StudyMed医師国家試験

術後2時間、ドレーンが真っ赤に―出血性ショックに「血管内に残る輸液」を選ぶ理由

第119回医師国家試験 A問題 第40問

国試問題にチャレンジ

第119回 A問題 第40問

65歳の男性。2時間前に胃癌に対して手術を受けた。帰室時,心拍数は80台/分で経過していた。5分前から腹腔ドレーンより血性体液が急激に流出した。現在,心拍数140/分,整。血圧82/48mmHg。呼吸数16/分。SpO2 100%(マスク5L/分酸素投与下)。 投与する輸液の組成で適切なのはどれか。 Na+ (mEq/L) K+ (mEq/L) Cl- (mEq/L) Lactate- (mEq/L) ブドウ糖 (%) a 130 4 109 28 0 b 77.5 30 59 48.5 0 c 50 27 50 14 17.5 d 35 20 35 20 7.5 e 0 0 0 0 5

  1. a.130   4   109   28   0
  2. b.77.5  30   59    48.5   0
  3. c.50   27   50   14   17.5
  4. d.35   20   35   20   7.5
  5. e.0    0    0    0     5

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、術後早期に急変した患者さんに、どの組成の輸液を入れるべきかを問う問題だ。数字の表に圧倒されそうになるけれど、見るべきポイントは「Na濃度」と「ブドウ糖の有無」の2つ。まずは、患者さんに何が起きているかから整理しよう。
医学生医学生
手術直後にドレーンから血性排液が急に増えて、頻脈と血圧低下が出ているので、術後出血による出血性ショックだと思います。
ドクタードクター
その通り。ショック指数、つまり心拍数を収縮期血圧で割った値を計算するとおよそ1.7。1.0を大きく超えていて、かなりの量の出血が疑われる。出血するとまず交感神経が働いて脈を速くし、心拍出量を保とうとする。それでも追いつかなくなると血圧が下がってくるんだ。
医学生医学生
救急の講義で、ショック指数1.0でおよそ1L、1.5で1.5Lの出血と習いました。帰室時は脈が80台だったのに140まで上がっているのは、代償の限界が近いということですね。
ドクタードクター
よく覚えているね。では、失われた血管内の容量を補うには、どんな輸液が向いていると思う?
医学生医学生
とにかく水分を入れればいいと思っていたんですが、組成によって違うんでしょうか。
ドクタードクター
そこが今回の核心だ。体内の水分は体重の約60%で、その3分の2が細胞内液、3分の1が細胞外液。細胞外液はさらに間質液と血漿に分かれる。輸液がどこに分布するかは、主にNa濃度で決まるんだ。
医学生医学生
生理学で習った体液区分ですね。Naは細胞外に多いイオンだから、Naの濃い輸液は細胞外にとどまる、ということですか。
ドクタードクター
まさにそう。血漿に近いNa濃度の細胞外液補充液は細胞内には入らず、間質と血管内に分布して、投与量のおよそ4分の1が血管内に残る。一方、5%ブドウ糖液はブドウ糖がすぐ代謝されて実質的に自由水になるから、細胞内も含めた体液全体に広がり、血管内に残るのは約12分の1しかない。
医学生医学生
同じ量を入れても、血管内に残る量が3倍も違うんですね。それなら答えは、Na130、K4、Cl109、乳酸28でブドウ糖なしの組成、乳酸リンゲル液です。
ドクタードクター
正解。Naが血漿に近く、Kも血漿並みの少量しか含まない。乳酸は肝臓で代謝されて重炭酸イオンになり、ショックに伴うアシドーシスの補正にも働く。出血性ショックの初期輸液としてぴったりだ。ほかの選択肢も見ておこう。Naが77.5でKが30の組成はどうかな。
医学生医学生
Naが血漿の半分くらいしかないので低張ですね。Kもかなり多いです。
ドクタードクター
そう、2号液に近い性質の低張性電解質輸液で、細胞内脱水の補正やKの補給が目的だ。水分の多くが細胞内へ移ってしまううえ、ショックで腎血流が落ちて尿が出にくい状態でKを急速に入れると、高カリウム血症で不整脈を起こす危険がある。
医学生医学生
ブドウ糖17.5%の組成は、栄養補給用の輸液でしょうか。
ドクタードクター
そうだね、高カロリー輸液に用いられるような組成だ。浸透圧が非常に高いので中心静脈から入れる必要があるし、Naが低いから循環血液量は増えず、急速投与すれば高血糖も招く。Na35、K20でブドウ糖7.5%の組成は維持液、いわゆる3号液だ。
医学生医学生
内科の臨床実習で、絶食の患者さんに1日2000mLくらい点滴していたのが3号液でした。あれは水分と電解質の「維持」が目的だから、ショックには向かないんですね。
ドクタードクター
その理解で合っている。最後の5%ブドウ糖液は、さっき話したとおり自由水と同じで、高ナトリウム血症の補正や薬剤の溶解に使うもの。大量に入れれば低ナトリウム血症になる。
医学生医学生
ショックにはNaが血漿に近い細胞外液補充液、つまり乳酸リンゲル、酢酸リンゲル、生理食塩液のどれか、と覚えておけばいいですね。
ドクタードクター
そのとおり。ただし臨床で忘れてはいけないのは、輸液はあくまで止血までのつなぎだということ。太い静脈路を2本確保して細胞外液を急速投与しつつ、出血量が多ければ早めに赤血球液や新鮮凍結血漿を組み合わせた輸血を始める。細胞外液だけで補い続けると、希釈性の凝固障害や低体温、アシドーシスが進んで、かえって出血が止まりにくくなるんだ。
医学生医学生
根本的には出血源を止めないといけないということですね。術後出血なら再開腹でしょうか。
ドクタードクター
再開腹による止血術か、状況によっては血管造影下の動脈塞栓術を選ぶ。外科の先生とすぐに連携することが大切だ。術後にドレーンの性状と量を観察するのは、まさにこうした出血を早く見つけるためなんだよ。

まとめ

術後早期のドレーン血性排液の急増に頻脈と血圧低下を伴う場合は、術後出血による出血性ショックを考えます。初期輸液には、血漿に近いNa濃度をもち細胞外液に分布する細胞外液補充液を選び、乳酸リンゲル液(Na130、K4、Cl109、乳酸28mEq/L)が代表です。細胞外液補充液は投与量の約4分の1が血管内に残るのに対し、5%ブドウ糖液は約12分の1しか残らず、Naの低い維持液や高カリウムの低張液、高濃度ブドウ糖液は循環血液量の補充に適しません。輸液は止血までのつなぎであり、早期の輸血と再手術や動脈塞栓術による出血源の制御が根本治療です。輸液の組成と体内分布の関係を理解することは、ショック対応から日常の輸液管理まで、あらゆる臨床場面の基礎になります。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・65歳男性。胃癌の手術を受け、2時間前に帰室した。帰室時の心拍数は80台/分であった。 ・5分前から腹腔ドレーンより血性の排液が急激に流出している。 ・心拍数は140/分に増加し、血圧は82/48mmHgと低下している。ショック指数(心拍数÷収縮期血圧)は140÷82≒1.7であり、1.0を大きく超えている。 ・呼吸数16/分、SpO2 100%(酸素マスク5L/分)で、酸素化は保たれている。

診断へのプロセス

術後早期にドレーンから血性排液が急増し、それと同時に頻脈と血圧低下が出現している。手術部位(結紮した血管や吻合部など)からの術後腹腔内出血による循環血液量減少性ショック(出血性ショック)と診断できる。出血によって循環血液量が減ると、まず交感神経の働きで心拍数が増えて心拍出量を保とうとし(代償性頻脈)、代償しきれなくなると血圧が低下する。収縮期血圧が90mmHgを下回り、心拍数が140/分に達していることから、かなりの量の出血(循環血液量の30%以上に相当しうる)が疑われる。

設問の考え方

出血性ショックの初期対応では、太い末梢静脈路を確保して、失われた血管内容量を速やかに補う。そのための輸液は、血漿(細胞外液)に近い電解質組成をもつ細胞外液補充液(生理食塩液、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液など)である。Na濃度が血漿に近い(約130~154mEq/L)輸液は、血管内と間質を合わせた細胞外液に分布し、細胞内には移行しないため、効率よく循環血液量を増やせる。これに対しNa濃度の低い輸液やブドウ糖液は、水分の多くが細胞内へ移行するため血管内にほとんど残らず、ショックの治療には不適切である。 選択肢の組成を見ると、Na 130、K 4、Cl 109、Lactate 28mEq/L、ブドウ糖0%のaが乳酸リンゲル液の組成であり、これを選ぶ。なお、輸液は止血までのつなぎであり、出血量に応じて赤血球液・新鮮凍結血漿などの輸血を行い、再手術(止血術)や血管内治療(動脈塞栓術)による出血源の制御を急ぐ。

選択肢考察

  1. ○a.  130   4   109   28   0

    乳酸リンゲル液(細胞外液補充液)の組成である。Na 130mEq/L、Cl 109mEq/Lと血漿に近い電解質濃度をもち、K 4mEq/Lと血漿並みの少量のKを含む(このほかCa 3mEq/Lを含む)。乳酸は肝臓で代謝されて重炭酸イオン(HCO3-)となり、アシドーシスの補正に働く。投与した輸液は細胞外液に分布し、およそ4分の1程度が血管内に留まるため、急速投与で循環血液量を補える。出血性ショックの初期輸液として適切である。

  2. ×b.  77.5  30   59    48.5   0

    Na濃度が77.5mEq/Lと血漿の約半分しかなく、Kを30mEq/Lと多く含む低張性の電解質輸液である。Kを含む低張液は、低張性電解質輸液の分類でいう脱水補給液(2号液)に近い性質をもち、細胞内脱水の補正やKの補給を目的とするものである。Na濃度が低いため投与した水分の多くが細胞内へ移行し、循環血液量を増やす効果は小さい。また、ショックで腎血流が低下し尿量が減っている状態で高濃度のKを急速に入れると高カリウム血症を招くおそれがあり、不適切である。

  3. ×c.  50   27   50   14   17.5

    ブドウ糖を17.5%という高濃度で含み、電解質濃度は低い。高カロリー輸液(中心静脈栄養)に用いられるような組成で、経口・経腸摂取ができない患者にエネルギーを補給する目的のものである。浸透圧が非常に高く中心静脈から投与する必要があり、ショック時の急速大量投与には使えない。Na濃度が低く循環血液量の補充には役立たず、高血糖の原因にもなる。

  4. ×d.  35   20   35   20   7.5

    Na 35、K 20、Cl 35、Lactate 20mEq/Lにブドウ糖を加えた組成で、維持液(3号液)である。経口摂取ができない患者に1日に必要な水分と電解質(成人で水分約2,000mL、Na約70~100mEq、K約40mEq)を補う目的で用いる。電解質濃度が低いため、投与した水分の大部分は細胞内を含む体内全体に分布し、血管内にはわずかしか残らない。出血性ショックの循環血液量補充には不適切である。

  5. ×e.  0    0    0    0     5

    5%ブドウ糖液である。等張だがブドウ糖は体内で速やかに代謝されるため、実質的には電解質を含まない自由水の投与と同じであり、体液全体(細胞内液を含む)に均等に分布する。血管内に残るのは投与量の約12分の1にすぎず、循環血液量を増やす効果はほとんどない。高ナトリウム血症などで自由水を補う場合や、薬剤の溶解に用いる。大量投与は低ナトリウム血症を招き、ショックの治療には不適切である。

体液の区分と輸液の分布

成人の体内水分量は体重の約60%で、その3分の2が細胞内液(体重の約40%)、3分の1が細胞外液(体重の約20%)である。細胞外液はさらに間質液(体重の約15%)と血漿(体重の約5%)に分かれる。 ・細胞外液補充液(生理食塩液、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液など):細胞外液に分布し、血管内には投与量の約4分の1が残る。 ・5%ブドウ糖液:自由水として体液全体に分布し、血管内には約12分の1しか残らない。 ・低張性電解質輸液(1~4号液):両者の中間の分布をとる。

主な輸液製剤の分類

・細胞外液補充液:Na 130~154mEq/L。生理食塩液(Na 154、Cl 154)、乳酸リンゲル液(Na 130、K 4、Ca 3、Cl 109、Lactate 28)、酢酸リンゲル液(乳酸の代わりに酢酸を含み、肝での代謝に依存しにくい)。ブドウ糖を加えた製品もある。出血・脱水・ショック・周術期の循環血液量補充に用いる。 ・1号液(開始液):Kを含まない。病態がわからない段階や、腎機能が不明な場合にまず用いる。 ・2号液(脱水補給液):Kやリン酸を含み、細胞内脱水や電解質補給に用いる。臨床での使用頻度は低い。 ・3号液(維持液):Na 35~50mEq/L、K 20mEq/L程度。1日の水分・電解質の維持量を補う。 ・4号液(術後回復液):Kを含まず電解質濃度が低い。腎機能が未熟な乳幼児や高齢者に用いられる。 ・5%ブドウ糖液:自由水の補充。 ・高カロリー輸液:高濃度のブドウ糖、アミノ酸、脂質、電解質、ビタミン、微量元素を含み、中心静脈から投与する。

出血性ショックの初期対応

・酸素投与、太い静脈路を2本確保し、細胞外液補充液を急速投与する。 ・大量出血では、細胞外液のみで補い続けると希釈性の凝固障害や低体温、アシドーシスを招くため、早期から赤血球液・新鮮凍結血漿・血小板濃厚液を組み合わせた輸血を行う。 ・ショックの根本的な治療は出血源の制御である。術後出血では再開腹による止血術や、血管造影下の動脈塞栓術(IVR)を行う。 ・ショック指数(心拍数÷収縮期血圧)は出血量の簡便な目安で、1.0でおよそ1L、1.5でおよそ1.5L程度の出血が推定される。

POINT

・術後のドレーン血性排液の急増+頻脈+血圧低下 → 術後出血による出血性ショック。 ・出血性ショックの初期輸液は細胞外液補充液(乳酸リンゲル液・酢酸リンゲル液・生理食塩液)。 ・乳酸リンゲル液の組成:Na 130、K 4、Ca 3、Cl 109、Lactate 28mEq/L。 ・細胞外液補充液は投与量の約1/4、5%ブドウ糖液は約1/12しか血管内に残らない。 ・維持液(3号液)やブドウ糖液は循環血液量の補充に不適。Kを多く含む輸液を乏尿のショック患者に急速投与してはならない。 ・根本治療は輸血と出血源の止血(再手術・IVR)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。