前かがみで聴こえる「ささやき」―体位で拾い上げる大動脈弁閉鎖不全症の雑音
第99回医師国家試験 B問題 第38問
国試問題にチャレンジ
心雑音が臥位より前傾坐位でよく聴取されるのはどれか。
- a.僧帽弁狭窄症
- b.僧帽弁閉鎖不全症
- c.大動脈弁狭窄症
- d.大動脈弁閉鎖不全症
- e.心房中隔欠損症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
心雑音は、発生源を胸壁に近づける体位をとることで聴き取りやすくなります。前傾坐位では心基部の大動脈弁が前胸壁に近づくため、大動脈弁閉鎖不全症の高調で弱い拡張期逆流性雑音が、胸骨左縁第3〜4肋間で呼気止め・膜型密着により明瞭になります。一方、左側臥位では心尖部が胸壁に近づき、僧帽弁狭窄症の低調な拡張期ランブルをベル型で聴取しやすくなります。大動脈弁狭窄症は胸骨右縁第2肋間の粗い収縮期駆出性雑音、心房中隔欠損症はII音の固定性分裂が特徴で、前傾坐位で聴取する心膜摩擦音も併せて押さえておきたいところです。脈圧増大などの所見から疾患を疑い、適切な体位で雑音を探しにいく姿勢が、身体診察の精度を高めます。
解答・解説
正解はdです
問われていること
心雑音の聴取には「どの部位で」「どの体位で」「どの呼吸相で」聴くと大きくなるかという特徴があり、診察時に体位を工夫することで小さな雑音を見逃さずにすむ。本問は、仰臥位よりも前傾坐位(座って上体を前に倒した姿勢)のほうが聴き取りやすい雑音を生じる弁膜症・先天性心疾患を選ばせる問題である。
考え方
体位による雑音の聴こえ方の違いは、主に「雑音の発生源が胸壁にどれだけ近づくか」で説明できる。 ・左側臥位(左を下にして横になる):心尖部(左室の先端)が胸壁に近づく。心尖部で聴こえる僧帽弁由来の雑音、特に僧帽弁狭窄症の低調な拡張期ランブルが聴きやすくなる。聴診器はベル型を用いる。 ・前傾坐位(座位で前かがみ):心基部(大動脈基部・大動脈弁)が前胸壁に近づく。大動脈弁閉鎖不全症の拡張期逆流性雑音は高調で弱く、仰臥位では聴き逃しやすいが、前傾坐位で息を深く吐いて止めた状態にし、胸骨左縁第3〜4肋間(Erb領域)に膜型を強く当てると明瞭になる。 したがって、前傾坐位で聴取しやすいのは大動脈弁閉鎖不全症の雑音である。なお、心膜摩擦音(急性心膜炎)も前傾坐位で聴取しやすい音として知られる。
選択肢考察
- ×a. 僧帽弁狭窄症
僧帽弁狭窄症(MS)では、心尖部で僧帽弁開放音(OS)に続く低調な拡張中期ランブル(遠雷様雑音)と前収縮期雑音(洞調律時)を聴取する。低調で限局した雑音のため、左側臥位にして心尖部を胸壁に近づけ、ベル型で聴くと聴き取りやすい。前傾坐位で増強する雑音ではない。
- ×b. 僧帽弁閉鎖不全症
僧帽弁閉鎖不全症(MR)では、収縮期に左室から左房へ血液が逆流するため、心尖部で全収縮期逆流性雑音を聴取し、腋窩へ放散する。僧帽弁由来の雑音であり、聴取に有利なのは心尖部が胸壁に近づく左側臥位である。前傾坐位で特に増強する雑音ではない。
- ×c. 大動脈弁狭窄症
大動脈弁狭窄症(AS)では、胸骨右縁第2肋間を最強点とする収縮期駆出性雑音(ダイヤモンド型、粗い音)を聴取し、頸部(頸動脈)へ放散する。AR と同じ大動脈弁の病変だが、音量が大きく粗い雑音であるため通常の体位で十分に聴取でき、前傾坐位で聴くことが特徴的な診察手技として挙げられるのは AS ではなく AR である。
- ○d. 大動脈弁閉鎖不全症
大動脈弁閉鎖不全症(AR)では、拡張期に大動脈から左室へ血液が逆流し、II音の直後から始まる高調な漸減性の拡張期逆流性雑音を胸骨左縁第3〜4肋間(Erb領域)で聴取する。この雑音は弱く高調で聴き逃しやすいが、前傾坐位にすると大動脈基部・大動脈弁が前胸壁に近づくため、仰臥位より明瞭に聴こえる。さらに深い呼気で息を止め、膜型を胸壁に密着させると検出しやすい。よって本肢が正解である。
- ×e. 心房中隔欠損症
心房中隔欠損症(ASD)では左→右シャントにより右心系の血流量が増える。その結果、胸骨左縁第2肋間で肺動脈弁を通る血流増加による収縮期駆出性雑音(相対的肺動脈弁狭窄)を、シャント量が多い場合は胸骨左縁下部で三尖弁を通る血流増加による拡張中期雑音(相対的三尖弁狭窄)を聴取する。心房間の圧較差は小さいため欠損孔自体の雑音はほとんど聴こえない。もう一つの特徴はII音の固定性分裂である。前傾坐位で増強する雑音ではない。
体位・手技と聴きやすくなる音
・左側臥位:心尖部が胸壁に近づく。僧帽弁狭窄症の拡張期ランブル、III音・IV音(低調音、ベル型で聴く)。 ・前傾坐位+呼気止め:心基部が胸壁に近づく。大動脈弁閉鎖不全症の拡張期逆流性雑音(膜型)、心膜摩擦音。 ・吸気:胸腔内圧低下で静脈還流が増え、右心系の雑音(三尖弁閉鎖不全症の全収縮期雑音など)が増強する(Rivero-Carvallo 徴候)。 ・蹲踞(しゃがみ込み):静脈還流と後負荷が増加し、多くの雑音は増強するが、閉塞性肥大型心筋症の雑音は左室容積の増加で流出路狭窄が軽減するため減弱する。 ・立位・Valsalva 手技:静脈還流が減り多くの雑音は減弱するが、閉塞性肥大型心筋症の雑音は増強する。
大動脈弁閉鎖不全症の主な身体所見
・脈圧の増大(収縮期血圧上昇、拡張期血圧低下)、速脈(大脈・速脈、Corrigan 脈) ・de Musset 徴候(心拍に一致した頭部の揺れ)、Quincke 徴候(爪床の毛細血管拍動)、Traube 音(大腿動脈上のピストル音)、Duroziez 徴候 ・心尖部の拡張中期ランブル(Austin Flint 雑音):逆流血が僧帽弁前尖の開放を妨げて生じる機能的な雑音
POINT
・前傾坐位で聴きやすい:大動脈弁閉鎖不全症の拡張期逆流性雑音(胸骨左縁第3〜4肋間、高調・漸減性、膜型、呼気止め)、心膜摩擦音。 ・左側臥位で聴きやすい:僧帽弁狭窄症の拡張期ランブル(心尖部、ベル型)。 ・大動脈弁狭窄症:胸骨右縁第2肋間の収縮期駆出性雑音、頸部へ放散。 ・心房中隔欠損症:II音の固定性分裂+胸骨左縁第2肋間の収縮期駆出性雑音(相対的肺動脈弁狭窄)。
