StudyMed医師国家試験

緩和ケアは誰のためにある?―全人的苦痛とグリーフケアの「対象」を見極める

第120回医師国家試験 F問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第120回 F問題 第2問

緩和ケアチームが行う全人的苦痛の緩和で,患者自身に行わないのはどれか。

  1. a.グリーフケア
  2. b.治療費の相談
  3. c.働き方の相談
  4. d.治療の副作用の確認
  5. e.身体的リハビリテーション

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は緩和ケアの基本概念である全人的苦痛についての問題だ。選択肢の支援がそれぞれ「誰に向けたものか」に注目するのが着眼点になる。まず、全人的苦痛という言葉を説明できるかな。
医学生医学生
患者さんの苦痛を身体面だけでなく、いろいろな側面からとらえる考え方ですよね。
ドクタードクター
そう。近代ホスピス運動の創始者シシリー・ソンダースが提唱した概念で、苦痛を身体的、精神的、社会的、スピリチュアルの4つの側面が影響し合ったものとして理解する。たとえば痛みが強いと不安が増し、不安が痛みを強く感じさせる、というように互いにつながっているんだ。
医学生医学生
臨床医学総論の講義で、4つの円が重なった図を見た覚えがあります。スピリチュアルな苦痛がいちばんイメージしにくかったです。
ドクタードクター
生きる意味への問いや死への恐怖、罪悪感などだね。こうした苦痛を支えるのが緩和ケアチームで、医師、看護師、薬剤師、医療ソーシャルワーカー、リハビリ専門職、管理栄養士などの多職種で構成される。では選択肢を見ていこう。治療費の相談はどの苦痛にあたるかな。
医学生医学生
お金の問題なので社会的苦痛だと思います。患者さん本人の相談ですね。
ドクタードクター
その通り。医療ソーシャルワーカーが高額療養費制度や傷病手当金、障害年金などを紹介して申請を支援する。働き方の相談も同じく社会的苦痛で、治療と仕事の両立や休職・復職について患者本人と話し合い、必要なら職場や産業医とも連携する。
医学生医学生
副作用の確認は身体的苦痛への対応ですよね。腫瘍内科を回ったとき、薬剤師さんが化学療法中の患者さんに悪心や便秘を細かく聞き取っていました。
ドクタードクター
いい経験をしているね。化学療法やオピオイドによる悪心・嘔吐、便秘、眠気、末梢神経障害などを評価して対処するのは、まさに患者本人への身体的苦痛の緩和だ。
医学生医学生
身体的リハビリテーションは、終末期の患者さんにもやるんでしょうか。体力的に難しそうな気がします。
ドクタードクター
そこは誤解しやすいところだね。がんのリハビリはADLの維持や廃用の予防、症状の緩和、QOLの向上が目的で、終末期でもその時点で可能な機能を保つために行われる。これも患者本人が対象だ。
医学生医学生
そうすると残るのはグリーフケアですね。グリーフは悲嘆という意味でしたっけ。
ドクタードクター
そう。大切な人との死別などの喪失に伴う悲嘆反応がグリーフで、それに寄り添い回復を支えるのがグリーフケアだ。対象は患者の家族や遺族であり、患者本人ではない。だからこれが正解になる。
医学生医学生
患者さんではない人への支援も、緩和ケアチームの仕事に含まれるんですね。
ドクタードクター
そこが大事なポイントだ。WHOの定義では、緩和ケアは生命を脅かす疾患に直面する患者とその家族のQOLを改善するアプローチとされている。家族もケアの対象で、死別後の遺族ケアまで含まれる。それに、緩和ケアは終末期だけのものではなく、診断時から治療と並行して提供されるべきものなんだ。
医学生医学生
死別の前から家族が悲しみを感じることもありそうですね。
ドクタードクター
それを予期悲嘆と呼ぶ。死別が近いことを感じた家族が、亡くなる前から経験する悲嘆だ。死別後の遺族への支援はビリーブメントケアとも呼ばれ、遺族外来を設けている施設もある。さらに、悲嘆が通常の経過を超えて長引き日常生活に支障をきたす複雑性悲嘆は、専門的な介入が必要になる。
医学生医学生
臨床では、患者さんだけでなく付き添いのご家族の様子にも目を配る必要があるということですね。
ドクタードクター
その通り。患者を支えるご家族自身も、疲労や不安、悲嘆を抱えている。家族を「ケアの担い手」としてだけでなく「ケアの受け手」としても見る視点を、ぜひ実習のうちから身につけてほしい。

まとめ

緩和ケアの基本にある全人的苦痛(total pain)は、身体的・精神的・社会的・スピリチュアルの4つの側面が相互に影響し合う苦痛としてとらえる考え方で、緩和ケアチームは多職種でこれを包括的に支援します。治療費や働き方の相談は社会的苦痛、治療の副作用の確認や身体的リハビリテーションは身体的苦痛への対応であり、いずれも患者本人が対象です。一方、グリーフケアは死別に伴う悲嘆を抱える家族・遺族への支援で、予期悲嘆への支援や死別後のビリーブメントケアが含まれます。WHOの定義どおり緩和ケアの対象は患者とその家族であり、診断時から死別後まで切れ目なく提供されるものです。支援の内容だけでなく「誰に向けた支援か」を意識することは、チーム医療の中で医師が果たす役割を理解するうえで欠かせません。

解答・解説

正解はaです

緩和ケアでは、患者の苦痛を身体面だけでなく多面的にとらえる「全人的苦痛(total pain)」という考え方が基本となる。これは近代ホスピス運動の創始者シシリー・ソンダース(Cicely Saunders)が提唱した概念で、苦痛を身体的・精神(心理)的・社会的・スピリチュアルの4つの側面が互いに影響し合ったものとして理解する。緩和ケアチーム(身体症状担当医師、精神症状担当医師、看護師、薬剤師、医療ソーシャルワーカー、リハビリテーション専門職、管理栄養士などで構成される多職種チーム)は、これらの苦痛を包括的に評価し支援する。 本問は、選択肢の支援がそれぞれ「誰に対して行われるものか」を問うている。治療費や仕事の相談は患者自身の社会的苦痛、副作用の確認やリハビリテーションは患者自身の身体的苦痛への対応であり、いずれも患者本人が対象となる。一方、グリーフケアは、患者との死別を経験する(あるいは経験した)家族・遺族を対象とする支援であり、患者本人に行うものではない。よって正解はaである。

選択肢考察

  1. ○a.  グリーフケア

    グリーフ(grief)とは、大切な人との死別などの喪失に伴って生じる悲嘆反応であり、グリーフケアはその悲嘆を抱える人に寄り添い、喪失からの回復を支える援助である。緩和ケアにおいては、患者の死後に遺族に対して行う遺族ケア(ビリーブメントケア)や、死別の前から家族が抱く予期悲嘆への支援がこれにあたる。対象は患者の家族・遺族であり、患者本人に行う支援ではない。緩和ケアは患者だけでなく家族もケアの対象とするため、グリーフケアも緩和ケアの重要な構成要素である。

  2. ×b.  治療費の相談

    医療費の負担や収入の減少などの経済的問題は、全人的苦痛のうちの社会的苦痛に含まれる。高額療養費制度、傷病手当金、障害年金などの公的制度の紹介や申請支援を通じて、主に医療ソーシャルワーカーが患者本人の相談に応じる。患者自身に行う支援である。

  3. ×c.  働き方の相談

    治療と仕事の両立、休職や復職、職場との勤務内容の調整などは社会的苦痛への対応にあたる。医療ソーシャルワーカーや看護師が患者本人と相談し、必要に応じて職場や産業医と連携する(両立支援)。患者自身に行う支援である。

  4. ×d.  治療の副作用の確認

    化学療法や放射線療法、オピオイドなどによる副作用(悪心・嘔吐、便秘、眠気、倦怠感、末梢神経障害など)は身体的苦痛の原因となる。これを評価して予防・対処することは、医師、看護師、薬剤師が患者本人に対して行う身体的苦痛の緩和そのものである。

  5. ×e.  身体的リハビリテーション

    がん患者に対するリハビリテーションは、理学療法士や作業療法士などが行い、ADL(日常生活動作)の維持・改善、廃用の予防、疼痛や呼吸困難などの症状の緩和、QOL(生活の質)の向上を目的とする。終末期であっても、その時点で可能な機能を保つ目的で行われる。患者本人に対して行う支援である。

全人的苦痛(total pain)の4つの側面

・身体的苦痛:痛み、呼吸困難、倦怠感、悪心・嘔吐、食欲不振、治療の副作用、ADLの低下など ・精神(心理)的苦痛:不安、抑うつ、いらだち、孤独感、せん妄など ・社会的苦痛:経済的問題(治療費、収入減)、仕事上の問題、家族関係や家庭内の役割の変化、相続など ・スピリチュアルな苦痛:生きる意味や価値への問い、死への恐怖、罪悪感、自己の存在に関する苦悩など これらは独立しているのではなく、例えば痛みが強いと不安が増し、不安が痛みの感じ方を強めるように、相互に影響し合う。

緩和ケアの対象と時期

WHOの定義(2002年)では、緩和ケアは生命を脅かす疾患に直面する患者とその家族のQOLを改善するアプローチとされる。対象には家族が含まれ、患者の療養中だけでなく死別後の遺族へのケアも含まれる。また緩和ケアは終末期に限らず、診断時から治療と並行して提供されるべきものとされている。

グリーフケアの関連用語

・予期悲嘆:死別が近いことを予期した家族が、死別前から体験する悲嘆。 ・ビリーブメントケア(遺族ケア):死別後の遺族への支援。遺族外来なども行われる。 ・複雑性悲嘆(遷延性悲嘆):通常の経過を超えて悲嘆が長引き、日常生活に支障をきたす状態であり、専門的な介入の対象となる。

POINT

・全人的苦痛は身体的・精神的・社会的・スピリチュアルの4側面からなり、緩和ケアチームは多職種でこれらを包括的に支援する。 ・治療費や仕事の相談は社会的苦痛、副作用の確認やリハビリテーションは身体的苦痛への対応であり、患者本人が対象である。 ・グリーフケアは家族・遺族を対象とする悲嘆への支援である。 ・緩和ケアの対象は患者とその家族であり、死別後の遺族ケアまで含まれる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。