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「よくある病気」の中に潜む命の危機―急性胆管炎はなぜ最も怖いのか

第99回医師国家試験 B問題 第40問

国試問題にチャレンジ

第99回 B問題 第40問

致死率が最も高いのはどれか。

  1. a.急性胃炎
  2. b.急性腸炎
  3. c.急性虫垂炎
  4. d.急性肝炎
  5. e.急性胆管炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、消化器の急性炎症性疾患を並べて「どれが最も命にかかわるか」を比べる問題だ。どれも日常診療でよく出会う病気だけど、着眼点は「放っておいたとき、どれだけ速く全身状態が崩れるか」。そこを意識して考えてみよう。
医学生医学生
並んでいる中だと、劇症肝炎のイメージがあるので急性肝炎が一番怖い気がします。消化器内科の講義でも、劇症肝炎は肝移植が必要になることがあると習いました。
ドクタードクター
その連想はとても自然だし、劇症化した場合の予後が悪いのは事実だ。ただ、ここで問われているのは「疾患全体としての致死率」なんだ。急性肝炎のうち、肝性脳症と高度の凝固障害を伴う急性肝不全、いわゆる劇症肝炎に至るのはごく一部で、大部分は自然経過で治る。
医学生医学生
一部の重症例の印象に引っ張られてはいけない、ということですね。
ドクタードクター
そう。では急性胆管炎はどうだろう。どういう病態か説明できるかな。
医学生医学生
胆管が結石などで詰まって、そこに細菌感染が起こる病気ですよね。総胆管結石が一番多い原因だったと思います。
ドクタードクター
その通り。ポイントは「閉塞+感染」という組み合わせだ。胆管が詰まって胆汁がうっ滞し、そこで細菌が増えると胆管内圧が上がる。すると細菌やエンドトキシンが胆管から血中へ逆流して、短時間で敗血症、敗血症性ショック、DIC、多臓器不全へと進んでしまう。
医学生医学生
閉じた袋の中で膿がたまって、圧で血中に押し出されるようなイメージでしょうか。
ドクタードクター
いいイメージだね。しかも胆管炎は頻度も高い。よくある病気なのに、閉塞を解除しないと急速に致死的になる。だから選択肢の中で最も致死率が高いのは急性胆管炎なんだ。残りの選択肢も確認しておこう。急性胃炎と急性腸炎はどうかな。
医学生医学生
胃炎はNSAIDsやアルコールが原因のことが多くて、薬をやめて酸分泌抑制薬を使えばだいたい良くなりますよね。腸炎もほとんどは補液で自然に治ると思います。
ドクタードクター
そうだね。急性胃粘膜病変として吐血することはあるし、腸炎でも乳幼児や高齢者の高度脱水、腸管出血性大腸菌による溶血性尿毒症症候群のような重症例はある。でも全体としての致死率は低い。では急性虫垂炎は?
医学生医学生
外科実習で何例も虫垂切除を見ましたが、術後は数日で元気に退院していました。穿孔すると腹膜炎になるので怖いとは思いますが。
ドクタードクター
まさにそれが実態だ。穿孔して汎発性腹膜炎になると重くなるけれど、適切な時期の手術や抗菌薬治療で大多数は治癒する。高齢者などで診断が遅れた穿孔例が問題になる程度だね。
医学生医学生
整理すると、胆管炎は「頻度が高い」うえに「短時間で敗血症化する」から、全体として一番死亡につながりやすいということですね。
ドクタードクター
完璧な整理だ。では臨床で役立つ知識を足しておこう。急性胆管炎の古典的な症状はCharcot三徴、つまり発熱、黄疸、右上腹部痛。これにショックと意識障害が加わるとReynolds五徴で、重症化のサインだ。
医学生医学生
CBTの勉強で語呂合わせで覚えました。五徴がそろったら、かなり危ない状態ということですね。
ドクタードクター
そう。重症度はTokyo Guidelines 2018で判定して、意識障害や循環不全などの臓器障害があれば重症だ。治療は全例で絶食・補液・抗菌薬を始めて、重症度に応じて胆道ドレナージを行う。重症なら全身管理とともに緊急ドレナージが必要になる。
医学生医学生
抗菌薬だけでは治らないんですか。
ドクタードクター
閉塞が残っていると胆管内圧が下がらないし、抗菌薬の胆汁への移行も悪いから改善しにくい。だから「詰まりを抜く」ことが治療の要なんだ。ドレナージの第一選択は内視鏡的胆道ドレナージで、ERCPに続いて経鼻胆道ドレナージや胆管ステント留置を行う。術後の再建腸管などで内視鏡が難しければ、経皮経肝胆道ドレナージなどを選ぶ。
医学生医学生
救急外来で発熱と黄疸の患者さんを見たら、抗菌薬を始めるだけで安心せず、ドレナージのタイミングを消化器内科とすぐ相談する、ということですね。
ドクタードクター
その通り。全身状態が落ち着いてから、結石除去や原因疾患の治療に進む。「感染を伴う閉塞は、ドレナージまでが一つの治療」と覚えておこう。

まとめ

急性胆管炎は、総胆管結石などによる胆管閉塞に細菌感染が加わった病態で、胆管内圧の上昇により細菌やエンドトキシンが血中へ流入し、敗血症性ショックやDIC、多臓器不全へ急速に進行し得ます。頻度が高く、しかも短時間で致死的になり得るため、急性胃炎・急性腸炎・急性虫垂炎・急性肝炎と比べて疾患全体としての致死率が最も高いといえます。急性肝炎は劇症化すれば予後不良ですが、劇症化はごく一部に限られる点が判断の分かれ目です。臨床ではCharcot三徴(発熱・黄疸・右上腹部痛)とReynolds五徴(+ショック・意識障害)を手がかりに重症度を評価し、抗菌薬に加えて内視鏡的胆道ドレナージを中心とした閉塞解除を速やかに行うことが救命の鍵になります。「重症例の印象」ではなく「疾患全体としてどれほど危険か」を比べる視点は、救急での優先順位づけにも直結します。

解答・解説

正解はeです

問われていること

消化器の急性炎症性疾患を並べ、そのなかで「死亡に至る割合(致死率)」が最も高いものを選ばせる問題である。いずれも日常診療でよく遭遇する疾患だが、放置したときにどれだけ急速に全身状態が悪化し得るかという視点で比較する。

考え方

・急性胃炎・急性腸炎:多くは自然軽快するか対症療法で治癒し、死亡はまれである。 ・急性虫垂炎:頻度は高いが、穿孔して汎発性腹膜炎に至らない限り、適切な手術・抗菌薬治療で予後は良好である。 ・急性肝炎:大部分は自然経過で治癒する。ごく一部が急性肝不全(劇症肝炎)となり、この場合の死亡率は高いが、急性肝炎全体に占める割合は小さい。 ・急性胆管炎:胆管が結石や腫瘍などで閉塞し、うっ滞した胆汁に細菌感染が起こる。胆管内圧が上昇すると細菌やエンドトキシンが胆管から血中へ逆流(胆管静脈逆流)し、短時間で敗血症、敗血症性ショック、播種性血管内凝固(DIC)、多臓器不全へと進む。原因として総胆管結石が多く、発生頻度も高い。胆道ドレナージが遅れると致命的になり得る緊急疾患である。 以上より、疾患全体としての致死率が最も高いのは急性胆管炎である。急性肝炎の劇症化を思い浮かべて迷いやすいが、「劇症化するのは一部に限られる」点と「胆管炎は閉塞が解除されないと急速に敗血症化する」点を比べると判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  急性胃炎

    急性胃炎は薬剤(NSAIDs など)、アルコール、ストレス、感染などを契機に胃粘膜に急性の炎症・びらんを生じる疾患である。心窩部痛や悪心・嘔吐を呈し、急性胃粘膜病変(AGML)として吐血を伴うこともあるが、原因の除去と酸分泌抑制薬などで大半は速やかに改善し、死亡に至ることはほとんどない。

  2. ×b.  急性腸炎

    急性腸炎の多くはウイルスや細菌などの感染によるもので、下痢・腹痛・発熱を呈する。脱水への補液を中心とした治療で自然軽快することが多い。高齢者・乳幼児での高度脱水や、腸管出血性大腸菌感染に伴う溶血性尿毒症症候群(HUS)など重症化する例はあるが、疾患全体としての致死率は低い。

  3. ×c.  急性虫垂炎

    急性虫垂炎は頻度の高い急性腹症で、進行すると壊疽・穿孔を起こし、膿瘍形成や汎発性腹膜炎に至ることがある。しかし多くは適切な時期の虫垂切除術や抗菌薬治療で治癒し、穿孔例を含めても致死率は低い。高齢者などで診断が遅れた穿孔性腹膜炎が問題となる程度である。

  4. ×d.  急性肝炎

    急性肝炎(主にウイルス性)は大部分が自然経過で治癒する。一部が急性肝不全(劇症肝炎:肝性脳症と高度の凝固能低下を伴う病態)へ進行し、その場合は内科的治療のみでは救命率が低く肝移植が検討されるほど予後不良である。ただし劇症化するのは急性肝炎のごく一部であり、疾患全体としての致死率は急性胆管炎より低い。

  5. ○e.  急性胆管炎

    急性胆管炎は胆管閉塞(総胆管結石が最多、ほかに胆管癌・膵頭部癌などの悪性腫瘍、胆管狭窄など)に胆汁の細菌感染が加わった病態である。胆管内圧が上昇すると細菌やエンドトキシンが血中へ流入し、敗血症性ショック・DIC・多臓器不全へと急速に進行し得る。特に意識障害やショックを伴う重症例(いわゆる急性閉塞性化膿性胆管炎)では、緊急の胆道ドレナージを行わなければ救命が難しい。頻度が高く、かつ短時間で致死的になり得る点で、選択肢中最も致死率が高い。

急性胆管炎の臨床像

・Charcot 三徴:発熱(悪寒戦慄を伴う)、黄疸、右上腹部痛。 ・Reynolds 五徴:Charcot 三徴にショックと意識障害を加えたもの。重症化のサインである。 ・検査:白血球・CRP 上昇、ビリルビン・ALP・γ-GTP など胆道系酵素上昇。腹部超音波・CT・MRCP で胆管拡張や結石、腫瘍などの閉塞原因を確認する。

重症度(急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン、Tokyo Guidelines 2018)

・重症(Grade III):臓器障害を伴う。循環障害(ドパミン5 μg/kg/分以上またはノルアドレナリンを要する)、中枢神経障害(意識障害)、呼吸機能障害(PaO2/FiO2比<300)、腎機能障害(乏尿または血清クレアチニン>2.0 mg/dL)、肝機能障害(PT-INR>1.5)、血液凝固異常(血小板<10万/μL)のいずれか。 ・中等症(Grade II):白血球>12,000/μL または<4,000/μL、39℃以上の発熱、75歳以上、総ビリルビン5 mg/dL以上、低アルブミン血症のうち2項目以上。 ・軽症(Grade I):上記に該当しないもの。

治療

・全例で絶食・補液・抗菌薬投与を開始し、重症度に応じて胆道ドレナージを行う。重症では全身管理とともに緊急ドレナージ、中等症では早期ドレナージが推奨される。 ・ドレナージの第一選択は内視鏡的胆道ドレナージ(ERCP に引き続く内視鏡的経鼻胆道ドレナージ〈ENBD〉や胆管ステント留置〈EBS〉)である。内視鏡的処置が困難な場合(術後再建腸管など)には経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD/PTCD)や超音波内視鏡下ドレナージを選ぶ。 ・閉塞が解除されない状態で抗菌薬だけに頼ると、胆管内圧が下がらず抗菌薬の胆汁移行も悪いため改善しにくい。全身状態が安定した後に、結石除去や原因疾患に対する根治的治療を行う。

POINT

・急性胆管炎は胆管閉塞+感染により急速に敗血症性ショック・DIC へ進む、致死率の高い緊急疾患である。 ・Charcot 三徴(発熱・黄疸・右上腹部痛)、Reynolds 五徴(+ショック・意識障害)。 ・治療の要は抗菌薬に加えた胆道ドレナージであり、第一選択は内視鏡的ドレナージ(ENBD・EBS)、困難例で PTBD。 ・急性肝炎は劇症化すれば予後不良だが、劇症化はごく一部である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。