「やる気がない」も立派なスタート地点―5つのステージで読み解く行動変容
第120回医師国家試験 F問題 第26問
国試問題にチャレンジ
無関心期,関心期,準備期,実行期,維持期に分けて,行動変容を促すためのアプローチはどれか。
- a.SPIKESモデル
- b.ヘルスビリーフモデル
- c.行動変容ステージモデル
- d.プリシード・プロシードモデル
- e.トータルヘルスプロモーションプラン
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
「無関心期→関心期→準備期→実行期→維持期」の5段階で行動の変化をとらえ、対象者のステージに合わせた支援で次の段階への移行を促すのが、Prochaskaらの行動変容ステージモデル(トランスセオレティカルモデル)です。SPIKESモデルは悪い知らせを伝える面接手順、ヘルスビリーフモデルは罹患可能性・重大性・利益・障害の認識から健康行動を説明する理論、プリシード・プロシードモデルは健康教育プログラムの企画・実施・評価の枠組み、トータルヘルスプロモーションプランは職場における労働者の健康保持増進施策であり、それぞれ目的が異なります。禁煙指導では、無関心期の情報提供から維持期の再発予防まで段階ごとに働きかけを変え、逆戻りも想定して支援を続けることが重要です。動機づけ面接や自己効力感とあわせて理解しておくと、特定保健指導や禁煙外来など日常診療での患者支援に直結します。
解答・解説
正解はcです
テーマ
禁煙・減量・運動習慣など、健康に関わる行動を変えてもらうための理論や枠組みを区別できるかが問われている。
考え方
設問のキーワードは「無関心期,関心期,準備期,実行期,維持期」という5つの段階である。人の行動は一度に変わるのではなく段階を追って変化するととらえ、対象者が今どの段階にいるかを見極めて、その段階に合った働きかけを選ぶという考え方は、Prochaska(プロチャスカ)らが提唱した行動変容ステージモデル(トランスセオレティカルモデル、Transtheoretical Model;TTM)に特有のものである。他の選択肢は、悪い知らせの伝え方の手順、健康行動を起こすかどうかを個人の認識から説明するモデル、健康教育プログラムの企画・評価の枠組み、職場の健康づくり施策であり、行動を段階に分けて扱うものではない。
選択肢考察
- ×a. SPIKESモデル
SPIKESモデルは、がんの告知や再発・治療中止など、患者にとって「悪い知らせ(bad news)」を伝える際の6段階の面接手順である。S: Setting(面談環境を整える)、P: Perception(患者がどこまで病状を理解しているかを確認する)、I: Invitation(患者がどこまで知りたいかを確認する)、K: Knowledge(情報をわかりやすく伝える)、E: Emotions/Empathy(患者の感情に共感的に対応する)、S: Strategy and Summary(今後の方針を立て、要約する)からなる。コミュニケーション技法であり、行動変容の段階を扱うものではない。
- ×b. ヘルスビリーフモデル
ヘルスビリーフモデル(健康信念モデル)は、人が健康行動をとるかどうかを本人の認識(信念)から説明する理論である。「自分がその病気にかかりそうだ(罹患可能性の認識)」「かかると深刻だ(重大性の認識)」という脅威の自覚と、「行動すれば利益がある」という認識が「行動の妨げとなる負担・障害」の認識を上回るときに行動が起こりやすいとし、行動のきっかけ(症状、周囲の勧めなど)や自己効力感も要素に加えられている。行動を5段階に分けるモデルではない。
- ○c. 行動変容ステージモデル
行動変容ステージモデルは、行動の変化を、無関心期(前熟考期:6か月以内に行動を変える気がない)、関心期(熟考期:6か月以内に変えようと考えている)、準備期(1か月以内に変えようとしている、あるいは少しずつ始めている)、実行期(行動を変えて6か月未満)、維持期(6か月以上継続している)の5段階に分ける。対象者のステージを評価し、ステージに応じた支援を行うことで次の段階への移行を促す。設問の5段階の名称と完全に一致するため、これが正解である。
- ×d. プリシード・プロシードモデル
プリシード・プロシードモデルはGreen(グリーン)らが提唱した、地域や集団を対象とする健康教育・ヘルスプロモーションのプログラムを企画・実施・評価するための枠組みである。前半のPRECEDE(プリシード)では、目標とするQOLから出発して健康問題、行動・環境要因、それらに影響する準備要因・強化要因・実現要因を順にさかのぼって診断・分析し、計画を立てる。後半のPROCEED(プロシード)では計画を実施し、その過程・影響・結果を評価する。個人の行動変容の段階を分類するモデルではない。
- ×e. トータルヘルスプロモーションプラン
トータルヘルスプロモーションプラン(THP)は、労働安全衛生法に基づく指針(事業場における労働者の健康保持増進のための指針)に沿って、事業者が労働者の心身両面の健康づくりを推進する取り組みである。健康測定とその結果に基づく運動指導、保健指導、メンタルヘルスケア、栄養指導などが行われる。産業保健領域の施策であり、行動変容の段階理論そのものではない。
行動変容ステージごとの働きかけの例(禁煙指導の場合)
・無関心期: 喫煙の害や禁煙の利益について情報を提供し、問題に気付いてもらう。押しつけは避け、関心を引き出す ・関心期: 禁煙のメリットを強調し、「やめたいが不安」といった迷い(両価性)を整理して、禁煙への動機を高める ・準備期: 禁煙開始日の設定、禁煙補助薬の利用など、具体的な行動計画づくりを支援する ・実行期: 禁煙を続けられていることを評価・称賛して強化し、離脱症状や吸いたくなる場面への対処法を伝える ・維持期: 再喫煙につながりやすい状況(飲酒の場、ストレスなど)への対策を一緒に考え、逆戻りを防ぐ なお、行動はいつも一方向に進むとは限らず、前の段階に戻る(逆戻り)こともあるとされる。
関連する理論・技法
・動機づけ面接: 本人の中にある変化への動機を引き出す面接法で、無関心期・関心期の人への支援で特に有用 ・自己効力感(Banduraの社会的認知理論): 「自分にはできる」という感覚が行動の開始・継続を支える ・特定保健指導や禁煙外来の初回面接などで、ステージの評価が実際に用いられている
POINT
・「無関心期→関心期→準備期→実行期→維持期」の5段階は行動変容ステージモデル(Prochaskaらのトランスセオレティカルモデル) ・対象者のステージを見極め、ステージに合った支援を行う ・SPIKES: 悪い知らせの伝え方 ・ヘルスビリーフモデル: 罹患可能性・重大性・利益・障害の認識から健康行動を説明 ・プリシード・プロシードモデル: 健康教育プログラムの企画・実施・評価の枠組み ・THP: 職場(事業場)における労働者の健康保持増進施策
