StudyMed医師国家試験

「卒業式に出たい」―酸素と点滴の終末期患者の願いをチームで叶える

第119回医師国家試験 B問題 第39問

国試問題にチャレンジ

第119回 B問題 第39問

39歳の女性。乳癌のため入院中である。4年前に乳癌と診断され,骨転移と肺転移を認めている。呼吸困難のため1か月前に入院となった。SpO2 92%前後(鼻カニューラ3L/分酸素投与下)で推移している。癌性疼痛緩和目的でオピオイドを含む数種類の鎮痛薬を点滴で使用している。数か月の余命と告知されている。本人は1か月後に予定されている子供の卒業式に出席することを希望している。  この患者への対応で正しいのはどれか。

  1. a.家族の意向の確認は不要である。
  2. b.酸素投与中は出席を見合わせる。
  3. c.移動に消防署の救急車を依頼する。
  4. d.学校への連絡は方針確定後に行う。
  5. e.多職種の関係者で対応を検討する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、人生の最終段階にある患者さんが「子どもの卒業式に出たい」と希望したとき、医療者としてどう動くかを問う問題だ。病気を治すことが難しい時期に、医療やケアの目標をどこに置くか。そこが最大の着眼点になるよ。
医学生医学生
酸素も点滴の鎮痛薬も必要な状態なので、正直なところ外出は危ないから止めるべきかと最初は思ってしまいました。
ドクタードクター
その心配はもっともだよ。安全は大切だからね。でも、余命が数か月と告知されている方にとって、子どもの卒業式は二度とない機会だ。この時期の目標は、苦痛を和らげながら本人が大切にしていることを実現し、その人らしく過ごせるよう支えること、つまりQOLの維持・向上にある。だから「止める理由」ではなく「どうすれば安全に実現できるか」を考えるのが出発点なんだ。
医学生医学生
実現する方向で考えると、課題がたくさんありそうですね。酸素、痛み止め、移動、会場……。
ドクタードクター
そう、まさにそこがポイント。酸素はどう続けるか、点滴の鎮痛薬は携帯型ポンプにするのか貼付剤などに切り替えるのか、突出痛のレスキュー薬は、移動手段は、会場の段差や休める場所は、急変時はどうするか。こうした医学・看護・薬剤・社会的な課題は医師一人ではとても解決できない。だから正解は「多職種の関係者で対応を検討する」だ。
医学生医学生
医師、看護師、薬剤師、医療ソーシャルワーカー、リハビリ職、それに緩和ケアチームも関わりそうですね。臨床実習で緩和ケア病棟を回ったとき、カンファレンスに本当にいろいろな職種が集まっていたのを思い出しました。
ドクタードクター
いい経験をしているね。緩和ケアは身体的な痛みだけでなく、精神的・社会的・スピリチュアルな苦痛、いわゆる全人的苦痛を対象にする。だからこそチームで支えるんだ。では、ほかの対応も見ていこう。家族の意向の確認は不要、という考え方はどうかな。
医学生医学生
本人の意思が一番大事なので、家族の意見は関係ないのかな、と少し迷いました。
ドクタードクター
本人の意思を最も尊重する、というのは正しい。ただ、外出には付き添いや送迎など家族の協力が欠かせないし、家族も急変への不安を抱えていることが多い。人生の最終段階の方針は、本人の意思を基本にしつつ家族とも十分に話し合って決めるのが原則で、家族自身も支援の対象なんだ。
医学生医学生
酸素投与中は出席を見合わせる、というのは……在宅酸素療法の患者さんは携帯用ボンベで普通に外出していますよね。
ドクタードクター
その通り。携帯用酸素ボンベを使えば酸素を続けたまま外出できる。使用時間に見合う本数を準備すればいい。酸素投与中というだけで一律に断念させるのは誤りだ。
医学生医学生
移動に消防署の救急車を頼むのは、一番安全そうに見えますけど……。
ドクタードクター
そこは引っかかりやすいところだね。消防の救急車は、急病やけがで緊急搬送が必要な人のための公的サービスで、予定された外出の足として使うものではない。こうした場面では、民間の患者等搬送事業者、いわゆる民間救急や、車いすやストレッチャーのまま乗れる介護タクシーを使う。必要なら医療者の同行も検討するよ。
医学生医学生
学校への連絡を方針確定後にする、というのは、決まってから伝えたほうが混乱しない気もします。
ドクタードクター
一見そう思えるけれど、実際は逆なんだ。会場の段差、車の乗り入れ、酸素ボンベの持ち込み、座席や横になれる場所など、学校側の条件が分からないと方針そのものが決められない。学校にも準備の時間が必要だから、早い段階から相談しておくべきだよ。
医学生医学生
学校も「多職種の関係者」の延長線上にいるイメージですね。院外の人も巻き込んでチームをつくる、と。
ドクタードクター
いいまとめだ。最後に発展知識を。厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」では、本人の意思決定を基本に、家族等とも話し合い、方針は医師単独ではなく多職種の医療・ケアチームで決めること、そして本人の意思は変わりうるので繰り返し話し合うことが示されている。こうした話し合いのプロセスがアドバンス・ケア・プランニング、愛称「人生会議」だ。
医学生医学生
1か月の間に病状が進む可能性もありますよね。そのときはどうすれば……。
ドクタードクター
大事な視点だね。体調に応じて、短時間だけ出席する、写真や動画、オンラインで参加するといった代替案も最初から用意しておくといい。急変時の連絡先や対応方針も本人・家族と事前に共有しておく。希望を叶えるための準備と、叶わなかったときの備えを両立させるのが、終末期ケアでの腕の見せどころなんだ。

まとめ

人生の最終段階にある患者では、病気の治癒よりも苦痛の緩和と本人の大切な希望の実現、すなわちQOLの向上が医療・ケアの目標となります。酸素投与や点滴による鎮痛が必要でも、携帯用酸素ボンベ、携帯型ポンプや貼付剤への切り替え、レスキュー薬の準備、民間救急や介護タクシーによる移送などを組み合わせれば外出は実現しうるため、多職種の関係者で対応を検討することが最も適切です。方針は本人の意思を基本に家族とも話し合い、学校など外出先とも早い段階から調整し、病状変化に備えた代替案も用意します。厚生労働省のガイドラインやアドバンス・ケア・プランニングの考え方を踏まえ、チームで本人の希望を支える姿勢は、緩和ケアに限らずあらゆる臨床現場で求められる基本です。

解答・解説

正解はeです

状況の整理

・39歳女性、4年前に乳癌と診断され、骨転移と肺転移がある。呼吸困難のため1か月前から入院している。 ・鼻カニューラで3L/分の酸素を投与してもSpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)は92%前後で、酸素なしでは過ごせない状態である。 ・癌性疼痛に対して、オピオイド(モルヒネなどの医療用麻薬)を含む複数の鎮痛薬を点滴で使っている。 ・余命は数か月と本人に告知されている。 ・本人は1か月後の子供の卒業式に出席したいと希望している。

考え方

本例は人生の最終段階にある患者であり、医療やケアの目標は、病気そのものを治すことよりも、苦痛を和らげ、本人が大切にしていることを実現してその人らしく過ごせるよう支えること(QOLの維持・向上)にある。子供の卒業式への出席は、本人にとってかけがえのない希望であり、その実現を支援する方向で考える。 ただし実現には多くの課題がある。酸素投与を外出中も続ける方法(携帯用酸素ボンベの準備)、点滴で使っている鎮痛薬を外出中どう続けるか(携帯型の持続注入ポンプの使用や、経口薬・貼付薬などへの切り替えの検討)、レスキュー薬(突出痛時に追加で使う鎮痛薬)の準備、移動手段の確保、会場の段差や座席・休憩場所の確保、急変時の対応、付き添う人の確保などである。さらに1か月の間に病状が進行する可能性も考え、体調に応じた代替案(短時間だけの出席、写真や動画での参加など)も用意しておくとよい。 こうした医学的・看護的・社会的な課題は医師だけでは解決できない。本人の意思を中心に、家族の思いも確認しながら、医師・看護師・薬剤師・医療ソーシャルワーカー・リハビリテーション職などの多職種で話し合い、学校など院外の関係者とも早めに連携して準備を進めることが求められる。

選択肢考察

  1. ×a.  家族の意向の確認は不要である。

    外出には付き添いや移動の手配など家族の協力が欠かせず、家族は病状悪化や外出中の急変について不安を抱えていることも多い。人生の最終段階における医療・ケアの方針は、本人の意思を最も尊重したうえで、家族とも十分に話し合って決めていくのが原則である。家族も支援の対象であり、その意向や不安を確認することは必要である。

  2. ×b.  酸素投与中は出席を見合わせる。

    携帯用の酸素ボンベを使えば、酸素投与を続けたまま外出することは可能である。在宅酸素療法の患者が日常的に外出しているのと同じである。酸素投与中であること自体は外出を断念する理由にならない。余命が限られた患者の大切な希望であり、安全に実現できる方法を検討すべきで、一律に見合わせるのは誤りである。

  3. ×c.  移動に消防署の救急車を依頼する。

    消防署の救急車は、急病やけがなどで緊急に医療機関へ搬送する必要がある人のための公的な緊急サービスであり、予定された外出の移動手段として利用するものではない。予定した外出には、民間の患者等搬送事業者(いわゆる民間救急)や、車いす・ストレッチャーのまま乗れる介護タクシーなど、酸素や医療機器に対応した移送サービスを利用する。必要に応じて医療者の同行も検討する。

  4. ×d.  学校への連絡は方針確定後に行う。

    出席が実現できるかどうかは、会場の段差やバリアフリーの状況、車両の乗り入れや駐車場所、酸素ボンベの持ち込み、座席や休憩場所、体調不良時に横になれる場所の確保など、学校側の条件にも左右される。これらの情報は方針を決めるために必要であり、学校側にも準備の時間が要るため、方針が確定する前のできるだけ早い段階から連絡をとり、相談しておくべきである。

  5. ○e.  多職種の関係者で対応を検討する。

    酸素投与と点滴での鎮痛を受けている終末期患者の外出には、医学的管理(病状の評価、鎮痛薬の投与経路の調整やレスキュー薬の準備、急変時の対応方針)、看護(移動や排泄の介助、体調の観察)、薬剤の準備、移送手段や社会資源の手配、家族への支援、学校との調整など、多方面の課題がある。医師、看護師、薬剤師、医療ソーシャルワーカー、理学療法士・作業療法士、緩和ケアチームなどの多職種が情報を共有して検討することで、患者の希望を安全に実現する計画を立てられる。本人の意思を尊重したチーム医療による意思決定支援は、終末期医療の基本的な姿勢であり、最も適切な対応である。

人生の最終段階における医療・ケアの意思決定

・厚生労働省は「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(2018年改訂)を示している。要点は、医療・ケアチームによる適切な情報提供と説明に基づいて本人が医療・ケアチームと十分に話し合い、本人の意思決定を基本として進めること、本人の意思は変化しうるため繰り返し話し合うこと、家族等とも話し合うこと、方針の決定は医師単独ではなく多職種からなる医療・ケアチームで慎重に行うことである。 ・これに関連して、将来の医療やケアについて本人を主体に家族や医療者と前もって繰り返し話し合っておくプロセスをアドバンス・ケア・プランニング〈ACP〉(愛称「人生会議」)という。

緩和ケアとチーム医療

・緩和ケアは、身体的苦痛だけでなく、精神的・社会的・スピリチュアルな苦痛(全人的苦痛)を対象とする。 ・そのため医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、医療ソーシャルワーカー、公認心理師、リハビリテーション職などの多職種が協働し、患者と家族を支える。国のがん対策の計画でも、多職種によるチーム医療の推進が重視されている。

終末期患者の外出・外泊を支える工夫

・酸素:携帯用酸素ボンベの準備と使用時間に見合う本数の確保。 ・鎮痛:携帯型の持続皮下注射・持続静注ポンプの使用、経口薬や貼付剤(フェンタニル貼付剤など)への切り替えの検討、レスキュー薬の準備。 ・移動:民間の患者等搬送事業者や介護タクシーの利用、車いすの準備。 ・会場:学校など外出先との事前調整(段差、座席、休憩場所、駐車場所)。 ・急変時:連絡先や対応方針を本人・家族と事前に共有しておく。

POINT

・人生の最終段階では、本人の意思と希望を尊重し、QOLの向上を目標にする。 ・方針の決定は本人の意思を基本とし、家族とも話し合い、多職種の医療・ケアチームで行う。 ・酸素投与中でも携帯用酸素ボンベで外出は可能である。 ・予定された外出の移送に消防署の救急車は使わず、民間の患者等搬送事業者や介護タクシーなどを利用する。 ・外出先(学校など)とは方針決定前の早い段階から調整する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。