見えない出血点は前後から挟み込む―鼻腔後部の激しい鼻出血とBellocqタンポン
第99回医師国家試験 B問題 第27問
国試問題にチャレンジ
鼻腔後部からの激しい鼻出血の止血法はどれか。
- a.吸入療法
- b.後鼻孔タンポン〈Bellocqタンポン〉の挿入
- c.副鼻腔洗浄
- d.レーザー焼灼
- e.電気凝固
対話形式の解説
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ドクターまとめ
鼻出血の大部分はキーゼルバッハ部位からの前方出血で、鼻翼の圧迫や前鼻孔タンポンで止血できることが多い一方、蝶口蓋動脈の枝から生じる鼻腔後部の出血は高齢者や高血圧患者に多く、量が多いうえに出血点を直視しにくいのが特徴です。このような激しい後方出血には、後鼻孔側と前鼻孔側から鼻腔を挟み込んで圧迫する後鼻孔タンポン(Bellocqタンポン)やバルーンカテーテルが代表的な止血法となります。電気凝固やレーザー焼灼は出血点が確認できる場合の方法であり、吸入療法や副鼻腔洗浄は副鼻腔炎などの治療で止血作用はありません。タンポン挿入中は苦痛・低酸素・感染に注意し、止まらなければ蝶口蓋動脈の処置や塞栓術へ進み、繰り返す出血では高血圧や血液疾患などの背景を検索します。出血部位と血管解剖から止血法を段階的に選ぶ考え方は、救急外来での鼻出血対応の基本になります。
解答・解説
正解はbです
鼻出血は出血部位によって前方出血と後方出血に大別される。鼻出血の大部分(約8〜9割)は鼻中隔前下部のキーゼルバッハ部位(Kiesselbach部位、Little部位ともいう)からの前方出血で、鼻翼を指でつまむ圧迫や前鼻孔からのガーゼタンポンで止まることが多い。 一方、鼻腔後部からの出血は、主に顎動脈の終枝である蝶口蓋動脈の枝(後鼻動脈など)から生じる。高齢者や高血圧・動脈硬化のある患者に多く、動脈性で出血量が多い。血液が咽頭へ流れ込むため出血点を前方から直視しにくく、前鼻孔からのタンポンだけでは後方へ血液が漏れて止血できないことが多い。 そこで、後鼻孔(鼻腔と上咽頭の境界)側から栓をして、前鼻孔側のタンポンと挟み込むように鼻腔全体を圧迫する方法が必要になる。これが後鼻孔タンポン(Bellocqタンポン)である。本問は「鼻腔後部」「激しい」という2つの条件から、出血点を確認して処置する方法よりも、部位が特定できなくても確実に圧迫できる方法を選ぶ問題である。 選択肢のうち、止血を目的とする処置かどうか、そして後方の大量出血に適用できるかどうかの2段階で考えると正解に至る。
選択肢考察
- ×a. 吸入療法
ネブライザーなどで薬液(抗菌薬、ステロイドなど)を霧状にして鼻腔・副鼻腔へ送り込む治療で、鼻副鼻腔炎などの消炎を目的とする。血管を圧迫・閉塞する作用はなく、止血法にはならない。むしろ激しい出血中に行うのは不適切である。
- ○b. 後鼻孔タンポン〈Bellocqタンポン〉の挿入
鼻腔から咽頭へ通したカテーテルに糸で結んだガーゼ球を、口腔側から引き上げて後鼻孔にはめ込み、さらに前鼻孔からもガーゼを詰めて鼻腔を前後から圧迫する方法である。後方の出血点を直視できなくても、鼻腔後部全体を物理的に圧迫して止血できるため、鼻腔後部からの激しい出血に対する代表的な止血法である。前鼻孔タンポンだけでは血液が後方(咽頭側)へ流れてしまう問題も解消できる。現在は、先端のバルーンを後鼻孔で膨らませるバルーンカテーテルが同じ目的で広く使われている。挿入中は強い苦痛、低酸素血症、感染(副鼻腔炎、中耳炎)などに注意が必要で、通常は入院管理とし数日で抜去する。
- ×c. 副鼻腔洗浄
上顎洞などの副鼻腔に生理食塩水を注入して貯留した膿を洗い流す処置で、急性・慢性副鼻腔炎の治療法である。止血作用はなく、出血中に行えば出血を助長しかねない。
- ×d. レーザー焼灼
耳鼻咽喉科領域では、アレルギー性鼻炎に対して下鼻甲介粘膜をレーザーで焼灼し、腫脹や過敏性を軽減する目的で用いられることが多い。出血点が直視できる軽度の出血に応用されることはあっても、鼻腔後部の激しい出血で出血点がはっきりしない状況で最初に選ぶ止血法ではない。
- ×e. 電気凝固
出血点が明確に確認できる場合に、その血管を電気メスやバイポーラで焼いて止血する方法である。キーゼルバッハ部位の出血などで有用である。鼻腔後部からの激しい出血では、血液が視野を覆い出血点を同定しにくいため、盲目的な焼灼は困難であり、本問の答えとしては不適切である。なお近年は、内視鏡で出血点を同定できれば後方出血でも電気凝固を行うことがあるが、それは出血点が確認できる場合に限られる。
鼻出血の部位と血管
・鼻腔前方:キーゼルバッハ部位。前篩骨動脈、蝶口蓋動脈(中隔後鼻枝)、大口蓋動脈、上唇動脈(顔面動脈の枝)が吻合する血管の集まりで、粘膜が薄く、指で触れやすいため出血しやすい。小児や若年者の鼻出血の多くはここである。 ・鼻腔後方:蝶口蓋動脈の枝(外頸動脈系の顎動脈由来)。高齢者、高血圧、動脈硬化、抗凝固薬・抗血小板薬の内服者に多い。 ・鼻腔上方:前・後篩骨動脈(内頸動脈系の眼動脈由来)。
鼻出血の止血法の段階
1. 座位でやや前かがみにし、鼻翼を両側から10分程度つまんで圧迫する(血液を飲み込まないよう、上を向かせない)。 2. 血管収縮薬・表面麻酔薬を含むガーゼを挿入し、出血点を確認する。 3. 出血点が見えれば、電気凝固、化学焼灼(硝酸銀など)で止血する。 4. 出血点が不明、または焼灼で止まらなければ前鼻孔タンポン(ガーゼ、止血用スポンジ)を行う。 5. 後方出血で前鼻孔タンポンでも止まらなければ、後鼻孔タンポン(Bellocqタンポン)またはバルーンカテーテルで前後から圧迫する。 6. それでも止まらない場合は、内視鏡下の蝶口蓋動脈焼灼・クリッピング、顎動脈や外頸動脈の結紮、血管内塞栓術を行う。
背景疾患の検索
繰り返す、あるいは止まりにくい鼻出血では、高血圧、抗血栓薬内服、血液疾患(白血病、血小板減少、血友病など)、肝疾患、遺伝性出血性毛細血管拡張症(Osler病)、鼻・副鼻腔の腫瘍(若年男性の上咽頭血管線維腫など)を考慮する。
POINT
・鼻出血の大半はキーゼルバッハ部位からの前方出血で、圧迫や前鼻孔タンポンで止まる。 ・鼻腔後部からの激しい出血は出血点を直視しにくく、後鼻孔タンポン(Bellocqタンポン)やバルーンで前後から圧迫して止血する。 ・電気凝固・焼灼は出血点が確認できる場合の方法である。 ・吸入療法・副鼻腔洗浄は副鼻腔炎、レーザー焼灼は主にアレルギー性鼻炎の治療法で、止血法ではない。
