StudyMed医師国家試験

「やる気がない」も立派なスタート地点―5つのステージで読み解く行動変容

第120回医師国家試験 F問題 第26問

国試問題にチャレンジ

第120回 F問題 第26問

無関心期,関心期,準備期,実行期,維持期に分けて,行動変容を促すためのアプローチはどれか。

  1. a.SPIKESモデル
  2. b.ヘルスビリーフモデル
  3. c.行動変容ステージモデル
  4. d.プリシード・プロシードモデル
  5. e.トータルヘルスプロモーションプラン

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、健康行動を変えてもらうための理論や枠組みを見分ける問題だ。カギになるのは、問題文に並んだ5つの段階。行動の変化を段階としてとらえる考え方がどの理論に特有なのかを考えてみよう。
医学生医学生
衛生・公衆衛生の講義で出てきた気がします。プロチャスカのモデルでしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。Prochaskaらが提唱した行動変容ステージモデル、別名トランスセオレティカルモデルだ。人の行動は一度に変わるのではなく、段階を追って変化する。だから対象者がいまどの段階にいるのかを見極めて、その段階に合った働きかけを選ぶ、という考え方なんだ。
医学生医学生
各段階はどう区切られているんですか。なんとなく名前だけで覚えていました。
ドクタードクター
時間の目安で定義されているよ。無関心期は6か月以内に行動を変える気がない段階、関心期は6か月以内に変えようと考えている段階、準備期は1か月以内に変えようとしている、あるいは少しずつ始めている段階。実行期は行動を変えて6か月未満、維持期は6か月以上続いている段階だ。
医学生医学生
問題文の5段階とそのまま一致するので、行動変容ステージモデルが正解ですね。ほかの選択肢も名前は聞いたことがあるんですが、違いが曖昧です。
ドクタードクター
そこを整理しておこう。まずSPIKESモデル。これは何のためのものだったかな。
医学生医学生
OSCEの医療面接の対策で習いました。がんの告知みたいな悪い知らせを伝えるときの手順ですよね。
ドクタードクター
正解。面談環境を整えるSetting、患者の理解度を確認するPerception、どこまで知りたいかを確認するInvitation、情報を伝えるKnowledge、感情に共感的に対応するEmotions、今後の方針と要約のStrategy and Summaryの6段階だ。段階はあるけれど、面接のコミュニケーション手順であって行動変容のステージではない。
医学生医学生
ヘルスビリーフモデルは、本人が病気をどう思っているかで行動が決まる、という理論だったような……。
ドクタードクター
そのイメージで合っている。「自分がかかりそう」という罹患可能性の認識と「かかると深刻」という重大性の認識で脅威を自覚し、さらに行動の利益が負担や障害を上回ると感じたときに行動が起こりやすい、と説明する。行動のきっかけや自己効力感も要素に加えられているけれど、行動を5段階に分けるモデルではないんだ。
医学生医学生
プリシード・プロシードモデルは、名前が似ていて覚えにくいです。
ドクタードクター
これはGreenらによる、地域や集団向けの健康教育プログラムを企画・実施・評価するための枠組みだ。前半のプリシードでは、目標とするQOLから出発して、健康問題、行動・環境要因、さらにそれらに影響する準備要因・強化要因・実現要因へとさかのぼって分析し、計画を立てる。後半のプロシードで実施して、過程・影響・結果を評価する。個人のステージ分類とは対象も目的も違うね。
医学生医学生
トータルヘルスプロモーションプランは職場の健康づくりでしたよね。社会医学の実習で産業医の先生の話を聞いたときに出てきました。
ドクタードクター
その通り。THPは労働安全衛生法に基づく指針に沿って、事業者が労働者の心身両面の健康づくりを進める取り組みだ。健康測定の結果をもとに運動指導、保健指導、メンタルヘルスケア、栄養指導などを行う。産業保健の施策であって、段階理論そのものではない。
医学生医学生
整理すると、段階で考えるのが行動変容ステージモデル、認識で説明するのがヘルスビリーフモデル、プログラムの企画評価がプリシード・プロシード、職場がTHP、悪い知らせがSPIKES、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。では実際の臨床でどう使うか、禁煙指導を例に考えてみよう。無関心期の人には、喫煙の害や禁煙の利益について情報提供し、押しつけずに関心を引き出す。関心期では「やめたいけど不安」という迷い、つまり両価性を整理して動機を高める。準備期なら禁煙開始日の設定や禁煙補助薬の利用など、具体的な計画づくりを手伝う。
医学生医学生
実行期と維持期では、続けられていることを褒めるのが大事そうですね。
ドクタードクター
そう。実行期では継続を評価・称賛して強化し、離脱症状や吸いたくなる場面への対処法を伝える。維持期では飲酒の場やストレスなど、再喫煙につながりやすい状況への対策を一緒に考える。そして注意したいのは、行動は一方向に進むとは限らず、前の段階に逆戻りすることもあるという点だ。
医学生医学生
逆戻りしても失敗と決めつけずに、またその段階から支援すればいいということですね。
ドクタードクター
その姿勢が大切だね。無関心期や関心期の人には、本人の中にある変化への動機を引き出す動機づけ面接が特に役立つし、「自分にはできる」という自己効力感が行動の開始と継続を支える。特定保健指導や禁煙外来の初回面接でも、ステージの評価は実際に使われているよ。

まとめ

「無関心期→関心期→準備期→実行期→維持期」の5段階で行動の変化をとらえ、対象者のステージに合わせた支援で次の段階への移行を促すのが、Prochaskaらの行動変容ステージモデル(トランスセオレティカルモデル)です。SPIKESモデルは悪い知らせを伝える面接手順、ヘルスビリーフモデルは罹患可能性・重大性・利益・障害の認識から健康行動を説明する理論、プリシード・プロシードモデルは健康教育プログラムの企画・実施・評価の枠組み、トータルヘルスプロモーションプランは職場における労働者の健康保持増進施策であり、それぞれ目的が異なります。禁煙指導では、無関心期の情報提供から維持期の再発予防まで段階ごとに働きかけを変え、逆戻りも想定して支援を続けることが重要です。動機づけ面接や自己効力感とあわせて理解しておくと、特定保健指導や禁煙外来など日常診療での患者支援に直結します。

解答・解説

正解はcです

テーマ

禁煙・減量・運動習慣など、健康に関わる行動を変えてもらうための理論や枠組みを区別できるかが問われている。

考え方

設問のキーワードは「無関心期,関心期,準備期,実行期,維持期」という5つの段階である。人の行動は一度に変わるのではなく段階を追って変化するととらえ、対象者が今どの段階にいるかを見極めて、その段階に合った働きかけを選ぶという考え方は、Prochaska(プロチャスカ)らが提唱した行動変容ステージモデル(トランスセオレティカルモデル、Transtheoretical Model;TTM)に特有のものである。他の選択肢は、悪い知らせの伝え方の手順、健康行動を起こすかどうかを個人の認識から説明するモデル、健康教育プログラムの企画・評価の枠組み、職場の健康づくり施策であり、行動を段階に分けて扱うものではない。

選択肢考察

  1. ×a.  SPIKESモデル

    SPIKESモデルは、がんの告知や再発・治療中止など、患者にとって「悪い知らせ(bad news)」を伝える際の6段階の面接手順である。S: Setting(面談環境を整える)、P: Perception(患者がどこまで病状を理解しているかを確認する)、I: Invitation(患者がどこまで知りたいかを確認する)、K: Knowledge(情報をわかりやすく伝える)、E: Emotions/Empathy(患者の感情に共感的に対応する)、S: Strategy and Summary(今後の方針を立て、要約する)からなる。コミュニケーション技法であり、行動変容の段階を扱うものではない。

  2. ×b.  ヘルスビリーフモデル

    ヘルスビリーフモデル(健康信念モデル)は、人が健康行動をとるかどうかを本人の認識(信念)から説明する理論である。「自分がその病気にかかりそうだ(罹患可能性の認識)」「かかると深刻だ(重大性の認識)」という脅威の自覚と、「行動すれば利益がある」という認識が「行動の妨げとなる負担・障害」の認識を上回るときに行動が起こりやすいとし、行動のきっかけ(症状、周囲の勧めなど)や自己効力感も要素に加えられている。行動を5段階に分けるモデルではない。

  3. ○c.  行動変容ステージモデル

    行動変容ステージモデルは、行動の変化を、無関心期(前熟考期:6か月以内に行動を変える気がない)、関心期(熟考期:6か月以内に変えようと考えている)、準備期(1か月以内に変えようとしている、あるいは少しずつ始めている)、実行期(行動を変えて6か月未満)、維持期(6か月以上継続している)の5段階に分ける。対象者のステージを評価し、ステージに応じた支援を行うことで次の段階への移行を促す。設問の5段階の名称と完全に一致するため、これが正解である。

  4. ×d.  プリシード・プロシードモデル

    プリシード・プロシードモデルはGreen(グリーン)らが提唱した、地域や集団を対象とする健康教育・ヘルスプロモーションのプログラムを企画・実施・評価するための枠組みである。前半のPRECEDE(プリシード)では、目標とするQOLから出発して健康問題、行動・環境要因、それらに影響する準備要因・強化要因・実現要因を順にさかのぼって診断・分析し、計画を立てる。後半のPROCEED(プロシード)では計画を実施し、その過程・影響・結果を評価する。個人の行動変容の段階を分類するモデルではない。

  5. ×e.  トータルヘルスプロモーションプラン

    トータルヘルスプロモーションプラン(THP)は、労働安全衛生法に基づく指針(事業場における労働者の健康保持増進のための指針)に沿って、事業者が労働者の心身両面の健康づくりを推進する取り組みである。健康測定とその結果に基づく運動指導、保健指導、メンタルヘルスケア、栄養指導などが行われる。産業保健領域の施策であり、行動変容の段階理論そのものではない。

行動変容ステージごとの働きかけの例(禁煙指導の場合)

・無関心期: 喫煙の害や禁煙の利益について情報を提供し、問題に気付いてもらう。押しつけは避け、関心を引き出す ・関心期: 禁煙のメリットを強調し、「やめたいが不安」といった迷い(両価性)を整理して、禁煙への動機を高める ・準備期: 禁煙開始日の設定、禁煙補助薬の利用など、具体的な行動計画づくりを支援する ・実行期: 禁煙を続けられていることを評価・称賛して強化し、離脱症状や吸いたくなる場面への対処法を伝える ・維持期: 再喫煙につながりやすい状況(飲酒の場、ストレスなど)への対策を一緒に考え、逆戻りを防ぐ なお、行動はいつも一方向に進むとは限らず、前の段階に戻る(逆戻り)こともあるとされる。

関連する理論・技法

・動機づけ面接: 本人の中にある変化への動機を引き出す面接法で、無関心期・関心期の人への支援で特に有用 ・自己効力感(Banduraの社会的認知理論): 「自分にはできる」という感覚が行動の開始・継続を支える ・特定保健指導や禁煙外来の初回面接などで、ステージの評価が実際に用いられている

POINT

・「無関心期→関心期→準備期→実行期→維持期」の5段階は行動変容ステージモデル(Prochaskaらのトランスセオレティカルモデル) ・対象者のステージを見極め、ステージに合った支援を行う ・SPIKES: 悪い知らせの伝え方 ・ヘルスビリーフモデル: 罹患可能性・重大性・利益・障害の認識から健康行動を説明 ・プリシード・プロシードモデル: 健康教育プログラムの企画・実施・評価の枠組み ・THP: 職場(事業場)における労働者の健康保持増進施策

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。