舌縁に限局した扁平上皮癌―早期舌癌の第一手は「切って治す」
第116回医師国家試験 D問題 第29問
国試問題にチャレンジ
64歳の男性。舌腫瘤を主訴に来院した。1週間前に舌左側と咽頭の痛みを自覚した。既往歴に特記すべきことはない。喫煙歴はない。飲酒はビール350mL/日を週1回。頸部リンパ節を触知しない。生検で扁平上皮癌を認めた。口腔内視鏡像(A)と頭頸部造影MRI(B)とを下に示す。FDG-PETで遠隔転移を認めない。 この患者でまず行うのはどれか。

- a.手術治療
- b.粒子線治療
- c.永久気管孔造設
- d.経皮的胃瘻造設
- e.薬物による抗癌治療
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
舌癌は口腔癌で最も多く、舌縁に好発し、組織型の大部分は扁平上皮癌です。病変が舌内に限局し頸部リンパ節転移や遠隔転移のない早期例では、舌部分切除術を中心とする手術治療が第一選択で、根治性が高く機能障害も比較的軽く済みます。口腔癌のT分類ではUICC第8版から深達度が加わり、深達度の深い例では予防的頸部郭清も検討されます。粒子線治療は主に非扁平上皮癌、永久気管孔は喉頭摘出を伴う手術、胃瘻は長期の経口摂取困難、薬物療法は術後の高リスク例や切除不能・再発例が対象であり、早期舌癌の初期治療ではありません。癌腫ごとに「手術中心か放射線中心か」を整理しておくことは、頭頸部癌の治療方針を理解する土台になります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・64歳男性、舌腫瘤:口腔癌は50〜70歳代の男性に多く、口腔癌のなかで最も多い部位が舌(とくに舌縁)である。 ・1週間前から舌左側と咽頭の痛み:舌癌は進行すると疼痛を伴い、咽頭や耳へ放散することもある。 ・喫煙歴なし、飲酒は少量:喫煙・多量飲酒は口腔癌の主要な危険因子だが、これらがなくても舌癌は発生しうる(歯や不適合義歯による慢性刺激なども関与するとされる)。 ・生検で扁平上皮癌:舌癌の組織型の大部分は扁平上皮癌である。 ・口腔内視鏡像(A):左舌縁に限局した粘膜不整・びらん様の病変を認める。 ・造影MRI(B):左舌縁に造影される病変があるが、舌内にとどまり正中を越えず、周囲(口腔底・舌根など)への明らかな進展はない。 ・頸部リンパ節は触知せず、FDG-PET(ブドウ糖類似物質を用いた陽電子放射断層撮影)で遠隔転移なし。
診断と病期
以上より、左舌縁に限局した舌癌(扁平上皮癌)で、頸部リンパ節転移・遠隔転移のない早期例(cT1〜T2N0M0、Stage I〜II相当)と判断できる。
治療方針の考え方
舌癌を含む口腔癌の根治治療の中心は手術である。早期例では原発巣を十分な安全域をつけて切除(舌部分切除術など)すれば高い根治率が期待でき、病変が小さければ切除後の構音・嚥下機能の障害も軽い。したがって本症例でまず行うべきは手術治療である。放射線治療(小線源による組織内照射など)が選択肢となる場合もあるが、標準は手術であり、粒子線治療や薬物療法、気道・栄養経路の確保のための処置を先に行う理由はない。
選択肢考察
- ○a. 手術治療
正解である。頸部リンパ節転移・遠隔転移のない早期舌癌では、原発巣の切除(舌部分切除術)が第一選択である。舌癌はリンパ節転移を起こしやすいため、早期に確実に切除することが予後の改善につながる。本症例の病変は舌縁に限局し小さいため、切除後も会話や食事への影響は小さいと見込まれる。なお、腫瘍の深達度(DOI)が深い例などでは、画像上転移がなくても予防的頸部郭清術を併せて検討することがある。
- ×b. 粒子線治療
誤り。粒子線治療(陽子線・重粒子線)は、線量を腫瘍に集中させやすく、また重粒子線は放射線抵抗性の腫瘍にも効果が期待できる治療で、頭頸部では腺様嚢胞癌や悪性黒色腫などの非扁平上皮癌に主に用いられる。扁平上皮癌は通常の放射線(X線)治療に比較的よく反応するうえ、本症例は手術で根治が期待できる早期癌であり、粒子線治療をまず行う適応はない。
- ×c. 永久気管孔造設
誤り。永久気管孔は、喉頭全摘出術などで喉頭を摘出し気道と食物路を分離した際に造設するもので、進行した喉頭癌・下咽頭癌で行われることが多い。舌癌では、腫瘍が舌根から喉頭へ広く進展して喉頭の同時摘出が必要な進行例に限られる。本症例は舌縁に限局した早期癌で呼吸困難もなく、適応はない(なお、広範な口腔切除・再建時に術後気道確保のため一時的な気管切開を置くことはあるが、これは永久気管孔とは異なる)。
- ×d. 経皮的胃瘻造設
誤り。経皮的胃瘻造設は、長期にわたり経口摂取が困難と予想される場合に栄養経路を確保する目的で行う。本症例は現時点で経口摂取に支障がなく、舌部分切除後も多くは早期に経口摂取が再開できる。一時的な摂食困難があっても経鼻胃管で対応できることが多く、まず行う処置ではない。
- ×e. 薬物による抗癌治療
誤り。口腔の扁平上皮癌では、薬物療法単独で根治を目指すことは通常ない。薬物療法は、切除断端陽性やリンパ節転移の節外浸潤など再発リスクが高い場合の術後化学放射線療法、切除不能例や遠隔転移・再発例に対して用いられる。本症例は切除で根治が期待できる早期癌であり、まず行う治療ではない。
舌癌の概要
・口腔癌の中で最も頻度が高く、好発部位は舌縁(側縁)で、舌尖や舌背はまれである。組織型の大部分は扁平上皮癌である。 ・危険因子:喫煙、飲酒、歯牙や不適合義歯による慢性的な機械的刺激、口腔衛生不良など。白板症(とくに不均一型)や紅板症は前癌病変として重要である。 ・症状:舌縁の硬結を伴う潰瘍・腫瘤、難治性の口内炎様病変、疼痛(耳への放散痛を伴うこともある)など。 ・頸部リンパ節転移を来しやすく、顎下・上内深頸リンパ節などに転移する。
口腔癌のT分類(UICC第8版の概略)
・T1:最大径2cm以下かつ深達度(DOI)5mm以下 ・T2:最大径2cm以下で深達度5mmを超える、または最大径2cmを超え4cm以下で深達度10mm以下 ・T3:最大径4cmを超える、または深達度10mmを超える ・T4:骨・上顎洞・顔面皮膚・咀嚼筋間隙などへの進展 第8版から腫瘍の厚み(深達度)が加わった点に注意する。
治療
・早期(T1〜T2N0):原発巣の切除(舌部分切除術)が標準。深達度が深い例などでは予防的頸部郭清を検討する。小線源による組織内照射が選ばれることもある。 ・進行例:舌(亜)全摘出術と頸部郭清術、遊離皮弁などによる再建。高リスク因子(切除断端陽性、リンパ節転移の節外浸潤)があればシスプラチン併用の術後化学放射線療法を行う。 ・切除不能・再発転移例:化学放射線療法、化学療法、免疫チェックポイント阻害薬など。
他の頭頸部癌との対比
・喉頭癌・下咽頭癌の進行例では喉頭全摘出術と永久気管孔造設が必要となることがある。 ・上咽頭癌は放射線感受性が高く、化学放射線療法が中心である。
POINT
・舌癌の好発部位は舌縁、組織型は扁平上皮癌が大部分。 ・遠隔転移のない舌癌(とくに早期例)の第一選択は手術(舌部分切除術)。 ・口腔癌のT分類では腫瘍径に加え深達度(DOI)が評価される(UICC第8版)。 ・永久気管孔は喉頭摘出を伴う手術で造設するもので、早期舌癌の適応ではない。 ・粒子線治療は頭頸部の非扁平上皮癌(腺様嚢胞癌、悪性黒色腫など)で主に用いられる。
