倒れた糖尿病患者に「まずインスリン」は禁物―意識消失はABCと血糖測定から
第99回医師国家試験 B問題 第29問
国試問題にチャレンジ
経口血糖降下薬服用中の糖尿病患者が病院内で意識消失発作を起こした。 対応として適切でないのはどれか。
- a.気道を確保する。
- b.インスリンを投与する。
- c.動脈血ガス分析を行う。
- d.頭部単純CTを施行する。
- e.簡易血糖計で血糖を測定する。
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
意識消失への初期対応は、原因にかかわらずまず気道・呼吸・循環(ABC)の確保から始め、次に簡易血糖測定で低血糖か高血糖かを即座に判定します。経口血糖降下薬、特にSU薬を服用中の糖尿病患者では低血糖が最も重要な原因であり、血糖値を確認せずにインスリンを投与すると低血糖を悪化させて致命的になりうるため、行ってはなりません。動脈血ガス分析はケトアシドーシスや乳酸アシドーシスの評価に、頭部CTは脳血管障害の検索に有用ですが、低血糖でも片麻痺などの局所症状が出るため血糖測定を先行させることが大切です。SU薬による低血糖は遷延・再発しやすく、回復後も入院観察が必要です。「ABC→血糖→血液ガス・採血→画像」という順序は、救急外来でも病棟でもあらゆる意識障害対応の土台になります。
解答・解説
正解はbです
意識消失を起こした患者への初期対応は、原因にかかわらず、まず気道(Airway)・呼吸(Breathing)・循環(Circulation)の評価と安定化から始める。そのうえで、治療可能で緊急性の高い原因を迅速に見つけることが重要になる。 本問の患者は経口血糖降下薬を服用している糖尿病患者である。この状況で最も頻度が高く、かつ放置すると不可逆的な脳障害や死亡につながりうる原因は低血糖である。特にスルホニル尿素(SU)薬などのインスリン分泌を促す薬は、食事量の低下、腎機能低下、高齢などを背景に重症かつ遷延する低血糖を起こしやすい。 ただし、糖尿病患者の意識障害の原因は低血糖に限らない。高血糖緊急症(糖尿病ケトアシドーシス、高浸透圧高血糖状態)、ビグアナイド薬(メトホルミン)に関連する乳酸アシドーシス、糖尿病で合併しやすい脳血管障害や心血管イベントなども鑑別に挙がる。 したがって、適切な流れは「ABCの確保 → 簡易血糖測定で低血糖か高血糖かを即座に判定 → 血液ガスでアシドーシスや換気の状態を評価 → 代謝性の原因で説明できなければ頭部CTなどで頭蓋内病変を検索」となる。 一方、血糖値を確認しないまま血糖を下げる治療を行うことは、最も可能性の高い低血糖を悪化させる危険があり、行ってはならない。本問はこの「やってはいけない対応」を選ぶ問題である。
選択肢考察
- ×a. 気道を確保する。
適切な対応である。意識障害では舌根沈下(舌が咽頭側へ落ち込むこと)や嘔吐物の誤嚥で気道が閉塞しやすい。脳は酸素欠乏に弱く、数分の低酸素でも障害が生じうるため、呼びかけに反応しなければ原因検索より先に頭部後屈・あご先挙上などで気道を確保し、呼吸と循環を確認する。救急対応の基本であるABCのAにあたる。
- ○b. インスリンを投与する。
適切でない対応であり、これが正解である。経口血糖降下薬服用中の患者の意識消失では、まず低血糖を疑うべきである。血糖値を確かめないままインスリンを投与すると、低血糖であった場合にさらに血糖を下げ、低血糖脳症による後遺症や死亡を招く。インスリンは糖尿病ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖状態と確定した場合に、輸液とともに用いる治療であり、診断前の段階で行うものではない。
- ×c. 動脈血ガス分析を行う。
適切な対応である。動脈血ガス分析では酸素化(PaO2)・換気(PaCO2)の評価ができ、呼吸管理の判断に役立つ。さらにpHやHCO3-、アニオンギャップから代謝性アシドーシスの有無がわかり、糖尿病ケトアシドーシスや乳酸アシドーシス(メトホルミン服用者で注意)の鑑別に有用である。機器によっては血糖、乳酸、電解質も同時に測定できる。
- ×d. 頭部単純CTを施行する。
適切な対応である。糖尿病は脳梗塞や脳出血の危険因子であり、意識消失の原因として頭蓋内病変は必ず鑑別する必要がある。ただし、ABCの安定化と血糖測定を後回しにしてまで最初に行う検査ではなく、低血糖や高血糖緊急症で説明できない場合や、ブドウ糖投与で意識が回復しない場合、神経学的な左右差がある場合に優先度が高まる。なお低血糖でも片麻痺などの局所神経症状を呈することがあり、脳卒中と誤認しないよう血糖測定を先に行うことが重要である。
- ×e. 簡易血糖計で血糖を測定する。
適切な対応であり、最優先で行うべき検査の一つである。指先の血液で1分以内に血糖値がわかり、低血糖(一般に70 mg/dL未満が目安)か高血糖かで治療が正反対になるため不可欠である。低血糖であれば50%ブドウ糖液20〜40 mLの静注などで速やかに補正する。血糖測定がすぐにできない状況では、低血糖の可能性を考えてブドウ糖を先に静注することもある(高血糖状態に少量のブドウ糖を投与しても害は小さいが、低血糖の放置は致命的になりうるため)。
糖尿病患者の意識障害の主な原因
・低血糖:SU薬、グリニド薬、インスリンで起こりやすい。発汗、動悸、振戦などの交感神経症状に続き、血糖がさらに下がると意識障害、けいれんに至る。高齢者や自律神経障害のある患者では警告症状が乏しい(無自覚性低血糖)。SU薬による低血糖は遷延・再発しやすく、ブドウ糖投与で回復しても入院のうえ経過観察が必要である。 ・糖尿病ケトアシドーシス(DKA):インスリンの絶対的欠乏によりケトン体が蓄積し、代謝性アシドーシスを来す。1型糖尿病に多いが、2型でも感染症や清涼飲料水の多飲などを契機に起こる。SGLT2阻害薬服用中は血糖があまり高くない正常血糖ケトアシドーシスにも注意する。 ・高浸透圧高血糖状態(HHS、かつての非ケトン性高浸透圧性昏睡):高齢の2型糖尿病患者に多く、著しい高血糖(しばしば600 mg/dL以上)と脱水による高浸透圧が特徴。ケトアシドーシスは軽度か認めない。 ・乳酸アシドーシス:ビグアナイド薬(メトホルミン)服用中で、腎機能障害、脱水、造影剤使用、ショックなどが重なると起こりうる。 ・その他:脳血管障害、急性冠症候群や不整脈による失神、感染症(敗血症)など。
意識障害の初期対応の順序
1. ABC(気道・呼吸・循環)の確保、バイタルサインの確認 2. 簡易血糖測定(低血糖なら直ちにブドウ糖静注。低栄養やアルコール多飲が疑われる場合はビタミンB1を併用し、Wernicke脳症を予防する) 3. 血液ガス、電解質、腎機能、ケトン体、浸透圧などの血液検査、心電図 4. 必要に応じ頭部CT・MRIなどの画像検査
POINT
・意識障害の対応はまずABC、次に血糖測定。 ・経口血糖降下薬服用中の糖尿病患者の意識消失は、まず低血糖を疑う。 ・血糖値を確認せずにインスリンを投与してはならない(低血糖を悪化させ致命的になりうる)。 ・低血糖は高血糖より緊急性が高く、血糖測定が困難ならブドウ糖静注を先行させてもよい。 ・鑑別にはDKA、高浸透圧高血糖状態、乳酸アシドーシス、脳血管障害などを挙げ、血液ガスや頭部CTで評価する。
