ショックは「どこが壊れたか」で薬が決まる―4分類で読み解く治療薬の選び方
第116回医師国家試験 E問題 第8問
国試問題にチャレンジ
ショックの原因と治療薬の組合せで正しいのはどれか。
- a.敗血症 ―― ノルアドレナリン
- b.大量出血 ―― ヘパリン
- c.徐脈性不整脈 ―― グルコース
- d.肺血栓塞栓症 ―― アミノフィリン
- e.アナフィラキシー ―― リドカイン
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
ショックは組織への酸素供給が不足して臓器障害が進む状態であり、循環血液量減少性・心原性・閉塞性・血液分布異常性の4つに分類して病態に応じた治療を選びます。敗血症性ショックは末梢血管拡張が主体で、初期輸液に反応しない低血圧にはα1作用の強いノルアドレナリンが第一選択の血管収縮薬です。出血性ショックでは止血と輸液・輸血が柱でヘパリンは禁忌、症候性徐脈にはアトロピンやペーシング、肺血栓塞栓症には抗凝固療法や血栓溶解療法、アナフィラキシーにはアドレナリン筋注を用います。同じ血液分布異常性でも敗血症とアナフィラキシーで第一選択薬が異なる点や、warm shockでは皮膚が温かいこともある点に注意が必要です。原因と薬を丸暗記せず、血圧を決める要素のどこが崩れたかから治療を導く考え方が、救急・集中治療の現場で迅速な判断を支えます。
解答・解説
正解はaです
本問は、ショックを起こす代表的な原因ごとに、病態に合った治療薬を選べるかを問う問題である。
ショックの考え方
ショックとは単に血圧が低い状態ではなく、組織への酸素供給が需要に追いつかず、細胞レベルで酸素不足(低酸素症)に陥り臓器障害が進行する状態である。血圧は「心拍出量(一回拍出量×心拍数)×末梢血管抵抗」で決まるため、どの要素が障害されているかでショックは次の4つに分類される。 ①循環血液量減少性ショック: 出血、脱水など(前負荷の不足) ②心原性ショック: 急性心筋梗塞、重症不整脈(徐脈・頻脈)など(ポンプ機能や心拍数の異常) ③閉塞性ショック: 肺血栓塞栓症、心タンポナーデ、緊張性気胸など(血流路の物理的閉塞) ④血液分布異常性ショック: 敗血症、アナフィラキシー、神経原性ショックなど(末梢血管の拡張・透過性亢進)
設問へのアプローチ
治療は「不足・障害されている要素を補う、または原因を除く」ことが原則である。敗血症性ショックでは末梢血管が拡張して血管抵抗が下がっているため、十分な輸液に加えて血管を収縮させる薬が必要となり、α1受容体刺激作用の強いノルアドレナリンが第一選択の血管収縮薬である。ほかの組合せは、病態を悪化させる薬(ヘパリンによる出血の助長)や、病態と無関係な薬が組み合わされており誤りである。原因と薬を一対一で暗記するのではなく、各ショックで何が起きているかから治療を導けるようにしたい。
選択肢考察
- ○a. 敗血症 ―― ノルアドレナリン
正しい。敗血症性ショックは、感染に対する過剰な炎症反応で末梢血管が拡張する血液分布異常性ショックを中心に、血管透過性亢進による相対的な循環血液量の減少や、敗血症に伴う心筋障害も加わった複合的な病態である。治療は抗菌薬投与と感染源のコントロールに加え、まず晶質液による初期輸液を行い、それでも平均動脈圧65mmHg以上を保てなければ血管収縮薬を用いる。日本版敗血症診療ガイドラインや国際的な敗血症診療ガイドライン(Surviving Sepsis Campaign Guidelines)では、強いα1刺激作用で血管抵抗を高めるノルアドレナリンが第一選択とされている。かつて使われたドパミンは、不整脈の増加などからノルアドレナリンに劣るとされ、第一選択としては推奨されていない。ノルアドレナリンで不十分な場合にはバソプレシンの追加などが検討される。
- ×b. 大量出血 ―― ヘパリン
誤り。大量出血による出血性ショックは循環血液量減少性ショックであり、治療の柱は止血(外科的止血、内視鏡的止血、血管内治療など)と輸液・輸血による循環血液量の回復である。大量出血では凝固因子の喪失・希釈などにより凝固障害を合併しやすく、新鮮凍結血漿などで凝固能を補うことも重要になる。ヘパリンは抗凝固薬であり、投与すれば出血を助長するため、活動性の出血には禁忌である。
- ×c. 徐脈性不整脈 ―― グルコース
誤り。高度房室ブロックや洞不全症候群などの徐脈性不整脈では、心拍数の低下により心拍出量が減って心原性ショックとなりうる。症状のある徐脈に対する薬物治療は、副交感神経(ムスカリン受容体)を遮断して心拍数を増やすアトロピンが第一選択で、無効な場合はアドレナリンやドパミン、イソプロテレノールなどのβ刺激作用をもつカテコラミンの持続投与を行う。ただし薬物の効果は不確実であるため、経皮ペーシングや経静脈ペーシングを速やかに準備・実施する。並行して、急性心筋梗塞、高カリウム血症などの電解質異常、β遮断薬やジギタリスなどの薬剤性といった原因の検索と治療を行う。グルコースは低血糖の治療薬であり、徐脈そのものの治療薬ではない(高カリウム血症が原因の場合はインスリンとともにグルコースを用いるが、これはカリウムを細胞内へ移動させる目的である)。
- ×d. 肺血栓塞栓症 ―― アミノフィリン
誤り。急性肺血栓塞栓症は、主に下肢などの深部静脈にできた血栓が肺動脈を閉塞する閉塞性ショックの代表である。肺血管床の減少により急激な肺高血圧と右心負荷(右室拡大)、低酸素血症をきたす。治療は酸素投与・循環管理とともに、未分画ヘパリンなどによる抗凝固療法を速やかに開始し、ショックや低血圧を伴う重症例では血栓溶解療法(組織プラスミノゲンアクチベーターなど)、カテーテル的または外科的血栓摘除術、必要に応じて経皮的心肺補助(PCPS/V-A ECMO)を検討する。アミノフィリンはテオフィリン製剤の気管支拡張薬で、気管支喘息発作などに用いられ、肺血栓塞栓症の治療薬ではない。
- ×e. アナフィラキシー ―― リドカイン
誤り。アナフィラキシーショックは、肥満細胞などから放出されたヒスタミンなどの化学伝達物質によって、末梢血管の拡張と血管透過性の亢進が急激に起こる血液分布異常性ショックである。第一選択はアドレナリンの筋肉内注射(大腿前外側部)であり、α1作用による血管収縮、β1作用による心収縮力増強、β2作用による気管支拡張と化学伝達物質の放出抑制をあわせもつ。成人では0.01mg/kg(最大0.5mg)を投与し、効果が不十分なら5〜15分ごとに反復する。あわせて下肢挙上、酸素投与、大量輸液を行い、抗ヒスタミン薬や副腎皮質ステロイドは補助的に用いる。リドカインはNaチャネル遮断作用をもつ局所麻酔薬・抗不整脈薬(Vaughan Williams分類Ib群)で、心室性不整脈などに用いられ、アナフィラキシーの治療薬ではない。
ショックの4分類と主な治療
・循環血液量減少性ショック(出血、脱水、熱傷など): 輸液・輸血、止血。血管収縮薬は原則として補助的。 ・心原性ショック(急性心筋梗塞、心筋炎、重症不整脈など): 原因治療(冠動脈の再灌流、ペーシング、電気的除細動など)、強心薬(ドブタミンなど)、必要に応じて機械的補助循環(IABP、Impella、V-A ECMOなど)。 ・閉塞性ショック(肺血栓塞栓症、心タンポナーデ、緊張性気胸): 閉塞の解除が最優先である。肺血栓塞栓症では抗凝固・血栓溶解・血栓摘除、心タンポナーデでは心嚢穿刺、緊張性気胸では胸腔穿刺・胸腔ドレナージを行う。 ・血液分布異常性ショック(敗血症、アナフィラキシー、神経原性): 輸液と血管収縮薬。敗血症ではノルアドレナリン、アナフィラキシーではアドレナリン筋注、脊髄損傷などによる神経原性ショックでは徐脈を伴いやすく、アトロピンや血管収縮薬を用いる。
ショックの主な徴候
蒼白(pallor)、虚脱(prostration)、冷汗(perspiration)、脈拍触知不能(pulselessness)、呼吸不全(pulmonary insufficiency)の5Pが古典的な徴候である。ただし敗血症の初期やアナフィラキシーでは末梢血管が拡張しているため、皮膚が温かいこと(warm shock)がある。血中乳酸値の上昇は組織低酸素の指標として重要である。
主な昇圧薬・強心薬の受容体作用
・ノルアドレナリン: α1作用が主体で、β1作用もある。血管収縮による血圧上昇。 ・アドレナリン: α1、β1、β2のすべてに作用する。アナフィラキシーや心停止で用いる。 ・ドパミン: 用量によりドパミン受容体、β1、α1と作用が変わる。 ・ドブタミン: β1作用が主体で心収縮力を高める。心原性ショックで用いる。 ・イソプロテレノール: β1・β2作用。徐脈性不整脈で用いる。 ・バソプレシン: V1受容体を介した血管収縮。敗血症性ショックでノルアドレナリンへの追加薬となる。
POINT
・敗血症性ショックでは、初期輸液に反応しない低血圧に対してノルアドレナリンが第一選択の血管収縮薬である(目標は平均動脈圧65mmHg以上)。 ・アナフィラキシーショックの第一選択はアドレナリン筋注である。 ・出血性ショックは止血と輸液・輸血が治療の柱で、ヘパリンは禁忌である。 ・症候性徐脈にはアトロピン、無効ならカテコラミンや経皮・経静脈ペーシングを用いる。 ・肺血栓塞栓症にはヘパリンによる抗凝固療法を行い、重症例では血栓溶解療法などを考慮する。 ・ショックは4分類(循環血液量減少性・心原性・閉塞性・血液分布異常性)で病態を捉え、治療を選択する。
