ホルモンが多いのにTSHは低い―ネガティブフィードバックで読み解く甲状腺機能亢進症
第99回医師国家試験 B問題 第30問
国試問題にチャレンジ
原発性甲状腺機能亢進症で誤っているのはどれか。
- a.T3高値
- b.T4高値
- c.TSH高値
- d.131I甲状腺摂取率上昇
- e.アルカリホスファターゼ高値
対話形式の解説
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ドクターまとめ
原発性甲状腺機能亢進症は、Basedow病やPlummer病のように甲状腺自体が過剰にホルモンを合成・分泌する状態で、FT3・FT4は高値となり、ネガティブフィードバックによってTSHは低値(しばしば測定感度以下)になります。TSH高値は原発性甲状腺機能低下症や、TSH産生下垂体腺腫などの中枢性亢進症を示す所見です。合成が亢進しているため放射性ヨウ素摂取率は上昇し、摂取率が低下する無痛性甲状腺炎・亜急性甲状腺炎などの破壊性甲状腺中毒症との鑑別に役立ちます。また甲状腺ホルモンは骨代謝回転を高めるため、ALP高値や骨粗鬆症を伴い、総コレステロール低値もよく見られます。FT4とTSHの向きの組み合わせで病態を読み解く考え方は、甲状腺疾患に限らず内分泌疾患全般の検査解釈の基本になります。
解答・解説
正解はcです
「原発性」甲状腺機能亢進症とは、甲状腺そのものが自律的、あるいは刺激抗体などによって過剰にホルモンを合成・分泌している状態を指す。代表はBasedow病(Graves病)で、ほかに中毒性結節性甲状腺腫(Plummer病)などがある。これに対し、下垂体のTSH(甲状腺刺激ホルモン)産生腫瘍のように上位からの刺激で甲状腺が亢進するものは「中枢性(二次性)」と呼ばれる。 本問を解く鍵は、視床下部‐下垂体‐甲状腺系のネガティブフィードバックである。視床下部のTRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)が下垂体からTSHを分泌させ、TSHが甲状腺からT4(サイロキシン)とT3(トリヨードサイロニン)を分泌させる。血中の甲状腺ホルモンが増えると、視床下部と下垂体が抑制されてTSHは低下する。 したがって原発性の亢進症では「甲状腺ホルモン(FT3・FT4)高値、TSH低値(しばしば測定感度以下)」という組み合わせになる。TSHが高値になるのは、原発性の機能低下症(橋本病など)か、中枢性の亢進症(TSH産生下垂体腺腫など)である。 加えて、甲状腺ホルモンは全身の代謝を高めるため、骨代謝の亢進や甲状腺でのヨウ素取り込みの増加といった所見も伴う。各選択肢はこの病態から整理できる。
選択肢考察
- ×a. T3高値
正しい記述である。甲状腺でのホルモン合成・分泌が亢進するため、血中T3は上昇する。Basedow病ではT3の産生が特に増えやすく、末梢でのT4からT3への変換(脱ヨウ素化)も亢進するため、FT3/FT4比が高くなりやすい。実際の診療では、結合蛋白の影響を受けない遊離型(FT3)で評価する。
- ×b. T4高値
正しい記述である。甲状腺から分泌されるホルモンの大部分はT4であり、原発性の亢進症では血中T4(FT4)も高値となる。
- ○c. TSH高値
誤った記述であり、これが正解である。原発性の亢進症では、過剰な甲状腺ホルモンが視床下部(TRH)と下垂体(TSH)をネガティブフィードバックで抑制するため、TSHは低値となる。TSHは甲状腺ホルモンのわずかな変化にも鋭敏に反応するので、甲状腺中毒症のスクリーニングで最も感度の高い指標である。甲状腺ホルモン高値にもかかわらずTSHが高値または正常(抑制されていない)なら、TSH産生下垂体腺腫や甲状腺ホルモン不応症を考える。
- ×d. 131I甲状腺摂取率上昇
正しい記述である。放射性ヨウ素の甲状腺摂取率は、甲状腺がどれだけ活発にヨウ素を取り込んでホルモンを合成しているかを反映する。Basedow病では抗TSH受容体抗体(TRAb)が甲状腺を刺激し続けるため、摂取率は上昇する(びまん性に高集積)。Plummer病では結節に集積し、周囲の正常組織は抑制される。一方、無痛性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎は、濾胞が壊れて蓄えられていたホルモンが漏れ出す破壊性甲状腺中毒症であり、ホルモン合成はむしろ抑制されるため摂取率は低下する。これらは通常「甲状腺機能亢進症」とは区別される。なお現在の検査には、被曝の少ない123Iや99mTcが主に用いられる。
- ×e. アルカリホスファターゼ高値
正しい記述である。甲状腺ホルモンは破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成の両方を促し、骨代謝回転を高める。骨形成の指標である骨型アルカリホスファターゼ(ALP)が上昇し、血清ALP高値となる。骨吸収が形成を上回るため骨量は減少しやすく、骨粗鬆症の原因にもなる。高カルシウム血症を伴うこともある。
甲状腺機能検査の読み方
・FT4高値・TSH低値:原発性甲状腺中毒症(Basedow病、Plummer病、破壊性甲状腺炎、甲状腺ホルモン過剰摂取など) ・FT4高値・TSH高値〜正常:TSH産生下垂体腺腫、甲状腺ホルモン不応症 ・FT4低値・TSH高値:原発性甲状腺機能低下症(橋本病など) ・FT4低値・TSH低値〜正常:中枢性甲状腺機能低下症(下垂体・視床下部の障害) ・FT4正常・TSH低値:潜在性甲状腺機能亢進症
甲状腺中毒症の鑑別
血中甲状腺ホルモンが過剰な状態を広く「甲状腺中毒症」と呼び、そのうち甲状腺でホルモン合成が亢進しているものを「甲状腺機能亢進症」という。 ・合成亢進型(放射性ヨウ素摂取率上昇):Basedow病(TRAb陽性、びまん性甲状腺腫、眼球突出など)、Plummer病(機能性結節)、TSH産生下垂体腺腫 ・破壊型(摂取率低下):無痛性甲状腺炎(出産後に多い)、亜急性甲状腺炎(有痛性、発熱、CRP上昇) ・外因性(摂取率低下):甲状腺ホルモン薬の過剰服用(サイログロブリン低値が手がかり)
甲状腺ホルモン過剰で見られる主な検査値
TSH低値、FT3・FT4高値のほか、ALP高値、総コレステロール低値(LDL受容体の増加と胆汁への排泄促進による)、クレアチニン低値(筋肉量減少)、耐糖能異常、軽度の肝酵素上昇などがみられる。
POINT
・原発性甲状腺機能亢進症(代表はBasedow病)では、FT3・FT4高値、TSH低値となる(ネガティブフィードバック)。 ・TSH高値は原発性甲状腺機能低下症、または中枢性の亢進症(TSH産生腫瘍)を示す。 ・機能亢進症では放射性ヨウ素摂取率が上昇し、破壊性甲状腺炎では低下する。 ・甲状腺ホルモンは骨代謝回転を亢進させ、ALP高値や骨粗鬆症の原因となる。
