泡立つ痰は肺からのSOS―「うっ血はどこに起こるか」で左心不全と右心不全を見分ける
第99回医師国家試験 B問題 第37問
国試問題にチャレンジ
左心不全に特徴的な症候はどれか。
- a.頸静脈怒張
- b.泡沫状喀痰
- c.肝腫大
- d.腹水
- e.下腿浮腫
対話形式の解説
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ドクターまとめ
心不全の症候は、ポンプ機能が低下した心室の上流にうっ血が生じると考えると整理できます。左心不全では肺静脈・肺毛細血管圧が上昇して肺うっ血・肺水腫となり、呼吸困難、起坐呼吸、湿性ラ音、ピンク色の泡沫状喀痰が特徴的です。一方、右心不全では体静脈系にうっ血が生じ、頸静脈怒張、肝腫大、腹水、下腿浮腫が現れます。右心不全の最多の原因は左心不全であり、実臨床では両心不全として症候が混在することも多い点に注意が必要です。うっ血の部位と低灌流の有無から病態を読み解く視点は、Nohria-Stevenson分類による治療方針の決定にも直結します。
解答・解説
正解はbです
心不全の症候は、どちらの心室のポンプ機能が落ちたか、そしてその上流(血液が戻ってくる側)のどこにうっ血が生じるかを考えると整理しやすい。 【左心不全】左心室が十分に血液を送り出せないと、左房圧が上がり、その上流にあたる肺静脈・肺毛細血管の圧が上昇する。これが肺うっ血であり、毛細血管圧が高まると血漿成分が肺間質、さらに肺胞内へ漏れ出して肺水腫となる。症状としては労作時呼吸困難、発作性夜間呼吸困難、起坐呼吸、湿性ラ音(coarse crackles)、泡沫状喀痰などが現れる。加えて前方への拍出低下により、全身倦怠感・四肢冷感・乏尿などの低心拍出症状もみられる。 【右心不全】右心室の機能が落ちると、その上流にあたる体静脈系(上大静脈・下大静脈とその支配臓器)にうっ血が起こる。頸静脈怒張、肝腫大(うっ血肝)、腹水、下腿浮腫、体重増加などが代表的である。 本問の選択肢のうち、肺うっ血・肺水腫に直接由来する症候は泡沫状喀痰だけであり、残りはすべて体静脈うっ血、すなわち右心不全の症候である。なお、左心不全が進行して肺高血圧を介し右心にも負荷がかかると両心不全となり、右心不全の症候も加わる点には注意が必要だが、「左心不全に特徴的」という問いには肺うっ血の症候を選べばよい。
選択肢考察
- ×a. 頸静脈怒張
誤り。頸静脈は上大静脈を経て右房へ注ぐため、右房圧(中心静脈圧)が上昇すると内頸静脈が怒張する。右心不全、心タンポナーデ、収縮性心膜炎などで認める体静脈うっ血の所見であり、左心不全に特徴的な症候ではない。座位や45度程度の半坐位で頸静脈の拍動が胸骨角から高い位置まで見えることで評価する。
- ○b. 泡沫状喀痰
正解。左心不全では左房圧・肺静脈圧が上昇して肺うっ血が起こり、進行すると肺胞内に水分が漏出する肺水腫となる。肺胞内の漏出液が呼吸に伴って空気と混ざり泡立つため、泡沫状の痰が出る。毛細血管から赤血球も漏れ出すため、しばしばピンク色(淡血性)を呈するのが特徴で、急性心原性肺水腫を示唆する重要な症候である。
- ×c. 肝腫大
誤り。肝臓の血液は肝静脈から下大静脈を通って右房へ還流する。右心不全で右房圧が上がるとこの還流が妨げられ、肝臓に血液がうっ滞して腫大する(うっ血肝)。右季肋部の圧痛や、肝臓を圧迫すると頸静脈怒張が増強する肝頸静脈逆流が認められることもある。体静脈うっ血の所見であり、右心不全の症候である。
- ×d. 腹水
誤り。右心不全で体静脈圧、特に肝静脈・門脈系の圧が上昇すると、腹腔内へ液体が漏出して腹水が貯留する。体静脈うっ血による所見であり、右心不全に特徴的である。長期のうっ血でうっ血性肝硬変に至ると腹水はさらに生じやすくなる。
- ×e. 下腿浮腫
誤り。右心不全では体静脈圧が上がり、毛細血管の静水圧上昇によって間質に水分が漏出する。重力の影響で下肢、特に下腿・足背に目立ち、指で押すと圧痕が残る圧痕性浮腫(pitting edema)となる。臥床している患者では仙骨部や背部に出やすい。右心不全の代表的な症候であり、左心不全に特徴的とはいえない。
左心不全と右心不全の症候の整理
左心不全(肺うっ血+低心拍出) ・労作時呼吸困難、発作性夜間呼吸困難、起坐呼吸 ・湿性ラ音(水泡音)、喘鳴(心臓喘息) ・泡沫状(ピンク色)喀痰、咳嗽 ・III音・IV音(奔馬調律)、交互脈 ・胸部X線で肺血管陰影の増強、Kerley B線、蝶形陰影(butterfly shadow)、胸水 ・低心拍出による全身倦怠感、四肢冷感、乏尿、意識障害 右心不全(体静脈うっ血) ・頸静脈怒張、肝頸静脈逆流 ・肝腫大(うっ血肝)、腹水 ・下腿浮腫(圧痕性)、体重増加 ・消化管うっ血による食欲不振・悪心、腹部膨満 【起坐呼吸の機序】臥位では下半身からの静脈還流が増え、肺うっ血が悪化する。座位になると静脈還流が減り肺うっ血が軽くなるため、患者は座った姿勢を好む。 【両心不全】右心不全の最も多い原因は左心不全である。左心不全による肺静脈圧上昇が肺高血圧を招き、右室に負荷がかかって両心不全に移行する。一方、右心不全単独の原因としては肺血栓塞栓症、慢性肺疾患による肺性心、肺動脈性肺高血圧症、右室梗塞、三尖弁疾患などがある。 【臨床での評価】心不全の病態把握には、うっ血の有無(wet/dry)と末梢循環(warm/cold)で4群に分けるNohria-Stevenson分類が用いられる。肺うっ血・体静脈うっ血の症候は「wet」の判定に、四肢冷感などの低灌流所見は「cold」の判定に用いる。
POINT
・左心不全の症候は「肺うっ血」から考える:呼吸困難、起坐呼吸、発作性夜間呼吸困難、湿性ラ音、泡沫状(ピンク色)喀痰。 ・右心不全の症候は「体静脈うっ血」から考える:頸静脈怒張、肝腫大、腹水、下腿浮腫。 ・うっ血はポンプ機能が落ちた心室の上流に生じる。 ・右心不全の最大の原因は左心不全(両心不全への移行)。
