血圧より先に「幅」が縮む―脈圧で読み解く循環血液量減少性ショック
第120回医師国家試験 F問題 第22問
国試問題にチャレンジ
循環血液量減少性ショックの症状で誤っているのはどれか。
- a.頻脈
- b.冷汗
- c.尿量減少
- d.皮膚蒼白
- e.脈圧増大
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
循環血液量減少性ショックでは、前負荷低下から1回拍出量が減少し、交感神経やレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系、ADHによる代償反応が起こります。その結果、頻脈、冷汗、皮膚蒼白、毛細血管再充満時間の延長、尿量減少がみられます。脈圧は1回拍出量の低下と末梢血管収縮による拡張期血圧の保持によって狭小化し、増大はしません。脈圧狭小化や頻脈は血圧低下より前に現れる早期徴候であり、収縮期血圧の低下は出血量が循環血液量の約30%を超えてから明らかになる遅い所見です。脈圧が増大する敗血症初期のwarm shockや大動脈弁閉鎖不全症との対比も含め、症状を病態生理から理解しておくことがショックの早期認識につながります。
解答・解説
正解はeです
問われていること
循環血液量減少性ショック(hypovolemic shock:出血や脱水などで血管内の血液量が減り、組織への酸素供給が保てなくなった状態)でみられる症状を、病態生理から説明できるかが問われている。
病態の流れ
1. 循環血液量が減ると、心臓に戻る血液(静脈還流)が減り、前負荷(拡張末期の心室容積)が低下する。 2. Frank-Starlingの法則により1回拍出量が減少する。 3. 血圧低下を大動脈弓・頸動脈洞の圧受容器が感知し、交感神経系とレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系、抗利尿ホルモン(ADH、バソプレシン)が一斉に活性化する。 4. その結果、心拍数の増加(頻脈)、皮膚・腎・消化管などの血管収縮(末梢血管抵抗の上昇)、水とNaの再吸収亢進が起こり、脳や心臓など生命維持に必須の臓器への血流を優先的に守ろうとする。
症状の読み方
ショックの症状の多くは「血流そのものの不足」と「それを補おうとする交感神経の代償反応」のどちらかで説明できる。頻脈、冷汗、皮膚蒼白、尿量減少はいずれもこの枠組みで説明できる。一方、脈圧(収縮期血圧と拡張期血圧の差)は1回拍出量と血管抵抗で決まり、循環血液量減少性ショックでは1回拍出量の減少と末梢血管収縮が重なるため狭くなる。脈圧の「増大」はこの病態とは逆向きの所見である。
選択肢考察
- ×a. 頻脈
みられる症状である。心拍出量=1回拍出量×心拍数であり、前負荷の低下で1回拍出量が減った分を、交感神経(心臓のβ1受容体)の刺激による心拍数増加で補おうとする。頻脈は血圧が下がる前の早い段階から出現するため、ショックの初期徴候として重要である。心拍数を収縮期血圧で割ったショックインデックス(shock index)は、1.0前後で約1L(循環血液量の約20%)程度の出血が推定される目安とされる。ただし、β遮断薬内服中の患者や高齢者では頻脈が出にくい点に注意する。
- ×b. 冷汗
みられる症状である。汗腺(エクリン汗腺)は交感神経に支配されており(例外的に神経終末からアセチルコリンが放出される交感神経コリン作動性線維)、ショック時の交感神経亢進により発汗が起こる。同時に皮膚の血管が収縮して皮膚温が低下するため、皮膚は冷たく湿った状態(冷汗)となる。
- ×c. 尿量減少
みられる症状である。腎動脈の収縮と血圧低下により腎血流量・糸球体濾過量が低下するうえ、アルドステロンによるNa・水の再吸収とADHによる集合管での水の再吸収が亢進するため、尿量は減少する。尿量は腎臓という臓器の灌流状態を反映する指標で、成人では0.5mL/kg/時以上を保つことが輸液療法の目標の一つとされる。
- ×d. 皮膚蒼白
みられる症状である。交感神経のα1受容体刺激により皮膚の細動脈が収縮し、限られた血液が脳や心臓へ優先的に配分される。その結果、皮膚の血流が減って顔面や四肢は蒼白となり、爪を圧迫して離したときの色の戻り(毛細血管再充満時間:capillary refill time)も2秒を超えて遅れるようになる。
- ○e. 脈圧増大
誤っている(正解)。脈圧はおもに1回拍出量に依存し、血管の伸展性や末梢血管抵抗の影響も受ける。循環血液量減少性ショックでは1回拍出量が減って収縮期血圧が下がる一方、交感神経による末梢血管収縮のため拡張期血圧は比較的保たれる(初期にはむしろ上昇することもある)。このため収縮期血圧の低下の方が大きく、脈圧は狭小化する。脈圧の狭小化は、収縮期血圧がまだ保たれている段階から現れる早期の徴候として重要である。なお、脈圧が増大するのは、末梢血管が拡張する敗血症性ショックの初期(いわゆるwarm shock)や、大動脈弁閉鎖不全症、甲状腺機能亢進症、動脈硬化などである。
ショックの分類
・循環血液量減少性ショック:出血(外傷、消化管出血、大動脈瘤破裂など)、体液喪失(下痢・嘔吐、熱傷、高度脱水)。 ・心原性ショック:急性心筋梗塞、重症不整脈、心筋炎など、心臓のポンプ機能低下による。 ・心外閉塞・拘束性ショック:心タンポナーデ、緊張性気胸、肺塞栓症など、心臓の拡張や血液の流れが物理的に妨げられる。 ・血液分布異常性ショック:敗血症、アナフィラキシー、脊髄損傷による神経原性ショックなど、末梢血管が拡張し血液が偏って分布する。 循環血液量減少性・心原性・閉塞性ショックでは末梢血管が収縮して皮膚は冷たく蒼白になる(cold shock)が、血液分布異常性ショックでは皮膚が温かいことがある(warm shock)。また神経原性ショックでは交感神経が遮断されるため、頻脈ではなく徐脈になりやすい。
ショックの5P
蒼白(pallor)、虚脱(prostration)、冷汗(perspiration)、脈拍触知不能・微弱(pulselessness)、呼吸不全(pulmonary insufficiency)。これらに加え、意識レベルの低下、呼吸数の増加(頻呼吸)、乏尿などを認める。すべてそろわなくても、一つでもあればショックやその前段階(プレショック)を疑って対応を始める。
出血量と症状の関係(成人の目安)
循環血液量の15%未満の出血では症状はほとんど目立たない。15〜30%で頻脈や脈圧の狭小化が現れ、30%を超えると収縮期血圧が低下し、尿量減少や意識の変化(不穏・混乱)が明らかになる。40%を超えると著明な低血圧、意識障害、ほぼ無尿となり生命に危険が及ぶ。つまり「血圧低下」はかなり進行してから出現する所見であり、頻脈・脈圧狭小化・皮膚所見などの早期徴候を見逃さないことが大切である。
POINT
・循環血液量減少性ショックでは、前負荷低下→1回拍出量低下→交感神経亢進という流れで症状を理解する。 ・頻脈、冷汗、皮膚蒼白、尿量減少、毛細血管再充満時間の延長はいずれもみられる。 ・脈圧は1回拍出量の低下と末梢血管収縮により狭小化する(増大ではない)。脈圧狭小化は血圧低下より前に出る早期徴候である。 ・血圧低下は出血量が循環血液量の約30%を超えてから明らかになる遅い所見である。
