緩和ケアは誰のためにある?―全人的苦痛とグリーフケアの「対象」を見極める
第120回医師国家試験 F問題 第2問
国試問題にチャレンジ
緩和ケアチームが行う全人的苦痛の緩和で,患者自身に行わないのはどれか。
- a.グリーフケア
- b.治療費の相談
- c.働き方の相談
- d.治療の副作用の確認
- e.身体的リハビリテーション
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
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ドクターまとめ
緩和ケアの基本にある全人的苦痛(total pain)は、身体的・精神的・社会的・スピリチュアルの4つの側面が相互に影響し合う苦痛としてとらえる考え方で、緩和ケアチームは多職種でこれを包括的に支援します。治療費や働き方の相談は社会的苦痛、治療の副作用の確認や身体的リハビリテーションは身体的苦痛への対応であり、いずれも患者本人が対象です。一方、グリーフケアは死別に伴う悲嘆を抱える家族・遺族への支援で、予期悲嘆への支援や死別後のビリーブメントケアが含まれます。WHOの定義どおり緩和ケアの対象は患者とその家族であり、診断時から死別後まで切れ目なく提供されるものです。支援の内容だけでなく「誰に向けた支援か」を意識することは、チーム医療の中で医師が果たす役割を理解するうえで欠かせません。
解答・解説
正解はaです
緩和ケアでは、患者の苦痛を身体面だけでなく多面的にとらえる「全人的苦痛(total pain)」という考え方が基本となる。これは近代ホスピス運動の創始者シシリー・ソンダース(Cicely Saunders)が提唱した概念で、苦痛を身体的・精神(心理)的・社会的・スピリチュアルの4つの側面が互いに影響し合ったものとして理解する。緩和ケアチーム(身体症状担当医師、精神症状担当医師、看護師、薬剤師、医療ソーシャルワーカー、リハビリテーション専門職、管理栄養士などで構成される多職種チーム)は、これらの苦痛を包括的に評価し支援する。 本問は、選択肢の支援がそれぞれ「誰に対して行われるものか」を問うている。治療費や仕事の相談は患者自身の社会的苦痛、副作用の確認やリハビリテーションは患者自身の身体的苦痛への対応であり、いずれも患者本人が対象となる。一方、グリーフケアは、患者との死別を経験する(あるいは経験した)家族・遺族を対象とする支援であり、患者本人に行うものではない。よって正解はaである。
選択肢考察
- ○a. グリーフケア
グリーフ(grief)とは、大切な人との死別などの喪失に伴って生じる悲嘆反応であり、グリーフケアはその悲嘆を抱える人に寄り添い、喪失からの回復を支える援助である。緩和ケアにおいては、患者の死後に遺族に対して行う遺族ケア(ビリーブメントケア)や、死別の前から家族が抱く予期悲嘆への支援がこれにあたる。対象は患者の家族・遺族であり、患者本人に行う支援ではない。緩和ケアは患者だけでなく家族もケアの対象とするため、グリーフケアも緩和ケアの重要な構成要素である。
- ×b. 治療費の相談
医療費の負担や収入の減少などの経済的問題は、全人的苦痛のうちの社会的苦痛に含まれる。高額療養費制度、傷病手当金、障害年金などの公的制度の紹介や申請支援を通じて、主に医療ソーシャルワーカーが患者本人の相談に応じる。患者自身に行う支援である。
- ×c. 働き方の相談
治療と仕事の両立、休職や復職、職場との勤務内容の調整などは社会的苦痛への対応にあたる。医療ソーシャルワーカーや看護師が患者本人と相談し、必要に応じて職場や産業医と連携する(両立支援)。患者自身に行う支援である。
- ×d. 治療の副作用の確認
化学療法や放射線療法、オピオイドなどによる副作用(悪心・嘔吐、便秘、眠気、倦怠感、末梢神経障害など)は身体的苦痛の原因となる。これを評価して予防・対処することは、医師、看護師、薬剤師が患者本人に対して行う身体的苦痛の緩和そのものである。
- ×e. 身体的リハビリテーション
がん患者に対するリハビリテーションは、理学療法士や作業療法士などが行い、ADL(日常生活動作)の維持・改善、廃用の予防、疼痛や呼吸困難などの症状の緩和、QOL(生活の質)の向上を目的とする。終末期であっても、その時点で可能な機能を保つ目的で行われる。患者本人に対して行う支援である。
全人的苦痛(total pain)の4つの側面
・身体的苦痛:痛み、呼吸困難、倦怠感、悪心・嘔吐、食欲不振、治療の副作用、ADLの低下など ・精神(心理)的苦痛:不安、抑うつ、いらだち、孤独感、せん妄など ・社会的苦痛:経済的問題(治療費、収入減)、仕事上の問題、家族関係や家庭内の役割の変化、相続など ・スピリチュアルな苦痛:生きる意味や価値への問い、死への恐怖、罪悪感、自己の存在に関する苦悩など これらは独立しているのではなく、例えば痛みが強いと不安が増し、不安が痛みの感じ方を強めるように、相互に影響し合う。
緩和ケアの対象と時期
WHOの定義(2002年)では、緩和ケアは生命を脅かす疾患に直面する患者とその家族のQOLを改善するアプローチとされる。対象には家族が含まれ、患者の療養中だけでなく死別後の遺族へのケアも含まれる。また緩和ケアは終末期に限らず、診断時から治療と並行して提供されるべきものとされている。
グリーフケアの関連用語
・予期悲嘆:死別が近いことを予期した家族が、死別前から体験する悲嘆。 ・ビリーブメントケア(遺族ケア):死別後の遺族への支援。遺族外来なども行われる。 ・複雑性悲嘆(遷延性悲嘆):通常の経過を超えて悲嘆が長引き、日常生活に支障をきたす状態であり、専門的な介入の対象となる。
POINT
・全人的苦痛は身体的・精神的・社会的・スピリチュアルの4側面からなり、緩和ケアチームは多職種でこれらを包括的に支援する。 ・治療費や仕事の相談は社会的苦痛、副作用の確認やリハビリテーションは身体的苦痛への対応であり、患者本人が対象である。 ・グリーフケアは家族・遺族を対象とする悲嘆への支援である。 ・緩和ケアの対象は患者とその家族であり、死別後の遺族ケアまで含まれる。
