症状を起こす状態をアデノイド増殖症という。

症状を考える手がかり

アデノイド増殖症の症状は、上咽頭の周囲にある構造が圧迫・閉塞されることで説明できる。 ・前方:後鼻孔(鼻腔と上咽頭の境界)→ 鼻呼吸の障害(鼻閉、口呼吸)、鼻汁の貯留(副鼻腔炎の合併)、閉鼻声 ・側方:耳管咽頭口(耳管の咽頭側の開口部)→ 耳管機能障害による滲出性中耳炎・伝音難聴 ・上気道全体の狭窄 → いびき、閉塞性睡眠時無呼吸 一方、声帯は喉頭にあり、嚥下に主に関わる口腔・中咽頭・下咽頭も上咽頭より下方にあるため、アデノイドが大きくなっても直接の影響は受けにくい。設問では、上咽頭の解剖学的な位置関係から、耳・鼻・上気道の症状を選べばよい。

選択肢考察

  1. ×a.  嗄声

    嗄声(声がれ)は、声帯の形態異常(ポリープ、結節、腫瘍など)や運動障害(反回神経麻痺など)によって声帯の振動が不規則になることで生じる。声帯は喉頭にあり、上咽頭のアデノイドとは離れているため、アデノイド増殖症で嗄声は生じない。なお、アデノイド増殖症では鼻腔への共鳴が減って鼻がつまったような声(閉鼻声)になることがあるが、これは嗄声とは異なる。

  2. ○b.  難聴

    肥大したアデノイドが上咽頭側壁の耳管咽頭口を圧迫・閉塞したり、アデノイドが細菌の貯留源となって耳管に炎症を波及させたりすることで、耳管の換気機能が障害される。すると中耳腔が陰圧となって滲出液がたまり、滲出性中耳炎となって伝音難聴をきたす。小児の滲出性中耳炎の重要な原因であり、難治例ではアデノイド切除術が考慮される。

  3. ○c.  鼻閉

    アデノイドは後鼻孔のすぐ後方にあるため、肥大すると後鼻孔を狭窄・閉塞し、鼻から上咽頭への空気の流れが妨げられて鼻閉を生じる。その結果、口呼吸が習慣化する。鼻汁の排出も妨げられるため、慢性鼻炎・副鼻腔炎を合併しやすい。

  4. ○d.  いびき

    いびきは、睡眠中に狭くなった上気道を空気が通る際に、周囲の軟部組織が振動して生じる音である。アデノイド増殖症では上咽頭が狭窄し、さらに鼻閉による口呼吸で舌根が後方に落ち込みやすくなるため、いびきが起こる。口蓋扁桃肥大を合併すると狭窄が強まり、小児の閉塞性睡眠時無呼吸の主要な原因となる。

  5. ×e.  嚥下障害

    嚥下は口腔期・咽頭期・食道期の順に進み、食塊の通過に直接関わるのは口腔、中咽頭、下咽頭、食道である。上咽頭は嚥下時に軟口蓋が挙上して閉鎖される部位で、食塊の通り道ではない。嚥下の際に鼻咽腔閉鎖が不十分だと鼻への逆流が起こりうるが、アデノイドが大きい場合はむしろ鼻咽腔の閉鎖を助ける方向に働く。したがってアデノイド増殖症そのものによって嚥下障害が起こるとは考えにくい。なお、同時に口蓋扁桃肥大が高度な場合には、中咽頭が狭くなって飲み込みにくさを訴えることがある。

アデノイド増殖症の臨床像

・好発年齢:幼児期〜学童期前半。成長とともに自然に縮小することが多い。 ・主な症状:鼻閉、口呼吸、いびき、閉塞性睡眠時無呼吸、閉鼻声、滲出性中耳炎による難聴、反復性中耳炎、副鼻腔炎。 ・睡眠障害に伴う症状:日中の眠気、集中力の低下、夜尿、成長障害など。 ・アデノイド顔貌:長期間の口呼吸により、口が常に半開きで、上唇が短く鼻唇溝が浅い、表情が乏しくぼんやりした顔つきになる。歯列不正や高口蓋を伴うこともある。

診断

・鼻咽腔ファイバースコープでの直接観察。 ・頭部側面X線撮影で上咽頭後壁の軟部陰影の肥厚と気道の狭小化を確認する。 ・睡眠時無呼吸が疑われる場合は終夜睡眠ポリグラフ検査などで重症度を評価する。 ・難聴があれば鼓膜所見、ティンパノメトリー(B型を示すことが多い)、聴力検査で滲出性中耳炎を評価する。

治療

・症状が軽ければ経過観察(自然縮小を待つ)。 ・鼻閉・いびき・睡眠時無呼吸が高度な場合や難治性の滲出性中耳炎では、アデノイド切除術(口蓋扁桃肥大を伴えば口蓋扁桃摘出術も併施)を行う。滲出性中耳炎には鼓膜換気チューブ留置を併用することがある。 ・粘膜下口蓋裂など鼻咽腔閉鎖機能の弱い小児では、アデノイド切除後に開鼻声(鼻咽腔閉鎖不全)が顕在化することがあり注意を要する。

成人の上咽頭病変との違い

成人で上咽頭に腫瘤があり、片側の滲出性中耳炎・難聴・鼻閉などがみられる場合は、上咽頭癌を必ず鑑別する。

POINT

・アデノイド(咽頭扁桃)は上咽頭後上壁にあり、幼児期に生理的に肥大し、その後縮小する。 ・症状は周囲構造の圧迫で考える:後鼻孔閉塞→鼻閉・口呼吸・閉鼻声、耳管咽頭口閉塞→滲出性中耳炎・伝音難聴、上気道狭窄→いびき・閉塞性睡眠時無呼吸。 ・嗄声(声帯=喉頭の病変)や嚥下障害(口腔・中咽頭以下の病変)は通常きたさない。 ・長期の口呼吸でアデノイド顔貌を呈する。高度例はアデノイド切除術。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。